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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日華平和条約(日本国と中華民国との間の平和条約)

[場所] 台北
[年月日] 1952年4月28日署名,1952年8月5日効力発生
[出典] 条約集第30集第56巻.
[備考] 
[全文]

 日本国及び中華民国は、

 その歴史的及び文化的のきずなと地理的の近さとにかんがみ、善隣関係を相互に希望することを考慮し、

 その共通の福祉の増進並びに国際の平和及び安全の維持のための緊密な協力が重要であることを思い、

 両者の間の戦争状態の存在の結果として生じた諸問題の解決の必要を認め、

 平和条約を締結することに決定し、よつて、その全権委員として次のとおり任命した。

 日本国政府 河田烈

 中華民国大統領 葉公超

 これらの全権委員は、互にその全権委任状を示し、それが良好妥当であると認められた後、次の諸条を協定した。

第一条

 日本国と中華民国との間の戦争状態は、この条約が効力を生ずる日に終了する。

第二条

 日本国は、千九百五十一年九月八日にアメリカ合衆国のサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約(以下「サン・フランシスコ条約」という。)第二条に基き、台湾及び澎湖諸島並びに新南群島及び西沙群島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄したことが承認される。

第三条

 日本国及びその国民の財産で台湾及び澎湖諸島にあるもの並びに日本国及びその国民の請求権(債権を含む。)で台湾及び澎湖諸島における中華民国の当局及びその住民に対するものの処理並びに日本国におけるこれらの当局及び住民の財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国政府と中華民国政府との間の特別取極の主題とする。国民及び住民という語は、この条約で用いるときはいつでも、法人を含む。

第四条

 千九百四十一年十二月九日前に日本国と中国との間で締結されたすべての条約、協約及び協定は、戦争の結果として無効となつたことが承認される。

第五条

 日本国はサン・フランシスコ条約第十条の規定に基き、千九百一年九月七日に北京で署名された最終議定書並びにこれを補足するすべての附属書、書簡及び文書の規定から生ずるすべての利得及び特権を含む中国におけるすべての特殊の権利及び利益を放棄し、且つ、前記の議定書、附属書、書簡及び文書を日本国に関して廃棄することに同意したことが承認される。

第六条

(a)日本国及び中華民国は、相互の関係において、国際連合憲章第二条の原則を指針とするものとする。

(b)日本国及び中華民国は、国際連合憲章の原則に従つて協力するものとし、特に、経済の分野における友好的協力によりその共通の福祉を増進するものとする。

第七条

 日本国及び中華民国は、貿易、海運その他の通商の関係を安定した且つ友好的な基礎の上におくために、条約又は協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。

第八条

 日本国及び中華民国は、民間航空運送に関する協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。

第九条

 日本国及び中華民国は、公海における漁猟の規制又は制限並びに漁業の保存及び発展を規定する協定をできる限りすみやかに締結することに努めるものとする。

第十条

 この条約の適用上、中華民国の国民には、台湾及び澎湖諸島のすべての住民及び以前にそこの住民であつた者並びにそれらの子孫で、台湾及び澎湖諸島において中華民国が現に施行し、又は今後施行する法令によつて中国の国籍を有するものを含むものとみなす。また、中華民国の法人には、台湾及び澎湖諸島において中華民国が現に施行し、又は今後施行する法令に基いて登録されるすべての法人を含むものとみなす。

第十一条

 この条約及びこれを補足する文書に別段の定がある場合を除く外、日本国と中華民国との間に戦争状態の存在の結果として生じた問題は、サン・フランシスコ条約の相当規定に従つて解決するものとする。

第十二条

 この条約の解釈又は適用から生ずる紛争は、交渉又は他の平和的手段によつて解決するものとする。

第十三条

 この条約は、批准されなければならない。批准書は、できる限りすみやかに台北で交換されなければならない。この条約は、批准書の交換の日に効力を生ずる。

第十四条

 この条約は、日本語、中国語及び英語によるものとする。解釈の相違がある場合には、英語の本文による。

 以上の証拠として、それぞれの全権委員は、この条約に署名調印した。

 昭和二十七年四月二十八日(中華民国の四十一年四月二十八日及び千九百五十二年四月二十八日に相当する。)に台北で、本書二通を作成した。

日本国のために

河田烈

中華民国のために

葉公超

 

日華平和条約議定書

 本日日本国と中華民国との間の平和条約(以下「この条約」という。)に署名するに当り、下名の全権委員は、この条約の不可分の一部をなす次の条項を協定した。

1 この条約の第十一条の適用は、次の了解に従うものとする。

(a)サン・フランシスコ条約において、期間を定めて、日本国が義務を負い、又は約束をしているときは、いつでも、この期間は、中華民国の領域のいずれの部分に関しても、この条約がこれらの領域の部分に対して適用可能となつた時から直ちに開始する。

(b)中華民国は、日本国民に対する寛厚と善意の表徴として、サン・フランシスコ条約第十四条(a)1に基き日本国が提供すべき役務の利益を自発的に放棄する。

(c)サン・フランシスコ条約第十一条及び第十八条は、この条約の第十一条の実施から除外する。

2 日本国と中華民国との間の通商及び航海は、次の取極によつて規律する。

(a)各当事国は、相互に他の当事国の国民、産品及び船舶に対して、次の待遇を与える。

(I)貨物の輸出及び輸入に対する、又はこれに関連する関税、課金、制限その他の規制に関する最恵国待遇

(II)海運、航海及び輸入貨物に関する最恵国待遇並びに自然人及び法人並びにその利益に関する最恵国待遇。この待遇には、税金の賦課及び徴収、裁判を受けること、契約の締結及び履行、財産権(無体財産に関するものを含み、鉱業権に関するものを除く。)、法人への参加並びに一般にあらゆる種類の事業活動及び職業活動(金融(保険を含む。)活動及び一方の当事国がその国民にもつぱら留保する活動を除く。)の遂行に関するすべての事項を含むものとする。

(b)前記の(a)(II)に明記する財産権、法人への参加並びに事業活動及び職業活動の遂行に関して、一方の当事国が他方の当事国に対し最恵国待遇を与えることが、実質的に内国民待遇を与えることとなるときは、いつでも、この当事国は、他の当事国が最恵国待遇に基き与える待遇よりも有利な待遇を与える義務を負わない。

(c)政府の商企業の国外における売買は、商業的考慮にのみ基くものとする。

(d)この取極の適用上、次のとおり了解する。

(I)中華民国の船舶には、台湾及び澎湖諸島において中華民国が現に施行し、又は今後施行する法令に基き登録されたすべての船舶を含むものとみなす。また、中華民国の産品には、台湾及び澎湖諸島を原産地とするすべての産品を含むものとみなす。

(II)差別的措置であつて、それを適用する当事国の通商条約に通常規定されている例外に基くもの、その当事国の対外的財政状態若しくは国際収支を保護する必要に基くもの(海運及び航海に関するものを除く。)又は重大な安全上の利益を維持する必要に基くものは、事態に相応しており、且つ、ほしいままな又は不合理な方法で適用されない限り、前記の待遇の許与を害するものと認めてはならない。

 本項に定める取極は、この条約が効力を生ずる日から一年間効力を有する。

 昭和二十七年四月二十八日(中華民国の四十一年四月二十八日及び千九百五十二年四月二十八日に相当する。)に台北で、本書二通を作成した。

河田烈

葉公超

 

日華平和条約に関する交換公文

第一号

 書簡をもって啓上いたします。本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本国政府に代つて、この条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある旨のわれわれの間で達した了解に言及する光栄を有します。

 本全権委員は、貴全権委員が前記の了解を確認されれば幸であります。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(河田烈)

中華民国全権委員 葉公超殿

第一号

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された中華民国と日本国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本日付の貴全権委員の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

 本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本国政府に代つて、この条約の条項が、中華民国に関しては、中華民国政府の支配下に現にあり、又は今後入るすべての領域に適用がある旨のわれわれの間で達した了解に言及する光栄を有します。

 本全権委員は、貴全権委員が前記の了解を確認されれば幸であります。

 本全権委員は、本国政府に代つて、ここに回答される貴全権委員の書簡に掲げられた了解を確認する光栄を有します。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(葉公超)

日本国全権委員 河田烈殿

第二号

 書簡をもつて啓上いたします。本全権委員は、中華民国と日本国との間の平和条約第八条において予見される協定が締結されるまでの間、サン・フランシスコ条約の関係規定が適用されるという本国政府の了解を申し述べる光栄を有します。

 本全権委員は、貴全権委員が、前記のことが日本国政府の了解でもあることを確認されることを要請する光栄を有します。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて重ねて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(葉公超)

日本国全権委員 河田烈殿

第二号

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本日付の貴全権委員の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

 本全権委員は、日本国と中華民国との間の平和条約第八条において予見される協定が締結されるまでの間、サン・フランシスコ条約の関係規定が適用されるという本国政府の了解を申し述べる光栄を有します。

 本全権委員は、貴全権委員が、前記のことが日本国政府の了解でもあることを確認されることを要請する光栄を有します。

 本全権委員は、右のことが日本国政府の了解でもあることを確認する光栄を有します。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(河田烈)

中華民国全権委員 葉公超殿

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本国政府に代つて、千九四十五年九月二日以後に中華民国の当局がだ捕{だに強調}し、又は抑留した日本国の漁船に関する日本国の請求権に言及する光栄を有します。これらの請求権は、サン・フランシスコ条約が締結される前に、連合国最高司令官及び日本国政府を一方とし中華民国政府を他方とする交渉の主題となつていました。よつて、この交渉を継続し、且つ、これらの請求権を本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約の相当規定に関係なく解決することを提議いたします。

 本全権委員は、貴全権委員が、中華民国政府に代つて、前記の提案を受諾することを表示されれば幸であります。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(河田烈)

中華民国全権委員 葉公超殿

 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された中華民国と日本国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本日付の貴全権委員の次の書簡を受領したことを確認する光栄を有します。

 本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約に関して、本全権委員は、本国政府に代つて、千九百四十五年九月二日以後に中華民国の当局がだ捕{だに強調}し、又は抑留した日本国の漁船に関する日本国の請求権に言及する光栄を有します。これらの請求権は、サン・フランシスコ条約が締結される前に、連合国最高司令官及び日本国政府を一方とし中華民国政府を他方とする交渉の主題となつていました。よつて、この交渉を継続し、且つ、これらの請求権を本日署名された日本国と中華民国との間の平和条約の相当規定に関係なく解決することを提議いたします。

 本全権委員は、貴全権委員が、中華民国政府に代つて、前記の提案を受諾することを表示されれば幸であります。

 本全権委員は、本国政府に代つて、前記の提案を受諾することを表示する光栄を有します。

 以上を申し進めるのに際しまして、本全権委員は、貴全権委員に向つて重ねて敬意を表します。

千九百五十二年四月二十八日台北において

(葉公超)

日本国全権委員 河田烈殿

 

日華平和条約に関する同意された議事録

一、

中華民国代表

 私は、本日交換された書簡の「又は今後入る」という表現は、「及び今後入る」という意味にとることができると了解する。その通りであるか。

日本国代表

 然り、その通りである。私は、この条約が中華民国政府の支配下にあるすべての領域に適用があることを確言する。

二、

中華民国代表

 私は、千九百三十一年九月十八日のいわゆる「奉天事件」の結果として中国に設立された「満州国」及び「汪精衛政権」のような協力政権の日本国における財産、権利又は利益は、両当事国間の同意によりこの条約及びサン・フランシスコ条約の関係規定に従い、中華民国に移管されうるものであると了解する。その通りであるか。

日本国代表

 その通りである。

三、

中華民国代表

 私は、サン・フランシスコ条約第十四条(a)2(II)(ii)の規定は千九百三十一年九月十八日以降中華民国の同意なしに設置され、且つ、かつて中国における日本国政府の外交上又は領事上の機関であると称せられたものが使用した不動産、家具及び備品並びにこの機関の職員が使用した個人の家具、備品及び他の私有財産について除外例を及ぼすものと解釈してはならないと了解する。その通りであるか。

日本国代表

 その通りである。

四、

日本国代表

 私は、中華民国は本条約の議定書第一項(b)において述べられているように、役務賠償を自発的に放棄したので、サン・フランシスコ条約第十四条(a)に基き同国に及ぼされるべき唯一の残りの利益は、同条約第十四条(a)2に規定された日本国の在外資産であると了解する。その通りであるか。

中華民国代表

 然り、その通りである。

河田烈

葉公超