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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 米ソ関係基本原則(アメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦間の関係の基本原則)

[場所] モスクワ
[年月日] 1972年5月29日
[出典] わが外交の近況(外交青書)17号,564‐566頁.
[備考] 
[全文]

 アメリカ合衆国およびソヴィエト社会主義共和国連邦は、

 国連憲章の下で両国が負つている義務および両国の平和的関係を強化し、かつこれらの関係を可能な限りもつとも強固な基盤の上に打樹てるとの願望に導かれ、

 戦争の脅威を除去し、世界における緊張の緩和と全般的安全保障および国際的協力を促進する条件を作り出すためにあらゆる努力をする必要を認識し、米ソ関係の改善および経済、科学および文化のような分野におけるその関係の相互に利益のある発展が第三国の利益を如何なる意味でも害することなく、これらの目的に合致し、かつ、よりよい相互理解と実務的な協力に貢献するだろうことを信じて

 これらの目的が両国の国民の利益を反映するものであることに留意しつつ、

 次のとおり合意した。

第一:両国は核時代において、平和共存の基盤に立つて両国の相互関係を進める以外の何等の選択もないとの共通の決意より出発する。

 ソ連邦および米合衆国の社会体制およびイデオロギーの差異は主権、平等、内政不干渉および互恵の原則に基づく正常な両国関係の発展に対する障害とはならない。

第二:米合衆国およびソ連邦は両国関係の危険な悪化をもたらし得る状況の発展を阻止することを特に重視する。

 それ故に両国は軍事的対決を避け、かつ核戦争のぼつ発を阻止するために最大の努力を払うものとする。

 両国はその相互関係において常に自制し、かつ、両国間の差異を平和的手段により交渉し、解決する。

 主要な諸問題に関する討議および交渉は相互主義、相互調整および相互利益の精神において行なわれる。

 双方は直接又は間接に他方の犠牲において一方的利益を得んと努めることはこれらの目的に合致しないものであることを認める。

 米合衆国とソ連邦の平和的な関係を維持し、強化するための前提条件は平等の原則と力の使用又は力による脅迫の放棄に基づき、両国の安全保障上の利益を承認しあうことである。

第三:米合衆国とソ連邦は、国際連合安全保障理事会常任理事国である他の諸国と同様に、国際緊張を増大させるのに役立つような紛争や事態が生起しないように、その出来うるすべてのことをなす特別の責任を有する。従つて、両国は、すべての国が平和と安全のうちに生活し、かつ、その内部事項に対する外部からの干渉に従属させられないような状況を作り出すよう努力する。

第四:米国とソ連は、その相互関係の法的基盤を拡大し、かつ、両国が締結した二国間協定並びに両国が共に当事国である多国間条約および協定が忠実に履行されるように必要な努力を行なうものとする。

第五:米国とソ連は、相互に関心を有する諸問題について意見を交換する慣行を継続し、かつ、必要な場合には、両国指導者間の会合を含み、最高レヴェルにおけるこのような意見の交換を行なう用意があることを再確認する。

 両政府は、両国立法機関代表者間の生産的接触の増加を歓迎し、これを促進する。

第六:双方は、二国間および多数国間ベースでの軍備制限努力を継続する。両国は戦略的軍備の制限に特別な努力を払い続ける。可能な時は何時でも、両国は、これらの目的の達成を目指した具体的な合意を締結する。

 米国とソ連は、全般完全軍縮の達成と国連の目的および諸原則に従つた国際安全保障の効果的な制度の確立を両国の努力の究極の目標と考える。

第七:米国とソ連は、商業および経済上の関係が両国の二国間関係の強化にあたつて重要、かつ不可欠な要素であると認め、この故に、かかる関係の増大を積極的に促進する。両国は、両国の関係機関および企業間の協力と、長期的なものを含む適当な取決めおよび契約の締結を助長する。

 両国は、両国間の海運および航空連絡の改善に貢献する。

第八:双方は科学及び技術の分野における相互の接触及び協力を発展させることを時宜を得て有益であると考える。

 米国およびソ連は、適当な場合にはこの分野における具体的協力に関する適当な協定を締結する。

第九:双方は、相互の文化的関係を深め、相互の文化価値に十分に熟知しあうよう奨励するとの双方の意図を再確認する。双方は、文化交流および観光旅行のための条件の改善を促進する。

第十:米国およびソ連は、上記のすべての分野と相互の利益に関係ある他の分野における関係と協力が強固かつ長期的な基礎の上に築かれることを保証するように努める。これらの努力に永続的な性格を与えるために、双方は実行可能なすべての分野において合同委員会または他の合同の機構を設立する。

第十一:米国およびソ連は世界の問題における如何なる特権または優越に対する要求もしないものとし、また他の何者のかかる要求も認めない。双方はすべての国家の主権の平等を認める。米ソ関係の発展は第三国および第三国の利益を害するものではない。

第十二:この文書に述べられた基本的原則は米国およびソ連が他の諸国との関係において負つている如何なる義務にも影響を与えるものではない。

モスコー1972年5月29日

アメリカ合衆国大統領    ソ連共産党中央委員会書記長