[文書名] 一九五五年四月十八日から二十四日までバンドンにおいて開催されたアジア・アフリカ会議最終コムミユニケ(バンドン会議最終コミュニケ,アジア・アフリカ会議最終コミュニケ)
アジア・アフリカ会議はビルマ、セイロン、インド、インドネシア及びパキスタンの各国首相の招請のもとに召集され、一九五五年四月十八日から二十四日までバンドンで会合した。主催諸国のほか次の二十四カ国が会議に参加した。
1.アフガニスタン
2.カンボデイア
3.中華人民共和国
4.エジプト
5.エテイオピア
6.ゴールド・コースト
7.イラン
8.イラク
9.日本
10.ヨルダン
11.ラオス
12.レバノン
13.リベリア
14.リビア
15.ネパール
16.フイリピン
17.サウデイ・アラビア
18.スーダン
19.シリア
20.タイ
21.トルコ
22.ヴイエトナム民主共和国
23.ヴイエトナム国
24.イエメン
アジア・アフリカ会議はアジア・アフリカ諸国に共通の利害と関心のある問題を検討し、各国国民が一層十分な経済的、文化的及び政治的協力を達成しうるための方法及び手段を討議した。
A、経済協力
1、アジア・アフリカ会議はアジア・アフリカ地域における経済開発促進の緊急性を認めた。参加諸国間に相互の利益と国家主権尊重の基礎に立つ経済協力が一般的に希望された。参加諸国間における経済協力に関する諸提案は、外資投下を含む地域外諸国との協力に対する願望ないし必要性を除外するものではない。さらに、若干の参加国が国際的又は二国間取極めによつて地域外から受けている援助が、これら諸国の開発計畫の実施に貴重な貢献をなしたことが認められた。
2、参加諸国は下記の形式で相互に最大限度の技術援助を行うことに同意した。
専門家、研修生、試験的計畫並びに実演目的のための設備、技術の交換及び現存国際機関と協力して技術的知識と技能を付与するための国家的並びに可能な場合には地域的な訓練研究機関の設置
3、アジア・アフリカ会議は次の事項を勧告した。
国連経済開発特別基金の早急設置、アジア・アフリカ諸国に対する国際復興開発銀行の資金割当の増加、株式投資活動を事業内容に含む国際金融会社の早急設立、共通の利益促進に資する限りにおいて、アジア・アフリカ諸国間の共同事業の促進奨励。
4、アジア・アフリカ会議は地域内における商品取引安定の絶対必要性を認めた。多角的貿易並びに決済の範囲拡大の原則が受入れられた。しかしながら若干の国家がその現在の経済事情に鑑み二国間通商取極めに頼らねばならないだろうことが認められた。
5、アジア・アフリカ会議は、参加諸国が二国間又は多角的取極めによつて主要商品に対する国際価格と需要を安定せしめるために集団的措置をとること及び実行可能であり望ましい限りにおいて参加諸国がこの問題について国際連合常設国際商品貿易諮問委員会並びに他の国際会議の際統一行動をとるべきことを勧告した。
6、アジア・アフリカ会議は更に次のことを勧告した。
アジア・アフリカ諸国は、経済的に可能な場合、自国産原料を輸出以前に加工することにより、その輸出貿易を多様化すべきこと、地域間貿易見本市を促進し、通商使節団並びに実業家団の交換を奨励すべきこと、地域内通商促進のために資料と見本の交換を助長すべきこと、無海岸国の通過貿易に対して通常の便宜が与えられるべきこと。
7、アジア・アフリカ会議は海運にかなりの重要性を認め海運会社が屢々運賃率を改訂し、時に参加諸国に損失を与えていることに対し関心を表明した。会議は、本問題を研究し、その後、海運会社をして一層妥当な態度をとらしめるよう集団的措置をとることを勧告した。通過貿易の鉄道運賃も研究されてしかるべき旨示さが行われた。
8、アジア・アフリカ会議は、国家的及び地域的の銀行並びに保険会社の設立を助長すべきことに同意した。
9、アジア・アフリカ会議は、石油に関する事項、例えば利潤送金及び課税等についての情報交換により共通の政策形成に到達しうると認めた。
10、アジア・アフリカ会議はアジア・アフリカ諸国のために平和目的のための核エネルギー開発の特別の重要性を強調した。会議は、主要関係国が率先して原子力の平和目的のための利用に関する資料供与を申し出たことを歓迎し、国際原子力機関の早急設立を勧奨し、その執行機関にアジア・アフリカ諸国が十分代表さるべきことを主張し、かつ、アジア・アフリカ諸国政府に対してこの種計畫を主催する諸国の提供する原子力平和利用の訓練その他の便宜を十分利用するよう勧告した。
11、アジア・アフリカ会議は相互の関心事項についての情報と意見を交換するために参加諸国内に、各国政府の指名する連絡官を任命することに同意した。会議は現存する国際機関が更に十分に利用され、参加諸国中、かかる国際機関のメンバーでないが資格を有する国家の加入が実現するよう勧告した。
12、アジア・アフリカ会議は、参加諸国ができるだけ相互の経済的利益を伸長するために、国際会議の際事前に協議すべきことを勧告した。しかしながら、地域的ブロツクを結成せんとの意図はない。
B、文化協力
1、アジア・アフリカ会議は、文化的協力の発展は、国家間の理解を促進する最も強力な手段の一つであることを確信した。アジアとアフリカとは偉大な宗教と文明との揺藍の地であり、またその間これによつて自ら内容を豊にしてきた。かくのごとくアジアとアフリカの文化は精神的、普遍的の基礎の上に立つものである。不幸にしてアジア・アフリカ諸国間の接触は過去数世紀間阻害された。アジアとアフリカの諸国民はいまや昔時の文化的接触を新たにし、現代世界にふさわしい新しき文化的接触を発展せしめる熱烈かつ真摯な希望に燃えている。参加国政府はすべて一層緊密な文化的協力のために努力する決意を重ねて表明した。
2、アジア・アフリカ会議は、アジア及びアフリカの多くの地域において、その形態の如何を問わず植民地主義が存在しているために文化的協力が阻害されているのみならず、各国民の民族文化も抑圧されてる事実に注目した。若干の植民国家は従属民族に対して教育と文化の分野における基本的権利を否定して民族の個性発展を妨げると同時に、他のアジア・アフリカ民族との文化交流を阻止している。これはチユニジア、アルジエリア及びモロツコの場合特に然りで、この地域では民族が自己の言語と文化とを学ぶ基本的権利が抑圧されている。類似した差別待遇がアフリカ大陸の一部においてアフリカ人及び有色民族に対して行われている。会議はこれらの政策が人間の基本的権利の否定に等しく、この地域の文化的向上を阻害し、かつ、更に広い国際的な面における文化的協力を妨げているものと認めた。会議はアジアとアフリカの一部でこの種の文化抑圧により教育と文化の分野における基本的権利が否定されていることを非難した。
会議はとくに文化抑圧の手段としての人種主義を非難した。
3、会議がアジア・アフリカ諸国間の文化的協力の発展を検討したのは、他の国家集団や他の文明・文化の排除又はこれとの対抗の意味で行つたのではない。会議は寛容と普遍性という古来の伝統に随いアジア・アフリカの文化的協力が世界的協力という一層大きい意味において発展せられるべきであることを確信した。
アジア・アフリカの文化的協力の発展と並んで、アジア及びアフリカの諸国は他の諸国との文化的協力の発展を希望する。このことはアジア・アフリカ諸国自身の文化を富ましめると同時に世界平和及び理解の促進に資するであろう。
4、アジア及びアフリカには自国の教育、科学及び技術上の諸制度をいまだ発達せしめ得ないでいる多数の国がある。会議は、この点に関してアジア・アフリカの国家のうち比較的にめぐまれた地位にある国が上述の国の学生及び研修生を自国の施設に収容する便宜を与えるべきことを勧告した。かかる便宜はまたアフリカにあつて現在高度の教育を受ける機会を拒否されているアジア人及びアフリカ人にも供与せしめられるべきである。
5、アジア・アフリカ会議は、アジア及びアフリカ諸国間の文化協力の促進は
1、互に他国の知識を獲得すること、
2、相互的文化交流及び
3、情報の交換
を目途として進められるべきであると認めた。
6、アジア・アフリカ会議は、現段階においては文化的協力の最上の成果は会議の勧告を実施するための二国間取極めを遂行することにより、また各国が実施可能な事柄から独自の立場で実行を移すことによつて達成し得るとの意見であつた。
C、人権と自決
1、アジア・アフリカ会議は、国際連合憲章に掲げられた人権の基本的諸原則を全面的に支持することを宣言し、かつ、世界人権宣言を全民族、全国家が達成すべき共通の標準として留意した。
会議は国際連合憲章に掲げられた諸民族及び諸国家の自決の原則を全面的に支持することを宣言し、かつ、あらゆる基本的人権の完全な享受の前提条件である諸民族、諸国家の自決権に関する国際連合の諸決議に留意した。
2、アジア・アフリカ会議はアフリカの広範囲の地域及び世界の他の地域において政治と人間関係の基礎となつている人権上の隔離と差別待遇の慣行を遺憾とした。かかる行為は人権の甚だしい侵害であるのみならず、文明の基本的価値と人間の尊厳の否定である。
会議は人種的差別待遇の犠牲者特に南アフリカにあるアフリカ、インド及びパキスタン系住民による勇敢な態度に対しあたたかい同情と支持を与え、彼等の主張を支持するすべての人々を称賛し、それぞれ自国に存在するかも知れない人種主義の痕跡を一切根絶するアジア・アフリカ諸民族の決意を再確認し、人種主義の害悪根絶のための斗争に際して同じ害悪に陥る危険を防ぐためにあらゆる精神的影響を行使することを誓約した。
D、従属民族の問題
1、アジア・アフリカ会議は、従属民族及び植民地主義の問題並びに民族が他国の征服、支配及び搾取下に置かれることから生ずる諸害悪について討議した。
会議は次のことに意見の一致を見た。
(a) 植民地主義は如何なる形であらわれるとも、速かに終そくせしめられるべき害悪であることを宣言すること。
(b) 民族が他国の征服、支配及び搾取下に置かれることは基本的人権の否定であり国際連合憲章に反し、かつ、世界平和及び協力の促進に対する阻害であることを確認すること。
(c) すべてのかかる民族に対する自由と独立の主張を支持すること宣言すること、及び
(d) 関係諸国に、かかる民族に対して自由と独立とを許与することを要求すること。
2、北アフリカにおける不安定な状態及び北アフリカ民族に対する自決権の頑強な否定に鑑み、アジア・アフリカ会議は、アルジエリア、モロツコ及びチユニジア住民の自決と独立の権利を支持しかつ、フランス政府に対し遅滞なく本問題の平和的解決をもたらすよう勧告した。
E、その他の問題
1、アジア・アフリカ会議は、パレスチナの事情により惹起された中東における目下の緊張及びその世界平和に及ぼす危険にかんがみ、パレスチナのアラブ民族の権利を支持することを宣言しパレスチナに関する国際連合の決議の実施及びパレスチナ問題の平和的解決達成を要望した。
2、アジア・アフリカ会議は、その植民地主義廃止につき表明した態度にのつとり、インドネシアとオランダとの間の関係協定に基きインドネシアが西イリアンの問題について有する立場を支持した。
アジア・アフリカ会議はオランダ政府に対し、上記協定に基くその義務を履行するため、できるだけすみやかに交渉を再開することを要望し、本件紛争の平和的解決のために国際連合が両当事国を援助することを切望する旨を表明した。
3、アジア・アフリカ会議はアデン及び保護領と称されるイエメン南部地方の問題におけるイエメンの立場を支持し、関係当事国に対し紛争の平和的解決に達するよう要望した。
F、世界平和及び協力の促進
1、アジア・アフリカ会議は、若干の国家がいまだ国際連合に加入を認められていない事実に留意し、世界平和のための効果的な協力のためには国際連合構成国は普遍的でなければならないことを考慮し、安全保障理事会に対し、憲章に従つて構成国たる資格のある国家のすべての加入を支持するよう要望した。アジア・アフリカ会議の見解では、参加諸国中カンボデイア、セイロン、日本、ヨルダン、リビア、ネパール及び統一されたヴイエトナムはその資格を有する。
会議は安全保障理事会におけるアジア・アフリカ地域諸国の代表が、公平な地理的配分の原則に照して不十分であると認めた。会議は非常任理事国の議席の配分に関して一九四六年ロンドンにおいて成立した取極めにより選出より除外されたアジア・アフリカ諸国が、国際の平和と安全の維持に一層有効な寄与をなしうるよう、安全保障理事会においての尽力を可能ならしむべしとの見解を表明した。
2、アジア・アフリカ会議は現下の国際緊張の危険な状況及び核並びに熱核兵器を含むあらゆる種類の武器の破壊力が用いられるであろう世界戦争の勃発の場合全人類がさらされるべき危険を考慮し、若しかかる戦争が勃発するとした場合惹起される恐るべき結果に対し、すべての国家の注意を喚起した。
会議は軍備縮少及び核並びに熱核兵器の生産、実験並びに使用の禁止は人類と文明とを潰滅の惧れと予想とから救うためには不可避であると考慮した。
会議は、ここに集合したアジア・アフリカ諸国が軍備縮少とこの種兵器の禁止を支持する旨を宣明し、主要関係諸国及び世界の与論に対してこの軍備縮少と禁止とをもたらすよう訴える義務を人道と文明に対して有すると考えた。
会議はかかる軍備縮少と禁止を実施するためには有効な国際管理が確立され維持されねばならないこと及びこの目的のため急速かつ決定的な努力がなされるべきであることを考慮した。
核並びに熱核兵器生産の全面的禁止にいたるまでの間、会議は関係国すべてに対してこの種兵器の実験中止の合意に達するように訴えた。
会議は、平和維持のためには世界的軍備縮少が絶対必要であることを宣言し、国際連合に対しその努力を継続することを要請し、関係国全部に対し一切の大量破壊兵器の生産、実験及び使用の禁止を含む全兵力及び兵器の規制、制限、管理及び削減を早急に実現するよう及びこの目的のため有効な国際管理を樹立するよう訴えた。
G、世界平和及び協力の促進についての宣言
アジア・アフリカ会議は、世界平和と協力の問題に真摯な考慮を払つた。同会議では、原子世界戦争の危険を伴つている現下の国際緊張状態を、深い関心をもつて検討した。平和の問題は国際安全の問題と関連している。この意味においてすべての国家は、とりわけ国際連合を通じて有効な国際管理のもとに軍備縮少及び核兵器の排除を実現するため、協力すべきである。かくてこそ国際平和を促進することが出来、かつ核エネルギーは、専ら平和目的のため使用され得る。これは、とりわけ、アジア及びアフリカの要請に応えるに役立つであろう。何となれば、彼等が緊急に必要としているものはより大きな自由の下における社会的進歩とより良い生活水準であるからである。自由と平和は相互依存の関係にある。自決の権利は、すべての民族により享受されなければならない。そして自由と独立はいまなお従属している民族に可及的速やかに賦与されなければならない。事実、すべての国民は国際連合憲章の目的と原則に則り彼等自身の政治的及び経済的制度並びに彼等自身の生活様式を自由に選択する権利を持つべきである。
不信と恐怖を離れ、相互の信頼と善意とをもつて左記の諸原則を基礎として、諸国民はよき隣人として寛容をもつて臨み、お互いに平和のうちに生活し、友好的協力関係を発展せしむべきである。
一、基本的人権及び国際連合憲章の諸目的並びに諸原則の尊重
二、凡ての国家の主権並びに領土保全の尊重
三、凡ての人種の平等並びに大小を問わずすべての国家の平等の承認
四、他国の内政に対する不介入及び不干渉
五、国際連合憲章に則つた各国家の単独のないし集団的自衛権の尊重
六、(a)いづれかの大国の特殊利益に奉仕するが如き集団防衛取極利用の回避
(b)いかなる国によるを問わず他国に対する圧力行使の回避
七、侵略行為ないしその脅威及び各国の領土保全ないし政治的独立に対する実力行使の控制
八、あらゆる国際紛争の国際連合憲章に則つた交渉、和解、仲裁、司法的解決及びその他当事者の選択する平和的手段による解決
九、相互利益及び協力の促進
一〇、正義と国際義務の尊重
アジア・アフリカ会議は、これら諸原則に基く友好的協力が国際平和及び安全の維持促進に有効に寄与し、他方経済的、社会的及び文化的諸分野における協力が全人類に共通の繁栄と福祉とを招来するに与つて力のあることを確信することを宣言する。
アジア・アフリカ会議は主催五カ国が、参加諸国と協議の上、次回会議の開催を考慮するよう勧告した。
一九五五年四月二十四日
バンドンにおいて