データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宇宙基本計画 −日本の英知が宇宙を動かす−

[場所] 
[年月日] 2009年6月2日
[出典] 首相官邸
[備考] 平成21年6月2日、宇宙開発戦略本部決定
[全文]

目次

はじめに・・・1

第1章宇宙基本計画の位置付け・・・3

第2章宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針・・・4

 1 我が国らしい宇宙開発利用の推進・・・4

 2 我が国の宇宙開発利用に関する基本的な6つの方向性・・・5

(1)宇宙を活用した安心・安全で豊かな社会の実現・・・5

(2)宇宙を活用した安全保障の強化・・・5

(3)宇宙外交の推進・・・6

(4)先端的な研究開発の推進による活力ある未来の創造・・・8

(5)21世紀の戦略的産業の育成・・・9

(6)環境への配慮・・・11

第3章宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策・・・12

 1 9つのシステム・プログラム毎の開発利用計画・・・12

(1)利用システムの構築・・・12

(2)研究開発プログラムの推進・・・21

 2 各分野における具体的施策の推進・・・25

(1)安心・安全で豊かな社会の実現に資する宇宙開発利用の推進・・・25

(2)我が国の安全保障を強化する宇宙開発利用の推進・・・27

(3)外交に貢献する宇宙開発利用の推進と宇宙のための外交努力・・・27

(4)世界をリードする先端的な研究開発の推進・・・30

(5)戦略的産業としての宇宙産業育成の推進・・・32

(6)環境の保全・・・38

(7)次世代を担う人材への投資と国民参加の円滑化・・・39

第4章宇宙基本計画に基づく施策の推進・・・43

(1)宇宙基本計画に基づく施策の推進体制・・・43

(2)施策の実施のために必要な予算・人員の確保・・・43

(3)施策の実施状況のフォローアップと進捗の公表・・・43

(4)国際動向の調査・分析機能の強化・・・43

(5)宇宙活動に関する法制の整備・・・44

(6)宇宙以外の政策との連携・整合性の確保・・・44

別紙1 9つの主なニーズと衛星開発利用等の現状・10年程度の目標・・・45

別紙2 9つの主なニーズに対応した人工衛星等の開発利用計画(10年程度を視野)・・・50



はじめに

 今回取りまとめた宇宙基本計画は、平成20年5月に成立した宇宙基本法に基づくものであり、我が国の宇宙政策史上初の試みである。

 我が国の宇宙開発利用は、昭和30年の糸川東京大学教授によるペンシルロケットに始まるが、それから約半世紀が経過し、我が国は宇宙先進国の一員としての地位を占めるに至った。例えば、失敗を乗り越えてのH-ⅡAロケット打ち上げの連続成功、「かぐや」による月のハイビジョン映像や、国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」における我が国宇宙飛行士の実験等による活躍は、我が国の高い技術力を示すとともに、宇宙活動を国民にとって身近なものとすることに貢献している。

 しかしながら、国際的な状況を見ると、米国・欧州・ロシアなどの宇宙先進国に加え、近年中国・インドも宇宙開発利用に積極的に取り組んでいる中で、我が国の宇宙開発利用には以下のような危機感を持たざるを得ない。

 ① 国全体の宇宙に関する総合的戦略がなかったこと

 宇宙開発利用に、明確な「国家戦略」としての位置付けが与えられてこなかったことから、研究開発と利用や産業振興との連携が十分に図られてきておらず、宇宙開発利用の成果を政府全体として最大限に活かすことができなかった。

 ② 宇宙の利用実績が乏しいこと

 欧米のみならず、ロシア、中国など、多くの国は、人工衛星による安全保障関連情報収集などを宇宙政策の大きな目的としている。一方、我が国は、気象、通信・放送等、一部の民生面では宇宙の利用が浸透してきているものの、その他の利用分野や外交面では、今後実績をより一層重ねることが必要であることに加え、とりわけ、安全保障面での利用は、その利用が一般化した範囲に限られていた。

 ③ 産業の国際競争力が不足していること

 民間の調査によれば、日本の宇宙機器産業規模は、売上げで約40%、従業員規模で30%近く減少している。主要な技術、部品、システム等で宇宙産業が未だ国際競争力を十分に備えている状況にはなく、このような宇宙産業の国際競争力不足は、実績と経験が不足していることの反映であり、衛星放送のための放送衛星などの実用衛星は、殆どが外国から輸入され、日本の人工衛星やロケットが外国により調達される事例は、極めて例外的なものに留まっている。

 宇宙基本法は、こうした問題を解決することを目的とし、宇宙基本計画の作成を義務付けた。すなわち、宇宙開発利用を、「研究開発主導から高い技術力の上に立った利用ニーズ主導に転換」し、日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、専守防衛の範囲内で、いわゆる一般化理論を超えた「安全保障分野における活用」や、「宇宙外交」、「先端的な研究開発」を推進し、「産業競争力の強化」を図り、「環境へ配慮」することを目指して、総合的、計画的かつ強力に推進しようとするものである。



第1章 宇宙基本計画の位置付け

 我が国の宇宙開発利用にとって大きな転機となった議員立法による宇宙基本法は、平成20年5月21日に成立し、同年8月27日に施行された。同法により、内閣総理大臣を本部長とする宇宙開発戦略本部が内閣に設置され、我が国全体の宇宙開発利用を戦略的に推進するための司令塔が設けられた。

 また、同法では、6つの基本理念として、宇宙の平和的利用、国民生活の向上等、産業の振興、人類社会の発展、国際協力等、環境への配慮が定められるとともに、11の基本的施策として、国民生活の向上等に資する人工衛星の利用、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障、人工衛星等の自立的な打ち上げ等、民間事業者による宇宙開発利用の促進、信頼性の維持及び向上、先端的な宇宙開発利用等の推進、国際協力の推進等、環境の保全、人材の確保等、教育及び学習の振興等、宇宙開発利用に関する情報の管理が定められた。

 これらの宇宙基本法の精神を実現していくため、宇宙開発戦略本部は、同法第2

4条に基づき、我が国の国家戦略としての宇宙開発利用に関する基本的な計画(宇宙基本計画)を作成する。

 具体的には、宇宙基本法第24条に基づき、宇宙開発利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、

 ①宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針

 ②宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策

 ③宇宙基本計画に基づく施策の推進

 について定めるものとする。

 また、施策については、原則として、当該施策の具体的な目標及びその達成の期間を定めるものとする。

 なお、人工衛星・ロケットや必要なセンサなどの機器等の開発・調達に概ね3〜5年程度の時間が必要である等、宇宙開発利用の性格上、開発から利用まで長期間に亘る場合が多く、これを継続的・計画的に推進していくためには、予測可能性を高める観点からも、長期間を見通した計画とする必要がある。

 以上のような、宇宙開発利用に係る特性に鑑み、本計画については、今後10年程度を見通した5年間の政府の施策を総合的かつ一体的に推進する計画とする。なお、本計画は、策定から5年後を目途に全体の見直しを行うこととするが、フォローアップの結果等を踏まえ、必要に応じて随時見直しを行う。



第2章 宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針

1 我が国らしい宇宙開発利用の推進

 21世紀においては、これまで以上に情報の価値はますます増大し、社会経済を支える基盤として、その重要性はますます高まっている。様々な社会・経済活動や安心・安全に関する事象、気象や地球環境の変化、新しい知見の獲得など、多様かつ広範囲な分野に亘って、地球を離れた遥か彼方から広域かつ短時間に効率よく体系的に情報を収集することこそ、宇宙の開発利用でしか成し得ないものである。また、これを可能とするには、高い技術力の裏付けがあって初めて可能になるものである。

 宇宙開発利用を積極的に推進している主な国々を見ると、「世界的リーダーシップを目指すもの」、「ビジネスが主導的役割を果たすもの」、「安全保障を中心とするもの」、「国威の発揚を目指すもの」など各国の宇宙政策はそれぞれ特色がある。

 これまで我が国の宇宙開発利用は研究開発に力点が置かれていたが、今後は、国民生活の向上、安全保障の確保、国際貢献・協力等に寄与すべく、研究開発力を高めつつ、宇宙の利用を重視する政策に転換し、宇宙開発利用の可能性、潜在能力を様々な分野で最大限に発揮・活用することを目指す。

 すなわち、国民が安心して安全に豊かな生活を送ることができるよう、安全保障や災害対策に必要な情報収集、農業・漁業の生産性の向上、高度なパーソナルナビゲーションの実現などに役立てるとともに、宇宙を外交にも活用しアジア地域の災害監視や地球的規模の課題の解決を目指すほか、人類の知的資産の蓄積に貢献するなど、国民生活の向上と国際貢献に資する宇宙開発利用を目指すこととする。

 このため、国は民間の活力や競争力が自立的に最大限発揮できる環境の整備を図るとともに、長期的視点に立って国が推進すべき宇宙科学研究、基盤的技術や最先端技術の研究開発を推進し、公共目的の利用者として宇宙の利用を積極的に行うことにより、民間とともに宇宙開発利用の成果を国民へのサービスの質の向上や実効性のある世界への貢献に役立てることが重要である。

 宇宙政策の立案と執行に当たっては、宇宙開発戦略本部を司令塔として、政府全体が一体となって施策を推進することが不可欠である。今後は、我が国の国家戦略としての宇宙基本計画を、宇宙開発利用に関する中長期的な計画と位置付け、総合的かつ計画的な施策を推進する。

 以上を具現化するために、6つの方向性を柱として施策を推進する。

2 我が国の宇宙開発利用に関する基本的な6つの方向性

(1) 宇宙を活用した安心・安全で豊かな社会の実現

 我が国の宇宙開発利用は、気象衛星による日々の天気予報、通信・放送衛星によるデータ通信や衛星放送、陸域・海域観測衛星による地図作成、資源探査、農業・漁業への活用や災害監視、測位衛星(GPS)によるカーナビゲーション・測量など、既に日常生活に不可欠な存在として浸透してきている。

 しかし、気象や通信・放送など一部の分野を除き、その利用はまだ実証を行っている段階や、ようやく緒についた段階である。従って、より一層安心・安全で豊かな社会の実現に向けて宇宙の潜在能力を最大限に活用していくことが喫緊の課題である。

 このため、公共の安全の確保、国土保全・管理、食料供給の円滑化、資源・エネルギー供給の円滑化、地球規模の環境問題の解決(低炭素社会の実現)、豊かな国民生活の質の向上(健康長寿社会の実現や利便性向上など)、持続的な産業の発展と雇用の創出など、様々な社会的ニーズに応じる宇宙開発利用を目指す。

 施策の推進に当たっては、社会的ニーズに継続的かつ効率的に対応した利用が可能となるよう人工衛星の研究開発を進めるとともにシリーズ化を図ること、様々な人工衛星を組み合わせて、あるいは一つの人工衛星を多目的に利用するなど、より効果的・効率的な活用を図ること、人工衛星のみでなく地上のシステム等とも連携してより利用価値を高めること、専門家にとどまらず潜在的な一般の利用者も含めた利用者の拡大を図るとともに、衛星データ等利用の利便性向上を図ることなどが重要である。

(2) 宇宙を活用した安全保障の強化

 我が国の安全保障分野での宇宙利用は、昭和44年の「宇宙の平和利用決議」の趣旨を尊重し、自衛隊による宇宙利用を「その利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星(昭和60年2月6日政府見解抜粋)」、即ち、通信衛星、気象衛星、測位衛星、画像情報収集衛星のように、その利用が一般化した機能を有する衛星に限定してきた。

 しかしながら、諸外国は、このような一般化した機能に止まらず、商業衛星の能力を凌駕する画像情報収集衛星を保有しているとみられ、また、弾道ミサイルの発射を探知するセンサを搭載する早期警戒衛星等を保有している。

 専守防衛を旨とする我が国においては、各種事態の兆候を事前に察知するための情報収集機能や我が国周辺海空域の警戒監視機能を強化する上で、また、自衛隊の本来任務となった国際平和協力活動等における通信手段等を確保する上で、如何なる国家の領域にも属さず、地表の地形等の条件の制約を受けない宇宙空間の利用は極めて重要である。このため、宇宙基本法を踏まえ、国際約束の定めるところに従い、日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、国際情勢、とりわけ北東アジアの状況をも十分に踏まえつつ、情報収集機能の拡充・強化、警戒監視等、我が国の安全保障を強化するための新たな宇宙開発利用を推進する。

 なお、防衛力全体の中での宇宙開発利用の在り方については、平成21年末までに見直し等に向けた所要の検討が行われている防衛計画の大綱、並びに、中期防衛力整備計画において決定される予定である。宇宙基本計画の推進に当たっては、防衛計画の大綱等とも連携を図りつつ、整合性を確保するものとする。

(3) 宇宙外交の推進

 宇宙外交の推進とは、我が国の優れた科学技術、グローバルな情報の収集や国境を超えた活動である宇宙開発利用の特性を、我が国外交に活用すること(「外交のための宇宙」)と、我が国の宇宙開発利用を円滑に推進するために外交努力を行うこと(「宇宙のための外交」)の2つの取組である。

① 「外交のための宇宙」の推進

 我が国は、我が国の人工衛星を活用したアジア地域における災害監視、遠隔教育や遠隔医療の試み、気候変動等の地球環境問題、国連の世界遺産監視等、貢献の対象を拡大してきた。また、宇宙科学や国際宇宙ステーション計画においても、宇宙先進各国と協力関係を築き、着実に貢献してきた。

 アジア地域においては、昭和52年から30年以上にわたり気象衛星「ひまわり」を運用し、アジア太平洋地域の30数カ国、22億人以上の防災等に貢献してきた。平成5年に、我が国主導でアジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)を設立し、平成18年に、アジア太平洋地域における災害発生時に、被災地域の画像を配信するセンチネルアジアを事業化した。センチネルアジアや、これと同様に災害時に衛星画像を被災国に提供する国際的な枠組みである国際災害チャータを通じて、平成21年2月のオーストラリア森林火災や平成20年5月の中国四川大地震を始めとして、過去3年間余の間にインドネシア、ベトナム、タイ等に我が国の陸域観測技術衛星「だいち」による画像を100回程度提供している。

 気候変動等の地球環境問題に関しては、我が国は、地球観測に関する政府間会合(GEO)設立に主導的役割を果たし、今後、全球地球観測システム(GEOSS)構築に向け、国際協力の下、温室効果ガス観測、気候・水循環変動観測を実施するとともに、全球3次元地形データ等の提供を行うこととしている。

 国連の世界遺産監視に関しては、宇宙航空研究開発機構(JAXA)がユネスコの「世界遺産条約支援のための宇宙技術の利用に関する公開イニシアチブ」に衛星画像提供の協力を行っている。

 宇宙科学においては、米国や欧州等と、人類的事業である宇宙天文学や太陽系探査を共同で実施する関係が築かれており、また、国際宇宙ステーションにおいては、日本の実験棟「きぼう」における活動のみならず、宇宙ステーション補給機を用いた物資輸送等により国際宇宙ステーション全体の活動を支える重要な役割を果たすこととしている。

 このような我が国が積み重ねてきた災害監視や宇宙科学等の分野における経験と国際社会への貢献は、我が国の国際社会における影響力と地位を向上させる外交資産であり、ソフトパワーの源泉である。国際社会における発言力向上のためには、このような我が国の力を外交ツールとして活用することが重要である。我が国は、自然災害や環境汚染、気候変動といった国境を越える様々な脅威から人々を守り、またそれらの脅威に対処する能力を強化することを通じて尊厳をもって平和に生きることのできる世界を作り上げることを目指す「人間の安全保障」の推進を外交の柱の一つとして位置づけ、その実現に取り組んでいる。宇宙の開発利用を、「人間の安全保障」を実現するためのツールとして、強化・活用する。

② 「宇宙のための外交」の推進

 我が国の宇宙開発利用を促進するためには、国内における宇宙の開発利用だけでは十分とは言えず、宇宙産業の対外活動の支援に加え、宇宙先進国との協力関係の構築や外交努力を通じた諸外国の宇宙開発利用ニーズの掘り起こしなどが必要である。

 我が国の宇宙産業支援については、諸外国の民間企業が、母国の強力な支援を得つつ、国外における受注獲得を果たしていることに留意する必要がある。我が国としても、政府レベルの二国間関係や政府開発援助(ODA)を始めとする公的資金等の支援を組み合わせた外交努力により、諸外国における宇宙開発利用ニーズを掘り起こすことが重要である。

 また、宇宙開発利用には、衛星等の開発から打ち上げまでに多額の費用を要することに鑑みれば、全てを我が国独力で行うことが望ましいとは考えられず、宇宙先進国との役割分担を含む協力関係を築くことにより、効果的な宇宙開発利用の実現が可能となるよう、これまで以上に宇宙先進国との関係を深めることが重要である。

 更に、宇宙におけるルール作りについては、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)や軍縮会議(CD)等の国際的な調整の場で努力が続けられているが、宇宙ごみ(いわゆるスペースデブリ、以下「デブリ」)対策等新たな課題、月の天然資源の帰属、宇宙交通管理といった将来的な課題もあり、宇宙開発利用を行う上で重要なものであることから、我が国として、現行の宇宙4条約に加えて適切なルールの構築に向けて、積極的に参加する必要がある。

(注)宇宙4条約とは、「宇宙条約」、「宇宙救助返還協定」、「宇宙損害責任条約」、「宇宙物体登録条約」を指す。

(4) 先端的な研究開発の推進による活力ある未来の創造

 人類に残されたフロンティアである宇宙空間は、人類の知的資産の蓄積、活動領域の拡大に加え、宇宙空間のエネルギーの新たな利用など、無限の可能性を秘めている。過酷な宇宙空間に挑戦し、可能性を現実のものとすることは、先端的な科学技術の研究開発なしには、為し得ないものである。

 このような先端的な研究開発を進めることは、新しい技術のブレークスルーをもたらすとともに、その成果は地上の生活を豊かにし、活力ある未来を創造する上でも大きな可能性を秘めている。また、このような取組は、国民、特に次世代を担う子供達に夢や希望を与えるものである。

 なお、先端的な研究開発は、全人類の取組として捉え、我が国が主体的に計画し、国際協力を主導していくことが重要である。

 宇宙天文学、太陽系探査等の研究を行う宇宙科学については、太陽系や宇宙そのもの、及びそこに誕生した生命の成り立ちの謎を解き明かすことを目指した理学研究とそれを可能とする探査機などの先進的な工学研究とが一体となって、常に世界の最先端の成果を挙げてきている。

 宇宙天文学では、近年X線天文衛星「すざく」によるブラックホールのまわりの時空のゆがみの高精度な観測や赤外線天文衛星「あかり」による赤外線で輝く全天のカタログ作成などの成果を挙げている。また、太陽系探査では、近年太陽観測衛星「ひので」による太陽観測、小惑星探査機「はやぶさ」による小惑星探査や月周回衛星「かぐや」による月探査などの目覚しい活躍が見られる。

 また有人宇宙活動については、国際宇宙ステーション計画の一環として、平成21年に完成し、これから本格的利用を実施する「きぼう」などの高い有人対応技術や日本人宇宙飛行士の活躍など大きな成果を上げるとともに、宇宙環境利用において、高齢者医療等への宇宙医学研究成果等の応用により、骨粗しょう症、尿路結石などの対策研究や宇宙での高品質タンパク質結晶化による創薬への応用など、国民生活に役立つ成果が出つつある状況にある。さらには現在、個々に観測されている、宇宙や地球に関する情報を地上で総合的に整理して、宇宙飛行士が環境、天候、災害、農業、漁業等に関する情報をリアルタイムで伝える「地球圏観察・診断ステーション」として、「きぼう」を世界に役立つ機能としても活用することが期待される。

 科学技術創造立国を目指す我が国としては、これまでの成果や培った技術力の上に立って、宇宙先進国として、宇宙の真理の探究や人類の活動領域を拡大するための宇宙科学や有人宇宙活動に積極的に取り組むことが重要である。

 また、人類が直面している世界的な環境問題やエネルギー問題などの解決の可能性を秘めた宇宙太陽光発電については、米国等との情報交換を進めながら、宇宙太陽光発電の実現に必要な研究を実施してきている。必要な個々の技術の原理確認が進められており、今後、安全性や経済性の確保も含めた実現に向けて、段階的な実証を行っていくことが重要である。

(5) 21世紀の戦略的産業の育成

 宇宙開発利用を推進していく上で、宇宙産業は我が国の宇宙活動を支える重要な基盤と位置付けられる。

 宇宙産業は、宇宙機器産業のみならず、通信・放送サービス、衛星画像を使った地図利用サービス、ナビゲーションなどの測位サービスといった宇宙を利用したサービス産業にも拡がりを持つ。また、「きぼう」での微小重力等を利用した薬の開発や安全性の高い小型医療機器の開発など、製薬業界、医療・バイオ産業などによる新たな利用とともに、従来宇宙活動との関係が薄かった衣食住関連などの産業へも裾野が拡大しつつある。このように、多くの利用分野への広がりを持ち、利用産業の付加価値を高めること、宇宙産業以外の産業における素材、技術、サービス等との融合等により新たなイノベーションを創出することなど、幅広い産業への波及効果が期待されるものである。

 しかしながら、現状では、我が国の宇宙産業の国際競争力は十分ではなく、これまでは我が国の政府や民間企業が調達する実用衛星は米国製がほとんどである。一方ロケットでも、これまで我が国の民間企業が国内外の商業衛星の打ち上げサービスを受注した実績はなかった。こうした中、平成20年から21年にかけて民間企業による商業衛星製造の受注や、H-ⅡAロケットによる韓国政府衛星の打ち上げ受注がなされるなど、商業展開はようやく緒についた段階である。

 人工衛星については、欧米では政府関係の需要を元に軌道上での運用実績を積み上げ、その成果により顧客の信頼感を得ており、人工衛星の国際市場では欧米企業によるシェアが依然高い。我が国は欧米と比較して需要が少なく、研究開発が中心であったことなどから、いまだ軌道上での運用実績が十分でなく、実証を積み重ねている段階であり、シェアを獲得できていない。

 また、ロシア・中国・インドなどの低価格ロケットが商業展開されてきている。

 さらに、宇宙関連の部品・コンポーネントについては少量生産、かつ特殊なものであるため、企業としての採算性確保が困難であり、国内企業の撤退が相次いでいる一方、海外部品の品質低下による不具合や突然の製造中止により調達が困難となる事例が増えている。我が国では、技術的にはトップレベルの技術蓄積を進めているが、軌道上運用実績の少なさなどもあり、シェアを確保しているものはまだ限定的である。特に観測センサについては、光学センサのように商業的に展開されつつある分野においては、いまだ競争力が不十分である。

加えて、人工衛星やロケット等の研究開発・製造に必要な試験設備等についても、老朽化への対策や、研究開発・製造スケジュールへの影響を与えないように対応するための設備の整備・利活用などの課題がある。

 こうした中で、民間の調査によれば、日本の宇宙機器産業規模は、過去約10年間(平成10年から18年)で売上げが約40%、従業員規模で30%近く減少している。

 以上のように、我が国の宇宙機器産業は依然厳しい状況にあり、更なる国際競争力の強化に向けた取組が喫緊の課題である。

 宇宙利用産業においては、海外では、官民が資金を拠出し、人工衛星やロケット等を開発・運用するなどの官民連携事業の方式(PPP)や政府によるプロダクト購入保証などの政策が取られることにより、宇宙利用サービス産業の拡大促進につながっているが、我が国においては、通信・放送分野では自ら人工衛星を打ち上げ、サービスを展開しているものの、衛星画像利用分野等では海外衛星のデータ利用によるサービスが中心である。

 これらの状況を踏まえ、宇宙産業を電子・電機産業、自動車産業等に次ぐ21世紀の戦略的産業として育成し、国際競争力を強化していくことが重要である。

 施策の推進に当たっては、技術力の強化、民間事業者の効率的な開発・生産の促進、国際市場の開拓といった観点に着目するとともに、自立的な宇宙活動を支える宇宙輸送手段の維持・発展を進めることなどが重要である。

(6) 環境への配慮

 宇宙の開発利用は、国民生活への利便の提供のみならず、地球の抱えるエネルギー問題や地球温暖化等の環境問題の解決への手がかりを秘めている。他方、宇宙開発利用自身においても、地球環境への配慮が必要であり、同時に、宇宙環境にも配慮しなければならない。

 地球環境面では、我が国の宇宙開発利用は、気候変動等の地球環境問題へ大きく貢献していることを一つの柱としているので、我が国の宇宙開発利用の推進に当たっては、その精神を踏まえ、地球の環境を悪化させることのないよう、十分配慮しなければならない。

 宇宙環境面では、宇宙空間に放出されるロケットの上段や運用を終了した人工衛星、爆発や衝突により発生した破片などの人工物がデブリとして軌道上に存在し、これらは衛星利用や国際宇宙ステーション等における有人宇宙活動等の宇宙開発利用に影響を及ぼす状況となっている。

 平成19年1月、中国が自国の人工衛星を弾道ミサイルにより破壊する実験を行ったことに続き、平成21年2月には、米国とロシアの人工衛星が周回軌道上で衝突したことにより多数のデブリが発生した。今後、デブリの数はデブリ同士の衝突連鎖によっても更に増大していくと予想されている。

 今後、宇宙開発利用を拡大していく我が国としては、我が国のロケット打ち上げや人工衛星に起因するデブリ発生の低減や、デブリの監視等を強化するなど、国際社会と連携して、宇宙の環境の保全に率先して貢献する必要がある。



第3章 宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策

1 9つのシステム・プログラム毎の開発利用計画

 宇宙開発利用の施策の推進に当たっては、第2章の6つの方向性を踏まえて、宇宙の開発利用に大きな期待が寄せられている社会的ニーズを明確にし、それらのニーズを満たすために求められる対応を目標として設定した上で、この目標達成を目指し、資源配分や費用対効果を踏まえつつ、官民が連携しながら必要な施策を推進することが適当である。

 以上の考え方に基づき、宇宙開発利用で実現を目指す社会的ニーズと各ニーズに対応した今後10年程度の具体的目標を本章及び別紙1のとおり整理した。

 これらに対応し、陸域・海域観測衛星、データ中継衛星、安全保障を目的とした衛星、地球環境観測衛星、気象衛星、通信・測位衛星、科学衛星等の各種衛星や国際宇宙ステーション等を効率的、効果的に組み合わせ、又は一つの人工衛星を多目的に活用するなどにより、以下の9つのシステム・プログラムに集約しつつ、平成21年度からの10年程度を見通した5年間の人工衛星等の開発利用計画を別紙2のとおり定めた。

 なお、これらシステム・プログラムの実行に当たっては、研究開発や利用にかかわる産学官の関係者からなる宇宙開発利用推進連絡会議(仮称、以下「連絡会議」)における関係者の意見を踏まえ、システム・プログラムを具体化し推進する。推進に当たっては、適時・適切に評価を行い、その結果を反映する。また、これらのシステム・プログラムを支える宇宙輸送システムの構築を図るとともに、共通的にかかわる宇宙外交や宇宙産業の育成などを推進する。

(1) 利用システムの構築

A アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応する衛星システムとして、アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 公共の安全の確保

・「アジア地域における災害時の情報把握」というニーズに対して、現在災害発生時に画像等の情報を活用しているが、「だいち」では画像を提供するまでに1日程度の時間を要するなど、初動対応には不十分であるとともに、人家被害や道路被害等の詳細状況の把握には画像の解像度が不十分である。また、情報収集衛星は秘密保全上画像の提供先が限定されていることもあり、ニーズの全てを満たすには制約がある状況である。このため、今後、アジア地域における災害においては、被災国等と連携し、航空機等による撮影と相まって災害発生後基本的には3時間以内で画像を撮影し、被災国に提供するとともに、我が国による救援活動に活用できるよう、また、我が国における災害においては、同様に被災地域の画像を撮影し、最新のアーカイブ画像とともに、人家被害や道路被害状況等の詳細情報を防災機関に提供する、そして、その後数日に亘って、詳細被害状況、二次災害危険状況、復旧・復興状況の把握のために、画像情報や地殻変動の情報等を提供し、被災地域を広域に把握するとともに、洪水・土砂災害等における人家被害や道路被害の詳細状況の把握も可能とするよう、人工衛星等の整備・活用(光学及びレーダ衛星で4〜8機)や分析方法の高度化等を行うことを目標とする。

 なお、我が国における災害に際しては、上記衛星に加えて、情報収集衛星との連携による撮影を実現する。過去のアーカイブデータとともに、より広い範囲の画像を提供することが可能なアジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システムと、より高解像度の画像データをもとにした分析情報を提供することが可能な情報収集衛星を相互補完的に活用する。

 ・「地殻変動の予測・監視」というニーズに対して、世界有数の地殻変動

(地面の動き)が活発な地域に位置する我が国では、全国約1,200箇所に設置された電子基準点(GPS衛星データを受信)による監視が行われている。一方、Lバンドレーダセンサ活用の実証的な取組も進められてきたものの、衛星の更新に間が空いたために数年間観測できない期間があったこと、また撮影頻度が少ないことから、まだ予測や監視に十分に活用できていない。今後は地表面の情報を広域かつ長期間にわたり継続的・高頻度で取得することで得られる画像情報の面的な解析結果を、電子基準点等による特定の地点の情報と組み合わせて活用することにより、地殻変動を1センチメートル程度の精度で面的かつ稠密に監視(すなわち点の把握から面の把握へ向上)する。特に大規模な地殻変動の予兆が認められたり火山の活動度が高まったりした場合には、GPSによる現地での臨時観測等と合わせ、少なくとも3時間毎に対象地域の監視を行い、今後の地殻変動や火山活動の推移に関する予測精度を向上させる。また、海色変化の情報等を含む画像情報を可能な限り早く提供することにより、海底火山活動のモニタリングの手段として活用することを目標とする。

(b) 国土保全・管理

 「国土情報の蓄積」というニーズに対して、我が国はこれまでも衛星により国土の姿を記録し、蓄積してきたものの、衛星の運用が単発的であり、継続的かつ統合的なデータの蓄積・提供も行われなかったことなどから、縮尺2万5千分1地形図の更新等いくつかの実証的な取組を除き、総じてまだ不十分な利用状況である。今後はシリーズ化された衛星による光学及びレーダセンサで広範囲かつ継続的に国土を観測し、その情報を体系的に蓄積・提供することで、国土開発・保全、農林業、環境等に関する基本的な情報として活用を図ることを目標とする。例えば、光学立体視センサの分解能を2倍以上に高める等により画質を総合的に向上させることでより詳細な地図の作成を実現し、森林管理や環境管理等の分野と合わせて、地方公共団体、民間等への利用の拡大を目指す。

 また、海外においても「だいち」による森林の違法伐採の監視や世界遺産のモニタリング等が試みられつつあり、今後は我が国の衛星画像の海外での利用の拡大を図る。

(c) 食料供給の円滑化(農業と沿岸漁業等の高度化)

 ・「穀物等の生育状況や品質等の把握」というニーズに対して、衛星画像の解析から米等の生育状況の把握や品質(タンパク質、水分等の含有量)の推定が可能であり、すでに一部の現場では活用が始まっている。今後推定精度を高める取組を進め、農業経営の高度化を図ることを目標とする。また、災害時の水稲被害の損害評価については、現在目視すること等により行っているが、今後農家の減少に伴い損害評価員の減少が予想されるため、評価手法の改善が課題となっている。全国の水稲に対する評価が可能となる高解像度の衛星画像を用いた評価手法を確立し、現在14道県で実証段階にある当該手法を全都道府県において用いる体制の整備を図る。さらに、世界の主要な穀倉地域における穀物生産に関する状況等を常時観測することにより、我が国の食料供給戦略上の基本的な情報として活用する。

 ・「漁場等の把握」というニーズに対して、水産業の健全な発展と水産物の安定的な供給を図るために、主に沿岸漁業や養殖業に有害な赤潮の発生予測の高精度化に貢献することを目標とする。具体的には、光学センサの分解能向上に伴い、現在の東京湾ワイドに広域で概略的な赤潮発生状況の把握のみならず、例えば東京湾内の河口域での被害といった局所的な詳細の被害についても把握することを目標とする。

(d) 資源・エネルギー供給の円滑化

 「陸域及び海底の石油・鉱物等の調査」というニーズに対して、これまでも衛星データを陸域の資源探査には活用しているものの、いまだ分析能力は十分ではない。このため、今後、石油の存在する地層を構成する鉱物やレアメタル等の鉱物の判別性能を現行の10種類程度から3倍の30種類程度へ向上させたより分類能力の高いセンサによる観測を継続的・広範囲に実施することにより、人工衛星を活用した石油や鉱物等が存在する可能性の高い地域を高精度かつ効率的に選別、特定する陸域資源探査方法の高度化等を図ることを目標とする。

 また、世界第6位の広さと言われる我が国の領海及び排他的経済水域並びに200海里を超えて延長の可能性がある大陸棚には、様々な資源・エネルギーが存在しており、その確保が期待されるが、これまでは「だいち」によるオイルスリック(海底から湧出する原油が海表面で油膜となる現象)のモニタリングの実証を行っているなど限定的である。今後は、センサの高分解能化によりオイルスリックの判別性能を上げることにより、我が国周辺海域を始めとする海底資源の発見に資することを目標とする。これらを我が国の資源・エネルギー確保戦略上の基本的な情報として活用する。

(e) その他

 我が国周辺海域における密輸・密航、外国漁船による違法操業等の海上犯罪、不審船事案、重大海難事故等、あるいは、我が国に至る海上輸送路における海賊行為等に対応するために、人工衛星を活用した海洋監視手法を研究開発する(具体的には、例えば、衛星だけでなく、航空機等による撮影も含めて、常時、あるいは、3時間程度の頻度で画像を撮影することと、船舶識別のための地上システムとの連携が考えられる)。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・現在運用中の米国の地球観測衛星Terraに搭載した「ASTERセンサ」や「だいち」については、災害時の情報把握や国土情報の蓄積、石油・鉱物等の調査などの利用を引き続き進めるとともに、「だいち」をシリーズとして運用していくことを目指し、光学(ハイパースペクトルセンサ含む)、レーダセンサとも広域性と高分解能を両立したセンサの性能向上、分析方法の高度化、処理時間の短縮のための研究開発と人工衛星の研究開発を進め、まず我が国が得意とするLバンドレーダを搭載した「だいち2号」を打ち上げ、利用を推進する。

 ・アジア地域の高頻度・高分解能での観測を目指して、光学、レーダセンサについて高分解能の性能を低コストで実現する戦略的な小型衛星(ASNARO(仮称))について、民間とのパートナーシップも想定した人工衛星の研究開発を進め、まず光学センサを搭載した小型光学実証機を打ち上げ、技術実証を推進する。

 ・データ中継技術衛星「こだま」により、運用中の「だいち」の全球規模でのデータ送受信を引き続き進めるとともに、今後の「だいち」シリーズ等の継続的なデータ送受信に必要不可欠なデータ中継衛星の継続的な確保に向けた対応を推進する。

 ・海洋監視については、衛星画像と地上の航行状況把握システムとの連携により、船舶の安全を確保するために必要となる船舶の航行状況把握手法等を研究開発する。

B 地球環境観測・気象衛星システム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応する衛星システムとして、地球環境観測・気象衛星システムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 公共の安全の確保

 「精度の高い気象予報」というニーズに対して、運輸多目的衛星「ひまわり6、7号」などの各種観測データを活用し、気象予報や台風の進路・強度予測のためのシミュレーションに活用している。ただし、現在は局地的・突発的な豪雨の予測などは困難な場合があるなどの課題もあり、全体的な予報精度の改善が期待される。このため、今後、雲、水蒸気等の分布を、現在の30分毎の観測から10分毎の観測に高頻度化して継続的に取得し引き続き国民に提供するとともに、センサ分解能を2倍に向上させ詳細に把握する等により、気象予報の精度を高めつつ局地的な大雨等に対する防災に役立てるようにすることを目標とする。

(b) 食料供給の円滑化(遠洋漁業等の高度化)

 水産業の健全な発展と水産物の安定的な供給を図るためには、水産資源の現状や動向、将来の予測評価の精度を高めるための科学的調査が不可欠である。その手法の一つとして、人工衛星による海水温、海流、海色等の観測データの活用が実用化の域に達している。ただし、現状では大局的な海流等の状況の把握にとどまっているため、今後は我が国の人工衛星のセンサの空間分解能向上に伴う局地的な漁場の情報の把握を行うとともに、データへのアクセスがしやすい体制を整備し、漁業の生産性の向上、漁船の効率的運行支援等を実現することを目標とする。

(c) 地球規模の環境問題の解決(低炭素社会の実現)

 アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システムとも連携し、以下のニーズに対応する。

 ・「二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスに関する全球の分布・吸収排出量の把握」というニーズに対して、これまで温室効果ガスの濃度分布については、地上の限られた地点(約280点)での計測が行われているのみであったが、平成21年1月に打ち上げた温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」により、全球56,000点の観測を可能とし、全球規模で網羅的に観測・解析を実施していく段階である。また、アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システムの中の「だいち」を用いて森林劣化による温室効果ガスの排出量評価手法の開発等を行っているところである。今後、「いぶき」による全球の濃度分布の観測を継続的に進めるとともに、温室効果ガス濃度の測定点、測定精度を現状の2倍程度にするセンサの性能向上などを進め、より詳細で継続的な地域毎の吸収排出量や森林生態系等の吸収を把握することを目標とする。これにより、気象条件の変化や森林伐採などによる温室効果ガスの吸収排出量の変化などのより正確な把握が可能となり、今後の世界全体で取り組む温室効果ガス削減への科学的裏付けを与えることができる。また、温室効果ガスの吸収源となる森林や植生の変化を、「だいち」の分解能の向上等により、現在よりも詳細に把握することを通じ、途上国における森林減少・劣化による温室効果ガスの排出削減(REDD)の把握・検証などに活用する。以上の取組を通じて、京都議定書の次の段階における実効性のある地球温暖化対策に貢献することを目標とする。

 ・「グローバルな水循環や地球環境変動等の把握」というニーズに対しては、国際的枠組みの中で、水循環に係る降水分布等の観測や海外衛星による地球環境変動に係る雲やエアロゾルの分布等に関するグローバルな観測を実施中であるが、長期間の変動を見るため今後も継続的な観測が必要であり、予測の更なる精度向上が期待される。このため、今後、国際的な取組の中で、地球規模の降水分布について現状の2倍の正確さでの計測、雲・エアロゾル等の分布について現状の2倍以上の高精度化等の性能向上を行い、継続的、グローバルかつ詳細に把握することを通じて、エルニーニョや砂漠化、集中豪雨等の異常気象の発生メカニズム等、地球環境変動や水循環メカニズムの解明と予測手段の確立を行うとともに、必要な情報の提供を迅速かつ適切に行うことにより、災害の予防に役立てることを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・現在運用中の米国の地球観測衛星Aquaに搭載した「AMSR-Eセンサ」や米国の熱帯降雨観測衛星TRMMに搭載した「PRセンサ」については、地球環境変動の大きな要因である水循環を全球レベルで継続的に観測することを目指し、降雨、降水量、水蒸気量等の観測を引き続き進めるとともに、センサの性能向上、分析手法の高度化のための研究開発と人工衛星の研究開発を進め、まず地球環境変動観測ミッション(GCOM)のうち、GCOM-Wを打ち上げるとともに、降水域の垂直分布の観測を行う二周波降水レーダセンサ(DPR)の研究開発を進め、米国の全球降水観測計画GPM衛星に搭載し打ち上げる。

 ・また、GCOMのうち、雲、エアロゾルの量や植生の把握を行う多波長光学放射計センサの性能向上、分析手法の高度化なども含めたGCOM-Cの研究開発を進めるとともに、雲、エアロゾルの垂直分布や動きの観測を行う雲プロファイリングレーダセンサ(CPR)の研究開発を進め、欧州の雲エアロゾル放射ミッションEarthCARE衛星に搭載し打ち上げる。

 ・「いぶき」により地球温暖化の原因となる温室効果ガスの全球の濃度分布、時間的変動を計測するとともに、分析手法の高度化、センサの性能向上のための研究開発を進める。

 ・「ひまわり6、7号」により継続的な気象予報を行うとともに、「ひまわり6、7号」よりも2倍分解能の高いセンサを搭載した静止地球環境観測衛星「ひまわり8、9号」により、局地的な大雨などへの気象予報精度の向上を目指す。なお、「ひまわり6、7号」は運輸多目的衛星として航空管制機能を有しており、この航空管制機能についても引き続き利用を図る。

C 高度情報通信衛星システム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応する衛星システムとして、高度情報通信衛星システムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 公共の安全の確保

「災害発生時の通信手段の確保」というニーズに対して、災害発生時の災害情報伝達や連絡等のために商業通信衛星を政府・地方公共団体等が利用しているが、衛星専用の地上局(受信アンテナや専用機材)が必要であり、既に契約数が約1億となった携帯電話など広く普及している汎用の手段での通信は、地上の携帯基地局等に被害が出たような場合には利用できない状況である。このため、今後、携帯電話端末のみにより衛星通信が可能で、地上システムと衛星システムとの共用を可能とする研究開発を実施し、技術試験衛星による実証に進むことを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・携帯電話端末で地上通信も衛星通信も利用可能な地上/衛星共用携帯電話システムの実現を目指し、地上システムと衛星システムで同一の周波数帯を使用可能とするための、干渉回避技術、地上システムと衛星システムの協調技術、大型展開アンテナ技術に関する研究開発を進める。

 ・なお、超高速インターネット衛星「きずな」による高速インターネット通信のアジア太平洋地域や離島等における利用実証実験、技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」による移動体通信に関する利用実証実験を進める。

D 測位衛星システム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応する衛星システムとして、測位衛星システムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 豊かな国民生活の質の向上(利便性向上)/公共の安全の確保

 「高精度な測位の実現」というニーズに対して、現状では、測位衛星を利用したカーナビゲーションなどのサービスが広く普及し、測位衛星利用も拡大しているが、人の位置を正確に特定するまでには至っていない。このため、今後、準天頂衛星を活用して高精度な測位を達成し、人工衛星と地上システムが連携した、シームレスなパーソナルナビゲーション等の新たな利用アプリケーションの創出による利便性向上や「公共の安全の確保」のニーズにおける国及び国民の安全・安心の実現に資することを目標とする。なお、準天頂衛星の技術・能力の実証を経て、3機体制を構築することにより、GPS等の補完・補強が可能となる。また、7機の衛星による場合には、東アジア・オセアニア地域をカバーする自己完結的な衛星測位システムの構築が可能となる。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、政府の地理空間情報活用推進基本計画及び「G空間行動プラン」との連携を取りつつ、以下の施策を推進する。

 ・測位衛星システムの中核となる準天頂衛星について、技術実証・利用実証を行いつつ、システム実証に向けた施策を進めるとともに、官民が協力してパーソナルナビゲーション等の地上システムとも連携した新しい利用を促進する。

E 安全保障を目的とした衛星システム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応する衛星システムとして、安全保障を目的とした衛星システムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

 ① 社会的ニーズと今後10年程度の目標情報収集衛星は、平成10年8月31日の北朝鮮によるミサイル「テポドン」

発射を受けて、我が国として、外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理のために必要な情報の収集を主な目的として導入された。これまで、光学衛星とレーダ衛星のそれぞれで、地球上の特定地点を、1日1回以上撮像し得るシステムとして、光学衛星2機、レーダ衛星2機の合計

4機体制を目標として整備してきたが、現時点でも4機体制は完成していない。

 また、安全保障分野での宇宙開発利用は、「その利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星」にとどめていたことから、画像以外の情報を人工衛星により収集できていない。

 今後、関心地域の撮像機会の増加、画質の向上、情報提供までの時間短縮による情報収集機能の強化と我が国周辺海空域の警戒監視機能の強化を図るとともに、その中で、早期警戒機能のためのセンサの研究等、安全保障目的での新たな宇宙開発利用を推進することを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

(a) 情報収集衛星の機能の拡充・強化

 今後、5年内に「地球上の特定地点を1日1回以上」撮像し得る4機体制を実現するとともに、より高い撮像頻度とすることによる情報の量の増加、光学、レーダともに商業衛星を凌駕する解像度とすることによる情報の質の向上、処理時間を短縮し、要求受付からプロダクト配付までの時間を短縮することによる即時性の向上等により、情報収集衛星の機能の拡充・強化をはかり、外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理に必要な情報収集を一層強化する。

(b) 安全保障分野での新たな宇宙開発利用

 早期警戒機能のためのセンサの研究及び宇宙空間における電波情報収集機能の有効性の確認のための電波特性についての研究を着実に推進する。

(2) 研究開発プログラムの推進

F 宇宙科学プログラム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応するプログラムとして、宇宙科学プログラムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 世界をリードする科学的成果の創出(知的資産の蓄積)

 「世界トップレベルの科学研究成果の継続的な創出」というニーズに対して、これまで宇宙天文学や太陽系探査などの宇宙科学で世界を先導する成果を上げている。宇宙科学の成果は、宇宙開発利用全体の基礎となるものである。今後、宇宙科学の枠を超えた他分野・異分野との連携も含め、大学等の優れた研究者の参画の促進による体制の強化も踏まえて宇宙科学を推進し、世界最先端の成果を継続的に創出することを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・宇宙そのものの理解等に繋がる科学的成果の創出を目指し、宇宙天文学研究として、運用中の「すざく」によるX線観測、「あかり」による赤外線観測を実施しつつ、電波天文衛星「ASTRO-G」を打ち上げ、科学観測を行うとともに、次期X線天文衛星「ASTRO-H」等の研究開発を行う。

 ・太陽系探査としては、太陽系の理解、地球(大気、磁気圏含む)の理解等に繋がる科学的成果の創出を目指し、太陽、月、地球型惑星(水星、金星、火星)、さらには木星やその衛星、小惑星などを対象として、運用中の磁気圏観測衛星「あけぼの」、磁気圏尾部観測衛星「GEOTAIL」による磁気圏観測、「はやぶさ」による小惑星からのサンプル回収への取組や「ひので」による太陽観測、「かぐや」による月探査等を実施しつつ、金星探査機「PLANET-C」を打ち上げ、科学観測を行うとともに、将来の水星探査計画「BepiColombo」、「はやぶさ」後継機等の研究開発を行う。

 ・より安く、早く、挑戦的な宇宙科学研究を実現するために、小型科学衛星を活用する。小型科学衛星は、5年に3機程度の頻度で打ち上げ、科学者の多様な要求に応えていく。

 ・幅広い研究者の利用に供するため、科学衛星等によって得られたデータを、体系的に蓄積・公開する。

 ・人工衛星以外にロケットなどの多様な飛翔手段等の研究とそれを利用した理工学研究として、以下を推進する。

  − 大気球、観測ロケットなどの飛翔手段等の革新を目指した宇宙工学研究とその飛行実証、及びこれらの手段を利用した宇宙科学研究。

  − 観測ロケットや「きぼう」等の微小重力環境等を利用した、生命科学や材料・流体科学等での科学的成果の創出を目指した、宇宙環境利用科学研究。

G 有人宇宙活動プログラム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応するプログラムとして、有人宇宙活動プログラムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 豊かな国民生活の質の向上(健康長寿社会の実現)

 「健康長寿社会の実現」というニーズに対して、現状では、高齢者医療等への宇宙医学研究成果等の適用により、骨粗しょう症、尿路結石などの対策研究や、宇宙での高品質タンパク質結晶化による創薬への応用などが開始されているが、まだ実用化にまでは至っていない。このため、今後、高齢者医療、介護問題、創薬など、国民の生活に密着した課題等、地上社会の課題解決にフォーカスし、微小重力環境の利用を通じて、実用成果を創出することを目標とする。

(b) 世界をリードする科学的成果の創出等(知的資産の蓄積、人類の活動領域の拡大)

 「世界トップレベルの科学研究成果の継続的な創出」というニーズに対して、「かぐや」による月の構造調査等、及び「きぼう」等の微小重力環境等を利用した宇宙科学で世界を先導する成果を上げているとともに、太陽系探査と国際宇宙ステーションの活動により、人類の活動領域拡大に向けた取組を進めている。今後、生命科学や材料・流体科学や宇宙環境利用科学などの分野で、世界最先端の成果を継続的に創出することを目標とする。また、有人やロボットを活用した宇宙活動の推進により、人類の活動領域を拡大することを目指すこととし、長期的にロボットと有人の連携を視野に入れた、平成32年(2020年)頃のロボット技術をいかした月探査の実現を目指した検討を進める。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・創薬・医療分野や、食料、エネルギー、ナノ材料など社会のニーズに対応した実用化を目指した課題に重点化し、衣食住や高齢化社会における排泄の問題等への対応のような、より快適な生活の実現など、生活に密着した利用を推進する。加えて、アジア唯一の国際宇宙ステーション計画参加国として、アジア諸国が「きぼう」を利用して実験する機会を我が国が提供する等、アジア協力を推進する。

 ・微小重力等を利用した科学研究については、引き続き世界をリードする科学的成果の創出を目指した課題を選定し推進するとともに、民間の利用拡大を目指した商業利用や将来の有人宇宙活動につながる技術の蓄積等についても、引き続き推進する。また、国際的にも我が国独自の船外プラットフォームを持つ「きぼう」の特徴をいかし、例えば宇宙太陽光発電の基礎実験に利用するなど、新しい技術開発への利用を推進する。

 ・上記の利用以外にも、「きぼう」については、人類のふるさと地球についての理解を深めるための「地球圏観察・診断ステーション」としても活用し、「SMILES」(中低緯度のオゾン層を診断するセンサ)など、地球を観測するセンサを船外プラットフォームに設置し、情報を収集・発信するなど、日本主導の国際協力による世界の環境観測に貢献する。

 ・「きぼう」の利用を着実に進めるとともに、国際約束に基づき、「きぼう」の維持・運用を確実に行いつつ、国際宇宙ステーションの運用に必要な物資輸送(実験装置、水、食料等)を行うために、宇宙ステーション補給機を年に1機ずつ打ち上げる。

 ・有人を視野に入れたロボットによる月探査の検討を進める(第3章2(4)②(b)項に記載)。

H 宇宙太陽光発電研究開発プログラム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応するプログラムとして、宇宙太陽光発電研究開発プログラムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 地球規模の環境問題の解決(低炭素社会の実現)

 「低炭素社会を支えるエネルギーの実現」というニーズに対して、地上では低炭素社会を実現する再生可能エネルギー電源(太陽光発電、風力発電等)の利用が進められているが、安定性などの課題があり、この課題等が克服できる宇宙におけるエネルギー利用はまだ行われていない。今後、地政学的な影響を受けず、安定的でクリーンなエネルギーを利用可能な宇宙における太陽光発電システムに関して、実現に必要な技術の研究開発を進め、地上における再生可能エネルギー開発の進捗とも比較しつつ、10年程度を目途に実用化に向けた見通しをつけることを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・宇宙太陽光発電について、関係機関が連携し、総合的な観点からシステム検討を実施する。並行して、エネルギー伝送技術について地上技術実証を進める。その結果を踏まえ、十分な検討を行い、3年程度を目途に、大気圏での影響やシステム的な確認を行うため、「きぼう」や小型衛星を活用した軌道上実証に着手する。

I 小型実証衛星プログラム

 以下の主な社会的ニーズと今後10年程度の目標に対応するプログラムとして、小型実証衛星プログラムを設定し、5年間の開発利用計画を推進する。

① 社会的ニーズと今後10年程度の目標

(a) 持続的な産業の発展と雇用の創出

 「新産業と宇宙関連産業の拡大と雇用の創出」というニーズに対しては、現状では、宇宙機器産業のみならず、利用産業など幅広い産業の裾野の拡大が必要な状況である。また宇宙産業は、A〜Hのシステム・プログラムを確実に推進するために重要な我が国の戦略的産業である。これらを踏まえて、一層の産業基盤の強化、国際競争力の向上や、今後の宇宙開発利用を確実に進める観点で、新規技術等の技術リスクを排除することなどが重要である。このため、小型衛星等を活用した先端的技術の実証等の推進や、中小企業、ベンチャー企業や大学等が取り組む超小型衛星等への支援の推進を通じて参入促進を図り、新産業と宇宙関連産業の拡大、雇用の創出に資することを目標とする。

② 5年間の開発利用計画

 上記目標の実現に向けて、以下の施策を推進する。

 ・我が国の宇宙開発利用を支える戦略的産業として、宇宙関連産業の競争力強化を図る一環として、我が国の強みである小型化技術を活用し、中小企業、ベンチャー企業や大学等とも積極的に連携しつつ、目的に合わせ小型衛星(100キログラム〜1トン程度)や超小型衛星(100キログラム以下)を打ち上げ、人工衛星のシステム技術や部品・コンポーネントなどの最新技術の軌道上実証を行う。

 ・また、中小企業、ベンチャー企業や大学等が取り組む超小型衛星等について、製造支援や打ち上げ機会の拡大を図る。

2 各分野における具体的施策の推進

(1) 安心・安全で豊かな社会の実現に資する宇宙開発利用の推進

 安心・安全で豊かな社会の実現に資するため、主として以下の4つのシステムで対応する。

 A アジア等に貢献する陸域・海域観測衛星システム

 B 地球環境観測・気象衛星システム

 C 高度情報通信衛星システム

 D 測位衛星システム

 また、専門家から一般利用者に至るまで衛星データ等利用の利便性向上や拡大を図るために、衛星データ利用システムの構築を推進する。

① 衛星データ利用システムの構築

 「衛星データ利用システム」とは、衛星データの受信から利用者が必要とする形でデータを提供するまでの一連のハードウェア及びソフトウェア並びに人的資源の総称を指す。これはいわば人工衛星による観測データを提供するための地上系のインフラに相当する。

 人工衛星が扱うデータは、その形態面から、「画像データ」(陸域・海域観測衛星の光学センサやレーダセンサにより取得される画像のデータ)、「測位データ」(測位衛星が発信する測位のためのデータ)、「通信データ」(通信衛星が扱うデータ)、「その他計測データ」(例えば、大気中の温室効果ガスの観測や天体のX線観測で得られたデータ)に大別することができる。現在、例えば全国の耕地面積調査の単位区台帳の整備・修正や縮尺2万5千分1地形図の更新、洪水時の浸水範囲の迅速な把握等、政府や地方公共団体の様々な業務において「画像データ」の利用が拡大中であることから、特に「画像データ」に着目し、ここでは「衛星データ」とは「画像データ」を意味するものとする。また、安全保障用途に係る「画像データ」は対象としない。

(a) 利用者の意見の集約

 人工衛星の利用ニーズを継続的に把握する場として、関係府省や産学の関係者が参加する連絡会議を活用する。連絡会議においては、関係府省等における人工衛星の利用状況を把握するとともに、例えば、人工衛星の運用方法の改善、新たな人工衛星・センサの機能や利用方法に関する提案等、実際の利用経験に基づいた様々な意見を集約し、今後の衛星開発利用に反映しつつ施策を推進する。

(b) 利用者の利便性の向上を目指した衛星データ利用システム

 現在、衛星データは複数の機関がそれぞれ保管・管理・提供を行い、しかも人工衛星毎・搭載センサ毎に検索・注文を行う仕組みになっているため、とりわけ人工衛星やセンサに関する知識を持たない一般の利用者には、どこにアクセスすれば必要なデータが入手できるか分かりづらい。例えば、異なる衛星データに一つの窓口からいわゆるワンストップサービスでアクセス可能とし、これらの衛星データを組み合わせてオンライン検索できるようなインタフェースとすれば、専門家から一般利用者に至るまで利便性が向上する。検索に続いて、簡単な操作で求めるデータを入手できるような仕組みが実現すれば、さらに利便性は向上する。

 このような環境の実現のためのデータアーカイブとデータ配信システムの整備に向けた施策を推進する。施策の推進に当たっては、関係府省や民間等も含めた関係者により、利用者の要望を把握した上で、例えば人工衛星から直接受信されるデータは各データ管理者自身が保管することを前提に、データ管理者相互をネットワークで接続した分散型のシステムや具体的な検索や配信の方法等について検討を実施する。この際、できる限り現行のシステム資産をいかしつつ、民間のノウハウ等も活用することにより、少ない投資で最大限の効果を上げることを目指す。

(c) 標準的なデータポリシーの作成

 衛星データ配信システムの整備に当たっては、利用促進の観点に基づくデータ提供の在り方と、商業ベースで世界的に展開されている市場とのバランスに配慮し、利用目的や利用する画像の解像度等も考慮して利用料金の設定を含め、データ提供の在り方について検討を行う必要がある。

 また、提供された衛星データに他の情報を付加して二次的に加工する、またこれを第三者に提供する等の場合の考え方についても、地理空間情報活用推進基本計画等の関連分野の動きとも連携をとりつつ、整理する必要がある。

 このほか、メタデータの整備や標準化、データベースの改ざん防止等のセキュリティ対策等も含め、衛星データの提供を行う上でのガイドラインとも言える標準的なデータポリシーを作成・公表することを通じて、利用者にデータの利用条件等をわかりやすく示し、安心して利用できる環境を整えることとする。

 これらについては、関係府省や民間等も含めた関係者により、1〜2年程度をかけて検討を行い、標準的なデータポリシーを取りまとめる。

(2) 我が国の安全保障を強化する宇宙開発利用の推進

 我が国の安全保障の強化のため、主としてE安全保障を目的とした衛星システムで対応する。また、以下の施策を推進する。

①安全保障分野での新たな宇宙開発利用

 我が国においては、安全保障分野のうち防衛分野における宇宙開発利用に関する知見が十分に蓄積されていないことから、先行する民生技術を積極的に活用する「スピンオン」が重要であり、関係機関間の連携が必要である。

 また、弾道ミサイルの発射を探知する早期警戒機能に必要となるセンサは、森林火災の探知など多目的な利用も可能であることから、防衛目的の機能と他目的の機能を併せ持たせるデュアルユースの可能性など、政府全体としての有効活用の推進を図る。

② 安全保障上のデータ管理

 商業用画像衛星が高分解能を実現している今日、諸外国においては、安全保障上の観点から、高解像度の画像情報の一般利用について、シャッターコントロール(安全保障上重要な施設等の撮影及び画像配付・販売の規制)や一定レベル以上の解像度の画像販売規制などのルールを設けている。我が国においても、今後、高分解能の画像衛星の研究開発が進むことに鑑み、国の安全の観点から、地理空間情報活用推進会議とも連携しつつ、必要なルール作りを検討する。

(3) 外交に貢献する宇宙開発利用の推進と宇宙のための外交努力

 外交は、A〜Iの全てのシステム・プログラムに対応する。

① アジア太平洋地域等への貢献

 ・アジア地域においては、我が国が中心的役割を果たしているAPRSAFや我が国がアジア唯一の国際宇宙ステーション計画参加国であることを活用して、地域におけるリーダーシップを確立する。

 また、今後、APRSAFにおける事業とODAを始めとする様々な支援ツールを適切に活用した二国間の支援協力を連携させることにより、我が国の「顔」が見える貢献を行う。例えば、センチネルアジアを通じた衛星画像提供に止まらず、地球観測衛星の地上受信施設の建設等に公的資金協力することが考えられる。

 ・APRSAFは、我が国主導で設立したアジア太平洋地域における宇宙機関間の枠組みであり、既にさまざまな交流・事業を進めてきた実績があり、関係国からの我が国に対する期待も大きいことから、同地域において我が国が宇宙開発利用において貢献を行う場合には、APRSAFを活用することが効果的である。他方、APRSAFは、宇宙機関間の枠組みであることから、これに加え、例えば、アジア地域科学技術閣僚会合等の機会をとらえて宇宙関連の閣僚級会合を行うなど、政府レベルの宇宙ネットワークを構築する。

 ・今後、準天頂衛星の利活用を検討するに当たり、同衛星が我が国のみならず、アジア太平洋地域に測位情報を提供することができるという特性を視野に入れて検討する。

 ・「ひまわり」の観測を継続し、高解像度化・高頻度化された画像の提供等により、アジア太平洋地域の防災・環境監視に一層の貢献を行う。

 ・アジア太平洋地域における取り組みを、近年、宇宙開発利用のニーズが増している中東、アフリカ、中南米等の他地域における貢献にも発展させる。

② 地球環境問題等への貢献

 ・我が国は、平成21年1月に打ち上げられた温室効果ガスの観測を行う「いぶき」、今後打ち上げる気候及び水循環の変動を観測する衛星群であるGCOMや地球環境監視機能を強化した「ひまわり8、9号」により、更なる地球環境問題への貢献を行うことが可能となる。これら人工衛星から得られるデータの取得・公表だけでなく、データ解析結果の発信を通じて、全球規模の環境観測・監視の国際枠組み構築に係る国際的な議論の場で我が国のイニシアチブを発揮する。

 ・我が国は、これまで気候変動等の地球環境問題に貢献してきたが、宇宙の環境問題としてスペースデブリの低減のような新たな課題にも積極的に取り組む。

 ・COPUOS等の国際的な調整の場において、日本人が議長等の主要な役割を担えるよう、大学等における宇宙理学・工学等の教育を充実するのみならず、宇宙分野に知見を有する人に国際外交における経験を積ませるなど、中長期的な人材育成を行う。

③ 二国間関係の強化

 ・日米間では、既に、米国のGPS衛星群の測位情報と我が国の準天頂衛星の補完・補強関係、GXロケットにおける日米間協力、地球観測・宇宙科学等の分野における衛星開発と打ち上げの分担等による共同プログラム実施などの長期的かつ多面的な協力関係を築いている。これをより緊密化するため、宇宙分野における更なる日米協力を協議するための日米宇宙対話を実施していく。

 ・日欧間では、既に、戦略部品の相互融通、準天頂衛星と欧州ガリレオとの技術的調整、地球観測・宇宙科学等の分野における衛星開発と打ち上げの分担等による共同プログラム実施など協力関係を築いている。各国が得意分野で相互補完し合い、米国から自立した宇宙利用を行っている欧州とは、更なる協力関係深化のため、宇宙ガバナンスや宇宙科学、利用分野での協力(例えば、利用時間帯が競合しない、我が国と欧州それぞれの陸域・海域観測衛星間の連携が考えられる)に関する宇宙対話の場を検討する。

 ・他の宇宙先進国(露、中、印等)との関係では、相手国の技術力等を踏まえた、きめ細やかな関係を構築する。

 ・途上国との関係では、関係府省等の在外事務所のみならず、民間企業からも情報等を収集、分析し、今後の支援プロジェクトの重点地域、重点項目を立案するとともに、公的資金(ODAや国際協力銀行(JBIC)による融資を含む)を活用して当該国の宇宙開発利用ニーズの掘り起こしを図る。

 掘り起こしたニーズに対しては、我が国全体で対応する必要があることから、支援プロジェクトの司令塔を明確化し、国際協力機構(JICA)、JAXAを含む関係府省等の本邦内における連携強化、在外事務所(大使館、JICA、JAXA、日本貿易振興会(JETRO)、JBIC等の現地事務所等)間、また、本邦と在外事務所間の連携強化により、公的資金融資のみならず、技術協力、人材育成等の我が国の複数の支援プログラムを有機的に組み合わせて対応する。

 これらの国際市場の開拓に当たっては、トップセールスや在外公館などのネットワーク等を積極的に活用する。

 ・途上国への支援は、我が国が外交の柱として掲げる「人間の安全保障」に留意した、我が国らしい支援とする。我が国の支援の実施に当たっては、当該国の宇宙開発利用が促進されるのみならず、その効果が、当該国国民一人ひとりの命と生活を災害や環境汚染、気候変動といった様々な脅威から守り、豊かにするものとなるよう留意しなければならない。

(4) 世界をリードする先端的な研究開発の推進

 世界をリードする先端的研究開発として、主として以下の3つのプログラムで対応する。

 F宇宙科学プログラム

 G有人宇宙活動プログラム

 H宇宙太陽光発電研究開発プログラムこれらプログラムを進めるに当たって、以下の施策を推進する。

① 科学的発見に挑戦する宇宙科学研究の推進

 宇宙科学プログラムの推進に当たっては、JAXAと大学等での研究者等の個人レベルでの連携はもとより、大学共同利用システムとしての機能の活用、大学研究拠点との連携の実現を図り、理学研究と工学研究が一体となって取組む。また、地球科学分野、プラズマ科学分野、地上の観測設備を用いた天文分野や国際リニアコライダー構想などの大型加速器分野など幅広い分野との連携や融合など体制の強化を図る。これらにより、引き続き世界をリードする科学的成果を継続的に創出することを目指し、宇宙科学分野におけるテーマ・内容等の評価・選定プロセスを活用するとともに、自主、民主、公開、国際協力の原則を尊重しつつ推進する。

 なお、得られる最先端技術成果を宇宙科学以外の宇宙開発利用分野や産業などにも積極的に展開する。

② 有人宇宙活動の推進

(a) 国際宇宙ステーション計画

国際宇宙ステーションの運用については、国際的に平成28年(2016年)以降の計画が具体化されておらず、参加各極(日、米、露、欧、加)の宇宙機関間で、運用延長について議論が開始された段階である。平成28年(2016年)以降の運用延長は、それまでの利用の成果や、我が国の将来の有人宇宙計画、諸外国の状況などを総合的に勘案して判断する。

(b) 有人を視野に入れたロボットによる月探査

 月は地球に近い成り立ちを持ち、太陽系の起源と進化の科学的解明に重要であるとともに、資源等の利用可能性についても未解明であり、月を当面の太陽系探査の重要な目標に設定する。

 我が国が世界をリードして月の起源と進化を解明するとともに、科学的利用や資源利用の可能性を探るため、将来的にはその場での高度な判断などを可能とする月面有人活動も視野に入れた、日本らしい本格的かつ長期的な月探査の検討を進める。

 具体的には、長期的にロボットと有人の連携を視野に入れた以下の案を念頭において、我が国の総力を挙げ、1年程度をかけて意義、目標、目指す成果、研究開発項目、技術的ステップ、中長期的スケジュール、資金見積りなどを検討する。なお、我が国独自の目標を保持しつつ、各国の動向も注視し、国際協力の可能性も検討するとともに、実行に当たっては、適切な評価体制の下で推進する。

 ・第1段階(平成32年(2020年)頃)として科学探査拠点構築に向けた準備として、我が国の得意とするロボット技術をいかして、二足歩行ロボット等、高度なロボットによる無人探査の実現を目指す。

 ・その次の段階としては、有人対応の科学探査拠点を活用し、人とロボットの連携による本格的な探査への発展を目指す。

 本計画を通じて有人活動への地歩を構築することは、科学の先端性の発揮と人類の知的資産の蓄積、将来的な産業力の蓄積や人材の育成などを含めた最先端技術力の蓄積、先進国としての外交力の向上を通じた国益の確保・国際的プレゼンスの向上、そして国民が夢・自信・誇りを感じることに資するものである。このような意義がある一方、一国で全てを賄うには巨額な資金が必要になること、人命を何よりも尊重する日本の文化も考慮することが必要であり、国際宇宙ステーション計画を通じた活動による成果をいかし、長期的視点に立って基盤技術の構築を図りつつ、有人宇宙活動を行う能力の向上に向けた取組を段階的に進めることが必要である。

③ 環境・エネルギー対策等に貢献する先端的研究開発等の推進

(a) 宇宙太陽光発電

 宇宙太陽光発電は、宇宙空間において太陽エネルギーを集め、そのエネルギーを地上へ伝送して、地上において電力等として利用する新しいエネルギーシステムである。宇宙での太陽光発電は、地上における太陽光発電に比べ昼夜天候に左右されず安定的に発電が可能で、約10倍効率が良くなることが期待されている。

 地上での太陽光発電や他のエネルギーシステムと比べ、経済的にも見合う宇宙太陽光発電の実現には、宇宙空間において効率的にエネルギーを集める技術、宇宙から地上に効率的かつ安全にエネルギーを伝送する技術、宇宙空間に物資を経済的に運び大規模な構造物を建築する技術などの高度な技術等が必要となる。

 これら技術課題の見極めを行うため、現在までの研究をベースにして、H宇宙太陽光発電研究開発プログラムを推進する。

 なお、実用化に向けた開発段階への移行は、本プログラムにおけるシステム検討、技術実証、競合技術との比較、所要経費等についての検討を踏まえ判断する。

(5) 戦略的産業としての宇宙産業育成の推進

 宇宙産業育成は、A〜Iの全てのシステム・プログラムに対応する。

① 国際競争力の強化

(a) 宇宙機器(人工衛星、ロケット、部品・コンポーネント)産業の国際競争力強化の推進

 自立的な宇宙活動を維持し、人工衛星、ロケット等の宇宙機器産業の売上高倍増を目指し国際競争力を強化するためには、国際的な市場競争力を考慮した基盤技術の強化や産業が利用可能な設備など、競争力の基盤を維持・強化することが必要であり、そのため以下の施策を推進する。

 ・人工衛星、ロケット等の性能向上、信頼性向上、低コスト化等のため、人工衛星の観測センサやロケットのアビオニクス等の部品・コンポーネント、人工衛星の編隊飛行やロケットの打ち上げ能力向上等のシステム技術等について、最先端の情報通信技術も活用し、継続的な研究開発や、小型衛星等を活用した軌道上実証等の取組を推進する。

 ・戦略部品・コンポーネントの安定供給の確保のため、戦略部品等の国産化、シングルソースになっている部品等のセカンドソースの確保、中小企業や大学等の優れた技術の活用も含め民生部品の適用の拡大を図る。また、高品質、高性能な最先端の民生部品を適切に適用することにより、一層の国際競争力強化を図る。

 ・宇宙機器の設計標準や信頼性技術データ等、共通基盤的な技術情報の体系的な蓄積・整備と、産学官での共有・利活用を推進する。

 ・人工衛星、ロケット等の研究開発に必要不可欠なインフラである関連試験施設や設備を、宇宙産業や宇宙機関等が必要な時に確実に利用できるようにするため、試験施設や設備の適切な維持・更新や整備を進めつつ、民間への供用を一層拡大する。

 ・人工衛星、ロケット等の追跡管制・運用を自立的に行うため、これらに必要な技術を基盤的な技術として維持・発展させるとともに、施設・設備の適切な維持・更新や、最先端の情報通信技術の活用を進める。また、人工衛星の運用を円滑に行うため、可搬型データ受信システムやデータの統合・高速処理システムの整備を進める。加えて、我が国の人工衛星の自立的・安定的な運用を確保する観点から、国際電気通信連合(ITU)を通じて、静止軌道上の衛星位置や周波数の確保等に努める。

 ・企業活動の予見性を増し、企業の効率的な開発・生産等を促進しコストダウンにつなげるなどのため、別紙2のような中長期の人工衛星等の開発利用計画の提示や、システム・プログラム横断的な人工衛星や部品・コンポーネント等の小型化やシリーズ化・共通化・標準化、及びまとめ購入や企業努力を促すような工夫についての検討などを行う。

(b) 宇宙利用産業の裾野の拡大及び国際競争力強化の推進

 宇宙利用産業の裾野を拡大し、国際競争力を強化していくために、以下の施策を推進する。

 ・宇宙利用産業が新たなサービス等を始める際の初期需要の確保等のための一つの方策として、民間サービスの政府購入等について検討するとともに、公共サービスへの民間参入のため、PPP事業の推進を図る。

 ・宇宙利用産業にとっても重要な経営資源となりうる衛星画像のデータ等について、利用者が利用しやすい形でのデータへのアクセス性の確保、継続的データ提供や利用サポートを行うとともに、衛星データの活用事例の発信などにより、宇宙利用産業のイノベーションにつながる利用アイデアの創出を促す。

 ・これらの利用促進施策等を通じ、新しいビジネスやデータ利用の形態を創出し、宇宙利用の新たな担い手となるベンチャー企業等の参入を促し裾野の拡大を図る。また、宇宙旅行などの新たな宇宙利用産業の国際的な動向についても留意する。

(c) 国際競争力強化のための研究開発の推進

 宇宙産業の国際競争力の強化のための研究開発について、以下の考え方に基づき施策を推進する。その際、I小型実証衛星プログラムのとおり、小型衛星等を積極的に活用する。

 ・国際的な市場競争力を考慮した研究開発の目標及び計画を官民で策定・共有し、それに基づいて研究開発を推進する。

 ・策定に当たっては、短期的な産業展開を視野に入れ、コスト競争力向上、信頼性向上、高性能化等を目的として、特にシステムとしての競争力の強化や自立性の確保に繋がる研究開発を行うもの、及び将来の国際競争力創出のために、中長期的視点から最先端技術等に関して基礎的段階からも含め研究開発を行うもの、両者の推進が重要である。

 ・実用衛星等に載せるには技術リスクの高いものについては小型衛星等を使った事前の宇宙での実証を行うなど、実証計画を盛り込んだ、研究開発から実証までの一連の計画とする。

 ・宇宙科学等の分野における最先端研究、研究開発等における産業との連携を強化し、その成果を産業へ活用することにより、競争力を向上していく。

(d) トップセールスを含めた国際市場開拓の推進

 日本国内の官需及び民需のみでは人工衛星・ロケット双方の産業にとって十分な需要がある状況にはないことから、既に巨大な市場のある米国や、今後の成長が期待できるアジア・太平洋地域、アフリカ等の国際市場を開拓することが必要である。なお、人工衛星を単体で市場開拓するのではなく、地上システム・運用、利用・サービスやアプリケーション、人材育成などを含む総合的なパッケージの観点で捉えた戦略が必要である。

 以上を踏まえ、以下の方策により国際市場開拓を推進する。

 ・諸外国のニーズ吸い上げや日本の宇宙機器やアプリケーション等の市場開拓のために、在外公館等と連携し、企業とも協力して、現地密着型の普及活動と情報収集活動を強化する。これらの活動を通じて得られたニーズを分析することで、人工衛星から利用システム等までを総合パッケージとして普及させることにも配慮し、市場開拓を進める。

 ・上記のニーズ掘り起こし活動による分析結果を踏まえ、効果的にトップセールスを活用した国際市場開拓を行う。

② 自立的な宇宙活動を支える宇宙輸送システム構築の推進

 宇宙輸送システムは、我が国が必要なときに、独自に宇宙空間に必要な人工衛星等の打ち上げを行うために、維持することが不可欠な技術である。そのような観点から、これまでH-ⅡA/H-ⅡBロケットを我が国の基幹ロケットとして開発・運用しており、情報収集衛星、陸域観測衛星、気象衛星や宇宙ステーション補給機などの重要な打ち上げニーズに対応すると共に、我が国の知的資産の蓄積に資する科学衛星の打ち上げにM-Vロケットで対応し、その運用終了後、固体ロケットシステム技術の維持を行っている。

 基幹ロケットであるH-ⅡAロケットの運用は既に民間移管を完了し、民間による商業打ち上げサービスとしての活動を行っているところであるが、経済的な宇宙開発利用を行っていくためには、継続的な商業市場でのシェア獲得が不可欠であり、国は引き続き国際競争力を維持・向上するための信頼性の向上などの改良施策を推進するとともに、今後拡大が予想される多様な衛星需要に合わせ、最適なロケットで効率的に対応するための施策を推進する。

(a) 人工衛星等の開発利用計画・先端的研究開発と世界の衛星需要に対応したロケット開発利用の推進

(i)基本的な対応

 独自に宇宙空間に必要な人工衛星などを打ち上げる能力を維持するため、他国と同様、政府関係の人工衛星等を打ち上げる場合には、国産ロケットを優先的に使用することを基本とする。また、我が国の民間企業が人工衛星を打ち上げる場合にも、国産ロケットの使用を奨励する。

 民間移管後の商業打ち上げサービスの安定的かつ効率的な遂行に資するため、別紙2の中長期の人工衛星等の開発利用計画により、民間による計画的調達や投資の促進等への配慮を行うとともに、商業打ち上げサービスに対応する安全確保に必要な措置を講ずる。

(ii)人工衛星等の開発利用計画に対応した輸送システムの構築

・H-ⅡA系ロケット

 H-ⅡA/H-ⅡBロケットについては、引き続き我が国の基幹ロケット

として位置付け、定常的に打ち上げに使用する。我が国宇宙開発利用の経済的な対応、及び商業打ち上げサービスにおける国際競争力を維持・向上させるため、継続的に信頼性、運用性、打ち上げ能力及び安全性等を改良すると同時に、コストを削減する取り組みを進める。

・GXロケット

 GXロケットについては、中型ロケットとして効率的な輸送の提供、基幹ロケットのバックアップロケット、戦略的な日米協力関係の構築、民間の宇宙開発利用への参入に向けた産業振興、及び液化天然ガス(LNG)推進系技術の獲得といった5つの観点から推進する意義がある。但し、現在までの研究開発状況等を踏まえた上で、LNG推進系に関する技術的見通し、安全保障ミッションを含めた需要の見通し、及び全体開発計画が明確になっていないなど全体計画・所要経費の見通しの点において考慮すべき課題が残っている。このため、国が主体となり、平成22年度概算要求までに技術的見通し、需要の見通し、全体計画・所要経費の見通しを踏まえ、開発着手に関して判断を行う。

・固体ロケット

 固体ロケットシステム技術は、我が国独自の技術の多くの蓄積があり、即応性を要求される打ち上げ技術として重要であり、M-Vロケット運用終了後も、その維持を行ってきた。固体ロケットについては、これまでの技術的蓄積をいかして、別紙2のような宇宙科学分野や地球観測分野などの小型衛星需要に機動的かつ効率的に対応するための手段の確保の一環として推進する。

(iii)基盤技術の維持・発展

 将来に亘って自立性を持った我が国の競争力のある宇宙輸送システム及びその技術を維持するために、第3章2(5)①項の施策を通じた基盤技術の維持・発展を図る。

(iv)将来の輸送システムに関する研究開発

 将来必要とされる多様な輪送需要に応えうるよう、研究開発を行っておくことが重要である。このため、再使用型の輸送システム、軌道間輸送機、空中発射システム等を含めた将来の輸送システムに関する検討を進めるとともに、基盤技術の構築に向けた研究開発を進める。その際、H-ⅡAロケット等の改良活動や有人を視野に入れたロボットによる月探査等の検討にも留意する。

(b) 打ち上げ射場の維持・整備等の推進

 打ち上げ射場は、国の自立的な宇宙へのアクセスを保証するための重要なインフラである。加えて、民間の商業打ち上げサービスの国際競争力を向上する観点でも確実に利用できる状況にしておく必要がある。

 我が国においては、射場はJAXAで整備・運用しているが、射場の施設設備は、古い設備も多く老朽化への適切な対応が必要な状況である。

 このため、射場施設設備の確実な維持及び更新による機能維持・向上を進めるとともに、打ち上げ時期の制約や射場環境の改善等に関する検討を進め、順次対応に努める。

 また、今後の衛星需要やロケット開発利用に対応した長期的視点に立ったふさわしい射場の整備等の在り方についての調査・検討を進める。

③ 産業活動等の促進

(a) 中小企業・ベンチャー企業、大学等の能力活用

 宇宙産業が今後発展していくためには、優れた技術を有する中小企業の能力活用や、新しい担い手であるベンチャー企業の役割が極めて重要である。また、これまで以上に産学官連携を強化していくことが重要である。

 民生技術の宇宙転用や宇宙技術の民生転用の更なる推進や、衛星データ利用の推進などにより、宇宙開発利用の裾野の拡大を図る。加えて、宇宙開発利用への参入促進のため、新たな発想による技術やアイデア等による中小企業、ベンチャー企業や大学等が取り組む超小型衛星等に係る製造支援、打ち上げ機会の拡大や、施設設備の供用拡大等を図る。

(b) 税制上・金融上の措置、及びその他の施策

 宇宙開発利用に関する事業は、一般的に巨額の投資を必要とし、地上システムとの競争の下で、長期間にわたる投資の回収が必要となる。また、ロケットによる打ち上げ失敗のリスクや、厳しい宇宙環境にさらされるにも関わらず軌道上での衛星機能の回復手段は限定されるなど、事業運用上のリスクも大きい。さらに、保険で全てをカバーできないことにも留意する必要がある。このため、企業による研究開発投資も含めた民間投資を拡大し、新たな事業者の参入を促進し、宇宙産業の国際的な展開を促進するためには、国際的な競争条件の平準化も考慮することが必要である。したがって、以下のような税制上、金融上の措置や、宇宙に限定されていないものも含め、各省の一般的施策についても積極的な活用を図る。

 なお、宇宙産業はロケット・人工衛星等に関する重要技術や機微な技術・情報を取り扱うこととなるため、その健全な発展を図るに当たっては、適切な安全保障貿易管理や対内直接投資規制、機微情報の管理などを実施する必要がある。

(i) 税制

 ・研究開発税制

 ・中小企業投資促進税制

 ・エンジェル税制

 ・関税の免除

 人工衛星・人工衛星打ち上げ用ロケット等の部分品等で国産が困難なものについて関税を免除(平成22年度末までの措置)。

 なお、打ち上げ輸送サービスにおける消費税については輸出免税の規定が適用される。

(ii) 金融

 ・JBICの輸出金融と日本貿易保険の貿易保険

 ・宇宙機器の研究開発、サービスの提供のための政策金融等(日本政策投資銀行、日本政策金融公庫等)の活用

(6) 環境の保全

 環境の保全は、A〜Iの全てのシステム・プログラムに対応する。

① 地球環境への配慮

 宇宙の開発利用に当たっては、開発利用そのものが地上の環境に与える影響について配慮する必要がある。

 今後、環境施策との調和を図りつつ、ISO14000シリーズの環境にかかわる規格に準拠して、例えば環境マネジメントシステムの構築や廃棄物・化学物質排出の抑制等を目指した開発利用の推進により、環境に影響を及ぼすような要因を継続的に管理・改善する。

 また、宇宙に関連した技術の環境分野へのスピンオフの事例として、例えばロケットの断熱材の地上建築用断熱塗料への応用や、宇宙用発電装置の地上低公害・高効率発電システムへの応用等が挙げられる。今後とも、このような宇宙に関連した技術のスピンオフを積極的に行うことで地球環境の保全に貢献する。

② 宇宙環境の保全

 我が国として、宇宙環境の保全の観点からデブリに対処するために、デブリの分布状況を把握するための宇宙環境監視、自らの宇宙開発利用に起因するデブリ発生を極小化するための努力、また、既に発生したデブリを除去する技術の研究開発が必要となる。また、宇宙利用に影響を与える要因には、太陽風などの自然現象もあり、太陽風などを予測するいわゆる宇宙天気予報についても、引き続き着実に取り組む。

(a) デブリの分布状況把握

 デブリの分布状況把握としては、我が国は、現在JAXA等が保有している宇宙観測の機能によりデブリの監視を実施しているが、例えば周回軌道上のデブリについてはメートル級の大きさを識別できる程度であり、衝突により人工衛星の破壊を招く恐れのあるサブメートル級のデブリを詳細かつ高精度に把握する能力を有していない。今後、防衛省等の機能を含めて有効に活用するとともに諸外国の観測データとの連携も図り、特に周回軌道上ではサブメートル級のデブリの詳細な軌道位置等を把握することを目指す。

(b) デブリ発生極小化

 自らのデブリ発生極小化としては、運用中の人工衛星からの部品類飛散の抑止や、運用終了後の人工衛星の爆発抑止などが有効である。我が国は、JAXAが独自にデブリを低減するためのガイドラインを作成して遵守している。一方、デブリの低減を目的としたガイドラインの作成作業は国連等の場においても行われている。平成14年には国際機関間スペースデブリ調整会議(IADC)においてデブリ低減のためのガイドラインが作成され、平成19年にはCOPUOSにおいて「スペースデブリ低減ガイドライン」が承認された。

 また、米国や欧州でもデブリ低減に向けたガイドライン等を作成し、デブリ低減を行っている。国際標準化機構(ISO)では、デブリ低減措置についての規格化が進められている。我が国は、これらのデブリ発生を低減するための国際的な枠組み作りに積極的に参加するなど国際的な連携を確保することにより、宇宙の環境の保全を推進する。

 我が国としても、把握したデブリの分布状況を踏まえた衝突回避、あるいは国際的な規格を遵守することによるデブリ発生低減を行うことにより、我が国の人工衛星等に起因するデブリの発生を極小化する。さらに、人工衛星のデブリ防護策や、運用終了した後に大気圏で燃え尽き地上への被害を局限するような衛星等についても研究を推進する。

(c) デブリの除去措置

 デブリの数の増加に伴うデブリ同士の衝突機会の増大によりデブリが自然発生的に増加する可能性がIADC等で指摘されている。このような状況に対応するためには、単にデブリ発生を低減するのみならず、デブリを能動的に除去する必要があるが、我が国では、デブリの捕獲や軌道から除去する技術は未だ研究段階にある。

 今後、デブリ除去の措置への取組として、国際的な連携を図りつつ、デブリの捕獲や軌道から除去する技術を小型衛星等を用いて宇宙で実証することを目指した研究を推進する。

(7) 次世代を担う人材への投資と国民参加の円滑化

 次世代を担う人材への投資と国民参加の円滑化は、A〜Iの全てのシステム・プログラムに対応する。

① 次世代を支える技術者・研究者の育成

 宇宙開発利用の推進に当たっては、高度な知識及び実践的な開発経験も含む能力を備えた優秀な人材や宇宙からの幅広い視野で地球全体を見渡せるような人材を育成、確保していくことが必要不可欠である。特に、現状では、産業規模が縮小する中で開発経験を持つ優秀な技術者の維持・確保が困難になってきており、技術の継承は極めて重要な課題となっている。このため、大学等において有為な人材を継続的に育成、供給できる教育研究機能の維持・強化を図るとともに、産業界、宇宙機関等において宇宙開発利用を継続して実施するために必要な人的技術基盤を維持・継承していくことが重要であり、以下のような施策を推進する。

 ・大学等における宇宙教育・研究の強化JAXAと大学等での研究者等の個人レベルでの連携はもとより、大学等との連携を一層強めることにより、JAXAの研究設備等の利用機会の提供や、特定課題・プロジェクトにおける共同研究等を行う大学共同利用システムによる教育研究推進の枠組の維持・発展を図り、大学等における宇宙教育・研究を強化する。

 ・宇宙機関と大学等の連携による実践的技術者・研究者育成JAXAの大学共同利用システムを活用し、プロジェクト実施の最前線へ全国の大学等の研究者・学生の参加を促し、ものづくりを含めたシステム開発の実践的方法論について素養を身に付けた人材を育成する。

 ・長期的視野のもとでの人材育成と確保長期的視点に立った人工衛星等の開発利用計画の提示等、宇宙産業の持続的発展や国際競争力強化を目指した施策を推進することにより、宇宙機関等や産業における人的技術基盤の維持を図りつつ、研究者、技術者の資質向上に努める。

 ・アジア地域における人材育成の充実アジアでの人材育成拠点となる大学や研究機関等との連携の促進やAPRSAFの下で進めている小型衛星の共同開発の推進、アジアからの留学生等の人材の受け入れ等により、我が国の宇宙技術を利用して、アジア地域における宇宙の開発や利用を支える人材の輩出を目指す。

② 子供達への教育と宇宙の魅力を伝える広報活動等の推進

 次世代を担う青少年が宇宙に関する正しい知識と理解を深めることは、将来の宇宙開発利用に携わる人材の裾野を拡げ、国民の宇宙開発利用の推進に対する支持を引き続き確保する上で重要である。国民、特に次世代を担う子供達に夢を与えるプロジェクトを推進するとともに、JAXAの宇宙教育センターの活動等を活用しつつ地域の教育関係機関等と連携のもと、以下のような施策を推進する。

(a) 実体験・疑似体験機会の拡大

 ・観光・修学旅行等における射場施設設備等の見学等旅行会社等との連携等により、観光旅行や修学旅行等の見学地・見学施設として、種子島宇宙センターのロケット打ち上げ射場の施設設備等を組み入れ、宇宙開発利用の現場を自分の目で見て、肌で触れることにより、宇宙の魅力を感じてもらう。

 ・宇宙飛行士や科学者等との触れ合い充実宇宙飛行士や科学者・技術者が教育現場等を訪れ、子供たちに夢や希望、好奇心や探究心を育む講演活動等を行う。国際宇宙ステーションとの交信イベントにおける宇宙授業等の充実を図る。

 ・科学館等及びインターネットの活用宇宙を素材とする体験型授業や、国際宇宙ステーションでの宇宙授業等、学校や地域の科学館等と連携したイベントを充実するとともに、科学館等での教員研修の支援やボランティア指導者の育成を行う。また、ロケット打ち上げ等のインターネット中継や、デジタルアーカイブ等のコンテンツの充実を図る。

(b) 宇宙教育の充実等

 ・教育素材の充実の支援

 科学館等の社会教育施設等における学習活動の支援等の充実を図る。また、教育素材として、宇宙食や宇宙飛行士のメッセージ等の活用、家庭で親子が楽しく学ぶことのできる内容の提供、海外の宇宙機関や国際機関等との連携など、その充実に向けた取組を進める。

 ・民間企業・各種団体の活力の活用

 宇宙開発利用の推進に当たり、「かぐや」におけるハイビジョンカメラの搭載のように、民間企業・各種団体と連携し、その成果が広く国民の目に触れるような工夫を行うとともに、宇宙機関から映画やテレビドラマ等への資料や撮影の協力等を充実することで、国民に宇宙の魅力を伝えていく。

③ 国民参加型の施策の推進

 国民の宇宙に対する関心を高めることは、多額の国費の投入を要する宇宙開発利用に対する理解を得る上で重要である。これからの宇宙開発利用は、一部の専門家のみが行うものではなく、国民自らが参加して利用するものになりつつあることを踏まえ、宇宙利用の裾野の拡大の意味も含め、以下のような国民参加型の施策を推進する。

 ・国民参加型のコンテスト

  宇宙開発利用への国民参加の機会を広げるなどのため、例えば、新しい発想の利用アイデア等を掘り起こす人工衛星コンテストや、ロボコン主催団体と連携した宇宙用ロボットコンテストなど、個人での参加も可能な国民参加型のコンテストの取組を推進・支援する。

 ・宇宙利用の拡大方策等、宇宙政策や宇宙開発利用に幅広く国民の叡智を求める工夫

  宇宙開発利用をさらに国民生活に密着した役立つものとするため、広く国民の叡智を求める機会を増やす工夫を行う。

 ・寄付その他幅広くサポートを得る工夫

  宇宙開発利用について、政府予算のみならず、国民からの寄付等の

サポートを得やすくするような工夫を検討する。また、宇宙を身近に感じてもらうために、人工衛星等の愛称募集等を行う。

第4章 宇宙基本計画に基づく施策の推進

(1) 宇宙基本計画に基づく施策の推進体制

 宇宙基本計画に基づく施策については、内閣の宇宙開発戦略本部の下、本部事務局を中心に、関係府省が一体となってその推進を図る。また、宇宙基本法附則の規定にのっとり、内閣官房に置かれている宇宙開発戦略本部事務局の機能を内閣府に移管するとともに、行政組織及びJAXA等宇宙開発利用に関する機関の在り方についての検討結果を踏まえた所要の法改正等の準備を進める。

(2) 施策の実施のために必要な予算・人員の確保

 宇宙基本法第24条第7項を踏まえ、宇宙基本計画について、その実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、毎年度、国の財政の許す範囲内で、これを予算に計上する等その円滑な実施に必要な措置を講ずるよう努める。その際、政府は、本計画に盛り込まれた施策の着実な推進のため、民間における活動の促進を図るとともに、必要な予算・人員の確保に努める。なお、毎年度の予算については、財政事情を踏まえ、国の他の諸政策との調和を図りつつ、一層の効率化・合理化に努める。

(3) 施策の実施状況のフォローアップと進捗の公表

 本計画に基づく具体的な施策の実施状況については、宇宙開発戦略本部を司令塔として関係府省の協力の下、毎年度、フォローアップ(施策の進捗状況等に関する調査)を行い、その結果はインターネット等を通じて公表する。また、フォローアップの結果や連絡会議における意見等を踏まえつつ、必要に応じて本計画の見直しを行うとともに、施策の実施内容の見直しを行うこととする。

(4) 国際動向の調査・分析機能の強化

 我が国の宇宙開発利用の推進に当たっては、災害対応、地球環境等についての国際的なニーズや海外諸国のニーズ等を把握し、実効性のある国際貢献につなげることが必要不可欠である。また、世界をリードする科学的成果の創出や諸外国との協力等の観点からも、海外の宇宙開発利用動向の把握が必要である。さらに、人工衛星、ロケット、衛星により得られるデータ利用など多岐にわたる我が国の宇宙産業の国際競争力の強化等の観点から、他の宇宙先進国における宇宙開発利用動向、宇宙開発利用の拡大や海外への展開、開発途上国における宇宙開発利用の潜在的なニーズを始めとする国際動向についての把握も重要である。

 このような状況に鑑み、諸外国における宇宙開発利用動向の調査及び分析機能の強化を図る。

(5) 宇宙活動に関する法制の整備

 宇宙基本法の規定にのっとり、宇宙活動に関する法制の在り方についての検討結果を踏まえた所要の法制整備の準備を進める。

(6) 宇宙以外の政策との連携・整合性の確保

 本計画の推進に当たっては、科学技術基本計画、経済成長戦略大綱、海洋基本計画、地理空間情報活用推進基本計画等や関係府省の政策等、宇宙以外の政策とも連携を図りつつ、整合性を確保するものとする。

以上