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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 香港問題に関する英中共同声明(中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府の香港問題に関する共同声明)

[場所] 
[年月日] 1984年12月19日
[出典] 日中関係基本資料集,892‐905頁.
[備考] 
[全文]

 中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府は満足の意をもって近年の両国政府と両国人民の友好関係を振り返るとともに、歴史的に残された香港問題を協議を通じて妥当に解決することが香港の繁栄と安定の維持に役立ち、新たな基礎に立つ両国関係のいっそうの強化、発展に役立つと見る点で見解の一致を見た。そのため、両国政府代表団は会談をへて、次のように声明することに同意した。

一、中華人民共和国政府は、香港地区(香港島、九竜、「新界」を含む。以下香港と称する)の祖国への復帰が全中国人民の共通の願いであり、中華人民共和国政府が一九九七年七月一日から香港に対し主権行使を回復することを決定したことを声明する。

二、連合王国政府は、連合王国政府が一九九七年七月一日に、香港を中華人民共和国に返還することを声明する。

三、中華人民共和国政府は、中華人民共和国が香港に対し次のような基本的な方針、政策をとることを声明する。

(1)、国家の統一と領土保全を擁護するため、また香港の歴史と現状を考慮して、中華人民共和国は、香港に対し主権行使を回復するにあたり、中華人民共和国憲法第三十一条の規定にもとづき、香港特別行政区を設けることを決定した。

(2)、香港特別行政区は中華人民共和国中央人民政府の直轄下に置かれる。外交と国防が中央人民政府の管理に属するほか、香港特別行政区は高度の自治権を享有する。

(3)、香港特別行政区は行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を享有する。現行の法律は基本的には変わらない。

(4)、香港特別行政区政府は現地人によって構成される。行政長官は現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。主要公務員は香港特別行政区行政長官が指名し、中央人民政府に報告し、中央人民政府が任命する。香港の政府諸部門にかねてより勤務していた中国籍と外国籍の公務員と警察要員は留用することができる。香港特別行政区の政府諸部門は、イギリス籍またはその他の外国籍にある者を招聘して顧問またはなんらかの公職につかせることができる。

(5)、香港の現行の社会・経済制度は変わらず、生活様式は変わらない。香港特別行政区は法律にもとづき、人身、言論、出版、集会、結社、旅行、移転、通信、罷業、職業選択、学術研究、宗教信仰の諸権利と自由を保障する。個人財産、企業所有権、合法的相続権および外部からの投資は、いずれも法律の保護を受ける。

(6)、香港特別行政区は、自由港と独立関税地区の地位を保持する。

(7)、香港特別行政区は国際金融センターの地位を保持し、ひきつづき外国為替、金、証券、先物取引に市場を開放する。資金の流入、流出は自由である。香港ドルはひきつづき流通し、自由に他の通貨と交換することができる。

(8)、香港特別行政区は財政の独立を保持する。中央人民政府は香港特別行政区から徴税しない。

(9)、香港特別行政区は連合王国その他の諸国と互恵の経済関係を樹立することができる。連合王国その他の諸国の香港における経済的利益は配慮される。

(10)、香港特別行政区は「中国香港」の名称で、独自に各国、各地区および関係国際機構と経済・文化関係を保持し発展させるとともに、関係協定を締結することができる。

 香港特別行政区政府は独自に、出入旅行証を発行することができる。

(11)、香港特別行政区の社会治安は、香港特別行政区政府が責任をもって維持する。

(12)、中華人民共和国の香港に対する前記の基本的な方針、政策および本共同声明の第一付属文書の前記基本方針、政策に対する具体的説明については、中華人民共和国全国人民代表大会が中華人民共和国香港特別行政区基本法において規定するとともに、五十年間は同規定を変えない。

四、中華人民共和国政府と連合王国政府は、本共同声明の発効の日から一九九七年六月三十日までの移行期においては、連合王国政府が香港の行政管理に責任を負い、香港の経済の繁栄と社会の安定を守り、保持すること、中華人民共和国政府がこれに協力することを声明する。

五、中華人民共和国政府と連合王国政府は、本共同声明の効果的実施をはかるとともに、一九九七年における政権の円滑な引き継ぎを保証するため、本共同声明の発効時に中英合同連絡小委員会を発足させること、同合同連絡小委員会は本共同声明の第二付属文書の定めるところにより職責を確定し履行することを声明する。

六、中華人民共和国政府と連合王国政府は、香港の土地契約およびその他の関連事項に関して、本共同声明の第三付属文書の定めるところにもとづいて処理することを声明する。

七、中華人民共和国政府と連合王国政府は、前記の諸声明と本共同声明の付属文書をすべて実施することに同意する。

八、本共同声明は批准を受けなければならず、批准書交換の日から発効する。批准書は一九八五年六月三十日以前に北京で交換されるものとする。本共同声明とその付属文書は同等の拘束力を持つ。

一九八四年十二月十九日、北京で調印、中国語と英語で二部作成され、ともに同等の効力を持つ。

中華人民共和国政府代表

(署名)

グレートブリテン・北アイルランド連合王国政府

(署名)

第一付属文書

中華人民共和国政府の香港に対する基本方針、政策についての具体的説明

 中華人民共和国政府は、中華人民共和国政府とグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府の香港問題に関する共同声明第三項に記された中華人民共和国の香港に対する基本的な方針、政策について、次のように具体的に説明する。

 中華人民共和国憲法第三十一条は「国家は、必要ある場合、特別行政区を設けることができる。特別行政区内で実施する制度は、具体的状況に応じて全国人民代表大会がこれを法律で定める」と規定している。この提案にもとづいて、中華人民共和国は一九九七年七月一日から香港に対して主権行使を回復するにあたり、中華人民共和国香港特別行政区を設ける。中華人民共和国全国人民代表大会は中華人民共和国憲法にもとづき中華人民共和国香港特別行政区基本法(以下「基本法」と略称)を制定、発布し、香港特別行政区においてはその成立後も社会主義の制度と政策を実施せず、香港の既存の資本主義制度と生活様式を保持し、五十年間変えないことを規定する。

 香港特別行政区は中華人民共和国中央人民政府の直轄下に置かれ、高度の自治権を享有する。外交と国防が中央人民政府の管理に属するほか、香港特別行政区は行政管理権、立法権、独立した司法権と終審権を享有する。中央人民政府は香港特別行政区に、本付属文書第十一節に定められた各渉外事務を自ら処理する権限を授ける。

 香港特別行政区の政府と立法機関は、現地人によって構成される。香港特別行政区行政長官は現地で選挙または協議を通じて選出され、中央人民政府が任命する。香港特別行政区政府の主要公務員(「司」クラスに相当する公務員)は、香港特別行政区行政長官が指名し、中央人民政府に報告して任命を要請する。香港特別行政区立法機関は選挙を通じて選出される。行政機関は法律を遵守し、立法機関に対し責任を負わなければならない。

 香港特別行政区の政府機関と裁判所は、中国語を使用するほか、英語を使用することもできる。

 香港特別行政区は中華人民共和国の国旗と国章をかかげるほか、区旗と区章を使用することもできる。

 香港特別行政区の成立後、香港の既存の法律(つまり普通法、衡平法、条例、付属立法、慣習法)は,「基本法」に抵触するか、もしくは香港特別行政区の立法機関が改正するものを除き保持する。

 香港特別行政区の立法権は、香港特別行政区の立法機関に属する。立法機関は「基本法」の規定にもとづき、また法的手続きにしたがって法律を制定することができる。その制定した法律は記録に留めるため、中華人民共和国全国人民代表大会常務委員会に報告する。立法機関の制定した法律で「基本法」と法的手続きに合致するものはすべて有効である。

 香港特別行政区で施行される法律は、「基本法」および前記の香港の既存の法律と、香港特別行政区の立法機関が制定した法律である。

 香港特別行政区の成立後、香港特別行政区の裁判所が終審権を享有することにより生じた変化を除き、それまで香港で実施されていた司法体制は保持する。

 香港特別行政区の裁判権は、香港特別行政区の裁判所に属する。裁判所は独立して裁判をおこない、いかなる干渉も受けない。司法要員が裁判の職責を履行する行為は、法律の追及を受けない。裁判所は香港特別行政区の法律にもとづいて案件を審理し、その他の普通法適用地区の司法判例を参考にすることができる。

 香港特別行政区の裁判所の裁判官は、現地の裁判官、法曹界およびその他の分野の知名人からなる独立委員会の推薦にもとづき、行政長官が任命する。裁判官は本人の司法的才能にもとづいて選抜、任用すべきであり、またその他の普通法適用地区から招聘、任用することもできる。裁判官は職務遂行の能力がない場合、または裁判官としてふさわしくない行動をとった場合にのみ、行政長官が終審裁判所首席裁判官の任命する三名以上の現地の裁判官からなる審議法廷の提案にもとづいて免職することができる。主要な裁判官(つまり最高クラスの裁判官)の任命と免職は、さらに行政長官が香港特別行政区立法機関の同意を求めなければならない。この場合は、記録に留めるため、全国人民代表大会常務委員会に報告しなければならない。裁判官を除くその他の司法要員の任免制度はひきつづき保持される。

 香港特別行政区の終審権は、香港特別行政区終審裁判所に属する。終審裁判所は必要な場合、その他の普通法適用地区の裁判官を招聘し、裁判に参加させることができる。

 香港特別行政区の検察機関は刑事検察活動を主管し、いかなる干渉も受けない。

 香港特別行政区政府は、特別行政区政府発足以前に香港で実施されていた方法を参照して、現地および外部の弁護士の香港特別行政区における活動と業務に関する規定を定めることができる。

 中央人民政府は、香港特別行政区政府が外国との司法上の相互援助関係について妥当な措置をとるのを援助し、またはその権限を授ける。

 香港特別行政区の成立後、それまで香港の政府諸部門(警察部門を含む)に勤務していた公務員と司法要員はいずれもその職に留まり、仕事をつづけることができる。その給与、手当て、厚生福利、勤務条件はもとの基準を下回ることはない。一九九七年七月一日以前の定年退職者を含む定年退職者または契約期限の満了による辞職者に対しては、その国籍と居住地をとわず、香港特別行政区政府はもとの基準を下回らない基準で、本人またはその家族にしかるべき年金、謝礼金、手当、厚生福利費を支給する。

 香港特別行政区政府は、もと香港公務員のうちの、または香港特別行政区の永久住民証所有のイギリス籍その他の外国籍の人を、各政府主要部門(「司」クラスに相当する部門で、警察部門を含む)の長と一部主要政府部門の副長を除く政府部門の各級公務員に任用することができる。香港特別行政区政府はまたイギリス籍その他の外国籍所有者を政府部門の顧問に招聘して任用することができ、必要ある場合は香港特別行政区以外から適格者を招聘して政府部門の専門職、技術職を担当させることができる。上記の人びとは個人資格でのみ招聘を受けることができ、他の公務員と同じく香港特別行政区政府に対し責任を負わなければならない。

 公務員の任命と昇進は、本人の資格、経験、才能にもとづいておこなわれるべきである。香港が特別行政区発足までといった公務員の招聘、雇用、考課、規律、養成、管理に関する制度(公務員の任用、給与、勤務条件のための専門機構を含む)は、外国籍公務員の特権待遇に関する規定を除き、保持する。

 香港特別行政区は、財源、予算・決算編成を含む財政事務を自ら管理する。香港特別行政区の予算・決算は、記録に留めるため中央人民政府に報告しなければならない。

 中央人民政府は香港特別行政区から徴税しない。香港特別行政区の財政収入は中央人民政府に上納することなく、全額自らの必要のために使用する。徴税と公共支出は立法機関の承認を必要とする。公共支出は立法機関に対し責任を負う。公共会計は監査を受ける制度は保持する。

 香港特別行政区は、特別行政区発足以前に香港でとられていた資本主義の経済制度と貿易制度を保持する。香港特別行政区政府は自ら経済・貿易政策を制定する。財産の取得、使用、処理、相続の権利を含む財産所有権、および法律にもとづく財産収用による補償(補償は該当財産の実際の価値に相当し、自由に他の通貨と交換することができ、正当な理由なく支払いを遅らせることはない)の権利は、ひきつづき法律の保護を受ける。

 香港特別行政区は自由港の地位を保持するとともに、貨物と資本の自由流動を含む自由貿易政策をひきつづき実行する。香港特別行政区は独自に各国、各地区との経済・貿易関係を保持し、発展させることができる。

 香港特別行政区は、単独の関税地区とする。香港特別行政区は、優遇貿易措置を含めて、ガット(関税と貿易に関する一般協定)、繊維製品の貿易に関する国際取決めなどの関連国際機構、国際貿易協定に参加することができる。香港特別行政区の取得した輸出割当額、関税優遇および合意に達したその他類似の取決めはすべて、香港特別行政区によって享有される。香港特別行政区はその時の原産地規則にしたがって、現地で生産される製品に原産地証明書を発効する権限がある。

 香港特別行政区は必要に応じて、外国に政府または半官の経済・貿易機構を設けることができる。これは記録に留めるため中央人民政府に報告する。

 香港特別行政区は国際金融センターの地位を保持する。特別行政区発足以前に香港で実施された預金受け入れ機構と金融市場管理監督制度を含む通貨金融制度は保持する。

 香港特別行政区政府は通貨金融政策を自ら制定することができ、金融企業の経営の自由および資金の香港特別行政区内の流動と香港特別行政区内外の流出入の自由を保障する。香港特別行政区は為替管理政策をとらない。外国為替・金・証券・先物市場はひきつづき開放する。

 香港ドルは現地の法定通貨として、ひきつづき流通し、自由に他の通貨と交換できる。香港ドルの発行権は香港特別行政区政府に属する。香港特別行政区政府は香港ドルの発行基盤が健全であること、発行措置が香港ドルの安定を保つ目的に合致することを確認した上で、指定の銀行に、法定の権限にもとづき香港通貨の発行または継続発行の権限を授けることができる。中華人民共和国香港特別行政区の地位にふさわしくない標識を持つ香港通貨はすべてちくじ交換し、流通を停止する。

 外貨基金は香港特別行政区政府が管理、支配し、主として香港ドルの為替レート調節に用いる。

 香港特別行政区は、船員についての管理体制を含めて、特別行政区発足以前に香港でとっていた海運経営管理体制を保持する。香港特別行政区政府は、海運面の具体的職能と責任を自ら定めることができる。香港の私営海運業と海運関連企業、私営コンテナー埠頭は、ひきつづき自由に経営することができる。

 香港特別行政区は中央人民政府から権限を授けられてひきつづき船舶登録をおこなうとともに、法律にもとづき「中国香港」の名称で関係証明書を発行することができる。

 外国の軍用船舶が香港特別行政区に入る場合は中央人民政府の特別許可を受けなければならないが、その他の船舶は香港特別行政区の法律にもとづきその港湾を出入することができる。

 香港特別行政区は国際および地域航空センターとしての香港の地位を保持する。香港で登録し香港を主要な営業地とする航空会社および民間航空関連企業は、ひきつづき経営することができる。香港特別行政区は、特別行政区発足以前に香港でとっていた民間航空管理制度をひきつづき沿用するとともに、中央人民政府の航空機国籍標識と登録標識の規定にもとづき、自らの航空機登録薄を設ける。香港特別行政区は、空港管理、香港特別行政区飛行情報区内での空中交通サービス提供、および国際民間航空機構の地域的航行手続きに規定されたその他の職責の履行を含む民間航空の日常業務と技術管理を自ら責任をもっておこなう。

 中央人民政府は香港特別行政区政府と協議した上、香港特別行政区に登録し、香港特別行政区を主要な営業地とする航空会社と中華人民共和国のその他の航空会社のために、香港特別行政区と中華人民共和国のその他の地区との間の往復航空便を提供する措置をとる。中華人民共和国のその他の地区とその他の国、地区の間を往復し、香港特別行政区を経由するすべての航空便、および香港特別行政区と他の国、地区の間を往復し、中華人民共和国の他の地区を経由するすべての航空便の民間航空運輸協定は、中央人民政府がこれを締結する。このため、中央人民政府は香港特別行政区の特殊な事情と経済的利益を考慮するとともに、香港特別行政区政府と協議する。香港特別行政区政府の代表は中央人民政府がこの種の航空便問題について外国政府と協議する際に、中華人民共和国政府代表団のメンバーに加わることができる。

 香港特別行政区政府は中央人民政府から具体的に権限を授けられて、特別行政区発足以前の民間航空運輸協定と取決めをひきつづき締結あるいは改正することができる。これらの協定と取決めは原則的にはすべてひきつづき締結しまたは改正することができる。もとの協定と取決めに定められた権利はできるかぎり保持する。また新しい民間航空運輸協定締結について交渉をおこない、香港特別行政区に登録し香港特別行政区を主要な営業地とする航空会社に航空線およびオーバーフライと技術的着陸の権利を提供することができる。外国その他の地区と、民間航空運輸協定を結んでいない状況の下で、臨時取決め締結について交渉することができる。中国内地を往復、経由せず、ただ香港特別行政区を往復、経由するだけの定期航空便についてはすべて、本節に述べられている民間航空運輸協定または臨時取決めによって定められる。

 中央人民政府は香港特別行政区政府に次の諸権限を与える。その他の当局と前記民間航空運輸協定と臨時取決めを実施するための諸措置について協議、調印する権限、香港特別行政区に登録し香港特別行政区を主要な営業地とする航空会社に許可証を発行する権限、前記民間航空運輸協定と臨時取決めにもとづき航空会社を指定する権限、中国内地を往復、経由する航空便を除く外国航空会社のその他の航空便に許可証を発行する権限。

 香港特別行政区は特別行政区発足以前に香港でとっていた教育制度を保持する。香港特別行政区政府は教育体制と管理、教育使用言語、経費割当、試験制度、学位制度、学歴と技術資格承認などの政策を含む文化、教育、科学技術面の政策を自ら制定する。各種大学と学校は、宗教と社会団体の運営するものを含めて、いずれもその自主性を保持し、ひきつづき香港特別行政区以外から教職員を招聘し、教材を選択、使用することができる。学生は大学、学校を選択し、香港特別行政区以外の地で就学する自由を享有する。

十一

 中央人民政府が外交事務を管理することを原則に、香港特別行政区政府の代表は、中華人民共和国政府代表団のメンバーとして、中央人民政府のすすめる、香港特別行政区と直接関係ある外交交渉に参加することができる。香港特別行政区は「中国香港」の名称で、経済、貿易、金融、海運、通信、観光、文化、スポーツなどの分野において、独自に世界各国、各地区および関連国際機構と関係を保持し、発展させ、関連協定を締結し履行することができる。香港特別行政区政府の代表は、国家を単位として参加する。香港特別行政区と関係のある、適当な分野における国際機構と国際会議に、中華人民共和国政府代表団のメンバーまたは中央人民政府と前記関連国際機構または国際会議の認める資格で参加し、「中国香港」の名称で意見を発表することができる。香港特別行政区は国家を参加単位としない国際機構と国際会議に「中国香港」の名称で参加することができる。

 中華人民共和国の締結した国際協定は、中央人民政府が香港特別行政区の状況と必要にもとづき、香港特別行政区政府の意見を求めてから、香港特別行政区に適用するかどうかを決定する。中華人民共和国のまだ参加していない、香港で適用されている国際協定は、ひきつづき適用することができる。中央人民政府は必要に応じて、香港特別行政区政府に、その他の関係国際協定を香港特別行政区に適用させるため、適当な措置をとる権限を授けるかまたは援助する。中央人民政府は、中華人民共和国がすでに参加し、香港も現在なんらかの形で参加している国際機構に対し、香港特別行政区に適当な形でこれらの機構における地位をひきつづき保持させるために必要な措置をとる。中華人民共和国のまだ参加していない、香港が現在なんらかの形で参加している国際機構に対し、中央人民政府は必要に応じて香港特別行政区を適当な形でひきつづきこれらの機構に参加させる。

 外国が香港特別行政区に領事機構またはその他の政府または半官機構を設ける場合、中央人民政府の許可を受けなければならない。中華人民共和国と正式の外交関係を樹立した国が香港に設けた領事機構その他の政府機構は保持することができる。まだ中華人民共和国と正式の外交関係を樹立していない国の領事機構その他の政府機構は、状況に応じて保持するか半官機構に改めることができる。まだ中華人民共和国に承認されていない国は、民間機構を設けることしかできない。

 連合王国は香港特別行政区に総領事館を設けることができる。

十二

 香港特別行政区の社会治安は、香港特別行政区政府が責任をもって維持する。中央人民政府が香港特別行政区に派遣する防衛担当の部隊は、香港特別行政区の内部問題に干与せず、部隊の駐在費用は中央人民政府が負担する。

十三

 香港特別行政区政府は法律にもとづき香港特別行政区の住民その他の人の権利と自由を保障する。香港特別行政区政府は、香港の既存の法律に定められている、人身、言論、出版、集会、結社、労働組合の組織と参加、通信、旅行、移転、罷業、デモ、職業選択、学術研究、信仰の自由、住宅不可侵、婚姻の自由、自由意思による出産の権利を含む権利と自由を保持する。

 何人も秘密裏の法律相談、裁判所への訴訟、法廷における代理としての弁護士の選択、司法救済の獲得の権利を持ち、行政部門の行為について裁判所に訴える権利を持つ。

 宗教組織と教徒は、他の地方の宗教組織、教徒と関係を保つことができ、宗教組織運営の学校、病院、福祉機構などはいずれもひきつづき存在することができる。香港特別行政区の宗教組織と中華人民共和国の他の地区の宗教組織の関係は相互不隷属、相互不干渉、相互尊重の原則を基礎とする。

 「市民的政治的権利に関する規約」と「経済的、社会的、および文化的権利に関する規約」によって香港に適用されている規定は、ひきつづき有効である。

十四

 香港特別行政区に居留権を所有し、かつ香港特別行政区の法律にもとづき香港特別行政区政府の発行する、この権利を明記した永久住民証を取得できるものは次の通りである。香港特別行政区発足以前と以後に現地で出生したかまたは通常連続七年以上居住した中国公民と香港以外で出生したその中国籍の子女、香港特別行政区発足以前と以後に現地に通常連続七年以上居住するとともに香港を永住地とするその他の人と香港特別行政区発足以前と以後に現地で出生した二十一歳未満のその子女、および香港特別行政区発足以前に香港にのみ居留権を所有していたその他の人。

 中央人民政府は、香港特別行政区政府が法律にもとづき、特別行政区永久住民証をもつ中国公民に中華人民共和国香港特別行政区パスポートを発行するとともに、香港特別行政区のその他の合法的居留者に中華人民共和国香港特別行政区のその他の旅行証明書を発行する権限を、香港特別行政区政府に与える。前記のパスポートと証明書は各国、各地区に対して有効であり、所持者が香港特別行政区に帰る権利があることを明記する。

 香港特別行政区の住民の現地出入域にあたっては、香港特別行政区政府または中華人民共和国のその他の主管部門、あるいはその他の国家主管部門の発行する旅行証明書を使用することができる。香港特別行政区永久住民証をもつ者は、その旅行証明書にその旨の事実を明記して、本人が香港特別行政区に居留権があることを証明することができる。

 中国のその他の地区の人が香港特別行政区に入る場合は、現行の方法で管理する。

 その他の国と地域の人の入国、滞在、出国に対し、香港特別行政区政府は出入国管理を実施することができる。

 有効な旅行証明書をもつ人は、法律で制止される場合を除き、香港特別行政区を自由に離れることができ、特別許可を求める必要はない。

 中央人民政府は、香港特別行政区による各国、各地区との相互ビザ免除協定の締結を援助し、またはそのための権限を特別行政区政府に与える。

第二付属文書

中英合同連絡小委員会について

一、中華人民共和国政府と連合王国政府は共同の目標の実現を促すため、また、一九九七年に政権の円滑な引き継ぎを保証するため、「共同声明」の効果的履行を期して、友好の精神にもとづく討議を続けること、および香港問題における両国政府の既存の協力関係を深めることに同意した。

二、両国政府は連絡、協議、情報交換を行なう必要上、合同連絡小委員会を設置することに同意した。

三、合同連絡小委員会の職責は次の通りである。

(1)、「共同声明」の実施について協議する。

(2)、一九九七年に政権を円滑に引き継ぐ問題に関する事柄を討議する。

(3)、双方の取り決めた事項について情報を交換するとともに、協議を行なう。

 合同連絡小委員会で意見の一致が得られない問題は、両国政府に引き渡し、話し合いによって解決をはかる。

四、合同連絡小委員会の発足から一九九七年七月一日にいたる期間の前半期に審議する事項は次の二点とする。

(1)、香港特別行政区に独立関税地区としての経済関係を維持させるため、とくに香港特別行政区が引き続きガット(関税と貿易に関する一般協定)、各種の繊維協定ならびにその他の国際的措置に参加するのを保証するために両国政府がとる必要のある行動。

(2)、香港と関連のある国際的な権利、義務が引き続き適用されるのを確保するために両国政府がとる必要のある行動。

五、両国政府は合同連絡小委員会の発足から一九九七年七月一日にいたる期間の後半期にさらに緊密に協力する必要のあること、そのためこの時期に協力を強化することに同意した。この第二段階に審議する事項は次の二点である。

(1)、一九九七年へ円滑に移行するためにとられる措置。

(2)、香港特別行政区が各国、各地区および関連国際機構との経済、文化関係を維持、発展させ、これらの事項について協定を結ぶのに協力するためにとる必要のある行動。

六、合同連絡小委員会は権力機関ではなく、連絡機関であって、香港あるいは香港特別行政区の行政管理に参与せず、これを監督する役割も果たさない。合同連絡小委員会の委員と事務要員は合同連絡小委員会の職責の範囲内にかぎって活動する。

七、双方は大使級の首席代表一名およびその他四名の委員をそれぞれ指名、派遣する。双方はそれぞれ二十名以内の事務要員を派遣することができる。

八、合同連絡小委員会は「共同声明」の発効と同時に発足するものとする。合同連絡小委員会は一九八八年七月一日から香港を主たる駐在地とする。合同連絡小委員会は二○○○年一月一日まで活動を継続する。

九、合同連絡小委員会は北京、ロンドン、香港で会議を開く。毎年少なくとも前記三地点でそれぞれ一回開くものとする。それぞれの開催地点は双方の話し合いによって決定する。

十、合同連絡小委員会の委員は前記三地点で相応の外交特権と免責権を享有する。別に取決めのある場合を除き、合同連絡小委員会の討議状況は秘密を守るものとする。

十一、合同連絡小委員会は、双方の話し合いにより、専門家の協力を必要とする具体的事項を処理するために専門家グループを設けることを決定できる。

十二、合同連絡小委員会と専門家グループの会議には、合同連絡小委員会委員以外の専門家も出席できる。双方とも、討議する問題と選定された地点に応じて、合同連絡小委員会あるいは専門家グループの各会議に出席するメンバーを決める。

十三、合同連絡小委員会の実務手続きは双方が本付属文書の規定にもとづいて討議のうえ決定する。

第三付属文書

土地契約について

 中華人民共和国政府と連合王国政府は、「共同声明」発効の日から、下記の規定にもとづいて香港の土地契約に関する事項およびその他の関連事項を処理することに同意した。

一、「共同声明」発効以前に許可された、あるいは決定された、期限が一九九七年六月三十日を超えるすべての土地契約および土地契約と関連するすべての権利、ならびに同声明の発効後に本付属文書第二項もしくは第三項にもとづいて許可された、期限が一九九七年六月三十日を超えるすべての土地契約および土地契約と関連するすべての権利は、香港特別行政区の法律にもとづいて引き続き承認、保護される。

二、短期契約および特殊用途の契約を除き、香港イギリス政府が許可した、期限が一九九七年六月三十日以前で延長権のない土地契約は、借地人が望むならば、二〇四七年六月三十日を限度として、追加借地料を納めることなく期限を延長してもよい。ただし、期限を延長した日から、同日の当該地の土地評価額の三%を、毎年納めるものとする。借地料はその後、土地評価額の変化に応じて調整する。旧契約にもとづく土地、村落内宅地、狭小宅地および類似の農村の土地については、当該地の一九八四年六月三十日当時の借地人、または同日以降許可された狭小宅地の借地人で、その父方が一八九八年当時に香港の既存村落の住民であった者は、当該地の借地人が当人または父方の合法的相続人であるかぎり、借地料を従来のままとする。一九九七年六月三十日以降に期限がきれ、延長権のない土地契約は、香港特別行政区の関連土地法規および政策にもとづいて処理する。

三、香港イギリス政府は、「共同声明」発効の日から一九九七年六月三十日まで、期間が二〇四七年六月三十日以前の新規土地契約を許可することができる。当該地の借地人は追加借地料および名義借地料を一九九七年六月三十日まで納めなければならない。同日以降は、追加借地料を納める必要はない。ただし、同日の当該地の土地評価額の三%を毎年、納めなければならない。その後は、土地評価額の変化に応じて調整する。

四、「共同声明」の発効の日から一九九七年六月三十日まで、本付属文書第三項にもとづいて許可される新規借地は毎年、五十ヘクタールを限度とする。これには香港住宅委員会が建築し、貸し出す公共住宅に要する土地は含まない。

五、一九九七年七月一日までは、香港イギリス政府の許可した土地契約に定められた借地使用条件の修正を引き続き許可することができる。差額納入する追加借地料は従来の条件の場合の土地の価値と条件修正後の土地の価値の差額とする。

六、香港イギリス政府が「共同声明」発効の日から一九九七年六月三十日までに土地取引によって得た追加借地料収入は、土地開発平均コストを差し引いた残額を均等に二分し、香港イギリス政府と将来の香港特別行政区政府の所有とする。香港イギリス政府の得る収入はすべて、上に述べた差し引き額も含め、「基盤施設準備基金」に繰り入れ、香港の土地開発と公共施設に用いるものとする。香港特別行政区政府の所有となる追加借地料収入は、香港登録の銀行に預金し、本付属文書第七項の(4)の規定にもとづいて香港の土地開発と公共施設に用いる以外に流用してはならない。

七、土地委員会は「共同声明」発効と同時に、即日、香港で発足する。土地委員会は中華人民共和国政府と連合王国政府がそれぞれ指名した同数の公務員および必要な補助実務要員によって構成される。双方の公務員はそれぞれの政府に対して責任を負う。土地委員会は一九九七年六月三十日に解散する。

 土地委員会の職権の範囲は次の通りである。

(1)、本付属文書の施行についての協議。

(2)、本付属文書第四項に規定された限度面積、香港住宅委員会が建築し貸し出す公共住宅に要する土地面積、本付属文書第六項の追加借地料収入の配分と使用の監査。

(3)、香港イギリス政府の提案にもとづく、本付属文書第四項に述べた限度面積の拡大の検討と決定。

(4),本付属文書第六項に述べた香港特別行政区政府の追加借地料収入の流用を求める提案の審査と中国側が決定を下すために供する意見の提出。

 土地委員会において意見の一致が得られない問題は、中華人民共和国政府と連合王国政府に決定をゆだねる。

八、土地委員会の設置に関する細則は、双方が別に協議して決定する。

中英間で取り交わされる覚書

覚書(イギリス側)

 本日調印されるグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府と中華人民共和国政府の香港問題に関する共同声明に関連して、連合王国政府は次の通り声明する。連合王国の関連法規について必要な修正が完了することを前提として、

一、連合王国の施行する法律にもとづき、一九九七年六月三十日に香港との関係から英国属領公民である者はすべて一九九七年七月一日以降は英国属領公民ではなくなるが、なんらかのしかるべき地位を留保する資格を持ち、連合王国政府の発行したパスポートを引き続き使用することができる。しかし、連合王国の居留権は与えられない。その地位を取得する者は、一九九七年七月一日以前に発行されたこの種の英国パスポートを所持するか、またはこの種のパスポートに記載された者に限られる。ただし、一九九七年一月一日もしくは同日以後、一九九七年七月一日以前に出生した有資格者は、一九九七年十二月三十一日を限度として、この種のパスポートを取得するか、もしくはこの種のパスポートに記載することができる。

二、一九九七年七月一日もしくは同日以降は、いかなる者も香港との関係から英国属領公民の地位を取得することはできない。一九九七年七月一日もしくは同日以降に出生した者はすべて、第一項に述べた、しかるべき地位を取得することができない。

三、香港特別行政区および他地域の連合王国領事館官吏は、第一項に述べた者の所持するパスポートの期限延長あるいは更新、および一九九七年七月一日以前に出生し、両親のパスポートに以前から記載されている者にパスポートを発行することができる。

四、第一項および第三項にもとづいて連合王国政府の発行したパスポートを所持する者またはそのパスポートに記載されている者は、請求すれば第三国における英国の領事事務および保護を受けることができる。

覚書(中国側)

 中華人民共和国政府は一九八四年十二月十九日付けのグレートブリテン・北アイルランド連合王国政府の覚書を受けとった。

 中華人民共和国国籍法により、香港の中国同胞は「英国属領公民パスポート」の所持のいかんを問わず、すべて中国の公民である。

 中華人民共和国政府の主管部門は、香港の歴史的背景と現状を考慮し、「英国属領公民」と称されてきた香港の中国公民が連合王国政府の発行した旅行証によって他の国、地域に旅行することを一九九七年七月一日から認める。

 前記の中国公民は香港特別行政区および中華人民共和国のその他の地域において、前記旅行証の所持を理由に英国の領事保護を受ける権利を享受することはできない。