データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 東南アジア友好協力条約(成立時)

[場所] バリ
[年月日] 1976年2月24日(署名)
[出典] わが外交の近況(外交青書)20号(下巻),174‐176頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

前文

 締約国は、締約国国民を相互に結びつけてきた歴史的、地理的及び文化的結合の現実のきずなを認識し、

 公正及び法の支配に対する尊重を保持し、及び相互関係における地域的レジリアンスを強化することを通じて地域平和と安定を促進することを切望し、

 国連憲章、1955年4月25日のバンドンにおけるアジア・アフリカ会議で採択された10原則、1967年8月8日バンコックで調印された東南アジア諸国連合宣言、及び1971年11月27日クアラルンプールで署名された宣言の精神と原則に従い、平和、友好及び東南アジアに影響ある事項に関する相互協力を強化することを希望し、

 締約国間の不和や紛争の解決は、協力を破壊し又は減退させることがごとき否定的態度を避け、理性的、効果的かつ高度に融通性のある方法によつて規制さるべきことを確信し、

 世界平和、安定及び協調の促進には、東南アジア内外の全ての平和愛好国との協力が必要であることを信じ、

 次のとおり友好協力条約を締結することに厳粛に同意する。

第I章 目的及び原則

第1条 この条約は、締結国国民間の不断の平和、永遠の友好及び協力を促進することをもつて目的とし、締約国の強化、連帯及び緊密な相互関係に寄与する。

第2条 締約国相互関係は、次の基本的原則により行われる。

(a) 全ての国家の独立、主権、平等、領土保全及び国家的同一性の相互尊重

(b) 全ての国家が外部から干渉、転覆又は強制されずに存在する権利

(c) 相互内政不干渉

(d) 平和的手段による不和又は紛争の解決

(e) 力による威圧又は力の使用の放棄

(f) 締約国間の効果的協力

第II章 友好

第3条 この条約の目的を遂行するため、締約国は、相互を連結している伝統的、文化的、かつ歴史的な友好関係、良き隣人関係及び協力関係の発展強化に努め、及び善意をもつてこの条約上の義務を履行する。加盟国間の深い相互理解を促進するため、締約国は、締約国国民間の接触及び交流を勧奨しかつ助長する。

第III章 協力

第4条 締約国は経済、社会、文化、技術、科学及び行政の各分野並びに共通の理想と願望、地域の国際平和と安定及びその他の共通関心事項に関し、積極的協力を促進する。

第5条 第4条の実施にあたり、締約国は平等、無差別及び互恵の原則に基づき、多国間及び二国間で最大の努力を行う。

第6条 締約国は、東南アジア諸国の繁栄した平和な共同体の基礎を強化すべく、地域の経済発展の一層の促進化のため協力する。このため、締約国は、国民の相互利益のために農業及び産業の一層の活用、貿易の拡大及び経済的インフラストラクチャーの改善を促進する。これに関連し、締約国は地域外の諸国並びに国際機関及び地域機構との緊密かつ有益な協力の方途を探究する。

第7条 締約国は、地域の社会的公正の達成及び国民の生活水準の向上のため、経済協力を強化する。この目的のため、締約国は、経済発展及び相互援助に関する適当な地域的戦略を採用する。

第8条 締約国は、最も広範な領域での最も緊密な協力の達成に努め、かつ、社会、文化、技術、科学及び行政の分野において訓練及び研究の便宜の形で相互に援助することに努める。

第9条 締約国は、域内の平和、調和及び安定の推進のため協力を促進することに努める。このために、締約国は、加盟国の見解、行動及び政策を調整するため、国際的及び地域的問題に関して相互に定期的に接触し及び協議することを継続する。

第10条 各締約国は、他の締約国の政治的及び経済的安定、主権又は領土の保全に脅威を与えるような行動には、いかなる方法又は形態であつても参加しない。

第11条 締約国は、各加盟国の一体性を保持するため外部干渉及び内部転覆活動なしに、各国の理想及び願望に従い政治、経済、社会文化及び安全保障の分野での加盟国の国家レジリアンスの強化に努める。

第12条 締約国は、地域的繁栄及び安全保障の達成への努力にあたり、東南アジア諸国の強固かつ存立可能な共同体のための基礎となる自信、自助、相互尊重、協力及び連帯の原則に基づき、地域レジリアンスの促進のため全ての分野において協力することに努める。

第IV章 紛争の平和的解決

第13条 締約国は、紛争の発生を防止する決意及び誠意を保持する。締約国に直接影響する問題に関する紛争、特に地域の平和及び調和を害するような紛争が生じた場合には、締約国は、武力による脅威又は武力の行使を差控え、かつ、常に締約国間で友好的交渉を通じてかかる紛争を解決する。

第14条 域内の処置による紛争の解決のため、締約国は、地域の平和及び調和を害するような紛争又は状況の存在を認定することを目的とし、常設機関として、各締約国の閣僚レベルの代表によつて構成される理事会を設ける。

第15条 直接交渉により解決に至らない場合には、理事会は、紛争又は状況を認定し、かつ、紛争の当事国に対し、周旋、仲介、審査又は調停のような適当な解決方法を勧告する。ただし、理事会は、周旋を行い、又は紛争の当事国の合意に基づき自ら仲介、審査又は調停の委員会を構成することができる。必要と認められる場合には、理事会は、紛争又は状況の悪化を防止するために適当な措置を勧告する。

第16条 本章の前記の条項は、紛争の全当事国が当該紛争への適用につき合意しない場合には、適用しない。ただし、これは、紛争の当事国でない他の締約国が当該紛争の解決のためあらゆる可能な援助を与えることを排除しない。紛争当事国は、かかる援助供与を好意をもつて受入れなければならない。

第17条 この条約のいかなる規定も、国際連合憲章第33条(1)の平和的解決の方式によることを排除しない。紛争当事国である締約国は、国際連合憲章に規定されている他の手続に訴える前に、当該紛争を友好的交渉により解決するためイニシアチブをとることを勧奨される。

第V章 一般規定

第18条 この条約は、インドネシア共和国、マレイシア、フィリピン共和国、シンガポール共和国及びタイ王国により署名される。この条約は各署名国の憲法上の規定に基づいて批准される。

 この条約は、他の東南アジア諸国の加入のために開放される。

第19条 この条約は、この条約及び批准書又は加入書の寄託先として指定される署名国政府に第5番目の批准書の寄託が行われる日に発効する。

第20条 この条約は、等しく正本である各締約国の公用語で作成される。テキストの合意された共通の英語訳が作成される。共通テキストの解釈が異なるときは、交渉により解決される。