データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日露関係に関する東京宣言

[場所] 東京
[年月日] 1993年10月13日
[出典] 外交青書37号(1),220‐222頁.
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、

 冷戦の終焉により、世界が、地球的レベル及び地域的レベルにおいて、更には諸国家間の二国間関係において、対立構造から脱却して国際協力の発展に対し新たな展望を開くような協力へと向かいつつあり、このことは、日露二国間関係の完全な正常化のために好ましい前提を作り出しているとの認識に基づき、

 日本国及びロシア連邦が、自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値を共有することを宣言し、

 市場経済及び自由貿易の促進が、両国経済の繁栄及び世界経済全体の健全な発展に寄与するものであることを想起し、

 ロシア連邦において推進されている改革の成功が、新しい世界の政治経済秩序の構築にとって決定的な重要性を有するものであることを確信し、

 国連憲章の目的及び原則の尊重の上に両国関係を築くことの重要性を確認し、

 日本国及びロシア連邦が、全体主義の遺産を克服し、新たな国際秩序の構築のために及び二国間関係の完全な正常化のために、国際協力の精神に基づいて協力していくべきことを決意して、

 以下を宣言する。

1 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、ロシア連邦で行われている民主的変革と経済改革が、同国の国民のみならず世界全体にとって極めて重要な意義を有しているとの認識を共有するとともに、同国が真の市場経済への移行に成功し、民主的な国際社会に円滑に統合されることが、世界の安定を強化し、新しい国際秩序の形成過程を不可逆的なものとする上で、不可欠の要因であるとの見解を有する。

 この関連で、日本国総理大臣は、

 「旧議会支持派がモスクワにおいて引き起こした武力衝突によって多数の犠牲者が出たことは遺憾であるが、事態が収束し、人権の尊重を含む法と秩序が回復されつつあることを歓迎する。

 エリツィン大統領が進める民主改革路線及び経済改革への支持が不変であることを改めて確認するとともに、幅広い国民的参加を得た自由かつ公正な新議会選挙によって、国民の意思が反映する真に民主的な社会が誕生し、改革が更に推進されることを強く期待する。」との先進国首脳からのメッセージをロシ ア連邦大統領に伝達した。

2 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、両国関係における困難な過去の遺産は克服されなければならないとの認識を共有し、択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問題について真剣な交渉を行った。双方は、この問題を歴史的・法的事実に立脚し、両国の間で合意の上作成された諸文書及び法と正義の原則を基礎として解決することにより平和条約を早期に締結するよう交渉を継続し、もって両国間の関係を完全に正常化すべきことに合意する。この関連で、日本国政府及びロシア連邦政府は、ロシア連邦がソ連邦と国家としての継続性を有する同一の国家であり、日本国とソ連邦との間のすべての条約その他の国際約束は日本国とロシア連邦との間で引き続き適用されることを確認する。

 日本国政府及びロシア連邦政府は、両国間の平和条約作業部会において建設的な対話が行われ、その成果の一つとして1992年9月に「日露間領土問題の歴史に関する共同作成資料集」が日露共同で発表されたことを想起する。

 日本国政府及びロシア連邦政府は、また、これまで両国間で合意の上策定された枠組みの下で行われてきている前記の諸島に現に居住している住民と日本国の住民との間の相互訪問を一層円滑化することをはじめ、相互理解の増進へ向けた一連の措置を採ることに同意する。

3 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、政治対話の拡大が日露関係の発展にとって有益かつ効果的な手段であることを確信し、最高首脳レベル、外務大臣レベル及び外務次官級レベルでの定期的な相互訪問による政治対話を継続し、深化させ、発展させることに同意する。

4 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、軍備管理・軍縮の分野でこれまで達成された成果を歓迎し、その誠実な実施の必要性を確認するとともに、このプロセスを一層促進し、不可逆的なものとすることが重要であるとの認識を共有する。

 双方は、核兵器の解体並びにそれに伴う核物質の貯蔵、管理及び処理の問題が全世界の安全保障にとって有する重要性についての認識を共有するとともに、これらの分野において協力する意図を確認する。双方は、また、放射性廃棄物の海洋投棄が、世界的な規模において、なかんずく、周辺諸国の環境に与える影響の見地から、深刻な懸念を惹起していることを確認するとともに、この問題を更に検討するため、日露合同作業部会を通じて緊密に協議していくことに同意する。

 双方は、1993年1月にパリにおいて化学兵器の禁止に関する条約が署名されたことを歓迎するとともに、この条約が可能な限り多数の国の参加を得て世界の平和と安定に寄与することへの期待を表明する。双方は、また、大量破壊兵器及びこれらの運搬手段並びに関連の資機材、技術及び知識の不拡散を実効的に確保し、通常兵器の移転に係る透明性を向上させるために相互に密接に協力していくことに同意する。

5 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、自由と開放性という共通の原則を基礎として、アジア・太平洋地域が21世紀の世界において目覚ましい発展を遂げる可能性があることについて共通の見解を有する。双方は、ロシア連邦が法と正義の原則を実践することにより、この地域において積極的かつ建設的なパートナーとなり、この地域の諸国間の政治・経済関係の発展に一層貢献していくことの意義を確認するとともに、この課題を実現するためには、この地域において重要な役割を果たしている日本国とロシア連邦の関係の完全な正常化が、この地域を平和で安定した地域とすること並びにロシア連邦を含むすべての国々及び地域に開放された自由貿易体制を基礎とする経済面での協力の発展の場とすることとの関連で、本質的に重要であるとの認識を共有する。

 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、アジア・太平洋地域における平和と安定の強化が必要であるとの共通の認識に立脚しつつ、安全保障面を含む広範な諸問題に関する両国政府当局間の対話の重要性を確認し、このような交流を更に活発化させることに同意する。

6 日本国総理大臣及びロシア連邦大統領は、国際連合が、変化する国際情勢に適合しつつ新たな世界平和の維持と創造のために中心的な役割を果たし得るよう、その機能、組織の在り方を含めた議論が国際連合において重ねられていることに注目するとともに、地球的規模の諸問題及び地域的諸問題の解決に向けた国際連合の努力に対する両国の貢献を活性化し、もって国際連合の権威を一層高めるよう、共通の努力を払うことに同意する。

1993年10月13日に東京で

日本国総理大臣   細川護煕

ロシア連邦大統領  B.N.エリツィン