データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外交三原則の関連について

[場所] 
[年月日] 1958年3月
[出典] わが外交の近況第2号(外交青書),5−7頁.
[備考] 
[全文]

外交三原則の関連について

 昨年夏「わが外交の近況」第一号においてわが国外交の三原則が示されたのに対し、これら三原則は相互に矛盾するのではないかとの疑問、あるいはこれら三原則は実施不可能であるとの批判が多く聞かれた。この疑問ないし批判に答えるため、三原則の意味とその相互関連性について補足説明することとしたい。

 わが国の国是が自由と正義に基く平和の確立と維持にあり、この国是に則つて、平和外交を推進し、国際正義を実現し、国際社会におけるデモクラシーを確立することが、わが国外交の根本精神であることは言をまたない。

 「国際連合中心」、「自由主義諸国との協調」、「アジアの一員としての立場の堅持」という三つの原則は、この根本精神の外交活動における三つの大きな現われ方を示すものにほかならない。

 国際連合は、その憲章が示す通り、国際の平和および安全を維持し、国際紛争の平和的かつ正義に基く解決を実現し、諸国間の友好関係を発展して世界平和を強化する措置を講ずる、等の目的を果すための国際機構であり、これらの目的は冒頭にのべたわが国外交の根本目標と完全に一致するものである。従つてわが国は、国際諸関係をすべてこの国際連合の精神に基いて規制し、国際連合がその権威を高め活動を強化し、その使命の達成にさらに前進するよう努力するものである。

 しかしながら、国際連合がその崇高な目標にもかかわらず、所期の目的を十分に果すにいたつていないことは、国際政治の現実として遺憾ながらこれを認めざるを得ない。このようなさいに、わが国としては、一方において国際連合の理想を追求しつつも、他方において、このような現実を考慮に容れた措置として、自由と正義に基くデモクラシーの確立という目標においてわが国と志を一にする自由民主諸国との協調を強化し、もつてわが国の安全を確保し、ひいては世界平和の維持に貢献しようとするものである。

 このようにして、世界平和の確立に努力するわが国にとつて、最も重要かつ緊切なことは、まず身近かなアジアにおいて平和を確保することであることはいうまでもない。そしてアジアに平和と繁栄をもたらすためには、アジアの諸国が共同した努力を払う必要がある。

 わが国はアジアの一員であり、アジアはまたわが国と深い地理的、歴史的、文化的、精神的紐帯によつて結ばれている。かかるさい、わが国としては、アジアの諸国が当面する問題には深い同情を有するものであり、アジアの一員としての立場から、進んで協力の手をさしのべ、わが国を含めたアジア全体が自由と正義の原則の下に独立性と共同性を高め、一歩一歩繁栄をかち得るよう、貢献するとともに、国際社会においてアジアの立場を明らかにし、アジアの地位の向上をもたらすことに努め、かくしてアジアが自らの平和を確保するとともに、世界平和維持の大きな要素となることを念願するものである。

 このように、わが外交の三原則は、三原則といつても、すべて等しく国際社会に自由と正義に基くデモクラシーを確立して平和を維持し、このような世界平和の中に自らの安全と発展を確保しようという、一つの根本精神に貫かれているのであつて、なんら相互矛盾するものではない。

 ただ、現実の国際政治においては、必ずしも三原則をそのまま字義通りに適用し得ないような事態も起り得べきことは認めざるを得ない。特に問題とされるのは、アジアにある植民地またはかつて植民地であつた国における反植民地主義運動と、アジア地域において両陣営いずれにも属しないとの立場をとつている国をめぐる問題であろう。前者については、わが国としてこのような反植民地主義運動には十分な理解を持つものであり、その主張貫徹の方法があくまで穏健着実である限り、自由と正義の立場からできる限り目的の実現を期待するものであり、またもし方法が過激に傾くような場合があれば、善意の助言を与えるにやぶさかでない。また後者については、その立場はわが国と異なるとはいえ、それらの国の特殊事情にかんがみわが国としても理解し得るところであつて、それが自由諸国との間に無用の摩擦を起し、前にのべたようなアジアの平和と繁栄への阻害とならないよう、相互理解の促進に努めたい。このようにして冒頭に述べた外交の根本精神に徹するとき、わが外交は一貫した方策をもつて進め得ることは明らかであろう。