データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 家事労働者の適切な仕事に関する条約(第百八十九号)(2011年の家事労働者条約(第189号))

[場所] 
[年月日] 2011年6月16日
[出典] 国際労働機関
[備考] 
[全文] 

 国際労働機関の総会は、

 理事会によりジュネーブに招集されて、二千十一年六月一日にその第百回会期として会合し、

 労働における基本的な原則及び権利に関する国際労働機関の宣言並びに公正な地球規模化のための社会正義に関する国際労働機関の宣言の目標の達成により全ての人に対する適切な仕事の確保を促進するという国際労働機関の決意に留意し、

 家族的責任を有する男女労働者の賃金労働の機会の増加並びに高齢者及び障害者の介護並びに児童の保育の増大の見通し並びに国内及び国家間における多額の所得の移転を含む世界経済に対する家事労働者の重要な貢献を認識し、

 家事労働が、依然として過小評価され、及び軽視されていること並びに主として女子によって行われており、これらの女子の多くが雇用条件及び労働条件についての差別及び他の人権侵害について特に被害を受けやすい移民又は不利な立場にある地域社会の構成員であることを考慮し、

 また、歴史的に正式な雇用の機会が不足している発展途上国において、家事労働者が、国内の労働人口の

 相当な部分を構成し、及び引き続き最も疎外されていることを考慮し、

 国際労働条約及び国際労働勧告が、別段の定めがない限り、家事労働者を含む全ての労働者について適用されることを想起し、

 千九百四十九年の移民労働者条約(改正)(第九十七号)、千九百七十五年の移民労働者(補足規定)条約(第百四十三号)、千九百八十一年の家族的責任を有する労働者条約(第百五十六号)、千九百九十七年の民間職業仲介事業所条約(第百八十一号)、二千六年の雇用関係勧告(第百九十八号)及び国際労働機関の労働力の移動に関する多数国間の枠組み(二千六年の労働力の移動についての権利に基づく取組のための拘束力を有しない原則及び指針)の家事労働者に対する特別な関連性に留意し、

 家事労働者がその権利を十分に享受することができるようにするため家事労働者についての特別の基準により一般的な基準を補完することが望ましい家事労働が行われる特別な状況を認識し、

 世界人権宣言、市民的及び政治的権利に関する国際規約、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約、女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約、特に、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書、国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する陸路、海路及び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書、児童の権利に関する条約、全ての移民労働者及びその家族の構成員の権利の保護に関する国際条約等の他の関連する国際文書を想起し、

 会期の議事日程の第四議題である家事労働者の適切な仕事に関する提案の採択を決定し、その提案が国際条約の形式をとるべきであることを決定して、

 次の条約(引用に際しては、二千十一年の家事労働者条約と称することができる。)を二千十一年六月十六日に採択する。

   第一条

 この条約の適用上、

  (a) 「家事労働」とは、家庭において又は家庭のために行われる労働をいう。

  (b) 「家事労働者」とは、雇用関係の下において家事労働に従事する者をいう。

  (c) 随時又は散発的にのみ家事労働を行う者及び職業としてではなく家事労働を行う者は、家事労働者でない。

   第二条

 1 この条約は、全ての家事労働者について適用する。

 2 この条約を批准する加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びに存在する場合には家事労働者を代表する団体及び家事労働者の使用者を代表する団体と協議した後に、次に掲げる種類の労働者の全部又は一部をこの条約の適用範囲から除外することができる。

  (a) 少なくとも同等の保護が別途与えられる種類の労働者

  (b) 実質的な性質の特別な問題が生ずる限られた種類の労働者

 3 2の規定を利用する加盟国は、国際労働機関憲章第二十二条の規定に基づくこの条約の適用に関する第

 一回の報告において、除外された特定の労働者の種類及びその除外の理由を明示し、その後の報告において、関係する労働者に対してこの条約の適用を拡大するためにとられた措置を明記する。

   第三条

 1 加盟国は、この条約に定めるところにより、全ての家事労働者の人権の実効的な促進及び保護を確保するための措置をとる。

 2 加盟国は、家事労働者に関し、次に掲げる労働における基本的な原則及び権利を尊重し、促進し、かつ実現するため、この条約に定める措置をとる。

  (a) 結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認

  (b) あらゆる形態の強制労働の撤廃

  (c) 児童労働の実効的な廃止

  (d) 雇用及び職業についての差別の撤廃

 3 家事労働者及び家事労働者の使用者が結社の自由及び団体交渉権の実効的な承認を享受することを確保するための措置をとるに当たり、加盟国は、家事労働者及び家事労働者の使用者が、自ら選択する団体、連合及び総連合を設立し、並びにこれらの団体の規約に従うことを条件としてこれらの団体に加入するための権利を保護する。

   第四条

 1 加盟国は、千九百七十三年の最低年齢条約(第百三十八号)及び千九百九十九年の最悪の形態の児童労働条約(第百八十二号)の規定に合致し、及び労働者全般のために国内法令によって定められた最低年齢を下回らない家事労働者のための最低年齢を定める。

 2 加盟国は、十八歳未満の家事労働者であって雇用についての最低年齢を上回るものが行う労働が、当該家事労働者から義務教育を奪わないこと又はその後の教育若しくは職業訓練に参加するための機会を妨げないことを確保するための措置をとる。

   第五条

 加盟国は、家事労働者が、あらゆる形態の虐待、嫌がらせ及び暴力に対する実効的な保護を享受することを確保するための措置をとる。

   第六条

 加盟国は、家事労働者が、労働者全般と同様に、公正な雇用条件及び適切な労働条件並びに当該家事労働者が家事労働を行う家庭に住み込む場合には当該家事労働者のプライバシーを尊重する適切な生活条件を享受することを確保するための措置をとる。

   第七条

 加盟国は、家事労働者に対し、雇用条件が、適切かつ検証可能な及び容易に理解することができる方法により、並びに望ましいものとして、可能な場合には、国内法令又は団体交渉の合意に基づく書面による契約により、特に次の事項について通知されることを確保するための措置をとる。

  (a) 使用者及び労働者の名称及び住所

  (b) 通常の職場の住所

  (c) 契約の開始日及び契約が一定の期間のためのものである場合にはその期間

  (d) 行うべき労働の種類

  (e) 報酬、計算方法及び支払の周期

  (f) 通常の労働時間

  (g) 年次有給休暇並びに日ごと及び一週間ごとの休息の時間

  (h) 該当する場合には、食料及び居住設備の提供

  (i) 該当する場合には、試用期間又は見習期間

  (j) 該当する場合には、送還の条件

  (k) 雇用の終了に関する条件(家事労働者又はその使用者のいずれかによる予告期間を含む。)

   第八条

 1 国内法令は、いずれかの国における家事労働のために他の国において募集される移民である家事労働者が、書面による採用通知又は当該家事労働が行われる国においてその実施を確保すべき雇用契約で前条に定める雇用条件を含むものを、当該採用通知又は当該雇用契約が適用される家事労働に就くことを目的として国境を越える前に、受け取ることを要求する。

 2 1の規定は、二国間の、地域的な若しくは多数国間の協定に基づき又は地域的な経済統合のための枠組みの範囲内で雇用を目的とする移動の自由を享受する労働者については、適用しない。

 3 加盟国は、移民である家事労働者についてこの条約の規定が効果的に適用されることを確保するため、相互に協力するための措置をとる。

 4 加盟国は、法令その他の措置による手段により、移民である家事労働者が募集された雇用契約の期間満了又は終了により送還の権利を有する条件について明らかにする。

   第九条

 加盟国は、家事労働者について、次のことを確保するための措置をとる。

  (a) 家事労働を行う家庭に住み込むか否かについて、使用者又は使用者となり得る者との間で合意に達することができること。

  (b) 家事労働を行う家庭に住み込む家事労働者は、日ごと及び一週間ごとの休息の時間又は年次休暇の期間において、当該家庭にとどまり、又は当該家庭に属する者と共にとどまる義務を負わないこと。

  (c) 旅行証明書及び身分証明書を継続して所持する権利を有すること。

   第十条

 1 加盟国は、家事労働の特殊な性質を考慮して、国内法令又は団体交渉の合意に基づく通常の労働時間、時間外労働に対する補償、日ごと及び一週間ごとの休息の時間並びに年次有給休暇の期間に関し、家事労働者と労働者全般との間の待遇の均等の確保に向けて措置をとる。

 2 一週間ごとの休息の時間は、少なくとも、連続する二十四時間とする。

 3 可能性のある呼出しに対応するため、家事労働者が自由に使用することができず、また、家庭が当該家事労働者を使用することができる状態が継続している時間については、国内法令、団体交渉の合意又は国内慣行に適合するその他の手段によって定める範囲内で、労働時間とみなす。

   第十一条

 加盟国は、最低賃金制度が存在する場合には、家事労働者が当該制度の適用を受け、及び報酬が性による差別なしに定められることを確保するための措置をとる。

   第十二条

 1 家事労働者は、一定の間隔で、少なくとも一箇月に一回、現金により直接に賃金の支払を受ける。支払は、国内法令又は団体交渉の合意に定めがない限り、関係する労働者の同意を得て、銀行口座振替、銀行小切手、郵便小切手、郵便為替その他の金銭の支払の適法な手段によって行うことができる。

 2 国内法令、団体交渉の合意又は仲裁裁定は、現物による支払の形式であり、他の種類の労働者に対して一般的に適用されるものよりも不利でない形式により、家事労働者の報酬の限定された割合を支払うことについて定めることができる。ただし、そのような現物による支払が労働者によって同意されること、当該現物による支払が労働者の個人的な使用のために行われ、かつ、労働者の利益となること及び当該現物による支払の金銭上の価値が公平かつ妥当なものであることを確保するための措置がとられることを条件とする。

   第十三条

 1 全ての家事労働者は、安全かつ健康的な作業環境についての権利を有する。加盟国は、国内法令及び国内慣行に従い、家事労働に特有の性質に妥当な考慮を払いつつ、家事労働者の職業上の安全及び健康を確保するための効果的な措置をとる。

 2 1に規定する措置は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びに存在する場合には家事労働者を代表する団体及び家事労働者の使用者を代表する団体と協議した上で、漸進的に適用することができる。

   第十四条

 1 加盟国は、国内法令に従い、及び家事労働に特有の性質に妥当な考慮を払いつつ、家事労働者が、社会保障による保護(母性に関するものを含む。)について労働者全般に適用される条件よりも不利でない条件を享受することができることを確保するための適当な措置をとる。

 2 1に規定する措置は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びに存在する場合には家事労働者を代表する団体及び家事労働者の使用者を代表する団体と協議した上で、漸進的に適用することができる。

   第十五条

 1  民間職業仲介事業所が募集し、又は紹介した家事労働者(移民である家事労働者を含む。)を不当な行為から効果的に保護するため、加盟国は、次のことを行う。

  (a) 国内法令及び国内慣行に従い、家事労働者を募集し、又は紹介する民間職業仲介事業所の運営を規律する条件を決定すること。

  (b) 家事労働者に関して、民間職業仲介事業所の活動に関する苦情並びに民間職業仲介事業所による不当な取扱い及び詐欺行為に関する申立てを調査する適当な制度及び手続が維持されることを確保すること。

  (c) 民間職業仲介事業所が自国の領域内で募集し、又は紹介した家事労働者に対し十分な保護を与え、及び当該家事労働者の不当な取扱いを防止するため、自国の管轄内で、適当な場合には他の加盟国と協力して、全ての必要かつ適当な措置をとること。この措置には、家事労働者に対する民間職業仲介事業所及び家庭のそれぞれの義務を明確にし、並びに制裁(詐欺行為又は不当な取扱いを行う民間職業仲介事業所の活動の禁止を含む。)を定める法令を含めること。

  (d) 家事労働者がいずれかの国で労働するために他の国において募集される場合には、募集、職業紹介及び雇用における不当な取扱い及び詐欺行為を防止するため、二国間の、地域的な又は多数国間の協定を締結することを考慮すること。

  (e) 民間職業仲介事業所が課する手数料が、家事労働者の報酬から差し引かれることがないことを確保するための措置をとること。

 2 この条の規定を実施するに当たり、加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体並びに存在する場合には家事労働者を代表する団体及び家事労働者の使用者を代表する団体と協議する。

   第十六条

 加盟国は、国内法令及び国内慣行に従い、全ての家事労働者が、自らが又は代表者を通じ、労働者全般について適用される条件よりも不利でない条件の下において裁判所、審判機関又はその他の紛争解決のための制度を有効に利用することができることを確保するための措置をとる。

   第十七条

 1 加盟国は、有効なかつ利用しやすい苦情に関する制度及び家事労働者の保護のために国内法令の遵守を確保するための措置を定める。

 2 加盟国は、国内法令に従い、家事労働の特殊な性質に妥当な考慮を払いつつ、労働監督、執行及び制裁のため、措置を策定し、実施する。

 3 国内法令に合致する限り、これらの措置には、プライバシーに十分な考慮を払いつつ、家屋内への立入りが認められる条件を明示する。

   第十八条

 加盟国は、最も代表的な使用者団体及び労働者団体と協議した上で、法令及び団体交渉の合意又は国内慣行に適合する追加的な措置により、適当な場合には、家事労働者について適用するための既存の措置の拡大若しくは適合又は家事労働者のための個別の措置の策定により、この条約を実施する。

   第十九条

 この条約は、家事労働者について他の国際労働条約に基づき適用可能な規定であって一層有利なものに影響を及ぼすものではない。

   第二十条

 この条約の正式な批准は、登録のため国際労働事務局長に通知される。

   第二十一条

 1 この条約は、加盟国であって自国による批准が国際労働事務局長に登録されたもののみを拘束する。

 2 この条約は、二の加盟国による批准が国際労働事務局長に登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

 3 この条約は、その効力が生じた後は、いずれの加盟国についても、自国による批准が登録された日の後十二箇月で効力を生ずる。

   第二十二条

 1 この条約を批准した加盟国は、この条約が最初に効力を生じた日から十年を経過した後は、登録のため国際労働事務局長に送付する文書によってこの条約を廃棄することができる。廃棄は、登録された日の後一年間は効力を生じない。

 2 この条約を批准した加盟国であって1に規定する十年の期間が満了した後一年以内にこの条に定める廃棄の権利を行使しないものは、更に十年間拘束を受けるものとし、その後は、新たな十年の期間の最初の年に、この条に定める条件に従ってこの条約を廃棄することができる。

   第二十三条

 1 国際労働事務局長は、加盟国から通知を受けた全ての批准及び廃棄の登録について全ての加盟国に通報する。

 2 国際労働事務局長は、通知を受けた二番目の批准の登録について加盟国に通報する際に、この条約が効力を生ずる日につき加盟国の注意を喚起する。

   第二十四条

 国際労働事務局長は、国際連合憲章第百二条の規定による登録のため、登録された全ての批准及び廃棄の完全な明細を国際連合事務総長に通知する。

   第二十五条

 理事会は、必要と認めるときは、この条約の運用に関する報告を総会に提出するものとし、また、この条約の全部又は一部の改正に関する問題を総会の議事日程に加えることの可否を検討する。

   第二十六条

 1 総会がこの条約を改正する条約を新たに採択する場合には、その改正条約に別段の規定がない限り、

  (a) 加盟国によるその改正条約の批准は、その改正条約が自国について効力を生じたときは、第二十二条の規定にかかわらず、当然にこの条約の即時の廃棄を伴う。

  (b) この条約は、その改正条約が効力を生ずる日に加盟国による批准のための開放を終了する。

 2 この条約は、これを批准した加盟国であって1の改正条約を批准していないものについては、いかなる場合にも、その現在の形式及び内容で引き続き効力を有する。

   第二十七条

 この条約の英文及びフランス文は、ひとしく正文とする。