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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 吉田・ダレス会談(第1回),十二月十三日総理、井口次官、ダレス大使、シーボルト大使会談要録(吉田茂総理大臣、ジョン・フォスター・ダレス米国務長官顧問 会談(1951年12月・第1回))

[場所] 
[年月日] 1951年12月13日
[出典] 日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 調印・発行,外務省編纂,外務省発行,外務省,平成21年1月30日発行,349-350頁.
[備考] 昭和26年12月13日,極秘
[全文] 

吉田・ダレス会談(第1回)

極秘

十二月十三日総理、井口次官、ダレス大使、シーボルト大使会談要録

井口次官

 十二月十三日、総理に随行して、外交局にダレス大使及びシーボルト大使を訪ね、午後二時半から約一時間会談した。

 総理から、「昨日のダレス大使のお話をきいたが、プリンシプルにおいては、異存がない。事務当局で作成した一案をもつて来たから、見てもらいたい。元来、自分としては、中国問題、朝鮮問題などは、武力のみでは、なかなか解決し難いと思う。カウンター・インフィルトレイションによつて、支那の民衆を共産党の勢力下から離す方策を併用することが必要ではないかと思う。この観点からすれば、何といつても、同文同種の日本には、英米にくらべて一日の長があるわけだから、この日本側の経験を利用して、自由諸国のために将来一臂の力を添えることができるように考えている。支那が今日のような攪乱に陥つたのも、せんじつめれば、永年にわたる支那における列国の協調政策の破綻に基くわけで、中国問題の解決にはその協調政策の復活が必要である。少くとも英米両国政府間に中国に対する政策に完全な了解の成立することが是非必要だと思う。聞くところによれば、チャーチルは、来月ワシントンを訪問するということでもあるから、中国問題についても、よくお話を願いたい。(自分の意の尽さないところもあるが、これについてはいずれメモにして、お帰りになるまでに貴下の御参考のためにお送りしたい。)」と述べた。

 これに次いで、ダレスは、「昨日井口次官に話した要旨を書きものにしておいた」とて、それを読み上げ、こちらから出した案については、「研究した上でなければ、差し当り自分として意見を申し上げることは難しいが、早速本国政府にも連絡し、又チャーチルが来た際にも、懇談することにしたいと思う。イギリス側に対しては、蔭でいろいろやつているという印象を与えることは、できるだけ避けたいので、デニングとも連絡することにして見よう。もつとも、デ・ファクト・ガバメントとして国府との友好関係に入るためバイラテラル・アグリーメントをするという自分の案について、蒋介石政府がただちに納得するかどうかということも、残されているわけであるが、自分としては、できるだけ、その努力はして見よう。」と述べた。(総理のカウンター・インフィルトレイション論に対しては、チトーに対する米国側の政策とか、ソ連共産党のやり口などについて、その著書「ウォア・オア・ピース」の趣旨によつて、一くさり話をした。)