データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外交活動の三原則

[場所] 
[年月日] 1957年9月
[出典] わが外交の近況第1号(外交青書),7−8頁.
[備考] 
[全文]

外交活動の三原則

 わが国の国是が自由と正義に基く平和の確立と維持にあり、これがまたわが国外交の根本目標であることは今さら言うをまたない。

 この根本目標にしたがい、今や世界の列国に伍するわが国は、その新らたな発言権をもつて、世界平和確保のため積極的な努力を傾けようとするものであるが、このような外交活動の基調をなすものは、「国際連合中心」、「自由主義諸国との協調」および「アジアの一員としての立場の堅持」の三大原則である。

 国際連合は、その憲章にも明かな通り、国際の平和および安全を維持し、国際紛争の平和的かつ正義に基く解決を実現し、諸国間の友好関係発展と世界平和強化のための措置を講じ、また経済・社会・文化・人道各般の面における国際問題解決について国際協力を達成するため、これらの目的を同じくする諸国が平等の原則に基いて相集い、この共通の目的に向つて努力を結集するに当つての中心となる国際機構である。国際連合のこの目的が、またわが国の等しく希求するところのものであることはいうまでもない。その故にこそわが国は、つとに国際連合加盟を希望し、加盟実現前においても、あらゆる可能な協力を行つて来たのである。しかし、ついに宿願であつた加盟の実現を見た今日、わが国にとつての国際連合の意義は単にこれのみにはとどまらない。国際連合が全世界の国々の話し合いの場として、国際間の友好親善協力関係の発展と福祉の増進に寄与し、さらに現在の国際関係に内包されている戦争の危険を阻止する有効な手段となつていることは万人の等しく認めるところであつて、今やその正式加盟国となつたわが国は、この国際連合の原則を高揚し、その活動を強化し、もつて国際連合がその使命の達成にさらに前進するよう努力を払つてきた。

 しかし、国際連合がその崇高な目標にもかかわらず、その所期の目的を十分に果すに至つていないことは、国際政治の現実として遺憾ながらこれを認めざるを得ない。このような際に、わが国としては、一方において国際連合の理想を追求しつつも、他方において、わが国の安全を確保し、ひいては世界平和の維持に貢献するための現実的な措置として、自由民主諸国との協調を強化してきた。

 すでに述べた通り、現下の国際情勢が不安定ながら一応長期的な平和の時期を迎えているのは、自由民主諸国が共産諸国に対してよく結束を保つている結果であつて、この結束が乱れるようなことがあれば、世界戦争の危険もないとはいえない。世界の自由民主諸国はよくこの事態を認識して、着々と団結を固めつつあり、等しく自由民主主義を国是とするわが国としては、その団結の一翼を担う責務を有するものである。

 さらにわが国は、その外交活動を進めるに当つて、アジアの一員として、アジアと共に進む立場を取つている。わが国にとり、世界平和の確立に最も重要な条件は、アジア地域における平和を確保することである。それには、アジアの平和をおびやかす要素を除去するとともに内部における社会的不安を一掃することが必要であり、そのためには友好国が協力してアジアに繁栄を実現しなければならない。この目的に進むために、わが国はできる限りの貢献をなす方針であり、まずアジア内においては、アジアの共鳴と信頼を得るに足るアジアの一員としての立場を堅持し、アジア諸国の共同性を高めることに努めるとともに、アジア外に対しては、アジア問題の公正な発言者としての役割を果すことにより、国際社会におけるアジアの地位の向上と発言権の確保に努めてきた。