データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日・EC共同宣言(日本国と欧州共同体及びその加盟国との関係に関するヘーグにおける共同宣言)

[場所] ヘーグ
[年月日] 1991年7月18日
[出典] 外交青書35号,463‐465頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.前文

日本国並びに欧州共同体及びその加盟国は、

‐双方が共に自由、民主主義、法の支配及び人権を信奉するものであることに留意し、

‐双方が共に市場原理、自由貿易の促進及び繁栄しかつ健全な世界経済の発展を信奉するものであることを確認し、

‐双方の間の関係が益々緊密になりつつあることを想起するとともに、世界的な相互依存が増大しつつあり、その結果として国際協力の強化の必要性が生じていることを認識し、

‐世界の安全保障、平和及び安定に対する双方の共通の関心を確認し、

‐世界平和の確保、国連憲章の原則と目的に従った公正かつ安定した国際秩序の構築及び国際社会が直面する世界的な課題への対処に向けて共同の貢献を行うために、双方の間の対話を深化させる重要性を認識し、

‐欧州共同体が経済及び金融、外交政策並びに安全保障の分野においてその主体性を確立していく過程が加速化されていることに留意し、

 将来の課題に対応するため、双方の間の対話を活発化し、協力及びパートナーシップを強化することを決定した。

2.対話及び協力の一般的原則

 日本国並びに欧州共同体及びその加盟国は、双方が共通の関心を有する政治、経済、科学、文化その他の主要な国際的問題に関して、相互に通報し、協議するよう、確固たる努力を行う。双方は、適切な場合にはいつでも、立場の調整に努める。双方は、双方の間及び国際機関において、協力及び情報交換を強化する。

 双方は、同様に、国際情勢及び地域的事項について、特に緊張緩和をもたらし、また、人権の尊重を確保するために共同の努力を行うとの観点から、協議する。

3.対話及び協力の目的

 双方は、可能な協力(適切な場合には共同の外交的行動をとることを含む。)の分野を共に探求することに着手する。双方は、双方の間の関係のあらゆる分野を全体としてとらえ、そのようなすべての分野において、公正かつ調和的な方法で、特に次の諸点について、協力の強化に努める。

‐国際的な又は地域的な緊張の交渉による解決及び国連その他の国際機関の強化を促進すること。

‐自由、民主主義、法の支配、人権及び市場経済に基づく社会制度を支持すること。

‐核兵器、化学兵器及び生物兵器の不拡散、ミサイル技術の不拡散並びに通常兵器の国際的移転等の国際的安全保障に係る問題を含む世界の平和及び安定に影響を及ぼし得る国際的問題に関する政策協議及び可能な場合における政策調整を強化すること。

‐世界経済及び貿易の健全な発展の実現を目的として、特に保護主義及び一方的措置への逃避を排し、また、貿易及び投資に関するGATT及びOECDの原則を実施することにより、開放的な多角的貿易制度を更に強化するための協力を追求すること。

‐相応の機会を基礎に、相互の市場への衡平なアクセス並びに貿易及び投資の拡大を阻害する障害(構造的なものであるかどうかを問わない。)の除去を実現するための決意を追求すること。

‐貿易、投資、産業協力、先端技術、エネルギー、雇用、社会問題及び競争規則等の分野における双方の間の多面的関係における種々の側面に関する対話及び協力を強化すること。

‐開発途上国、特に最貧国が人権尊重を真の意味における開発にとっての主要な要素として促進しつつ持続的な開発並びに政治面及び経済面での進歩を実現するために行う努力に対して、国際機関により定められた目的を十分に考慮しつつ支援を与えること。

‐環境、資源及びエネルギーの保存、テロリズム、国際犯罪並びに麻薬及び麻薬に関係する犯罪行為(特に犯罪による利益の洗浄)等の国境を越えた課題に対応するに当たって共同で努力すること。

‐全人類の将来の繁栄にとって不可欠な科学的知識の促進に貢献するとの観点から科学技術分野における協力を強化し、適切な場合に共同プロジェクトを促進すること。

‐知識を増大し双方の国民の間の理解を増進するために、学術、文化及び青少年交流の計画を拡充すること。

‐自国の経済を安定させ、世界経済への完全な編入を促進するための政治・経済改革に取り組む中央・東欧諸国に対して、他の諸国又は国際機関との協力を通じた支援を与えること。

‐アジア・太平洋地域諸国との関係において、同地域の平和、安定及び繁栄を促進するために協力すること。

4.対話及び協議の枠組み

 双方は、本宣言に実質を付与するため継続的対話に取り組むことを決意する。このために、双方は、既存の定期的協議メカニズムの十分な活用に加え、地球的規模の及び双方の間の諸問題に関する協議のメカニズム及び実質的協力を強化することを決定した。

‐特に、双方は、日本国又は欧州において、日本国総理大臣と欧州理事会議長及びEC委員会委員長との間の年次協議を開催することを決定した。

‐日本国政府とEC委員会との間の閣僚級の年次会合が引き続き開催される。

‐日本国の外務大臣と欧州共同体加盟国の外務大臣及びEC委員会の対外関係担当委員(トロイカ)との間の半年ごとの協議が引き続き開催される。

‐日本国の代表は、欧州政治協力の議長国から閣僚級の政治協力会合について報告を受ける。また日本国は、欧州共同体の代表に対して、日本国政府の外交政策について通報する。

 双方は、本宣言に実質を付与するため、本宣言の実施を定期的に検討すること及び日・EC関係の発展に新たなる活力を間断なく付与していくことを目的として、既存の及び前期の協議の場を活用する。

1991年7月18日 ヘーグにおいて。