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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 開発程度の低い国及び領域における移住労働者の保護に関する勧告(第100号)(1955年の移住労働者保護(低開発国)勧告(第100号))

[場所] 
[年月日] 1955年6月22日
[出典] 国際労働機関
[備考] 
[全文] 

 国際労働機関の総会は、

 理事会によりジュネーヴに招集されて、千九百五十五年六月一日にその第三十八回会期として会合し、

 この会期の議事日程の第五議題である開発程度の低い国及び領域における移住労働者の保護に関する提案の採択を決定し、

 この提案が勧告の形式をとるべきであることを決定したので、

 次の勧告(引用に際しては、千九百五十五年の移住労働者保護(低開発国)勧告と称することができる。)を千九百五十五年六月二十二日に採択する。


Ⅰ 定義及び適用範囲

1 この勧告は、次の国及び領域に適用する。

  (a) かろうじて生存を維持する程度の経済から、賃金取得を基礎とし、かつ、工業及び農業の中心地の散発的かつ散在的な発展を伴う一層進歩した形式の経済への発展が労働者及び場合によつてはその家族の相当の移住をもたらす国及び領域

  (b) 移住を行う労働者がその往路において及び場合によつては帰路において通過する国及び領域。ただし、これらの国及び領域の現行の措置が、概して、当該労働者に対してその旅行中にこの勧告に定める保護より低い保護を与えている場合に限る。

  (c) 移住を行う労働者の目的地である国及び領域。ただし、これらの国及び領域の現行の措置が、概して、旅行中又は雇用中の当該労働者に対しこの勧告に定める保護より低い保護を与えている場合に限る。

2 この勧告の適用上、「移住労働者」とは、労働者がすでに雇用されていると、求職のため移住すると、決まつた雇用のため移住するとを問わず、また、雇用の申し出を受諾していると契約を締結しているとに関係なく、1(a)に掲げる国及び領域内の移住又はこれらの国及び領域から1(b)及び(c)に掲げる国及び領域に向かう若しくはそれを通過する移住を行う労働者をいう。「移住労働者」とは、また、場合によつては前記の雇用の期間中一時的に又は雇用終了後最終的に帰路にある労働者をも含む。

3 この勧告のいかなる規定も、いずれかの国又は領域の出入国法その他の法律による場合を除くほか、その国又はその領域に入り又は滞在する権利をいかなる者に対しても与えるものと解してはならない。

4 この勧告の諸規定は、法律、慣習又は協定による規定又は慣行で移住労働者に対してこの勧告に規定する条件より有利な条件を与えるものの適用を妨げるものではない。

5 移住労働者に対するいかなる差別待遇も、除くべきである。


Ⅱ 往路及び帰路途上の並びに雇用期間前の移住労働者及びその家族の保護

6(1) 中央及び地方の法令若しくは政府間の合意又は他の手段によつて移住労働者及びその家族にその出発の地点と雇用の場所との間の旅行中の保護を与える目的をもつて、移住労働者自身及び移住労働者が出発し、移動し又は到着する国又は領域の双方の利益となる措置を執るべきである。

 (2) これらの措置は、次のことを含むべきである。

  (a) 機械化された輸送機関(公共の旅客輸送施設を含む。)を物理的に可能な場合に移住労働者及びその家族に利用させること。

  (b) 沿路の適当な場所に、宿泊、食糧、飲料水及び救急処置の便のある休息所を提供すること。

7 移住労働者が合理的な条件で旅行できるようあらゆる必要な措置を執るべきである。すなわち、

  (a) 募集され又は雇用された労働者については、募集又は雇用契約に関する規則において、募集者又は使用者が労働者及びその家族の旅費を支払う義務を負うことを規定すること。

  (b) 契約を締結し、又は特定の雇用の申し出を受諾することなくして旅行する労働者については、旅費を最少にするための規定を設けること。

8(1) 移住労働者が出発又は雇用の開始及び雇用の終了の際に無料で健康検査を受けるよう措置を執るべきである。

 (2) 特定の地域において医師の不足のためすべての移住労働者に対して前記の二回の健康検査を行うことが不可能な場合には、次の者に対して優先順位が与えられるべきである。

  (a) 伝染病又は風土病のある地域から来る移住労働者

  (b) 身体に特別の危険を伴う雇用を受諾し、又はそのような雇用にすでに従事している移住労働者

  (c) 募集又は雇用により定められた計画に従つて旅行を行う移住労働者

9(1) 権限のある機関は、使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合にはそれらと協議の上移住労働者の健康のためにそれらの者を新たな環境に順応させる期間が必要であると認める場合には、移住労働者、特に募集され又は契約によつて拘束される者に対し、その雇用の開始の直前に新たな環境に順応させる期間を与える措置を執るべきである。

 (2) 権限のある機関は、新たな環境に順応させる期間の必要性について決定を行うに当つて、移住労働者の労働が行われる場所の気候風土、高度及び異つた生活環境を考慮に入れるべきである。権限のある機関は、新たな環境に順応させる期間が必要であると認める場合には、現地の状況に応じてその期間の長さを定めるべきである。

 (3) 新たな環境に順応させる期間中において、使用者は、移住労働者及び随伴を認められた家族の十分な生活費を負担すべきである。

10 移住労働者及びその家族に対しては、権限のある機関が使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合にはそれらと協議の上定める一定の期間中、次の事情の下において送還を受ける権利が確保されるべきである。

  (a) 移住労働者が募集者又は使用者によつて募集され又は雇用の場所に送られていた場合には、その者が雇い入れられた場所又は雇用のため送り出された場所へ次のすべての場合に募集者又は使用者の費用で送還すべきである。

   (i)  労働者が雇用の場所への旅行中において病気又は災害によつて労働不能となつた場合

   (ii)  労働者が健康検査の結果雇用に不適であると判断された場合

   (iii) 労働者が雇用の場所に送られた後、その責に帰することのできない原因によつて雇用されない場合

   (iv)  労働者が詐欺又は誤りによつて雇い入れられ、又は雇用の場所に送られたことを権限のある機関が発見した場合

  (b) 移住労働者が雇用契約を締結して、使用者又はその代理人によつて雇用の場所に連れてこられた場合には、同様にして連れてこられた家族とともに、その者が雇い入れられた場所又は雇用のため送り出された場所へ次のすべての場合に使用者の費用で送還すべきである。

   (i)  契約に規定された勤務期間が満了した場合

   (ii)  使用者が契約を履行することができないために契約が解除された場合

   (iii) 移住労働者が病気又は災害によつて契約を履行することができないために契約が解除された場合

   (iv)  契約が両当事者の合意によつて終了した場合

   (v)  契約がいずれか一方の当事者の申立によつて終了した場合。ただし、権限のある機関が別段に決定する場合を除く。

11 権限のある機関は、移住労働者又はその家族で使用者又はその代理人によつて雇用の場所に連れてこられなかつた者が送還を受ける権利を有すべきであるかどうか、また、有する場合にはいかなる条件に基くかの問題に対して、好意的考慮を払うべきである。

12 移住労働者が死亡したときは、その者の家族は、次の場合には労働者が雇い入れられた場所又は雇用のため送り出された場所へ募集者又は使用者の費用で送還を受ける権利を有すべきである。ただし、この権利は、権限のある機関が使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合にはそれらと協議の上定める一定の期間内に行使されなければならない。

  (a) 家族が労働者に伴われて雇用の場所に行くことを認められていた場合には、

   (i)  労働者が雇用の場所への旅行中において死亡したとき。

   (ii) 死亡した労働者がすでに雇用契約を締結していたとき。

  (b) その他の場合には、11に基いて権限のある機関が決定する事情のあるとき。

13(1) 移住労働者は、使用者の費用で送還を受ける権利を自由に放棄することができる。ただし、その放棄は、権限のある機関が使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合にはそれらと協議の上定める一定の期間内に、また、同様にして定める方法によつて行われるべきであり、かつ、その期間の終了までは最終的なものとはならない。

 (2) 移住労働者は、また、送還を受ける権利の行使を権限のある機関が定める一定の期間の範囲内において自由に延期することができる。

14 関係政府が自ら又は他に委任して使用者と移住労働者との間の雇用契約のモデルを作成する場合には、関係のある使用者及び労働者の代表者(使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合には、それらの代表者を含む。)と契約の条項に関してできる限り協議すべきである。

15(1) 移住労働者の適当な職業紹介のための措置を執るべきである。

 (2) これらの措置は、適当な場合には、公共職業安定機関の設定を含むべきである。その機関は、

  (a) 雇用の機会に関する情報を収集し、かつ、雇用中心地へ通常移住労働者を供給する地域にこの情報を定期的に散布することができるようにするため、国又は領域の全体を管轄する中央機関並びに労働者が移住のため通常出発する地域及び雇用中心地における支部機関からなるべきである。

  (b) 労働者が通常移住する他の国又は領域の職業安定機関と取極を結んでおいて、その地における雇用の機会に関する情報を収集すべきである。

  (c) 実行可能な場合には、特定の雇用に対する労働者の一般的適性を確認するため、職業指導施設を設定し、かつ、これを維持すべきである。

  (d) 実行可能な場合には、制度の設立及び運営について使用者団体及び労働者団体の助言及び協力を求めるべきである。


Ⅲ 移住が移住労働者並びにその出身社会及びその出身国のために望ましくないと考えられる場合にその移住を阻止する措置

16 移住が移住労働者並びにその出身社会及びその出身国のために望ましくないと考えられる場合には、労働者が通常移住のため出発する地域における生活状態を改善し、かつ、生活水準を向上させることを目的とする措置によつてその移住を阻止することを、一般的方針としなければならない。

17 前項の方針を実施するための措置は、次のことを含むべきである。

  (a) 移住者を送り出す地域においては、労働力及び天然資源を一層完全に利用することを目的とする経済発展及び職業訓練の諸計画を採択すること。特に潜在移住者層のために新たな職業及び新たな所得源をつくりだすようなあらゆる措置を執ること。

  (b) 移住者を受け入れる地域においては、仕事をよりよく組織すること、よりよき訓練を行うこと、機械化を進めることその他現地の事情により執られる措置によつて、労働力をより合理的に使用し、生産性を向上させること。

  (c) 労働力の減少が社会的及び経済的構造並びに住民の健康、福祉及び発展に悪影響を及ぼすような地域においては募集を制限すること。

18 移住労働者の出身地及びその目的地である国及び領域の政府は、従来規制を受けなかつたか又は規制することができないと考えられた移住が移住労働者並びにその出身社会及びその出身国のために望ましくないと考える場合には、その移住を漸次減少させるよう努力すべきである。これらの規制されない移住の経済的原因が存続する限り、関係政府は、自発的な移住及び組織的募集に対する適当な制限を、このような措置が可能であり、かつ、望ましいと認められる限度において行うよう努力すべきである。このような移住を減少させ又は、統制することは、現地における双方の取極によつて行うことができる。

19 関係政府は、規制されない移住が引き続いて行われている間は、そのようにして移住する労働者に対してこの勧告に規定する保護をできるだけ与えるようにすべきである。


Ⅳ 雇用期間中における移住労働者の保護

A 一般的方針

20 移住労働者に対し、同一の職業に従事する他の労働者が法律上又は慣行上享受する労働条件及び生活条件と同様のものを与え、かつ、この勧告の次の諸項に定める保護の基準を、前記の他の労働者と同様に適用するようあらゆる努力を払うべきである。

B 住居

21 移住労働者への住居対策は、承認された基準に合致した住居を、賃金に応じた賃貸料で、使用者の負担、十分な財政上の援助又は他の方法によつて労働者に提供することを含むべきである。

22 権限のある機関は、責任をもつて移住労働者に十分な住居を確保しなければならない。権限のある機関は、住居の最低基準を定め、かつ、これらの基準を厳格に実施させなければならない。権限のある機関は、また、労働者が離職してその住居から立ちのきを要求される場合に労働者が有すべき権利を定め、かつ、これらの権利が尊重されるために必要なすべての措置を執るべきである。

C 賃金

23(1) 移住労働者の賃金を決定するための措置を執るべきである。

 (2) これらの措置は、次のことを含むべきである。

  (a) 諸手当を含む最低賃金率が、非熟練労働に従事する労働者に対し、少くとも、通常の家族扶養費を考慮したその地域における最少限の必要経費を支払うことができるような最低賃金制を採択すること。

  (b) 次のいずれかの方法により、すなわち、

   (i) 関係労働者を代表する労働組合と関係使用者又は関係使用者団体との間で自由に交渉された労働協約により、

   (ii) 労働協約によつて最低賃金率を決定するようなことが行われていない場合には、(a)に述べる原則に従つて権限のある機関により随時最低賃金率を決定すること。

24 権限のある機関は、賃金を決定するに当つては、関係地域の入手しうる家計調査の結果を考慮すべきである。この調査は、代表的な使用者団体及び労働者団体と協力して行われなければならない。

25 使用者団体及び労働者団体がともに存在する場合には、それらの代表者、それらの団体が存在しない場合には、関係労働者及び関係使用者の代表者は、法定の最低賃金決定制度の運営について同数で、かつ、同等の立場で協力すべきである。

26 実施中の最低賃金率は、関係使用者及び関係労働者に通知されなければならない。23(2) (b) (ii)によつて決定された最低賃金率は、関係使用者及び関係労働者を拘束すべきであり、権限のある機関の明示の許可なくして労使間の協定により減額することはできない。

27 使用者は、各労働者について賃金の支払及び賃金からの控除の記録を保存する義務を負うべきである。賃金額及び賃金からの控除額は、関係労働者に通知しなければならない。

28 賃金からの控除は、国内の法令、労働協約又は仲裁裁定によつて定められた条件及び限度においてのみ、許可すべきである。

29 賃金は、通常、法貨で、直接労働者に支払うべきである。

30 賃金は、労働者が借金をできるだけしなくていいように一定の間隔をおいて定期的に支払うべきである。ただし、これに反する地域的慣習が確立しており、かつ、権限のある機関が労働者の代表者又はその代表的団体の代表者と協議の上労働者がこの慣習の継続を希望していると認める場合は、この限りでない。

31 アルコール又は他の健康によくない物を賃金の全部又は一部に代えて支給することは、禁止すべきである。

32 居酒屋又は商店での賃金の支払は、その場所で使用される労働者に対する場合を除くほか、禁止すべきである。

33 使用者は、労働者に対しては、労働者の月収のわずかの割合しか前貸ししてはならない。

34 権限のある機関が定めた金額をこえる前貸金は、賃金との相殺その他の方法によつて、回収することが法律上許されないようにすべきである。前貸金に利子を付けてはならない。

35 最低賃金率の適用を受ける労働者で最低賃金率の実施以来それを下回る賃金の支払を受けた者は、司法的手段その他法律によつて許容された手段によつて支払の不足額を法定の期間内に回復する権利を与えられるべきである。

36 食糧、住居、衣料その他の必需品及び便宜の供与が報酬の一部をなす場合には、権限のある機関は、代表的な使用者団体及び労働者団体と協力して、それが妥当であり、その換価が適正であるようにするため、かつ、現物給与の全換価額が現金で表わされた基本賃金に対する一定の割合(この割合は、権限のある機関が定める。)をこえないようにするため、実行可能なすべての措置を執るべきである。

D 熟練職業への無差別就業

37 移住労働者を含むすべての階級の人人に対して機会均等の原則を認めるべきである。

38 国籍、人種、皮膚の色、信仰、種族団体又は労働組合への所属を理由として移住労働者を含む住民のいずれかの階級に対して特定の職業に従事することを阻止し又は制限するような障害は、公の秩序に反するものであると認めるべきであり、かつ、このような障害を廃止するという原則を容認すべきである。ただし、出入国に関する国内法令及び外国人の公職への任用に関する特別法の適用を妨げるものではない。

39 37及び38に定める原則を実際に適用し、かつ、最も恵まれない階級に属する労働者が熟練職業にますます多く参加することを容易にするための措置を直ちに執るべきである。

40 これらの措置は、特に次のことを含むべきである。

  (a) すべての国及び領域において、すべての労働者に対して技術訓練及び職業訓練の施設をひとしく利用させること並びに新規の企業に就業しうる機会をひとしく与えること。

  (b) 人種又は出生によつて区別された個個の階級がすでに永久的に形成されている国及び領域において、最も恵まれない階級に属する労働者に対し、半熟練及び熟練職業に従事することができる施設を導入すること。

  (c) 人種又は出生によつて区別された個個の階級が永久的には形成されていない国及び領域において、能力のあるすべての労働者に対し、特殊技能を必要とする職業に就業しうる機会をひとしく与えること。

E 労働組合活動

41 移住労働者に対してその者が働いている場所において団結権及びすべての合法的な組合活動を行う権利を与えるべきである。また、関係労働者を代表する労働組合に対して使用者又は使用者団体と労働協約を締結する権利を確保するためすべての実行可能な措置を執るべきである。

F 消費財の供給

42(1) 移住労働者及びその家族が、消費財、特に必需物資及び食糧を妥当な価格で、かつ、十分に入手しうるような措置を執るべきである。

 (2) 可能な場合には、使用者又は権限のある機関のいずれかによつて、移住労働者が作物栽培のための土地を利用することができるようにすべきである。

43 協同組合の設立が有用と思われる場合には、その発展のために措置を執るべきである。その措置は、次のことを含む。

  (a) 可能な場合には、協同組合の基礎に立つた牧畜場、養魚池及び菜園の設置

  (b) 労働者の協同組合が経営する小売店の設置

  (c) 協同組合員の訓練、組合の運営の監督及び組合活動の指導による政府の援助

44(1) 売店が企業に附属している場合には、売店においては現金払のみを認めるべきである。

 (2) 前記の規定の適用がその地域の事情により不可能な場合には、移住労働者に対する掛売りは、賃金に対する一定の割合(この割合は、権限のある機関が定める。)とし、かつ、できるだけ短期間に限つて行うべきである。売掛金に利子を付け又は労務でその支払を受けることは、禁止すべきである。

 (3) 関係移住労働者に対して、これらの売店を利用するよう強制してはならない。

 (4) 他の売店を利用することができない場合には、権限のある機関は、物品が公正妥当な価格で販売されること及び使用者の経営する売店が営利のためでなく関係労働者の利益のため経営されることを確保する目的で適当な措置を執るべきである。

G 社会保障並びに産業安全及び産業衛生

45 移住労働者に対して執るべき措置は、いかなる場合にも、まず、労働災害及び職業病の防止及び補償、労働者及びその家族に対する医療給付並びに産業衛生のための適当な措置で国籍、人種又は宗教を理由とする差別待遇のないものを含むべきである。

46 これらの措置は、次のものを含むべきである。

  (a) 雇用の期間中及び病気の場合の定期検診によつて行うその地域の事情に応じた医療上の監督

  (b) 権限のある機関が定める基準に合致した救急処置、無料の医療及び入院施設

  (c) 労働災害及び職業病に対する労働者補償制度

  (d) 労働災害及び職業病の場合の適当な援助措置

  (e) 雇用の場所における移住労働者の健康及び安全を確保する措置

  (f) 労働災害の報告及びその原因の調査のための措置

  (g) 掲示、口頭その他の方法により移住労働者に対してその作業の危険又は有害な点を周知させる義務を使用者に課すること。

  (h) 仕事のやり方を知らないこと、言葉が不自由であることその他の理由により当該国又は領域において他の労働者に対して通常行われる訓練又は教育が移住労働者に対しては適当でない場合において、移住労働者に対し、雇用の場所における労働災害の防止及び健康に対する危険について行う特別又は補充の訓練又は教育

  (i) 安全措置の促進に関する使用者と労働者との協力のための措置

  (j) 移住労働者と同居しているその妻子を保護するための健康及び社会生活に関する特別措置

47 移住労働者がその廃疾、老令及び死亡に対する保護に関して他の労働者と同等の待遇を受けることができない場合には、廃疾、老令及び死亡の際における移住労働者の必要を満たすため、及び地方、地域又は全国を範囲とする一層広範な制度の前身として、共済組合及び工場単位の救済基金を設定する措置を労働者と協力して可能でありかつ望ましい程度まで執るべきである。

H 移住労働者とその出身地との関係

48 移住労働者がその家族及び出身地との連絡を維持することができるための措置を執るべきである。その措置は、次のことを含む。

  (a) 労働者が出身地その他の地にある家族に対して自発的に送金するための便宜を与え、また、雇用契約の終了、労働者の帰国又は労働者の同意を得て定める他の場合に払いもどされる積立貯金をその者の承諾を得て積み立てるための便宜を与えること。

  (b) 移住労働者とその家族及び出身地との間の通信のための便宜を与えること。

  (c) 移住労働者が遵守することを希望する出身社会に対する慣習上の義務を履行するための便宜を与えること。

I 移住労働者の物質的、知的及び道徳的福祉

49 移住労働者の物質的、知的及び道徳的福祉を確保するための措置を執るべきである。その措置は、次のことを含む。

  (a) 自発的な節約を奨励すること。

  (b) 移住労働者を高利貸から保護すること。特に、貸付利子の引き下げ、金貸業の取締及び信用協同組合を通じて又は権限のある機関の監督を受ける機関を通じて適当な目的のため借入れを行う便宜を促進すること。

  (c) 実行可能な場合には、移住労働者及びその家族が新たな生活様式に適応することを促進するため、移住労働者の言語及び習慣に通じた福祉担当官を移住地域におくこと。

  (d) 移住労働者の子女のための教育施設を確保すること。

  (e) 移住労働者の知的及び宗教的向上心を満足させること。

Ⅴ 移住労働者の安定

50 移住労働者の定住が移住労働者及びその家族の利益又は関係国若しくは領域の経済上の利益に明らかに反する場合を除き、適当な措置、特にⅣ51、52及び53に定める措置により雇用の中心地又はその周辺における移住労働者及びその家族の安定を図ることを、一般的な方針とすべきである。

51 この勧告のいかなる規定も、3に定めるとおり、いずれかの国又は領域の出入国法その他の法律による場合を除くほか、その国又は領域に入り、又は滞在する権利をいかなる者に対しても与えるものと解してはならない。ただし、関係国の方針に反しない場合には、権限のある機関は、移住した国において五年より短くない期間居住する移住労働者に対し、移住国の市民権を取得するあらゆる機会を与えることを考慮すべきである。

52(1) 移住労働者が雇用の場所又はその周辺において定住しうると認められる場合には、その定住を促進するための措置を執るべきである。

 (2) これらの措置は、次のことを含むべきである。

  (a) 家族を伴う移住労働者の募集を奨励すること。

  (b) 可能でありかつ望ましい場合には、雇用の場所又はその周辺において適当な共同社会を設立する便宜を与えること。

  (c) 家族の定住を促進するため、承認された基準に合致した適当な住居を供与すること。

  (d) 可能でありかつ望ましい場合には、食糧生産のために十分な土地を割り当てること。

  (e) 適当な施設がない場合において可能でありかつ望ましいときは、引退した移住労働者がその生計の維持に役立つことのできる場所にそれらの者の定住地を設けること。

Ⅵ 勧告の適用

53 権限のある機関は、適当な行政機関がこの勧告に定める移住労働者の保護措置の適用の監督を、使用者及び労働者の団体がともに存在する場合には、それらと協力して行うような措置を執るべきである。

54 特に、移住労働者が雇用地域における雇用条件、言語、慣習又は通貨に通じていない場合には、すべての労働者がその雇用条件、雇用契約の規定並びに賃金の額及び支払に関する詳細を理解すること並びに自由にかつ内容を理解した上でこれらの条件を受諾することを確保するため、適当な行政機関は、雇用契約の締結手続を遵守させるようにすべきである。

55 国際労働機関の加盟国は、この勧告で取り扱われている事項に関する自国が責任を有する国及び領域における法律及び慣行の現況を、理事会が要請する適当な間隔をおいて国際労働事務局に報告すべきである。その報告には、勧告の規定がどの程度に実施されているか、又は実施されようとしているか、及びこれらの規定を採択し、又は適用するに当つて必要と認められた又は認められるこれらの規定の変更が示されていなければならない。

56 非本土地域に対して責任を有する国際労働機関の各加盟国は、この勧告に定める最低基準をその地域に有効に適用することを確保するため、その権限内のあらゆる措置を執るべきであり、特に、勧告に定める最低基準をその地域に実施する権限を有する機関にこの勧告を送付すべきである。