データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 吉田書簡に関する各国の反響,中国問題に関する書簡に対する各国の反響

[場所] 
[年月日] 1952年1月20日
[出典] 日本外交文書 サンフランシスコ平和条約 調印・発行,外務省編纂,外務省発行,外務省,平成21年1月30日発行,372-373頁.
[備考] 昭和27年1月20日
[全文] 

吉田書簡に関する各国の反響

中国問題に関する書簡に対する各国の反響

昭和二十七年一月二十日

 本件書簡は、一月十六日正午に発表されたが、アメリカ、イギリス及び中国国民政府側において直ちに大々的に取り上げられ、政府筋及び重要新聞が、それぞれ見解を発表した。

 アメリカ、イギリス及び国民政府は、各々本件に対する独自の利害関係にある関係上、それぞれ異つた見解をとつておることは当然である。

 アメリカにおいては、諸新聞及び議会筋は、本件措置を歓迎し、上院における批准が容易になつたこと及び反共の線に貫かれるアメリカの極東政策に一致した措置であることを説いている。国務省においても、十七日に、本件について日本側に圧力を加えたことはないと言明し、十八日本件書簡に謝意を表明するダレス氏の返信を発表した。

 これに反してイギリスにおいては、タイムス紙を初めとする大新聞は、おおむね本件措置に批判的な論評を掲げた。日本側の決定はアメリカ側の圧力によつて行われたのではないかとの疑問を一様に掲げ、この決定によつて将来多くの困難の生ずべきことを警告している。また一部には現在進行中の朝鮮休戦会談への影響を心配する向さえある。外務省筋でも十七日スポークスマン談として、言外にアメリカの圧力によること及び事前に充分イギリス側に連絡のなかつたことを不満とするかのような言明が行われた。いずれにせよ、イギリス側は、今回の措置によつて多少困惑している様子に見えるのである。

 国民政府側においては、言うまでもなくこの決定を歓迎している。十六日午後在京中国代表団長は、その意味の談話を行つた。現地台湾からの報道は一様に安堵と歓迎の意を伝えている。しかし国民政府自身の態度は、すこぶる慎重であつて、十七日の新聞報道では、本件書簡に関して(イ)「法律的に可能となり次第」とはいかなる意味か、(ロ)平和条約締結後の可能性の「探究」には誰が当るか、及び(ハ)中日平和条約をサン・フランシスコ条約と同時に発効せしめることに関する日本側の態度はどうかの三点について日本側の態度を打診する意向と報ぜられた。ついで十八日には、葉外交部長の名において正式の発表が行われ、(イ)国府側は常に早期対日講和問題について連合国と協力してきたこと、(ロ)中国と日本との講和は不当に引き延ばされてきたこと、(ハ)国府側はいつでも中日平和条約締結のための交渉に入る用意のあること及び(ニ)日本側が中共政権及び中ソ同盟条約に関する確固たる態度を表明したこと並びに国連援助の方針を明らかにしたことを歓迎するものなることが声明された。

 中共側においては、十九日までのところは本件を無視する態度にで、何らの報道もないが、十九日のモスコー放送によれば、同日付のソ連各紙には単にニュースとして本件書簡が報ぜられた由であるから、いずれ近く中共側の反響の明らかになるものと思われる。