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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 新国際経済秩序樹立に関する宣言

[場所] 
[年月日] 1974年5月1日
[出典] 外交青書19号下巻(資料編),107−110頁.
[備考] 第6回国連特別総会において採択,仮訳
[全文]

 総会は「新国際経済秩序樹立に関する宣言」を採択する。われわれ国連メンバーは,初めて「原材料と開発」の諸問題を検討するために国連特別総会を招集し,国際社会が直面している最も重要な経済問題を考察した。そして人類の経済発展と社会進歩を促進させるための国連憲章の精神,目的,および原則を考慮しつつ,新国際経済秩序の樹立のための作業を緊急に行うとのわれわれの共同の決定を厳粛に宣言する。この秩序とは,不平等を是正し,現存する不正義を除去していくためにあるいかなる経済社会機構とかかわりなく,すべての国家間の公正,主権の平等,相互依存,共通の関心および協力に基礎をおき,先進国と開発途上国間の拡大しつつある格差を除去し,現在および未来の世代のために平和でかつ正義にのつとつた経済社会発展を堅実に促進させることを確実ならしむるものである。

1. 最近数10年間におこつた最も偉大かつ重大な出来事は,非常に多くの国民および国家が外国の植民地支配から独立し,彼らが自由な国民の社会のメンバーになることが可能となつたことである。技術の進歩もまた,ここ30年間にあらゆる分野の経済活動において促進され,全国民の福祉の改善のために確固とした力を与えた。しかしながら外国の植民地支配,占領,人種差別,アパルトヘイトおよび新植民地主義の残滓は,いろいろな形で開発途上国とそれらの残滓のもとにあるあらゆる国民の完全な解放と発展とに対する最大の障害であることに変わりはない。技術進歩の利益は国際社会のあらゆるメンバー国に対し,公平には行きわたつていない。世界人口の70%を占めている開発途上国は世界の全体の収入の30%しか得ていない。現存する国際経済秩序のもとでは公平かつバランスのとれた国際社会の発展を実現することが不可能であることが証明された。先進国と開発途上国間の格差は,大部分の開発途上国がまだ独立国としては存在していなかつた時に形成され,不公平を固定化する機構の中にあつてさらに拡大していくであろう。

2. 現存の国際経済秩序は,国際的な政治経済関係の中におこりつつある諸発展との間に直接的な矛盾を生じている。1970年以降,世界経済は,開発途上国が一般的に外的な経済的衝撃に対して弱かつたため,特にそれら諸国に深刻な影響を与えた一連の重大な危機を経験した。世界の力関係における,これら逆行することのない変化は,国際社会に関するすべての決定の形成と適用の過程に,開発途上国の行動的で完全かつ平等な参加を必要としている。

3. これらの結果のすべては,国際社会のすべてのメンバー国の相互依存の現実を浮かび上がらせてきた。現在進行している事象は,先進国と開発途上国の諸利益がもはや独立しては存在しえなくなつていること,先進国の繁栄と開発途上国の成長,発展の間には密接な相互関連があること,および国際社会全体としての繁栄は,その構成員の繁栄に依存しているという諸事実にするどい焦点をあてた。発展のための国際協力は,すべての国の目的であり共通の義務である。すなわち現在および将来の世代の政治的,経済的,社会的福祉は,主権の平等と現存する不平等の除去の基礎の上にたつて,国際社会の全メンバー間の協力によるところがさらにいつそう大きい。

4. 新国際経済秩序は,次の諸原則を完全に尊重することを,その基礎とする。

 (a) 諸国家の主権の平等,全国民の自決,力による領土取得の不承認,領土の不可分および他国の内政不干渉。

 (b) 公平を基礎とする国際社会の全メンバー諸国の広範な協力。これにより世界に広がつている不平等は一掃され繁栄がすべての国民に保証される。

 (c) 全国家が共通の関心を有している世界的な経済問題を解決するための全国家間の平等の基礎の上にたつた完全かつ効果的な参加。この場合,すべての開発途上国の開発が促進されることが保証される必要性を考慮に入れねばならず,また他の開発途上国の利益を無視することなく,開発途上国中,特に遅れた諸国(MSAC),内陸諸国,島嶼諸国のみならず,経済危機や天災によつて最も重大な被害を被つた開発途上国に対する特別措置の採択に特別の注意を払うものとする。

 (d) いかなる国といえども,自国の発展のために最も妥当と考えられる経済社会システムを採用し,その結果いかなる種類の差別をも甘受しない権利を有する。

 (e) あらゆる国の天然資源と全経済活動に対する完全な恒久主権。その天然資源を保護するため,いずれの国も国有化および所有権を,その国民に移転する権利を含み,天然資源に対する効果的な管理および自国の状況にふさわしい手段によりその開発を行う権利を有する。この権利は国家の完全なる恒久主権にほかならない。いかなる国家もこの不可譲な権利の自由かつ完全な行使を妨げる経済的政治的,その他いかなる形の強制もうけることはない。

 (f) 外国政府による植民地支配,およびアパルトヘイトのもとにあるすべての国家,領土およびその国民は,それらの国家,領土および国民の天然資源およびその他の資源の開発,枯渇および破損の回復,さらに完全な補償を受ける権利を有する。

 (g) 多国籍企業が,受入れ国の完全な主権のもとに活動するため,受入れ国の国民経済の利益となる措置をとることによる同企業活動の規制および監視。

 (h) 開発途上国および植民地的な人種支配および外国の占領下にある地域の国民の解放の実現と天然資源および経済活動の効果的な管理を行う権利。

 (i) 開発途上国および外国の占領,人種差別,アパルトヘイトのもとにある国民および領域に対する援助の拡大,これら開発途上国や,そのような状況にある国民や領域は,今まで外国の主権行使のもとに従属し,あらゆる種類の便益を外国に与え,あらゆる形の新植民地主義に従うように強制され,経済的政治的,その他いろいろな措置に悩まされてきた。しかし,それらは今まで外国の管理下にあり,現在もその管理下にあるそれら自身の天然資源および経済活動に対する有効な管理を樹立するよう努力してきた。

 (j) 開発途上国の不満足な交易条件の持続的改善と世界経済の拡大をもたらすことを目的とする,同諸国によつて輸出されている原材料,一次産品,製品,半製品の価格と同諸国によつて輸入されている原材料,一次産品,製品,資本材,その他装置との間の公正かつ平等な関係。

 (k) 全国際社会による,いかなる政治的軍事的な条件からも自由な開発途上国に対する活発な援助の拡大。

 (l) 改革された国際通貨機構の主たる目的の一つは開発途上国の発展の促進と資金の同諸国に対する適切な流れであることの保証。

 (m) 合成代替品との競争に直面している天然資源の競争力の改善。

 (n) 可能な場合に限り,国際経済協力の全分野における開発途上国のための特恵的かつ非互恵的取扱い。

 (o) 開発途上国に対し資金の移転に対する有利な条件を与えることの保証。

 (p) 開発途上国の経済にとつてふさわしい形と手続きによつて,同諸国の利益となるような技術移転と土着の技術の創造の双方を促進するため,同諸国に近代的な科学および技術の成果に対するアクセスを与えること。

 (q) あらゆる国にとつての食糧品を含む天然資源の乱用に終止符をうつことの必要性。

 (r) 開発途上国にとつて,開発のためにその全資源を集中させることの必要性。

 (s) 主として特恵的なベースにもとづく個別的集合的活動をつうじての開発途上国間の相互的な経済上,貿易上,財政上および技術的協力の強化。

 (t) 生産者同盟が,国際協力の枠のなかでその目的を追求しつつ,なかでも世界経済の持続的な成長と,開発途上国の促進されつつある発展に役立つために果たす役割の促進。

5. 第2次開発のための10年の国際開発戦略の満場一致での採択は,正当かつ平等な基礎の上にたつ国際経済協力促進のための重要な一歩であつた。同戦略の枠の中において,国際社会によつて引きうけられた義務と約束の履行の促進,特に開発途上国の不可避な発展の必要性は,本宣言の目的の実現に重大な貢献をすることとなろう。

6. 普遍的な機関である国連は広く国際的経済協力の目的を取扱い,あらゆる諸国の利益を平等に取扱うことが可能になるべきである。国連は新国際経済秩序の樹立に,さらに大きな役割を果たさねばならない。諸国家の経済上の権利義務憲章は,この点で重大な貢献をするであろうし,同憲章の準備のために,本宣言がさらに刺激を与えることになろう。国連の全メンバー諸国はそれゆえ,本宣言の履行を保証するため最大限の努力をすることを要請される。本宣言は全人類がその尊厳に値する生活に到達するためのより良き条件を創造するための主たる保証の一つとなるものである。

7. 新しい国際経済秩序樹立のための本宣言は,全人類と全国家の間の経済関係のもつとも重大な基礎の一つとなるものである。