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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宇宙空間における原子力電源(N.P.S.)の使用に関する原則(原子力電源利用原則)

[場所] 
[年月日] 1992年12月14日
[出典] JAXA(宇宙航空研究開発機構)
[備考] 採択 1992年12月14日(第47会期国際連合総会決議第47/68号)
[全文]

 総会は、

 宇宙空間平和利用委員会の第35会期の作業に関する報告書及び同委員会により承認され、同報告書に附属した宇宙空間における原子力電源の使用に関する原則の文書を考慮し、

 原子力電源が、その小型さ、寿命の長さその他の性質のために、宇宙空間における若干のミッションについて、特に適しており又は基本的でさえあるということを認識し、

 また、宇宙空間における原子力電源の使用は、原子力電源の特性を利用する応用に絞るべきであるということを認識し、

 更に、宇宙空間における原子力電源の使用は、公衆が事故により有害な放射線又は放射性物質に被爆する危険性を減ずることを特に強調して、危険性の確率分析を含む、完全な安全性評価に基づくべきものであることを認識し、

 この点に関連して、宇宙空間における原子力電源の安全な使用を確保するための目標及び指針を含む一連の原則の必要を認識し、

 この一連の原則が、この諸原則の採択時に利用されているシステム及び行われているミッションの電力源に一般的に匹敵する特性を有する、宇宙物体上で推進目的ではない電力源に充てられる、宇宙空間における原子力電源に適用されるということを確認して、

 この一連の原則が原子力電源の応用の出現及び放射線保護に関する国際的な勧告の進歩のために将来改正を必要とするということを認識し、

 以下に定める宇宙空間における原子力電源の使用に関する原則を採択する。

第1原則 国際法の適用可能性

 宇宙空間における原子力電源の使用を含む活動は、特に国際連合憲章並びに月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約を含む国際法に従い行われるものとする。

第2原則 用語の使用

1 これらの原則の適用上、「打上げ国」及び「打ち上げる国」とは、当該原則に関連する時点で原子力電源を搭載する宇宙物体に対する管轄権及び管理権を行使する国をいう。

2 第9原則の適用上、同原則に含まれる「打上げ国」の定義を適用する。

3 第3原則の適用上、「予測可能」及び「すべての可能な」とは、発生の全体的な確率が安全分析の目的上確かな可能性のみを含んでいるとみなされるような種類の出来事又は状況をいう。「縦深防御の一般的な概念」とは、宇宙空間における原子力電源に適用される場合には、システムの機能不全の

結果を防止し又は緩和するための、能動システムに代わる又はそれに付け加えられる設計の形状及びミッション活動の使用をいう。余分な安全システムは、各々の構成要素について、この目的を達成するためには必然的に必要とされない。宇宙利用及び様々なミッションの特別な要求を想定すると、システム又は形状のいかなる特別な組合せもこの目標を達成するために不可欠であると定めることはできない。第3原則の2(d)の適用上、「臨界にする」とは、システムの安全を確保するのに必須なゼロ動力試験のような活動を含まない。

第3原則 安全な使用のための指針及び基準

 宇宙空間における放射性物質の量及び関連する危険性を最小限にするために、宇宙空間における原子力電源の使用は、原子力電源以外によっては合理的に行うことができない宇宙ミッションに制限される。

 1 放射線保護及び原子力の安全性のための一般的目標

   (a)原子力電源を搭載する宇宙物体を打ち上げる国は、放射線の危険に対して、個人、住民及び生態系を保護するよう努力する。原子力電源を搭載する宇宙物体の設計及び使用は、高度の信頼性をもって、予測可能な活動中の又は不測の状況における危険が1(b)及び(c)に定める容認可能なレベル以下に維持されることを確保するものとする。

 この設計及び使用はまた、高度の信頼性をもって、放射性物質が宇宙空間の著しい汚染を生じさせないことを確保するものとする。

   (b)原子力電源を搭載する宇宙物体の、2(b)に定める十分に高度な軌道からの再突入を含む、通常の活動期間中、国際放射線保護委員会により勧告された公衆に対する適切な放射線保護の目標が遵守されるべきものとする。この通常の活動の期間中、著しい放射線被曝があってはならないものとする。

   (c)事故における被曝を制限するために、原子力電源システムの設計及び構造は、関連する一般的に容認された国際的な放射線保護の指針を考慮するものとする。

 潜在的に放射能による重大な結果を伴う事故の確率が低い場合を除いて、原子力電源システムの設計は、高度な信頼性をもって、地理的に限定された地域及び人々に対する放射線被曝をもっぱら年1mSvに制限する。数年間年5mSVの補足的な放射線量限度を使用することが認められる。ただし、寿命に対する平均年次有効放射線量等量はもっぱら年1mSVを越えないことを条件とする。

 上にいう放射能による重大な結果を伴う事故の確率は、システムの設計によりごく小さくとどめられる。この節にいう指針の将来的な変更は、実行可能な限り迅速に適用される。

   (d)安全にとり重要なシステムは、縦深防御の一般的な概念に従い設計され、建設され及び運用される。この概念に基づき、予測可能な安全性に関連する失敗又は機能不全は、できる限り自動的な措置又は手続により是正し又は阻止することができなければならない。

 安全にとり重要なシステムの信頼性は、特に、これらの構成要素の重複、物理的分離、機能上の分離及び適切な独自性により確保される。

 その他の措置もまた、安全性の水準を高めるために講じられる。

2 核動力炉

   (a)核動力炉は次の条件で運用することができる。

     (i)惑星間ミッション

     (ii)2(b)に定める十分に高度な軌道

     (iii)地球低軌道(ただし、そのミッションの運用部分が終了した後十分に高度な軌道に置かれることを条件とする。)

   (b)十分に高度な軌道とは、当該軌道上での寿命が核分裂生成物が十分に崩壊してほぼアクチニド活動になるのを可能にするのに十分長いものである。十分に高度な軌道とは既存の及び将来の宇宙空間のミッションへの危険性並びにその他の宇宙物体との衝突の危険性が最小限に維持されるようなものでなければならない。破壊された動力炉の部分についてもまた、十分に高度な軌道の高さを決定するにあたって、地球の大気圏に再突入する以前に所要の崩壊の時間に達している必要性が、考慮されなければならない。

   (c)核動力炉は、高度に生成されたウラン235のみを燃料として使用する。設計は、核分裂生成物並びに活性物質の放射性崩壊を考慮するものとする。

   (d)核動力炉は、その運用軌道又は星間飛行経路に到達する以前に臨界にしてはならない。

   (e)核動力炉の設計及び建設は、運用軌道に到達する以前に、ロケットの爆発、再突入、地上又は水面への衝突、沈水又は炉心への浸水を含む、すべての起こり得る事故の間、臨界になり得ないよう確保するものとする。

   (f)十分に高度な軌道(十分に高度な軌道へ移動させる活動を含む。)における寿命以下の寿命の軌道上での運用期間中核動力炉を搭載する衛星の失敗の可能性を著しく減ずるために、動力炉の効果的な及び管理された処分を確保するための高い信頼性のある運用システムがなければならない。

3 ラジオアイソトープ電池

   (a)ラジオアイソトープ電池は惑星間ミッション及び地球の重力場を離れるその他のミッションに使用することができる。当該電池はまた、そのミッションの運用部分の終了の後、それらが高度な軌道に置かれる場合には、地球軌道上においても使用することができる。いずれにしても、最終の処分は必要である。

   (b)ラジオアイソトープ電池は、適切な場合には、高度の楕円又は双曲線軌道を含む、予測可能な軌道条件の下で大気圏上層部への再突入の際の発熱及び空気抵抗に耐えるように設計され及び建設される。衝突の際に、衝突地域は回収活動により放射能が完全に除去され得るように、アイソトープの閉じ込めシステム及び物理的形状により、いかなる放射性物質も環境に拡散しないよう確保する

第4原則 安全性評価

1 打上げ時に第2原則1に定める打上げ国は、打上げ以前に、適切な場合には、協力取極により、原子力電源を設計し、建設し、製造した、又は宇宙物体を運用するであろう、又はその領域若しくは施設から当該物体が打ち上げられるであろう国と共に、完全かつ包括的な安全評価が行われることを確保する。この評価は、ミッションのすべての関連する面にも及び、かつ、打上げ手段、宇宙プラットフォーム、原子力電源、その装置及び地上と宇宙の間の管制及び通信手段を含む、すべての関係システムを扱うものとする。

2 この評価は第3原則に含まれる安全な使用についての指針及び基準を尊重するものとする。

3 この安全評価の結果は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及びその利用における国家活動を律する原則に関する条約第11条に基づき、実行可能な限度で、打上げのおおよそ予定された時間的枠組みの表示と共に、打上げに先立ち、公に提供されるものとし、かつ国際連合事務総長は、各打上げに先立って可能な限り迅速に国家がどのようにこの安全評価の結果を入手することができるかについて通知される。

第5原則再突入の通告

1 原子力電源を搭載する宇宙物体を打ち上げるいずれの国も、この宇宙物体が機能不全で地球への放射性物質の再突入の危険がある場合には、適時関係諸国に通知する。この通知は以下の形式に従うものとする。

   (a)システム要素

     (i)事故の場合に、追加の情報又は援助を得るために接触することができる機関の住所を含む―又は複数の打上げ国名

     (ii)国際的名称

     (iii)打上げが行われた日及び場所

     (iv)軌道寿命、飛行経路及び衝突地域の最良の予知に必要な情報(v)宇宙機の一般的機能

   (b)原子力電源の放射線の危険に関する情報

     (i)原子力電源の種類(ラジオアイソトープ方式/動力炉方式)

     (ii)燃料及び地上に達する可能性のある放射能汚染された及び/又は核分裂中の部分の予想される物理的形状、量及び一般的な放射線の性格。「燃料」とは、熱又は動力源として利用される核物質をいう。

 この情報はまた、国際連合事務総長に伝達されなければならない。

2 上記の形式に従った情報は、機能不全が明らかになり次第直ちに、打上げ国によって提供されなければならない。この情報は実行可能な限り頻繁に更新される必要があり、かつ、更新された情報は、国際社会が同事態について通知を受け、必要と考えられる国の対応活動について計画するのに十分な時間を得るように、地球の濃い大気層への再突入の予想時刻が近づくにつれて、より頻繁に配布されなければならない。

3 更新された情報はまた、上記と同じ頻度で国際連合事務総長に伝達される必要がある。

第6原則 協議

 第5原則に従って情報を提供する国は、合理的に実行可能な限り、その他の国により求められる一層の情報又は協議の要求に迅速に応じなければならない。

第7原則 国家への援助

1 原子力電源を搭載する宇宙物体及びその構成部分の地球大気圏への予想された再突入の通告により、宇宙監視及び追跡施設を有するすべての国は、国際協力の精神において、原子力電源を搭載する機能不全の宇宙物体に関して自国が有する利用可能な関連情報を、影響を被る国が事態を評価し、必要と考える予防措置を執ることができるように、可能な限り迅速に、国際連合事務総長及び関係国に連絡する。

2 原子力電源を搭載する宇宙物体及びその構成部分の地球大気圏の再突入後、

   (a)打上げ国は、原子力電源が地表に衡突する地域の位置を確認し、再突入する物質を探知し及び回収又は浄化活動を実施するための援助を含む、現下の及び起こり得る有害な効果を除去するために必要な援助を直ちに提供する。

   (b)打上げ国以外の、関連技術能力を有するすべての国及び当該技術能力を有する国際機関は、可能な限度で、影響を被る可能性のある国による要請に基づいて、必要な援助を提供する。

 (a)及び(b)に従って援助を提供するにあたって、開発途上国の特別な必要を考慮する。

第8原則 責任

 国家は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約第6条に従い、宇宙空間における原子力電源の使用を含む自国の活動について、それが政府機関によって行われるか非政府団体によって行われるかを問わず、国際的責任を有し、自国の活動が当該条約及びこれらの原則が含まれる勧告に従って行われることを確保する国際的責任を有する。原子力電源の使用を含む宇宙空間における活動が国際機関により行われる場合には、当該国際機関及び当該国際機関に参加する国は、前記の条約への適合についての責任を有する。

第9原則 賠償責任及び賠償額

1 国は、月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約の第7条及び宇宙物体により引き起こされる損害についての国際的責任に関する条約の諸規定に従い、宇宙物体を打ち上げ又は打ち上げさせる場合、及び、自国の領域又は施設から宇宙物体が打ち上げられる場合には、当該宇宙物体又はその構成部分により引き起こされる損害について国際的に賠償責任を負う。このことは、原子力電源を搭載する宇宙物体の場合に完全に適用される。二以上の国が共同でこの宇宙物体を打上げる場合には、これらの国は、上記の条約第5条に基づき、引き起こされた損害について連帯して賠償責任を負うものとする。

2 当該国が前記の条約に基づき損害について賠償責任を有する賠償額は、請求の当事者たる自然人又は法人、国家又は国際機関につき当該損害が生じなかったとしたならば存在したであろう状態に回復させる補償が行われるよう、国際法並びに正義と衡平の原則に従って決定される。

3 この原則の適用上、賠償額は、第三国から受けた援助の経費を含む、捜索、発見及び浄化活動について正当に立証される経費の償還を含むものとする。

第10原則 紛争解決

 これらの原則の適用から生ずるいずれの紛争も、国際連合憲章に従い、交渉その他の確立された紛争の平和的解決手続により解決される。

第11原則 再検討及び改正

 これらの原則は、その採択から2年以内に、宇宙空間平和利用委員会による改正に再び開放される。