データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第一回A・A会議における周恩来総理の演説

[場所] 
[年月日] 1955年4月19日
[出典] 日中関係基本資料集、78−82頁.
[備考] 
[全文]

 議長並に代表各位

 全世界の注視をあびているA・A会議は正に始まらんとしています。中国代表団はA・A諸国各代表と一堂に会し、われわれに共通の問題を討議しうることを喜ぶものであります。われわれは先ず招請五カ国の努力と、特にインドネシア政府のご努力に感謝の意を表したいと思います。

 アジア・アフリカ地域のこのように多数の国が一堂に会するのは有史以来初めてのことであります。この二大陸には世界の人口の半数以上が住んでおります。アジア・アフリカ地域の人人は輝かしい古代文明と人類への非常な貢献を行ったのであります。しかし、近代に至ってからは、この地域の大部分の国々は程度の差こそあれ、植民地主義のさく取と圧迫に苦しみ、貧困と後進性にとりのこされてきたのであります。われわれの声は圧迫され、われわれの希望は閉ざされ、われわれの運命は他の者の手中にあったのである。かくて、われわれは植民地主義に反対するためにたたざるを得なかった。この同じ苦悩と闘争で、われわれはお互いに了解を深め、深い同情を示すことは容易なことである。

 現在、アジア・アフリカ地域の様相は根本的な変化をとげました。これらの国々は次第に植民地主義のきずなを脱し又は脱せんとしています。植民地主義の国々は最早過去のさく取と圧迫の手段をつづけて行くことは出来ません。今日のアジア・アフリカは最早昨日のアジア・アフリカではありません。これらの多くの国々は多年の努力により自己の運命を自己の手中に掌握した。われわれの会議自体がこの深い歴史的変遷を物語っている。

 しかし、この地域の植民地支配はいまだ終ったわけではない。新しい植民主義者が古いそれにとって代らんとしている。少なからざるアジア・アフリカの人民はいまだに植民地奴隷の生活をつづけている、少なからざるアジア・アフリカの人民は、いまだに民族的差別待遇を受け、人権を剥奪されている。

 アジア・アフリカの人民が自由と独立を得るため努力する途は多岐である。しかし、自由と独立を獲得しこれを保持せんとする意思は同じである。われわれの各国の特殊的条件がいかに異なっていようとも、植民地支配による後進性を一掃することはわれわれにとって共に必要なことである。われわれは外部からの干渉なしに独自の意思と力で国家の発展を計らねばならない。

 アジア・アフリカの人民は長く侵略と戦争に悩みつづけてきた。彼等の多くは植民地主義者によって侵略戦争のための大砲の盾とされてきた。そこで、これらの人々は侵略戦争の道具以外の何物でもない。彼等は、戦争の脅威は各国の独自の発展を危険ならしむるばかりでなく、植民地主義による奴隷化を一層激化せしむるものであることを知っている。これが、この地域の人々が何にもまして世界平和と国家の独立を尊いものとする所以である。

 このように、この地域の人民の一般の希望は世界平和を守りとらんとする以外の何ものでもない。且又、国家独立を保持し、これによって各国間の友好的協力を促進せんとする以外の何物でもないのである。

 朝鮮休戦以後、ジュネーブ会議は、国家独立の権限を尊重するという基礎の下に、コロンボ諸国会議の支持を受けてインドシナ休戦はもたらされたのである。その結果、当時は、国際緊張は或る程度緩和され、全世界の人々、特にアジアの人民には新鮮な希望がもたらされた。しかしながら、国際問題のその後の発展はこれら人民の希望に反している。東に於ても西に於ても戦争の危機は増大しつつある。平和統一に関する朝鮮及びドイツ人民の希望は空しくされつつある。インドシナ休戦によって回復された平和は危機に瀕している。米国は台湾地域に於て緊張を作り出している。アジア・アフリカ地域以外の国々は、アジア・アフリカの地域内に次々と軍事基地を建設しつつある。彼等は原子兵器は常備兵力であり、原爆戦争の準備なりと公言している。アジアの人民は第一回の原子爆弾はアジアの地域で爆発し、水素爆弾の実験で最初に死んだ人はアジア人であることを決して忘れないであろう。アジア・アフリカの人民は、世界の他の国の人々とともに、漸次増加しつつある戦争の脅威に対し決して無関心ではありえない。

 しかしながら、侵略と戦争を企図している人々は極く少数である。世界の人々の絶対多数は、その社会制度の如何を問わず平和を欲し、戦争に反対している。多くの国々に於ける平和運動は漸次広汎かつ深刻になってきた。彼等は軍拡競争及び戦争準備の停止を求めている。彼等は何よりも先ず大国間が軍備縮小についての合意に達することを求めている。彼等は原子兵器の禁止及び大量殺戮兵器の禁止を求めている。彼等は原子力は人類の福祉を増進するため平和的目的に使用されることを求めている。彼等の声は最早無視できない。侵略と戦争の政策はまずこれら人民によって唾棄されてきた。

 戦争計画者は、更に、彼等の侵略政策の道具として戦争の脅威を増してきた。しかし戦争の脅威はこれに反抗するもののないときに起る。彼等は脅威製造者を更に孤立紛糾の立場におくことができる。我々は、我々が他のすべての平和愛好国民とともに平和を守る決意を持ちさえすれば、平和は保持しうるものと確信する。

 アジア・アフリカの地域の大部分は、中国をも含めて、長い植民地支配によって経済的には後進国である。これは、我々が政治的独立のみならず、経済的独立をも求める所以である。勿論、我々の政治的独立に対する要求はアジア・アフリカ地域以外の国々を排除するものではない。しかしながら、西欧諸国が我々の運命を左右する時機は既に去った。アジア・アフリカの運命はこれら地域の人民の手中にある。我々は我々の経済的独立を実現するために努力するということは決してこの地域外の国々との経済的提携を排除することを意味するものではない。しかしながら、後進国を西欧植民国が搾取することには反対であり、我々の国の経済的独立と、主権を要求する。完全独立はアジア・アフリカ各国の大多数が長い期間に亘ってたたかいとらなければならない一つの目的である。

 中国に於ては、中国人民は、その国の支配者となった。彼等のあらゆる努力は長い間半植民地社会にとりのこされた後進性を一掃し、その国を工業化することに向けられてきた。

 過去五カ年の間、我々は長い戦争によって荒廃した国家経済の再建に努めてきた。特に一九五三年以後我々は経済建設五カ年計画を始めた。この結果、鉄鋼、繊維、食糧等あらゆる主要分野に於ける生産は中国の如何なる時機のレヴェルをも超過した。しかし、これではまだ我々の現実に必要としているものに比して少ない。我国は高度の工業国家に比してまだ後進国である。A・A地域の他の国と同じく、我々は経済独立と自主の達成のためにも平和的国際環境を熱望している。

 植民地主義に反対し、国家独立を守らんとするA・A各国は何にもまして、国家権力を尊重している。国は大小、強弱の如何を問わず、国際関係に於て平等の権限をもつべきものである。彼等の領土、主権は尊重さるべく不可侵である。隷属国家の人民は民族自決の権限を持つべきであり、迫害と殺戮の下におかれるべきではない。人々は、人種、色の如何に拘らず、基本的人権は尊重さるべく、如何なる不当乃至は差別待遇をも受くべきではない。しかるに、独立のために闘ってきたチュニジア、アルジェリア、モロッコその他隷属民族はいまだに凶暴な弾圧からまぬがれることができないことを知っている。南ア連邦等に於ける人種に対する差別待遇及び圧迫はいまだに終っていない。パレスティナのアラブ罹災民の問題はいまだに解決されていない。

 A・A地域に於けるめざめた国家と人々の共通の願望は人種に対する差別待遇に反対することであり、植民地主義に反対し、国家の独立を要求し、彼等の領土、主権を固く守らんとすることにある。スウェズ運河地帯の領土、主権の回復をめぐるエジプト人の闘争、ゴア問題についてのインドの領土権の回復要求、西イリアンに対するインドネシアの要求等これらすべてはA・A諸国の同情をえている。中国の台湾解放の意図もA・A地域のすべての正義の士の支持をえている。これはA・A地域の人々が相互に理解と同情と、関心を持っていることの証左である。

 平和は他国の領土と主権を相互に尊重することによってのみ保全される。如何なる国の領土及び主権に対する脅威乃至は内政への干渉も平和を危殆ならしむるものである。もし、各国が相互に相手方を侵略しないと約束しあえば、平和共存のための国際関係は樹立されよう。又内政不干渉を約束しあえば、各国民は自由にその政治制度、生活様式を選択することができよう。インドシナでの平和回復はインドシナ国家の独立、主権、統一及び領土保全及び内政不干渉等について関係国が保証を与えるという基礎の上にジュネーブ会議で合意をみた。これにより、ジュネーブ協定はインドシナは如何なる軍事同盟にも属さず、外国軍隊に基地を提供しないこととなっている。これはジュネーブ会議が平和地域の設定のために良い役割を果し得た理由となっている。しかるに、ジュネーブ会議後、事態は反対の方向に発展しているようにみられる。これはインドシナ諸国の利益でないばかりか、平和のためにもならない。我々はジュネーブ協定は厳格かつ誠実に守られなければならないと思う。如何なる方面からの干渉乃至は邪魔も入れられてはならない。朝鮮の平和的統一の問題もこの原則によって解決さるべきものである。

 我々A・A各国は長い期間の植民地的搾取と圧迫による経済的文化的後進性を一掃するために経済文化面の協力を必要とする。この協力は平等互恵にもとづくものであって何等の特権をも付さるべきでない。貿易関係と経済協力も各国の独自の経済発展の推進を目的とするものであり、或る国を特定の原料生産国乃至は消費財市場とすることを目的とするものであってはならない。文化交流も各国の国民文化の発展を尊重し、各国文化の特殊性を無視してはならない。

 今日、A・A地域の人々は漸次自己の運命を自己の手中に収めつつあるので、経済文化協力の現状は必ずしも大きくはないが、平等互恵の原則にもとづいた協力は偉大な将来をもつものと断言しうる。我々は我々の各国工業化の進展、生活水準の向上、我々の内外にある人為的貿易障害の除去等を行うことによって、貿易促進及び経済協力は更に密接となり、文化の交流も更に頻繁になるものと確信している。

 主権尊重、領土保全、不侵略、内政不干渉、平等互恵の原則をつらぬくことによって社会制度の異る国々の平和的共存は可能となる。これらの原則がよく実行されるならば、国際紛争が交渉によって解決されない筈はない。

 世界平和を守るために、多かれ少なかれ同様の立場にある我我A・A各国は先ず友好的方法で相互に協力し、平和的共存を実行すべきである。植民地支配によるA・A諸国間の不一致及び分離は最早過去のものとなった。我々は先ず相互に尊敬しあい、我々の間にある猜疑と脅威を除去すべきである。

 中華人民共和国政府はボゴール会議の共同コミュニケにあるように南アジア五カ国首相によって定められたA・A会議の目的に完全に賛意を表する。我々は世界平和と協力を促進するために、A・A地域の諸国は先ず、その共通の利益の線にそって善意と協調を求め、善隣友好の実をあげるべきものと思う。インド、ビルマ、及び中国は既に平和共存の五原則を相互の関係を律する指導原理として認めた。これら諸原則は更に多くの国国の支持を得た。この原則にもとづき、中国とインドネシアは国籍問題についての初歩的会談で良い結果を生みだすことが出来た。ジュネーブ会談に於ても中国はこの原則でインドシナ諸国と友好関係を促進する用意のあることを明らかにした。

 そこで中国とタイ、フィリッピンその他の近隣諸国ともこの五原則にもとづき関係を改善しえない理由はない。中国はA・A諸国とこの五原則を厳守するとの基礎の上に立って、国交を正常化する用意があるものであり、且又日本と中国との国交正常化の促進をも喜んで行いたい。我々の相互の理解と協力を増進させるために、我々は、A・A諸国の政府、国会、民間団体の友好的相互訪問を行うことを提案する。

 議長、その他代表各位。A・A人民の運命が他人の意思で左右されていた時代よ去れ。我々は、もし、世界平和維持の決意を有するならば、何人も戦争に引き入れられることはなく、又もし我々が国家の独立を守る決意を持っているならば、何人も我々を奴隷化することは出来ず、且又もし我々が友好協力関係を保持すれば、何人も我々を分離さすことは出来ないと信ずるものである。

 A・A各国の欲するものは、平和と独立である。A・A諸国をして他の地域の国に反対せしめることは我々の意図するところではない。我々は他の地域の各国とも平和且つ協力的関係を樹立せんとしているのである。

 この会議は容易に行われたのではない。我々の間には種々異る見解はあるが、これらは我々の共通してもっている共通の願望に影響を与えるものではない。我々の会議は我々の共通の願望を表に出すものであり、A・Aの歴史に輝かしい一頁を残すものである。同時にこの会議を通じて作られた接触は世界平和に対する偉大な貢献を行うために更に維持さるべきものである。

 インドネシア、スカルノ大統領の言われた通り、我々アジア・アフリカ人民は団結しなければならない。

 私は本会議の成功をここに祝福するものであります。