データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 吉田書簡の公表に関するシーボルトとの折衝,中国問題に関する総理発ダレス顧問あて書簡公表問題 一月十四日、十五日 井口次官シーボルト大使会談録(吉田書簡の公表に関するウィリアム・ジョセフ・シーボルド駐日政治顧問との折衝,井口貞夫外務事務次官とウィリアム・ジョセフ・シーボルド駐日政治顧問会談録)

[場所] 
[年月日] 1952年1月16日
[出典] 日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 調印・発行,外務省編纂,外務省発行,外務省,平成21年1月30日発行,367-368頁.
[備考] 
[全文] 

吉田書簡の公表に関するシーボルトとの折衝

極秘

昭二七、一、一六

中国問題に関する総理発ダレス顧問あて書簡公表問題

一月十四日、十五日 井口次官シーボルト大使会談録

 一月十四日シーボルト外交局長の求めにより井口往訪、シより、国務省の電報によれば、去る十日イーデン外相アチソン長官ダレス顧問の会談において国府承認問題(これよりさき、吉田総理よりのダレス顧問あて書簡は、フランクス大使を通じてイーデンに内示しておいた。)を取り上げた際に、イは、この問題は、平和条約に規定するとおり、英国としては、日本自身が決定すべき問題と考えている次第であつて、ダレスあて総理書簡に明示されている日本側の決定を阻止し、若しくはひるがえさせんとするがごとき何らの措置をとる意思はない、ただ從来イギリスとしては、この点に関する日本側の決定は、平和条約の発効後にされることを望んでいた次第であるが、米国の政情、ことに平和条約批准に対する上院側の態度を充分了解できるから、日本が条約批准促進の見地からかかる措置をとるとしても、これがため英米間及び日英間の関係の緊張ないし悪化を来たすがごときことはない点御安心ありたい、また、発表の時期についても、もとより日本自身の決定すべき問題であり、いずれにしても、英国としては、この問題をさして重要視していないと述べ、日本側の方針を納得した次第である。(欲をいえば、英国が日本の方針に全面的に賛成してくれることを希望したわけであるが、中共を承認している英国に対しては、これは、無理な注文であろう。)

 ついては、米国政府としては、上院外交委員会が十五日から条約の審議に入る予定なので、総理書簡は、できれば、十五日朝刊に出したいと思うので、日本側において十五日午後四時ないし五時(日本時間)に発表願えないものか、ダレスとしても非常に希望しているので、総理の意向を伺つて欲しいとのことであつた。

 これに対して、井口より、お話の趣旨は早速大磯にある総理に連絡の上御返事致したい、自分の考えでは、日本政府としても一応閣議にはかる必要があると思われるが、十五日は休日で定例の閣議も十六日に繰り延ばされたので、十六日正午(日本時間)公表することになれば好都合と思う旨述べたところ、上院の関係上急ぐには急ぐが、一日くらいのことは、何とかなるべく、早速国務省に電報すると述べた。

 同日(十四日)午後、総理に連絡の結果、英国側が納得したことは結構であるが、台湾政府の意向はどうか聞いて貰いたいとのことで、再度シを往訪、右の趣旨を述べたところ、シは、この点については、自分の承知する限りでは、総理書簡案につき、いろいろ打合の際、ダレスは、限定承認の点については、数回国府側との間に往復があり、その話合に基いて、現に支配し、また、将来支配するに至るべき地域に限り云々という字句を取り入れたともらしていたが、総理の御注意もあり、念のために至急ワシントンに電報し、結果を明日午前中に御連絡すべしとのことであつた。

 十五日午前十一時、井口シーボルトを往訪したところ、発表の日時については、日本側の希望どおり十六日正午、ワシントン時間十五日午後十時にすることに異存がない、なお、国府側の限定承認に対する意向については、昨十四日お話し申上げたとおり、在台北米国大使あての手紙で、これに異存ない旨を述べておる経緯があるが、この点は、国府側の立場もあり、厳祕に願いたいと附言した。