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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] SALT‐I暫定協定(戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置についてのソヴィエト社会主義共和国連邦とアメリカ合衆国の間の暫定協定)

[場所] モスクワ
[年月日] 1972年5月26日
[出典] わが外交の近況(外交青書)17号,556‐558頁.
[備考] 外務省全文仮訳
[全文]

 ソヴィエト社会主義共和国連邦およびアメリカ合衆国(以下締約国という)は、対弾道ミサイルシステムの制限に関する条約および戦略攻撃兵器の制限に関する一定の措置に関するこの暫定協定が、戦略兵器の制限に関する積極的な交渉への好ましい条件を作り出すとともに、国際緊張の緩和及び諸国間の信頼の強化に貢献するであろうことを確信し、

 戦略攻撃兵器と防御兵器との間の関係を考慮し、

 核兵器の不拡散に関する条約第6条に基づく義務に留意して、

 以下のとおり合意した。

第1条

 締約国は、1972年7月1日以後に、追加的な地上基地固定大陸間弾道ミサイル(ICBM)の建設を開始しないことを約束する。

第2条

 締約国は、軽大陸間弾道ミサイル又は1964年前に展開された旧型の大陸間弾道ミサイルのための地上発射基を同年以後に展開された型の重大陸間弾道ミサイルのための地上発射基に転換しないことを約束する。

第3条

 締約国は潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)発射基及び新型弾道ミサイル潜水艦を、この暫定協定の調印の日に運用中のもの及び建造中のものに制限すること並びに、締約国によつて確定された手続きに従い、1964年前に展開された旧型のICBM発射基又は旧型潜水艦の発射基の同数と代替されるものとして建造された追加的な発射基及び潜水艦に制限することを約束する。

第4条

 この暫定協定の規定に従い、この暫定協定が対象とする戦略攻撃弾道ミサイル及び発射基の近代化及び更新を行なうことができる。

第5条

1 この暫定協定の規定の遵守を確保するために、各締約国は、一般的に認められた国際法の諸原則に合致する方法で、自国が保有する検証の国内的な技術的手段を使用するものとする。

2 各締約国は、この条の1の規定に基づいて行なわれる他の締約国の検証の国内的な技術的手段を妨害しないことを約束する。

3 各締約国は、この暫定協定の規定に基づく国内的な技術的手段による検証を妨害するような秘匿手段を用いないことを約束する。この義務は、現在建造、組み立て改造中のもの又は分解整備中のものの変更を要求するものではない。

第6条

 この暫定協定の規定の目的及びその履行を促進するため、締約国は、対弾道ミサイルシステムの制限に関する条約の第13条の規定に基づいて設置された常設協議委員会を同条の規定に基づいて使用するものとする。

第7条

 締約国は、戦略攻撃兵器に関する制限のために積極的な交渉を継続することを約束する。この暫定協定で規定された義務は、今後の交渉の過程において定められる戦略攻撃兵器に関する制限の範囲又は条件に影響を及ぼすものではない。

第8条

1 この暫定協定は、各締約国の書面による受諾の通知を交換することにより効力を生ずる。但しこの通知書の交換は対弾道ミサイルシステムの制限に関する条約の批准書の交換と同時に行なわれるものとする。

2 この暫定協定は、戦略攻撃兵器を制限するさらに完全な措置に関する協定によつてそれ以前に更新されない限り、5年間の効力を有する。このような協定をでき得る限りすみやかに締結するために積極的な交渉を継続することが締約国の目的である。

3 各締約国は、この暫定協定の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは、その主権の行使として、この暫定協定から脱退する権利を有する。当該締約国はこの暫定協定を脱退する6カ月前に、自国の決定を他の締約国に通知するものとする。その通知には、通知する締約国が自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載しなければならない。

1972年5月26日にモスクワでいずれも等しく正文であるロシア語及び英語の2通を作成した。

ソヴィエト社会主義共和国連邦のために

ソ連邦共産党中央委員会書記長

アメリカ合衆国のために

アメリカ合衆国大統領