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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 地下核兵器実験の制限に関するアメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約および議定書

[場所] モスクワ
[年月日] 1974年7月3日(署名)
[出典] わが外交の近況(外交青書)19号(下巻),147‐151頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

(1)地下核兵器実験の制限に関するアメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦との間の条約

 アメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦(以下締約国という)は、できる限り早い期日に核軍備競争の停止を達成し、戦略兵器の削減、核軍縮及び厳重かつ効果的な国際的管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に向つて効果的な措置をとるとの意図を表明し、

 1963年の大気圏内、宇宙空間及び水中における核兵器実験を禁止する条約の締約国がその前文において表明した、核兵器のすべての実験的爆発の永久的停止の達成を求め、その目的のために交渉を継続する旨の決意を想起し、

 地下核兵器実験を更に制限するための諸方法を採用することがこれらの目的の達成に貢献し、又平和の強化の利益と国際緊張の一層の緩和に合致することに注目し、

 大気圏内、宇宙空間、及び水中における核兵器実験を禁止する条約と核兵器の不拡散に関する条約の目的と原則を遵守することを再確認し、

 以下のとおり協定した。

第1条

1.各締約国は、1976年3月31日以降、その管轄又は管理の下にあるいかなる場所においても、150キロトンをこえる威力を有する地下核兵器実験を禁止及び、防止すること、並びに実施しないことを約束する。

2.各締約国は、自国の地下核兵器実験の回数を最少限に制限する。

3.締約国は、すべての地下核兵器実験停止の問題の解決を達成するため交渉を継続する。

第2条

1.本条約の規定を遵守することの保障を確保するために、各締約国は、一般的に認められた国際法の諸原則の範囲内で、国内的技術検証手段を用いる。

2.各締約国は、他の締約国が第1項に従つて実施している当該他の締約国の国内的技術検証手段を侵害しないことを約束する。

3.本条約の規定の目的と実施を促進するために、締約国は、必要に応じて相互に協議し、照会し、かかる照会に応じて情報を提供する。

第3条

 本条約の規定は、締約国によつて平和目的のために実施される地下核爆発には拡大適用されない。平和目的のための地下核爆発は、出来る限り早い時期に締約国によつて交渉され且つ締結されるべき協定によつて規定される。

第4条

 本条約は、各締約国の憲法的手続に従つて批准されなければならない。本条約は、批准書の交換の日に発効する。

第5条

1.本条約は5年間有効である。

 第1条第3項に規定された目的を実施するための協定によつて早期に代替されない限り、本条約は、引き続いて5年の期間ずつ延長される。ただし、条約や有効期間満了に先立つ6カ月以前に、いづれかの締約国が他の締約国に対して条約の終了を通告するときは、この限りでない。

 この有効期間満了前に、締約国は、必要に応じて、本条約の本質に係る状況について考慮するため、及び本条約の条文に対して可能な修正を提起するために協議を行うことができる。

2.各締約国は、本条約の対象である事項に関連する異常な事態が自国の至高の利益を危うくしていると認めるときは、その主権の行使として、本条約から脱退する権利を有する。当該締約国は、他の締約国に対し本条約からの脱退に先立つ6カ月前にその決定につき通知するものとする。その通知には、これを通知する締約国が自国の至高の利益を危うくしていると認める異常な事態についても記載しなければならない。

3.本条約は、国連憲章第102条の規定に従つて登録する。

 1974年7月3日モスクワにおいて、いずれもひとしく正文である英語、及びロシア語による本書2通を作成した。

アメリカ合衆国のために   ソヴィエト社会主義共和国連邦のために

アメリカ合衆国大統領    ソ連共産党中央委員会書記長

リチャード・ニクソン    L.I.ブレジネフ

(2)議定書

 アメリカ合衆国とソヴィエト社会主義共和国連邦(以下締約国という)は、地下核兵器実験を制限することに合意して、以下のとおり協定した。

1.条約に基づく締約国の義務の遵守の検証を国内的技術手段によつて確保するために、締約国は、相互主義に基づいて、以下のデータを交換する。

a 各実験場の境界及びそのなかにおける地球物理学的に明確な実験区域の境界の緯度・経度

b 実験場の実験区域の地質に関する情報(地質構造の岩石特性及び岩石の基本的物理属性、即ち密度、地震波速度、水の飽和度、有孔性及び地下水面の深度)

c 実施された地下核兵器実験の緯度・経度

d 地下核兵器実験が実施されてきており、今後も実施されることになつている地球物理学的に明確な各実験区域についての検定を目的とする2回の核兵器実験の威力、日付、時刻、深度及び緯度・経度。これとの関連で、検定を目的とするかかる爆発の威力は、条約第1条に規定されている上限に可能な限り近く、その上限の10分の1以下のものであつてはならない。検定を目的とする2回の実験についてのデータが明らかでない実験区域の場合には、既に入手可能であれば、上に述べた如き1回の実験に関するデータを交換するものとし、今一つの実験に関するデータについては、上述の範囲の威力をもつた別個の実験が行われた後、可能な限り速やかにこれを交換するものとする。本議定書の規定は、締約国が検定のみの目的で実験を行うことを要請するものではない。

2.締約国は、相互主義に基づいて批准書交換の前に第1項a、b及びdにいうデータに習熟する機会を相互に提供することを念頭におきつつこれらのデータの交換が条約第4条に規定されている条約批准書の交換と同時に行われるべきことに合意する。

3.もし一方の締約国が条約の発効後に新たな実験場又は実験区域を設定するときは、第1項a及びbによつて要請されているデータは、当該実験場又は区域の使用に先立つて、これを他の締約国に通報するものとする。第1項dによつて要請されているデータについても、既に入手可能であるならば、当該実験場又は区域の使用に先立つてこれを通報するものとする。

 もしそれらのデータがまだ不明であるならばそれらが取得された後、出来る限り速やかにこれを通報するものとする。

4.締約国は、各締約国の実験場が自国の管轄又は管理の下にある地域に設定されること及び、すべての核兵器実験が第1項に従つて特定された実験区域内でのみ実施されることに合意する。

5.条約の目的のために、特定された実験場におけるすべての地下核爆発は、核兵器実験とみなされ、かつ核兵器実験に関する条約のすべての規定に従う。条約第3条の規定は、特定された実験場以外で実施されるすべての地下核爆発に適用され、かつ、かかる爆発についてのみ適用される。

この議定書は条約の不可分の一体であると見做される。

1974年7月3日にモスクワで作成した。

アメリカ合衆国のために   ソヴエィト社会主義共和国連邦のために

アメリカ合衆国大統領    ソ連共産党中央委員会書記長

リチャード・ニクソン    L.I.ブレジネフ