[文書名] 宇宙基本計画
目次
はじめに・・・p3
第1章宇宙基本計画の位置付けと新たな宇宙開発利用の推進体制・・・p4
1‐1.宇宙基本計画の位置付け・・・p4
1‐2.宇宙基本計画の対象期間・・・p4
1‐3.宇宙開発利用の推進体制・・・p4
第2章宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針・・・p5
2‐1.現状認識・・・p5
2‐2.基本的な方針・・・p6
(1)宇宙利用の拡大
(2)自律性の確保
2‐3.施策の重点化の考え方と3つの重点課題・・・p7
2‐4.我が国の宇宙開発利用に関する6つの基本理念・・・p7
(1)宇宙の平和的利用
(2)国民生活の向上等
(3)産業の振興
(4)人類社会の発展
(5)国際協力等の推進
(6)環境への配慮
第3章宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策・・p14
3‐1.宇宙利用拡大と自律性確保を実現する4つの社会インフラ・・・p14
A.測位衛星・・・p14
B.リモートセンシング衛星・・・p16
C.通信・放送衛星・・・p19
D.宇宙輸送システム・・・p21
3‐2.将来の宇宙開発利用の可能性を追求する3つのプログラム・・・p24
E.宇宙科学・宇宙探査プログラム・・・p24
F.有人宇宙活動プログラム・・・p26
G.宇宙太陽光発電研究開発プログラム・・・p28
3‐3.宇宙空間の戦略的な開発・利用を推進するための8つの横断的施策・・・p29
(1)宇宙利用の拡大のための総合的施策の推進・・・p29
(2)強固な産業基盤の構築と効果的な研究開発の推進・・・p30
(3)宇宙を活用した外交・安全保障政策の強化・・・p32
(3‐1)宇宙外交の推進・・・p32
(3‐2)宇宙を活用した安全保障政策の強化・・・p34
(3‐3)国別対応方針・・・p36
(4)相手国のニーズに応えるインフラ海外展開の推進・・・p38
(5)効果的な宇宙政策の企画立案に資する情報収集・調査分析機能の強化・・・p39
(6)宇宙開発利用を支える人材育成と宇宙教育の推進・・・p40
(7)持続的な宇宙開発利用のための環境への配慮・・・p41
(8)宇宙活動に関する法制の整備・・・p42
3‐4.宇宙関連施策を効率的・効果的に推進する方策の在り方・・・p43
(1)重複排除
(2)民間活力の活用
(3)関係府省間の連携強化
(4)海外展開支援のための施策連携
(5)研究開発事業の省庁間連携や宇宙開発利用の事業評価の徹底等
(6)運用経費や施設設備の維持費の合理化
第4章宇宙基本計画に基づく施策の推進・・・p45
(1)宇宙基本計画に基づく施策の実施
(2)施策の進捗状況のフォローアップと公表
(3)宇宙以外の政策との連携
はじめに
本計画は、我が国の宇宙政策の司令塔機能を担う宇宙戦略室と宇宙政策委員会が内閣府に設置されるなど、我が国の宇宙政策を一体的に推進していくための体制が整備されて初めて取りまとめられたものである。
宇宙開発利用を取り巻く国内外の環境は、前回の宇宙基本計画を策定した平成21年当時に比べて大きく変化してきている。
海外においては、欧米における財政の逼迫とそれに伴う民間活力の一層の活用、中国による独自の測位衛星システムや宇宙ステーションの構築、新興国を中心とした衛星保有の拡大などが挙げられる。
我が国においては、産業基盤の一層の維持、強化の要請に加え、昨今の国際情勢を踏まえ安全保障上の要請が一段と高まるとともに、東日本大震災からの復興と巨大リスクに備えた経済社会構造の確立、防災や減災対応の強化を含めた安心安全の確保の要請が高まっている。
我が国の宇宙政策は、このような環境変化に対応していくために、従来の技術開発に重きを置いた施策から、利用を重視し、出口戦略を明確にしたものへと改めなければならない。
前回の宇宙基本計画は、5年間で官民合わせて最大2.5兆円程度の資金が必要との試算を前提に策定されていたが、実際には、厳しい財政事情の中で、これまでの政府の宇宙関係予算は、毎年度約3000億円の横ばいで推移しており、民間事業者による民間需要や海外需要の獲得も十分とは言えない状況にある。
我が国の財政事情が近い将来において大幅な改善を見込むことが困難な中で、宇宙利用による社会の高度化や効率化を目指すとともに、これを実現する産業基盤を維持、強化していく必要がある。そのためには、宇宙産業が国内の政府需要に過度に依存する現状から、アジアを始めとする新興国への展開、防災面における国際連携など世界的なニーズを視野に入れたものにならなければならない。
こうした状況を踏まえ、今後の宇宙政策は、総花的に行うのではなく、限られた資源を前提に、重点的に行うべき分野を絞って、最大限の成果を上げるように推進しなければならない。
第1章 宇宙基本計画の位置づけと新たな宇宙開発利用の推進体制
1‐1.宇宙基本計画の位置付け
宇宙基本計画は、宇宙基本法(平成20年法律43号)第24条に基づいて、我が国の宇宙開発利用に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために策定されるものであり、我が国の宇宙開発利用の最も基礎となる計画として位置付けられる*1*。
1‐2.宇宙基本計画の対象期間
宇宙基本計画は、今後10年程度を視野に置いた平成25年度からの5年間を対象とする。
なお、本計画は、策定から5年後を目途に全体の見直しを行うこととするが、フォローアップの結果等を踏まえ、必要に応じて随時見直しを行う。
1‐3.宇宙開発利用の推進体制
平成24年7月の法律改正(内閣府設置法等の一部を改正する法律)により、内閣府が我が国の宇宙政策の司令塔機能を担うこととなった。これにより、我が国の宇宙政策が全体として一層総合的かつ計画的に推進されることになる。
内閣府は、宇宙開発利用の推進や、宇宙開発利用に関する経費の見積りの方針など関係省庁の事務の調整を行うとともに、準天頂衛星システムのように多様な分野において公共の用又は公用に供される衛星の開発、整備、運用に関する事務を所掌することとなった。
また、独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、政府全体の宇宙開発利用を技術で支える中核的な実施機関に位置付けられ、JAXAの中期目標は宇宙基本計画に基づくことが規定された*2*。これにより、JAXAは、宇宙基本計画の中で位置付けられた国の施策について必要な貢献を行うこととなった。これを受けて、宇宙の利用の推進に関する事務を担う内閣府の長たる内閣総理大臣がJAXAの主務大臣となった*3*。さらに、民間事業者の求めに応じて援助や助言を行う業務がJAXAに追加され、従来の主務大臣である文部科学大臣、総務大臣と連携して、新たに内閣総理大臣と経済産業大臣がJAXAを活用して産業振興を行うこととなった*4*。
第2章 宇宙開発利用の推進に関する基本的な方針
2‐1.現状認識
(世界の宇宙開発利用を巡る動向)
米国、ロシア、欧州、日本を中心として進められてきた宇宙の開発及び利用は、近年途上国にまでその広がりを見せている。特に、中国が独自に宇宙ステーションを構築するなど宇宙開発利用を急速に進めるとともに自国の宇宙システムの海外展開のための取組を活発化させているほか、インドが火星探査計画や有人宇宙活動への取り組みを打ち出すともに、打ち上げサービスに参入するなど国際的に注目すべき存在になっている。また、防災や安全保障の必要性から、新興国が自前の人工衛星を保有する動きが活発化してきている。
宇宙の利用は、国境を越える広範な地域へのサービスの提供や地球規模の事象の把握が可能であるなどの特性から、現在、世界的に衛星測位、通信・放送、リモートセンシングを中心に、民生・安全保障の両分野において積極的に進められており、社会のインフラとして深く浸透し、定着している。
1990年代以降、冷戦終結後の軍事関連需要の減少を背景として宇宙産業の再編と商業利用が著しく進展した。民生分野における宇宙利用が拡大するとともに、安全保障分野やその他の政府需要においても民間活力の活用が進展してきている。例えば、欧州では早期に官民連携の下で宇宙開発利用の商業化に取り組み、米国においてもスペースシャトルを退役させ、国際宇宙ステーションへの物資や人員の輸送は民間事業者からサービス調達する動きとなっている。
(我が国の宇宙開発利用を巡る動向)
これまで我が国の宇宙開発利用は、主に技術の獲得に重点を置いて取り組まれてきた。この結果宇宙輸送手段(ロケット)の獲得、宇宙科学分野における新たな発見、国際宇宙ステーションを通じた有人宇宙技術の獲得等の成果を上げてきた。また、気象衛星や通信・放送衛星など具体的な利用者のニーズに基づいて衛星開発が行われた分野では実利用にまで結び付いた。
我が国では、1990年以降、宇宙に関する政府投資が一層研究開発に重点を置いて進められるようになった。その結果として、産業が政府による研究開発投資に過度に依存する体質となり、関連企業の撤退など産業基盤の弱体化が懸念される状況となった。
今後は、気象衛星や通信・放送衛星など産業や国民生活にとって不可欠となるような宇宙の利用を推進していかなければならない。そのためには、政府の研究開発は、成果が十分に産業、行政、生活の高度化、効率化に繋がるようにする必要がある。
特に、2011年の東日本大震災では、地上の通信システムが機能不全に陥ったため衛星通信が被災地での通信確保に大いに貢献した。また、放射能汚染によって人が近づけなくなった原子力発電所の様子を衛星画像は把握することができた。地上の環境変化に影響を受けづらい宇宙システムは災害対応等に有効であることが再認識された。
また、安全保障面における宇宙の利用は、宇宙基本法制定までは利用が一般化した範囲に限定されていたが、宇宙基本法制定後は、衛星通信、情報収集等、安全保障分野での宇宙利用の一層の拡大が期待されている。
2‐2.基本的な方針
我が国の宇宙政策の基本的な方針は、宇宙基本法の理念に則り、1宇宙の利用によって、産業、生活、行政の高度化及び効率化、広義の安全保障の確保、経済の発展を実現すること(宇宙利用の拡大)と、2民需確保などを通じた産業基盤の適切な維持及び強化を図ることにより、我が国の自律的な宇宙活動のための能力を保持すること(自律性の確保)である。
(1)宇宙利用の拡大
宇宙空間の利用によって気象予報、通信・放送、カーナビゲーション等、新たなサービスや製品を創出し、国民生活の質の向上が図られることが重要である。特に、自然災害の多い我が国における災害対応や安全保障の確保に有効な手段として宇宙利用が期待されている。
今後、通信・放送、衛星測位、リモートセンシングの利用により、産業、行政、生活の一層の高度化及び効率化が見込まれることから、この分野における利用拡大を図るための施策を重点的に行うべきである。
衛星通信・衛星放送については民間企業が主体的にサービスを提供しており、宇宙利用が進展している。衛星測位については、我が国は米国GPSの最大の利用国となっており、そのGPSを補完・補強する準天頂衛星システムの整備計画が進捗中である。
リモートセンシングについては、行政や産業の需要に応えるデータを継続的かつ即時的に提供することが重要である。また、新たな宇宙利用のためのニーズの開拓も重要である。
その際、民間事業者の能力の活用や、アジア諸国等との宇宙システムの連携運用や共同利用等、国際協力の観点も重要である。
(2)自律性の確保
宇宙活動は、我が国の安全保障や社会的経済的利益の確保のために不可欠であり、自律的に行う能力を保持することは、我が国宇宙政策の基本である。
そのために最低限必要となるのは、測位、リモートセンシング(気象観測、情報収集等)、衛星通信・放送を行う人工衛星の製造・運用能力及びこれらの人工衛星を他国に依存することなく打ち上げる能力の確保であり、これを支える国内産業基盤の維持、強化、発展である。
現在、我が国の宇宙産業は大きく政府需要に依存しているが、今後は民間需要や海外需要を取り込むことによって、できる限り政府需要への依存度を下げ、産業基盤の維持、強化を図ることが必要である。そのため、産業競争力の強化を目的とした研究開発による支援や宇宙産業を支える人材の育成が必要不可欠である。
2‐3.施策の重点化の考え方と3つの重点課題
宇宙開発利用を推進するためには多額の国の資金と長期の時間を要する。一方、我が国の厳しい財政事情を踏まえ、限られた資源で最大限の成果を上げるためには、事業の優先順位をつけて実施することが必要不可欠である。
重点化に当たっては、宇宙利用の拡大と自律性の確保に向けて、国費を投入して宇宙開発を進めるため、国益、費用対効果や施策目標等を十分に考慮し、最も効率的かつ効果的な施策に対して優先的に予算等の資源を配分する。
また、人類の英知を高める宇宙科学や将来に向けた人類の活動領域の拡大等に寄与する有人宇宙活動や宇宙探査は引き続き重要である。したがって、宇宙利用の拡大と自律性の確保に向けた取組について必要十分な資源を確保し、学術コミュニティーによるボトムアップの議論を踏まえ実施される宇宙科学(学術としての宇宙探査を含む)に一定規模の資源を充当した上で、宇宙探査(有人・無人双方を含む)や有人宇宙活動等にも資源を割り当てる。
大型の宇宙探査は、国際協力を前提として外交・安全保障、産業基盤の維持、産業競争力の強化、科学技術等の様々な側面から判断されなければならない。
上記の考え方を踏まえ、「安全保障・防災」「産業振興」「宇宙科学等のフロンティア」の3つの課題に重点を置くとともに、宇宙開発利用を支える科学技術力や産業基盤の維持、向上を図ることが重要であり、その解決に向けて実現するべき目標を明らかにする。また、当該目標を実現するための個別の宇宙開発利用施策の重点化及び効率化の在り方については、毎年度、宇宙開発利用に関する経費の見積り方針の中で示すものとする。
2‐4. 我が国の宇宙開発利用に関する6つの基本理念
上記の方針や考え方の下、我が国宇宙開発利用に関する施策を推進するに当たっては、宇宙基本法の6つの基本理念に則る必要がある。
(1)宇宙の平和的利用
四方を海で囲まれた我が国にとって、平素から我が国周辺海空域を常時監視し、各種事態の兆候を早期に探知して、収集した各種情報を迅速に伝達・共有する機能を強化する上で、宇宙空間の利用は極めて重要な手段の一つと位置付けられる。
このような観点から、平成27年度からの運用を目途に自衛隊の通信に利用する新たな通信衛星の整備が進められており、宇宙空間を利用したC4ISR*5*の機能強化が着実に進んでいるほか、厳しい財政事情の中、我が国の安全保障に資する調査・研究等が行われている。
また、平成10年度に導入が決定された情報収集衛星は、外交・防衛等の安全保障及び大規模災害等への対応等の危機管理に必要な情報の収集に活用されており、今後ともその機能の拡充・強化が必要である。
なお、諸外国においても、防衛分野での宇宙利用が進められていることから、今後の動向について、十分な注視が必要である。また、安全保障用途で培った技術であっても一定期間が経過するなど安全保障に支障がないものを民生に応用することにより、産業基盤の維持、強化に資することも重要である。
また、民生・安全保障両分野において宇宙空間の利用が拡大するにつれ、我が国の持続的な宇宙開発利用を確保するためには、スペースデブリ(宇宙のゴミ。以下「デブリ」という。)との衝突等から人工衛星等を防護することなどを目的とした宇宙状況監視(SSA: Space Situational Awareness)体制の構築が重要な課題となっている。政府が保有する各種機能の有効活用に加え、関係省庁が民生及び外交・安全保障の両観点から適切な対応を取ることが重要である。
安全保障分野での宇宙利用に際しては、宇宙基本法を踏まえ、我が国が締結した国際約束の定めるところに従い、日本国憲法の平和主義の理念に基づき、国際情勢、とりわけ北東アジアの状況をも十分に踏まえつつ、特に我が国の安全保障に資する情報収集、警戒監視、情報通信機能等を強化するとの観点から宇宙開発利用を推進する。
宇宙基本法を踏まえた2012年の法律改正(内閣府設置法等の一部を改正する法律)によって、JAXAの目的が見直されたことから、安全保障分野における貢献が重要である。
(2)国民生活の向上等
我が国の宇宙開発利用は、気象衛星による日々の天気予報、通信・放送衛星によるデータ通信や衛星放送、陸域・海域観測衛星による地図作成、資源探査、農林漁業への活用や災害監視、GPSによるカーナビゲーションや測量など、既に日常生活に不可欠な存在として定着してきている。
しかし、上記の分野を除き、その利用は、まだ緒についたばかりのものが多い。産業、生活、行政の高度化、効率化、防災など、より一層安心安全で豊かな社会の実現に向けて宇宙利用が有する潜在能力を最大限に活用していくことが喫緊の課題である。
特に、東日本大震災を踏まえ、我が国の防災及び災害対応に対する意識は大きく高まった。宇宙システムは、地上の変化に影響を受けない、広範な地域にサービスができるなど防災及び災害対応に有効な特性を持っている。こうした特性をいかして、準天頂衛星等による地殻変動や津波の検知、リモートセンシング衛星による被災状況の把握、災害時に有効な衛星通信ネットワークの確立等を検討するべきである。
また、人工衛星のみでなく地上システム等とも連携してより利用価値を高め、専門家にとどまらず潜在的な一般の利用者も含めた利用拡大を図るとともに、衛星データ利用の利便性向上を図ることなどが重要である。
(3)産業の振興
宇宙産業*6*は我が国の宇宙活動を支える重要な基盤である。宇宙産業は先端技術の結集であり、広い裾野産業を有することから、新たなイノベーションを創出するなど産業全般への高い波及効果と大きな経済効果が期待される。
また、宇宙産業は、通信・放送サービス、衛星画像を使った地図利用サービス、ナビゲーションなどの測位サービスといった宇宙を利用したサービス産業にも拡がりを持つ。
しかし、現下の厳しい財政状況においては、政府投資だけでは、産業基盤を維持、強化するために十分な需要を確保することは困難である。民間の調査によれば、日本の宇宙機器産業規模は、1990年代後半には売上高は3500億円を超え、従業員数も1万人近くであったが、現在、売上高は約2600億円、従業員数も7千人程度で推移している。
今後、我が国の産業基盤の維持、強化を図るためには、我が国宇宙産業が国際競争の中で民間需要及び海外需要を取り込みつつ、我が国宇宙産業の事業拡大を図ることが重要である。
近年、我が国の気象衛星に加えて、トルコやベトナムにおいても、日本企業が受注に成功したものの、依然として我が国の宇宙産業の国際競争力は十分ではなく、これまでは国内民間企業が調達する実用衛星も外国製がほとんどである。また、我が国衛星通信事業者が運用する衛星は20機程度にとどまっている。ロケット打ち上げサービスにおいても、これまで我が国の民間企業が国内外の商業衛星の打ち上げサービスを受注した実績は韓国の1件のみである。産業界による民需獲得への取組はようやく緒についた段階であり、宇宙システムのインフラ海外展開を政府を挙げて推進していく必要がある。
人工衛星については、欧米では政府需要をベースに軌道上での運用実績を積み上げ、その成果により民間顧客の信頼を得ており、国際市場では欧米企業によるシェアが依然高い。我が国は欧米と比較して政府需要が少なく、かつ1990年以降、事業化や産業振興に向けた研究開発等が十分ではなかったことからから、いまだ軌道上での運用実績が不十分であり、世界市場において一定のシェアを獲得できていない状況にある。また、ロケット打ち上げサービスについても我が国は同様の状態にあり、世界的には欧州やロシアが商業打ち上げ市場を席巻し、中国やインドも参入している状況にある。
また、宇宙機器に用いられる部品・素材は、少量生産かつ他分野へ応用ができない特殊なものが多いため、採算性の観点から撤退する事例が増えている。また、海外から調達する部品・素材については、部品の不具合や事業者の突然の製造中止により、安定的な調達が困難となる事例が見られる。
我が国の部品・素材産業は、軌道上運用実績の少なさや価格の高さなどにより、国際市場で一定のシェアを確保しているものはまだ限定的であるが、地球センサ、トランスポンダ、リチウムイオンバッテリ、ヒートパイプパネル、太陽電池パネルなどシステム構成品として国際的に競争力を有するものについては、全体システムにこだわることなく、積極的に海外展開を推進するべきである。他方、国際競争力を有しないものについては、特に国内に産業基盤を維持するべきものを特定した上で、技術開発や政府一体となっての効率的な実証機会の提供等の支援に取り組む必要がある。
加えて、人工衛星やロケット等の開発に必要な試験設備や打ち上げ関連設備等についても、老朽化対策を含め、開発スケジュールに影響を与えないような対応が必要である。
また、他の分野で優れた技術を有する新規事業者やベンチャー企業の参入を促し、宇宙産業の裾野を拡大していくことも、我が国の産業基盤維持・発展の観点から重要であり、政府は新たな参入の環境整備に取り組む必要がある。
事業者が宇宙機器の提供に止まらず、課題解決型(ソリューション提供型)のサービスの提供を目指すことも重要である。
(4)人類社会の発展
宇宙は人類に残されたフロンティアであり、人類の知的資産の蓄積、活動領域の拡大に加え、宇宙空間における新たなエネルギー利用など、多くの可能性を秘めている。過酷な宇宙空間に挑戦し、宇宙空間の具体的な実利用の可能性を現実のものとすることは、先端的な科学技術の研究開発なしには、為し得ないものである。
このような先端的な研究開発を進めることは、新しい技術のブレークスルーをもたらすとともに、その成果は国民の生活を豊かにし、活力ある未来を創造する上でも大きな可能性を秘めている。
宇宙天文学、惑星探査等の研究を行う宇宙科学は、太陽系や宇宙の起源や生命の成り立ち等の謎を解き明かすことを目指した理学研究とそれを可能とする探査機などの先進的な工学研究とが一体となって、学術コミュニティーによるボトムアップの議論を踏まえて実施されてきており、我が国の宇宙科学は常に世界の最先端の成果を挙げてきている。小惑星探査機「はやぶさ」が困難を乗り越えて小惑星「イトカワ」のサンプルを持ち帰ったことは記憶に新しい。
また、有人宇宙活動においては、国際宇宙ステーション計画(ISS計画)への参加を通じて、有人宇宙活動を支える技術を獲得するなど、日本人宇宙飛行士が同計画遂行に貢献している。2009年に完成した我が国実験棟「きぼう」における高品質タンパク質結晶化による創薬への応用など、国民生活に役立つ可能性のある成果として期待されている。
大型の宇宙探査(有人・無人双方を含む)については、外交・安全保障、産業基盤の維持、産業競争力の強化、科学技術等の様々な側面からトップダウンで判断されるべきであり、長期的な展望に基づく計画的な推進が必要である。事業の実施に当たっては、上記の有人活動と合わせて優先順位を明らかにして進めるべきである。
我が国は、これまでの成果や培った技術に立って、宇宙先進国として、宇宙の真理の探究や人類の活動領域を拡大するための宇宙科学や宇宙探査に取り組むことが重要である。
(5)国際協力等の推進
これまで我が国は、地球観測に関する政府間会合(GEO: Groupon Earth Observations)、アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF: Asia‐Pacific Regional Space Agency Forum)、センチネルアジア、国際災害チャータなどの枠組みを通じ、「ひまわり」や「だいち」など我が国の人工衛星を活用して、アジア地域における気象情報の提供、災害監視、気候変動予測等への衛星データの提供等、地球規模の課題への取組に貢献するとともに、宇宙科学、国際宇宙ステーション計画、宇宙探査においても、宇宙先進各国と協力関係を築き、着実に科学技術分野での貢献を果たしてきており、これらの取組は、我が国の国際プレゼンスの向上に寄与している。
このような宇宙分野の国際協力は、国際的に高く評価されており、我が国の外交ツールとして有効に活用し、「宇宙外交」を推進していくことが重要である。また、今後は、相手国からの要請に基づく国際協力に加え、我が国宇宙システムの海外展開の支援や宇宙分野の産業協力など、相手国との互恵的な仕組みを積極的に取り入れることが重要である。
宇宙開発利用には人工衛星等の開発から打ち上げまでに多額の費用を要することに鑑みれば、全てを我が国独力で行うことは困難であり、ISSのように他国との役割分担を含む協力関係を築くことにより、効果的な宇宙開発利用の実現が可能となるよう各国と関係を深めることが重要である。
例
えば、防災や災害監視等に役立つリモートセンシング衛星に対するニーズは、アジア諸国を始めとする新興国でも近年極めて高いものがある。こうした国々にも我が国宇宙システムの導入を促し、相手国と我が国との間で衛星の共同運用や衛星データの相互利用を可能とすることにより双方にとって価値のある国際協力が実現できる。
このような取組は、協力相手国の防災能力の向上等に資するとともに、我が国宇宙産業の基盤の維持、強化にもつながる。諸外国の民間企業が、本国政府の強力な支援を得つつ、国外における受注獲得を果たしていることから、我が国も政府一体となり、また、官民連携してインフラ海外展開に積極的に取り組む必要がある。
具体的には、政府が二国間協力、輸出金融、貿易保険、政府開発援助(ODA)を含む公的資金等の支援、在外公館の活用などにより、諸外国におけるニーズを取り込むことが重要である。ベトナム政府からの宇宙センター構築、宇宙システム導入及び人材育成等の要請に対して、我が国政府が関係府省連携して応えることができたのは、我が国宇宙システムのインフラ海外展開の好例として、また宇宙分野における新たな国際協力の形態として、特筆すべきである。このような取組は、2011年11月の日ASEAN首脳会議で高く評価された「ASEAN防災ネットワーク構築構想」*7*にも貢献できるものである。
アジア諸国を中心とした新興国では、単なる宇宙システムの導入のみならず、自国の技術者や産業の育成、さらには具体的な課題解決に高い関心を示していることから、我が国としては、相手国のニーズに応えつつ、上述のような宇宙システムの共同利用などを通じて、これらの国々との関係を深めていくことが重要である。
さらに、安定的かつ持続可能な宇宙環境の確保のため、宇宙空間の活用に関する国際的な規範づくりが喫緊の課題である。これまでの国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS: Committee on the Peaceful Uses of Outer Space)やジュネーブ軍縮会議(CD: Conference on Disarmament)等の場を通じた議論に加え、欧州連合(EU)が提案する「宇宙活動に関する国際行動規範」(International Code of Conductfor Outer Space Activities)など民生・安全保障両分野での適切なルールの構築に向けて、我が国としても積極的に貢献する必要がある。
(6)環境への配慮
宇宙開発利用は、国民生活の利便性の向上や産業、行政の高度化、効率化に寄与するのみならず、地球規模のエネルギー・環境問題の解決への手段となり得る可能性を秘めている。そのような宇宙開発利用を進めるに当たり、宇宙開発利用自体においても、地球環境への配慮とともに、宇宙空間における環境への配慮が不可欠である。
地球環境への配慮の観点からは、気候変動等の地球環境問題の効率的、効果的な解決のために宇宙空間の開発・利用が重要である。
宇宙環境への配慮の観点からは、宇宙空間に放出されるロケットの上段や運用を終了した人工衛星等の破片などの人工物がデブリとして軌道上に存在し、人工衛星等に衝突すると大きな被害をもたらすおそれがあるため、デブリの発生抑制や削減のための対応が重要である。
2007年1月、中国が自国の人工衛星を弾道ミサイルにより破壊する実験を行ったことに続き、2009年2月には、米国とロシアの人工衛星が周回軌道上で衝突したことにより多数のデブリが発生した。今後、デブリの数はデブリ同士の衝突連鎖によっても更に増大していくと予想されている。
持続的な宇宙開発利用を確保するためには、デブリ問題への適切な対応が必要である。
第3章 宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策
宇宙開発利用に関し政府が総合的かつ計画的に実施すべき施策は、前章の基本的な方針、施策の重点化の考え方等を踏まえて推進する。
前章に示した3つの重点課題の「安全保障・防災」「産業振興」「宇宙科学等のフロンティア」を追究するに当たって、我が国は以下の「宇宙利用拡大と自律性確保を実現する4つの社会インフラ(A〜D)」、「将来の宇宙開発利用の可能性を追求する3つのプログラム(E〜G)」、「3‐3.宇宙空間の戦略的な開発・利用を推進するための8つの横断的施策」及び「宇宙関連施策を効率的・効果的に推進する方策の在り方」に取り組む。
3‐1.宇宙利用拡大と自律性確保を実現する4つの社会インフラ
A.測位衛星
(1)現状
衛星測位分野においては、米国、ロシア、欧州及び中国が全球測位衛星システム(GNSS:GlobalNavigationSatelliteSystem)の構築を進め、インドは地域的な測位衛星システムの整備を進めている。衛星測位の精度を高める補強機能と併せて、今後衛星測位の利用の拡大が予想される。
準天頂衛星システムは、米国のGPSを補完、補強*8*するものであり、産業の国際競争力強化、産業、生活、行政の高度化、効率化、アジア太平洋地域への貢献と我が国プレゼンスの向上、日米協力の強化及び災害対応能力の向上等広義の安全保障に資するものである。政府は、2010年代後半を目途にまずは4機体制を整備し、将来的には持続測位が可能となる7機体制を目指すこととしている(「実用準天頂衛星システム事業の推進の基本的な考え方」(平成23年9月30日閣議決定)。これに向けて、現在、準天頂衛星システム初号機「みちびき」による技術実証及び利用実証が行われており、平成24年度に実用システムの整備に着手した。
(2)課題
① 準天頂衛星システムの利用拡大と海外展開
準天頂衛星システムの利用拡大及び利便性の向上を図るため、現在運用中の「みちびき」を用いた社会実証等を推進していく必要がある。
また、準天頂衛星システムは、その軌道特性からアジア太平洋地域においても利用可能であり、我が国産業の国際競争力強化、当該地域への国際貢献や我が国プレゼンスの向上を図る観点から、官民が連携して、準天頂衛星システムの海外展開のための国際協力を推進していく必要がある*9*。
準天頂衛星システムの利用拡大や海外展開に当たっては、パーソナルナビゲーション、測量、IT農業,IT施工等多分野における利用可能性があるため、関係府省間及び産業界の連携強化が必要である。また、アジア太平洋地域における準天頂衛星システムの利用コミュニティー作りが必要である。
② 次世代測位衛星関連技術の研究開発
米国GPSは、約5年ごとに新たな信号を追加して利用者の利便性等の向上を図っており、絶えず技術革新を行っている。我が国においても、将来を見据えた次世代測位衛星技術の研究開発が必要である。
また、衛星測位の利用分野の拡大や利便性の向上を目的とした研究開発は今後とも重要であり、屋内測位技術(IMES: Indoor MEssaging System)や準天頂衛星システムの信号を活用したアプリケーション開発等に引き続き官民が連携して取り組むべきである。
③ 測位信号に対する干渉影響の評価と対応
測位衛星の信号は非常に微弱で他からの電波干渉を受けやすい性質がある。衛星測位を社会全体で安心して利用するために、測位信号に対する干渉影響の評価と対応方策を検討する必要がある。
④ 有事への対応
準天頂衛星システムは、主に政府機関による利用を念頭においた公共専用信号を有するとともに、測位精度を飛躍的に向上させることから、安全保障の観点から有事においても悪用されることがあってはならない。
米国では有事等の際には、GPS衛星からのサービス提供を継続しつつ、米軍が必要に応じて米国内又は海外の限定された地域で妨害電波を発してその利用を制限するというRegional Denial政策をとっている。準天頂衛星システムも外的要因に対する一定の抗たん性を持ち、安定的なサービスが確保されるものでなければならない。
(3)今後10年程度の目標
2010年代後半を目途にまずは4機体制を整備する。準天頂衛星システムを活用した新たな機器やサービスを、我が国を始めアジア太平洋地域に提供する。
(4)5年間の開発利用計画
① 事業計画の着実な推進
2010年代後半を目途に4機体制を構築するため、準天頂衛星システムの開発、整備を着実に推進する。内閣府が準天頂衛星システムの開発・整備・運用の主体となることから、現在、JAXAの下で運用されている準天頂衛星初号機「みちびき」を含めて内閣府で一体的に運用する体制とする。
② 利用拡大と海外展開の推進
初号機「みちびき」を活用し、社会実証事業や海外展開に必要となる取組を引き続き行うことにより、準天頂衛星システムの利用拡大及び利便性の向上と海外展開を進める。
衛星測位は、多様な分野での活用が期待されることから、産学官連携の体制整備を図るとともに、アジア太平洋地域における産業界、学会、政府等を糾合するコミュニティー作りに積極的に取り組む。また、衛星測位の利用技術の研究開発や海外の研究機関との連携を強化するため、衛星測位に係る研究・教育拠点を国内に整備する。
③ 国際連携の推進測位衛星の保有国が参加する国際的な枠組み(測位衛星システムに関する国際委員会(ICG:International Committee on GNSS)等)を活用し、測位衛星の利用拡大を進める。
④ 研究開発の推進
世界的な衛星測位技術の進展に対応し、測位衛星の機能の向上や、利用拡大、利便性の向上等を図るため、初号機「みちびき」を活用した利用技術の研究や次世代測位衛星技術の研究開発に引き続き取り組む。特に、干渉影響対策や有事における抗たん性確保のための研究を行う。
⑤ G空間社会推進施策との連携
準天頂衛星システムで取得した個人情報等の扱いや政府として活用する範囲などの枠組みを検討するとともに、地理空間情報活用推進基本法に基づく地理情報システム(GIS)との連携を強化し、地理空間情報を高度に活用できるG空間社会の実現を図る。
B.リモートセンシング衛星
(1)現状
リモートセンシング衛星は、安全保障、気象観測、地球環境観測等の特定目的毎の開発、利用のほか、地図作成、地域監視、災害状況把握、資源探査等の多目的に利用されている。
一般的に陸域・海域観測の分野では、当初Landsat(米)などのように政府が主体となって整備が進められてきたが、近年は、SPOT(欧)、WorldView(米)、Geoeye(米)など官民連携によって整備されるケースが多くなっている。これらの衛星は各国とも公的利用が中心であるが、欧米では、長期購入契約(アンカーテナンシー)や官民連携(PPP)など民間活力の活用により、衛星開発、運用が進められている。
一方、地球環境観測の分野では、これまで学術目的や公的利用に供されることが多く、米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)等の公的機関が整備運用している場合が多い。
我が国においては、情報収集衛星、陸域観測技術衛星「だいち」、気象衛星「ひまわり6号、7号」、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」などが政府主体で開発・運用されてきているが、次期気象衛星「ひまわり8号、9号」のようにPFI(Private Finance Initiative)によって衛星を運用する取組も拡大しつつある。
気候変動等の地球環境問題に関しては、我が国は地球観測に関する政府間会合(GEO)設立において主導的役割を果たし、「いぶき」や水循環変動観測衛星「しずく」などのデータ提供により、国際協力の下で全球地球観測システム(GEOSS: Global Earth Observation System of Systems)計画を推進中である。
また、ベトナム政府からの資金協力要請を受けて、我が国が開発した小型リモートセンシング衛星(レーダ衛星)2機と宇宙センターの整備が円借款の供与の対象となり、両政府間の交換公文を2011年10月に締結した。(2017年に1号機、2020年に2号機の打ち上げを予定)
さらに、各府省が整備した衛星データの利用拡大を図るため、平成24年度から「衛星データ利用促進プラットフォーム」の整備に着手している。
(2)課題
衛星データは、行政、産業、研究分野で幅広く利用されており、今後、産業、行政の高度化、効率化等の観点から、その利用を拡大していく必要がある。しかし、我が国では、官民連携による衛星運用の効率化や、データを分析、加工することで新たな付加価値を生むアプリケーション産業の育成など、総合的な利用拡大や産業振興の取組が不十分である。
衛星データの利用を拡大するためには、データの継続性や撮像頻度の向上などニーズに基づいた枠組み作りや衛星及びセンサーの仕様を設定する必要がある。現在、文科省は大型の研究衛星、経産省は小型の商用衛星を研究開発しているが、衛星投入軌道の調整、衛星の相互運用、撮像キャパシティの全体管理などを連携して行う必要がある。その際、民間活力や超小型衛星等を活用することにより、画像提供の効率化や経費の節減を図るべきである。また、データ利用及び技術の継承などでも連携が必要である。
こうした観点から、我が国としてリモートセンシング衛星の効率的かつ効果的な開発利用を進めるための計画的な衛星開発が必要である。その際、利用者は同一、同種のセンサーによる継続的なデータ収集を重要視していることから、利用者の性能に対するニーズも踏まえ、限られた予算の中で注力する分野を見極めた上で、データ取得に空白期間が生じないような計画とすることが必要である。
特に、地球環境観測衛星では、国際協力を含む様々なプロジェクトが構想段階のものを含め計画されており、我が国の環境政策への貢献の観点を含め、施策の選択と集中が重要である。
また、政府が開発した衛星の民間利用や官民連携による運用を促進していくためには、国として衛星データ販売事業者等に求める画像データの取扱いに関するルール作り(データポリシー)が必要である。
(3)今後10年程度の目標
リモートセンシングの利用拡大には、同一、同種のセンサーによる継続的なデータ提供と撮像頻度の向上(1日1回以上の撮像)が不可欠である。撮像頻度を確保するには、複数の衛星による一体的な運用(コンステレーション)が効果的であるため、「ASEAN防災ネットワーク構築構想」により、アジア等の国々と分担して複数衛星のシステムを効率的に整備することで、参加各国の負担を抑えつつ十分なデータを得る仕組みを構築する。また、本システムの運用経費の政府負担の低減を図るため、官民連携によって効率的な運用体制を整備する。
情報収集衛星及び気象衛星は、それぞれ安全保障、災害対応、気象予測の利用に重要な役割を果たしているため、継続的に運用する。また、リモートセンシング衛星については引き続き、地図作成、資源探査、農林漁業への活用、災害監視、海洋観測等に取り組むとともに、衛星データの利用拡大により、産業、行政の一層の高度化、効率化を実現する。
(4)5年間の開発利用計画
① 衛星データの利用拡大の推進
衛星データ利用の市場規模は、世界で約1000億円、国内で約100億円であり、データを分析、加工するアプリケーションの一層の活性化、官民連携、省庁間連携等を通じて市場の用途を拡大する必要がある。
国が保有する衛星のデータ利用を拡大するため、複数の衛星データを統合的に処理可能な「衛星データ利用促進プラットフォーム」の整備に着実に取り組む。また、産業、行政、大学等による新たな衛星データ利用のための実証研究等を支援するとともに、リモートセンシングに係る利用コミュニティの形成を図る。
② 衛星システムの計画的な構築
リモートセンシングの利用拡大のためには、官民の利用ニーズや海外ニーズを取りまとめて衛星の仕様設定に反映する。また、衛星の効率的かつ効果的な開発、整備、運用のためには、官民連携や長期購入契約(アンカーテナンシー)等の政策手法を活用し進める。
具体的には、我が国衛星技術の強みをいかした「ASEAN防災ネットワーク構築構想」に賛同するアジア各国と共同でリモートセンシング衛星のコンステレーションを整備し、我が国のみならずアジア全体でのリモートセンシング衛星の利用拡大を図る。本コンステレーションの整備に当たっては、現在開発中のASNARO1、2等も含める方向で検討する。
このような社会インフラとしての衛星システムを高度化するために必要となる研究開発を推進する。
③ 標準的なデータポリシーの検討
衛星データ販売事業者等に係る規制事項や価格設定の在り方等の標準的なデータポリシーの在り方を検討する。
④ G空間社会推進施策との連携
地理空間情報活用推進基本計画を踏まえ、宇宙技術を地図作成や防災等に利用することにより、G空間社会の実現を図る。
C.通信・放送衛星
(1)現状
衛星通信・放送サービスは、複雑な地上の通信・放送ネットワークを要しない、災害等による影響を受けにくい、サービスエリアが広域などの利便性がある。世界的に民間事業者が提供する体制となっており、基本的に商用マーケットが確立している。世界的に衛星通信・放送の需要は増加傾向にあり、通信・放送衛星の市場は拡大していく見込みである。
通信・放送衛星の整備は、基本的に民間主導で進めるべき分野であり、自治体間の通信インフラ等も民間事業者による衛星通信サービスを活用してきている。現在、防衛省においては、PFIを活用した衛星通信網の構築が進められている。
また、我が国ではJAXAや独立行政法人情報通信研究機構(NICT)は、これまでに「きく8号(ETS‐VIII)」により静止衛星バスや大型展開アンテナ等を実証し、「きずな(WINDS)」により超高速の衛星データ通信を実証した。これらは、東日本大震災において通信に支障をきたしていた被災地において緊急時の衛星通信回線として活用された。また、総務省では東日本大震災を踏まえ、災害時に衛星通信を有効に活用できるようにするための技術開発が進められている。
なお、現在JAXAが運用中のデータ中継衛星(DRTS)は寿命が2013〜2014年度頃と見込まれている。
(2)課題
我が国の宇宙産業の国際競争力は十分とは言えず、これまでの衛星製造事業者の受注実績は5機のみ(国内1機(スーパーバード7号)、海外4機(OPTUSC1、ST‐2、Turksat‐4A、4B))である。このため宇宙産業の国際競争力を強化し、産業基盤を維持、強化する必要がある。
このため、これまでの研究開発や技術実証を踏まえ、今後の技術実証の在り方を精査する必要がある。
これまで政府が行ってきた研究開発の成果として、「きく8号」等により、標準衛星バスの技術の確立やコンポーネントレベルでの国際競争力確保に寄与したほか、「きずな」が開発した周波数の高いKa帯のローノイズアンプの商用展開が行われている。
政府の研究開発プロジェクトは、1990年以降、最先端技術の獲得に重きが置かれる傾向があるため、市場ニーズ、コスト、市場投入の時期等を含め、宇宙産業の国際競争力の強化に結びつけることが重要である。
また、東日本大震災を踏まえ、平時における活用も考慮しつつ、災害時に有効な衛星通信ネットワーク技術の研究開発が必要である。
データ中継衛星(DRTS)の後継機については、当面、国内においては、その整備に見合う費用対効果を有する利用が想定されないが、将来的なニーズや民間サービスによる提供も考慮する必要がある。
(3)今後10年程度の目標
将来の利用ニーズを見据えた要素技術の開発、実証等により、我が国の宇宙産業の国際競争力の強化を図る。
(4)5年間の開発利用計画
① 国際競争力強化のための技術実証の推進
我が国の宇宙産業の国際競争力の強化を図るためには、将来のニーズを見据えて以下のような各要素技術について実証を行う。
a)世界的な通信・放送衛星の大型化の世界動向を踏まえ、大電力(25kw級)の静止衛星バスを商用化するための技術実証。
b)衛星の長寿命化と通信・放送ニーズの多様化に対応し、打ち上げ後に需要の変化に対応可能な技術の開発・実証。(例:デジタルビームフォーミング技術、デジタルチャネライザ技術)
なお、大型展開アンテナについては、米国企業が高い競争力を有しており、年1機程度の需要であることから、政府による取組については慎重に検討を行う。
② 政府における安全保障・防災等必要な衛星通信インフラの確保
現在、防衛省が進めているPFIを活用した高機能なXバンド衛星通信網の構築は、安全保障上重要であり、着実に整備する。
災害時の政府や自治体間等の衛星通信については、民間通信サービスの活用等により、確実に実施する。なお、災害時のみに利用するシステムとするのではなく、平時から利用できることを念頭に置く。
③ 東日本大震災を踏まえた災害時の通信インフラ確保のための技術開発
東日本大震災を踏まえた災害対応能力を強化するため、一つの地球局で複数の通信方式に柔軟に対応可能な衛星通信ネットワーク技術等の開発を早期に行う。
④ データ中継衛星(DRTS)の後継機
データ中継衛星(DRTS)については将来的に、国内外のリモートセンシ
ング衛星に対するデータ中継サービスの提供に資する可能性があることから、データ中継衛星を必要とする衛星の整備計画の有無等に基づいて、ミッションの相乗り、サービス購入等による効率的な実現を考慮しつつ必要性を検討する。また、将来に向けて、大量データ伝送に資する光通信技術の開発の在り方について検討する。
D.宇宙輸送システム
(1)現状
① 我が国のロケット開発と打ち上げサービス
我が国は、これまで液体燃料のH‐IIA/Bロケットを基幹ロケットとして開発、運用してきており、情報収集衛星を始めとする政府衛星の打ち上げや、国際宇宙ステーションに物資を輸送する「こうのとり」の打ち上げを行ってきた。H‐IIA/Bロケットは、これまで合わせて24機中23機成功しており、成功率95.8%は世界最高水準である。
また、固体燃料のイプシロンロケットは、M‐Vロケット(2006年開発終了)の技術を継承し、我が国の得意技術をいかした小型ロケットとして、平成25年度初打ち上げを目指して現在開発中である。
我が国では、2007年にH‐IIAロケットの打ち上げサービス事業を三菱重工に移管した。韓国の衛星「アリラン3号(KOMPSAT‐3)」の打ち上げを受注(他衛星との相乗りにより競争力のある価格を提供)し、2012年5月に打ち上げたが、日本政府以外の打ち上げを受注したのはこの1件に止まっており、我が国の打ち上げサービスの国際競争力は低い。また、2012年9月にはH‐IIBロケットの打ち上げサービス事業も三菱重工に移管した。
② 世界のロケット開発と打ち上げサービス
世界のロケット打ち上げ実績は、直近10年間では年平均約68機となっている。このうち2/3が政府需要、1/3が民間需要となっている。この中で、日本の打ち上げ実績は年平均2.5機で世界の約4%となっている。
商業市場においては、大型衛星の打ち上げはアリアンロケット(欧)とプロトンロケット(ロシア)が市場を二分している状況。中小型衛星打ち上げ市場もロシアのロケットが実績、価格ともに高い競争力を有している。
米国及びロシアは年間20機以上の打ち上げ実績を有し、有人ロケットの実績も多数有している。中国もすでに有人ロケットを保有し、インドにも有人ロケット開発の構想がある。
また、米国は、国際宇宙ステーションへの貨物や人員の輸送をSpaceX社のような民間事業者からサービスとして調達する方針を打ち出しており、そのための研究開発助成と複数回の貨物輸送サービスを契約するなど新たな官民連携の在り方を追求している。
地球周回軌道に達しない準軌道飛行(サブオービタル飛行)については、米国を中心とする民間事業者によって、宇宙旅行などの商業目的の開発が進められている。また、サブオービタル飛行を利用した空中発射システムについても検討が進んでいる。サブオービタル飛行の運用には、従来の飛行場やロケット射場とは別に離着陸用の宇宙港(スペースポート)が必要であることから、米国のみならず世界の国々でスペースポートの建設計画が進んでいる。同サービスの実施には、従来の法制度だけでは十分に対応できないことから、法制面での対応も必要となっている。
(2)課題
宇宙輸送システムは、我が国が必要とする時に、必要な人工衛星等を、独自に宇宙空間に打ち上げるために不可欠な手段であり、その維持は我が国の宇宙活動の自律性確保の観点から重要である。今後とも将来に向けて自律的な宇宙輸送能力を保持していくために、人材や施設を含めた産業基盤の維持、強化、発展が必要である。
宇宙輸送システムの産業基盤の維持には、毎年一定数の打ち上げ機会を確保する必要があり、これまでは政府衛星を基本として考えてきたが、今後は、海外や国内商用衛星を含めて、打ち上げ機会を確保する方策が必要である。
今後、海外需要等の打ち上げ機会を獲得するに当たっては、以下のような課題が顕在化しつつある。
① ロケットの能力と商業市場ニーズとのミスマッチ
リモートセンシング衛星は小型衛星を多頻度で打ち上げる傾向がある一方、通信・放送衛星などの商業静止衛星は大型化の傾向がある。我が国のロケットの能力はこうした商業市場ニーズとミスマッチを起こしている。
② 不十分な国際競争力
世界的に輸送サービス市場への参入が激化する中で、我が国の打ち上げサービスは、実績が乏しい上、為替レートの問題等もあり価格においても十分な国際競争力がない。
③ ロケットのラインアップなどを含めた宇宙輸送システムの在り方の検討の必要性
大型・小型のラインナップでロケットを整備するなど今後の宇宙輸送システムの在り方について総合的な方針を検討する必要がある。
④ 射場等のインフラの効率的な整備、維持の必要性
我が国の射場等の輸送システム関連のインフラについては、老朽化が進み、毎年多額の維持運用費を要しており、長期的な視点での検討が必要である。
(3)今後10年程度の目標
我が国が必要とする衛星等を、必要な時に、独力かつ効率的に打ち上げる能力を維持、強化、発展させる。
(4)5年間の開発利用計画
① 国内ロケットの優先的使用
宇宙輸送システムの自律性の確保のため、政府衛星を打ち上げる場合には、国内ロケットを優先的に使用することを基本とする。また、我が国の民間企業が衛星を打ち上げる場合にも、国内ロケットの使用を奨励する。
② 宇宙輸送システムに係る技術の継続的な高度化の推進
固体ロケット技術の重要性を踏まえ、イプシロンロケットに係る現状の計画を進める。
将来的に小型衛星の打ち上げ手段となる空中発射システムの研究開発を引き続き進める。
H‐IIAロケットの高度化に向けて、衛星の打ち上げ対応能力の向上、衛星分離時の衝撃の低減などを行い、打ち上げサービスの国際競争力の強化を図る。
種子島宇宙センター等の施設老朽化が、打ち上げサービスへの制約や負担増加の要因となることのないよう、施設の更新、高度化を着実に進める。
③ 総合的検討
今後、長期にわたり我が国が自律的な宇宙輸送能力を保持し続けていくためには、十分な打ち上げ機会や開発機会の確保、国際競争力の向上、射場等のインフラの効率的な整備や維持等様々な課題に対処する必要がある。
そのため、これまでの我が国ロケット開発の実績を十分に評価しつつ、より中長期的な観点から、基幹ロケット、物資補給や再突入、サブオービタル飛行、極超音速輸送、有人宇宙活動、再使用ロケット等を含め、我が国の宇宙輸送システムの在り方について速やかに総合的検討を行い、その結果を踏まえ必要な措置を講じる。
3‐2.将来の宇宙開発利用の可能性を追求する3つのプログラム
E.宇宙科学・宇宙探査プログラム
(1)現状
① 宇宙科学・宇宙探査の位置付け
宇宙科学・宇宙探査は、人類共通の知的資産の蓄積、学術的成果を目指すものであることから、産業基盤の維持、向上のための研究開発とは、自ずと性格を異にする。
特に宇宙探査は、冷戦中に米ソによって繰り広げられたように、国家を挙げた競争という側面が無視できない。仮に一か国のみが宇宙探査を進め、宇宙開発や惑星等に関する経済的、技術的価値のある知見を独占した場合、その知見が今後の宇宙開発利用を進める上で、極めて有利に働く可能性がある点を考慮する必要がある。
② 世界の動向
我が国を始め米国、欧州、ロシア等宇宙開発利用を主導する国々においては、宇宙物理学・天文学分野に関する宇宙科学研究や太陽系惑星探査を中心とする宇宙探査分野が進められている。
特に火星探査においては、米国は2010年にオバマ政権が有人探査を表明し、2012年8月には、火星探査車「キュリオシティ」が火星着陸に成功するとともに、火星の内部構造や地殻変動を調査する無人探査機を2016年3月に打ち上げる計画を発表するなど、活動が顕著である。
一方、中国は、独自に有人ロケットの打ち上げに成功するとともに、2012年6月には、有人宇宙船「神舟9号」と有人宇宙ステーション「天宮1号」のドッキングに成功した。
世界14か国・地域の宇宙機関*10*が、国際協力による宇宙探査に向けた情報交換や共同作業等を実施するため、2007年に国際宇宙探査協働グループ(ISECG: International Space Exploration Coordination Group)が設立された。2011年8月からは、JAXAが議長を担当し、当面の目標として有人火星探査を位置付けた国際宇宙探査ロードマップ(GER: Global Exploration Roadmap)を同年9月に取りまとめた。
③ 我が国の取組
我が国の宇宙科学・宇宙探査は、世界的にも高く評価されており、宇宙物理学・天文学や太陽系探査科学の分野では、世界をリードしている。近年では、世界初の小惑星サンプルリターンに成功した「はやぶさ」や月探査の「かぐや」、太陽極域磁場の反転を捉えた「ひので」、赤外線天体カタログを公開した「あかり」、銀河団衝突現場を観測した「すざく」など、多くのプロジェクトが世界的に高い評価を受けている。
実施機関としては、宇宙科学研究所(ISAS)が従来から宇宙科学を担当しており、「宇宙と生命の起源、太陽系の歴史」や「より遠く、より自在に」をテーマに科学者で構成される理学委員会及び工学委員会の検討を経てプロジェクトが選定されてきている。
(2)課題
2008年に、JAXAに月・惑星探査プログラムグループ(JSPEC)が設置されたが、宇宙探査に関するテーマにISASとの重複が指摘されている。
これまでのISASの成果は、全国の研究者間の激しい競争の中でプロジェクトが評価、選定され、選定後は研究者が協力して進めるという仕組みが確立していることによるものと考えられることから、今後ともISASの意思決定の独立性が不可欠である。また、宇宙科学の事業を実施するに当たっては、JAXA内での緊密な連携が重要である。
そのため、「学術目的で実施される宇宙探査」と「多様な政策目的で実施される宇宙探査」について、政府、研究者、産業界等の関係者間でそれらの位置付けに関する共通理解の醸成に努めるとともに、適切な実施体制を構築することが必要である。
また、宇宙科学・宇宙探査のうち大規模なプロジェクトについては、学術のみの目的では実施が困難になりつつある面があり、国際協力や産業競争力強化など、多様な政策目的との連携など、プロジェクトの企画・立案や選択に当たり、学術コミュニティーと政策担当者との十分な検討が必要である。
(3)5年間の開発利用計画
学術としての宇宙科学・宇宙探査は、これまで我が国が世界的に優れた成果を創出し人類の知的資産の創出に寄与していること、ISASを中心として大学を始めとする各研究機関と連携した効率的な科学研究マネジメントの体制を有していること等から、そのメカニズムを活用し、今後も一定規模の資金を確保し、世界最先端の成果を目指す。
事業実施に当たっては、ISASを中心とする理学・工学双方の学術コミュニティーの英知を集結し、本コミュニティーによるボトムアップの活力をそぐこと無く実施できるように、JAXA内で緊密に連携する。
また、JAXAの探査部門とISASでテーマが重なる部分があることから、JAXA内での科学的な取組について、これをISASに一元化することを含め整理する。多様な政策目的で実施される宇宙探査については、有人か無人かという選択肢も含め費用対効果や国家戦略として実施する意義等について、外交・安全保障、産業競争力の強化、科学技術水準の向上等の様々な観点から、検討を行い、その結果を踏まえて必要な措置を講じる。
なお、一定の資金確保に当たっては、科学の発展や衛星開発のスケジュールに柔軟な対応が必要である。特に、近年、宇宙科学・宇宙探査のプロジェクトは大規模化の傾向にあることから、他の政策目的との連携等を図りながら、効率的に推進する。
F.有人宇宙活動プログラム
(1)現状
国際宇宙ステーション(ISS)は、米国、ロシア、欧州(11カ国)、カナダ、日本の5極15カ国が参加する多国間共同プロジェクトである。
日本は1988年に「常時有人の民生用宇宙基地の詳細設計、開発、運用及び利用における協力に関するアメリカ合衆国政府、欧州宇宙機関の加盟国政府、日本国政府及びカナダ政府の間の協定」を署名し、正式に参加した。
我が国はISSにアジアで唯一参加しており、これまで8名のJAXA宇宙飛行士が有人宇宙活動の実績を積んでいる。国際的プレゼンスの発揮に寄与し、また日本人宇宙飛行士の活動による教育・啓発効果を生んでいる。
現在、各極では2015年までの計画を立てていたが、米国は2020年までの計画延長を参加国に対して提案した。これを受けてロシア、欧州、カナダは少なくとも2020年までの運用継続を決定した。
我が国は、2010年8月の宇宙開発戦略本部決定において「平成28年度以降もISS計画に参加していくことを基本とし、今後、我が国の産業の振興なども考慮しつつ、各国との調整など必要な取り組みを推進する」としており、2016年以降の運用の在り方について、国際的に調整が進められている。
ISSでは各極が作業や施設構築に関する事業の履行により、応分の利用権を行使できる仕組みである。
我が国のISS関連事業は以下のとおり。
① ISS関係経費として毎年約400億円。2010年度までに約7100億円を支出。その中で、ISSの運営経費をH‐IIBロケットで打ち上げるHTV(こうのとり)による運搬で負担しており、2015年までに計7機を打ち上げることとなっている(これまでに3機を打ち上げ済)。
② 日本実験棟の建設や物資運搬等によって、日本は日本実験棟の利用権51%と利用資源(電力及び搭乗員作業時間等)12.8%を確保。
これまでに日本実験棟「きぼう」を建設、微小重力や宇宙放射線等の宇宙環境を利用した材料・生命科学、宇宙医学等の各種試験研究が実施されており、今後の成果が期待される。
「きぼう」の利用については今後、有人の特徴をいかすなど、研究内容を充実させて具体的な成果を出す工夫が不可欠である。
(2)課題
有人宇宙活動は、国民に夢を与えるとともに、他の宇宙先進国との協力を通じて新たな技術を獲得する機会として重要である。また、国際協力として我が国のプレゼンスの発揮にも資するほか、宇宙教育等の観点からも意義がある。他方、「きぼう」の利用については我が国の産業競争力強化に繋がる成果は現時点では明らかではなく、多額の資金を要することから、厳しい財政制約の中で、費用対効果の観点で十分な評価が必要である。
2016年以降のISSの運用の延長と我が国の参加については、費用対効果を十分評価した上で、参加形態の在り方を検討すべきである。
(3)5年間の開発利用計画
ISSについては、費用対効果について常に評価するとともに、不断の経費削減に努める。
具体的には、2016年以降、国際パートナーとのプロジェクト全体の経費削減や運用の効率化、アジア諸国との相互の利益にかなう「きぼう」の利用の推進等の方策により経費の圧縮を図る。
ISSにおける宇宙環境利用については、これまでの研究成果の経済的・技術的な評価を十分に行うとともに、将来の宇宙環境利用の可能性を産学官が一体となって評価し、ISSにおける効率的な研究と研究内容の充実を図る。また、ISSからの超小型衛星の放出による技術実証や国際協力を推進する。
なお、将来的に国際協力を前提として実施される有人宇宙活動に対する我が国の対応については、外交・安全保障、産業基盤の維持、産業競争力の強化、科学技術等の様々な側面から検討する。
G.宇宙太陽光発電研究開発プログラム
(1)現状
宇宙太陽光発電システム(SSPS)は、宇宙空間に大規模な太陽光発電装置を配置し、マイクロ波又はレーザーにより地上に送電して、電力として利用するシステムであり、将来のエネルギー供給を担うインフラとなる可能性がある。100万Kwの発電のためには、宇宙セグメントとして2km四方の発電設備及び送電設備と地上セグメントとして直径3kmの受電設備が想定されている。
我が国では、平成16年度からJAXA及び経済産業省が協力してマイクロ波によるSSPSの研究を実施。平成21年度から両者が共同で進めている地上での電力送電実証において、JAXAはマイクロ波のビーム方向制御技術の実証に、経済産業省はマイクロ波の送受電技術の実証に取り組んできている。JAXAは、レーザー伝送技術、大型構造物組立技術等の研究も進めている。
これまでの成果としては、JAXAが実施したレーザーによる電力伝送実験、経済産業省が宇宙での発電を想定して開発した薄型高効率送電用半導体が挙げられる。
JAXAは、SSPS実用化見通し判断に向け、レーザー及びマイクロ波によるエネルギー伝送技術、大型構造物組立技術、集光技術等に関する試作/試験並びに軌道上実証の検討を、経済産業省は、JAXAと共同でマイクロ波による地上電力伝送実験を実施することを目標として開発を進めている。
現在のところ、我が国の宇宙太陽光発電システムに関する技術レベルは、世界トップクラスに位置している。海外では欧米がSSPSの要素技術の実証に取り組んでいるが、宇宙での利用を想定した実験を実施しているのは、我が国のみである。
(2)課題
宇宙太陽光発電システム(SSPS)の実現に向け、大きく分けて以下の3つの課題を解決する必要がある。
① 技術(大型構造物を宇宙空間に輸送し、組み立て、運用・維持する技術、高効率で安全な発電・送電・受電技術等)
② 安全性(健康、大気・電離層、航空機、電子機器等への影響)
③ 経済性(特に地上から宇宙への輸送費低減が大きな課題。)
(3)5年間の開発利用計画
宇宙太陽光発電システムについては、我が国のエネルギー需給見通しや将来の新エネルギー開発の必要性に鑑み、無線による送受電技術等を中心に研究を着実に進める。宇宙空間での実証に関しては、その費用対効果も含めて実施に向けて検討する。
3‐3.宇宙空間の戦略的な開発・利用を推進するための8つの横断的施策
(1)宇宙利用の拡大のための総合的施策の推進
① 現状と課題
従来、我が国の衛星開発は、政府資金によるものが中心であったが、最近では、宇宙利用産業やユーザー産業が参画したPFIによる衛星開発、中小企業やベンチャー企業による超小型で低コストの衛星開発等、産業の裾野が拡大している。
利用拡大のためには、こうした動きを一層推進するとともに、衛星開発の初期段階から、開発者と利用者との連携を密にし、開発後の効率的な利用に繋げる必要がある。また、宇宙利用産業やユーザー産業等による新たな宇宙利用の開拓によって、行政、産業、生活の高度化や効率化につなげることが必要である。
② 5年間の開発利用計画
宇宙を利用する関係府省等の利用者が宇宙開発利用に係る事業を管理、推進することが利用拡大には最も有効であることから、利用者が事業主体になることを目指す。そのために、関係府省等による宇宙利用を促進させるために必要な措置を講じる。
政府による衛星開発に際しては、研究開発段階から利用者と連携して技術仕様を設定するとともに、民間事業者に衛星運用を委託する等、衛星の利用拡大に向けた効率的な開発・運用体制を整備するなど利用者の関与を強める。
これら一連の事業実施に当たっては、内閣府がユーザーの視点に立って評価を行う。また、メーカーとユーザー等異業種連携を促進するための環境整備を図る。利用分野ごとに利用に関連する拠点の整備や、海外人材の受入れ等を併せて推進する。
宇宙を利用したサービスが継続的に提供されるため、民間事業者の提案に応じて社会実証等を行うとともに、利用者の裾野を広げるため、目的や用途に応じ衛星の小型化(超小型衛星等を含む)や民生品の利用等によりコストの低減を図る。
また、幅広い分野の産業界や地方自治体を含めた関係行政機関に、宇宙開発利用の利便性やベストプラクティスに係る啓発活動として、シンポジウムやセミナー等を通じた理解・普及を行うことが必要である。さらに宇宙開発利用の優れた取組や功績に対する顕彰制度を整備する。
(2)強固な産業基盤の構築と効果的な研究開発の推進
① 現状と課題
a)宇宙産業の位置付け
宇宙産業は、国民生活の質の向上、経済社会の発展、安全保障の確保、科学技術の向上等に必要不可欠であり、自律的に宇宙活動を行うための基盤である。また、宇宙利用の拡大のためには、事業者が消費者に対して継続的に機器やサービスを提供できるようなビジネスモデルが必要であることからも、宇宙産業の健全な発展が不可欠である。
世界の宇宙産業(宇宙機器産業と宇宙利用サービス産業)の市場は約13兆円/年である。毎年約14%の勢いで成長しており、特に新興国において需要増加が見込まれている。
b)我が国宇宙産業の競争力
平成22年度の我が国の宇宙産業(宇宙機器産業と宇宙利用サービス産業)の市場は約1兆円/年であり、このうち宇宙機器産業の規模は2584億円である。これに宇宙関連民生機器産業とユーザー産業の裾野まで合わせると、総額約9兆2000億円である。
我が国は、衛星やロケットを独自に製造、運用する能力を有しているか、国際市場における競争力は十分ではない。衛星の商業受注累積は、近年成功したトルコとベトナム(各2機ずつ)を入れても計10機のみである。また、打ち上げサービスの商業受注も韓国からの1機のみである。
部品やコンポーネントについても、技術的ポテンシャルはあり、地球センサー、トランスポンダ、リチウムイオンバッテリ、ヒートパイプパネル、太陽電池パネルなど高いシェアを持つものもあるが、宇宙実証の機会が少ないため、国際競争力のある分野は限定的である。
近年、政府を挙げて宇宙システムのインフラ海外展開を推進しており、産業界による民需獲得への取組はようやく緒についたところである。
c)産業基盤の脆弱性
宇宙機器産業の売上は、1990年代後半には約3500億円を超えていたが、現在、約2600億円となっており、ピーク時と比べ約25%減少しており、売上の9割以上を政府需要に依存している。(欧州の政府需要依存は約5割)
そのため、企業経営が政府需要に大きく左右される構造であり、宇宙機器産業を支える人員も1990年代の約1万人から現在は約7千人で推移している。
また、宇宙機器に用いられる部品、素材は、少量生産かつ特殊であり、国内メーカーへの供給のみでは採算性確保が困難であることから、事業からの撤退が増えている。(平成23年度までの8年間にH‐IIA/Bの関連企業54社が撤退。)
② 5年間の開発利用計画
a)研究開発の推進
我が国の宇宙産業の国際競争力が低い理由としては、我が国では、特に1990年以降、事業化や産業化の視点を重視した政府投資による研究開発が十分でなかったため、国際市場に必要な低コスト化、軌道上実証の実績作りが不十分であり、政府投資の成果が、宇宙利用の拡大による市場創出や産業競争力の向上に十分寄与していない側面がある。また、産業界も十分な研究開発投資がなされてこなかったことが考えられる。欧米では、政府需要により軌道上での運用実績を積み上げ、その実績により民間需要の獲得につなげている。
こうした観点を踏まえ、今後、学術目的以外の研究開発については、宇宙利用の拡大や産業化の視点から取り組む。
また、継続的に産業競争力を向上させていくためには、新分野の開拓なども重視する。
b)産業基盤の強化
衛星システムや輸送システムの開発・運用を担う企業は、我が国の自律的な宇宙活動を担う基幹産業とも言うべき産業であることから、その産業基盤の維持を図るため、民間事業者による国内需要の開拓や海外需要獲得のための政府による支援を強化する。民間事業者の国際競争力強化を図るため、宇宙実証の機会の提供や研究開発の支援を行うとともに、技術水準の持続的な維持、向上により信頼性向上やコスト低減を図る。その際、官民が協力して海外展開や効果的な研究開発を推進するための技術研究組合制度等の活用を検討する。
当面、獲得を目指すべき海外需要としては、商用の通信・放送衛星及び新興国による需要拡大が顕著な地球観測衛星が挙げられる。
通信・放送分野は、商業衛星市場の約75%を占めるため、この市場を獲得することが産業基盤を維持する上で重要である。通信・放送衛星については、バスの大型化、需要変化に柔軟に対応可能な技術の開発、実証を行う。また、地球観測衛星については、低コスト化、高分解能センサー、複数衛星の連携運用技術等、市場ニーズを満たす技術を官民連携により開発、実証する。
政府は、民間事業者によるインフラ海外展開を積極的に推進する。特にアジア諸国を中心とした新興国では、自国の技術者や産業の育成等に関心が高いことから、こうしたニーズを踏まえた人材育成や技術協力を進めるなど、各国との協力関係を深めていく。
政府は、産業基盤の維持、強化を図る上で、衛星開発における官民連携、補助金、需要保証など柔軟な政策手法を活用するとともに、海外展開支援に当たってもODA、政策金融の活用など、効率的かつ効果的な支援策を講じる。
企業による効率的かつ安定的な開発・生産を支援するため、政府が開発する衛星について、中長期の開発利用計画の提示や部品・コンポーネント等の小型化、シリーズ化、共通化、部品の一括購入などに取り組む。部品の枯渇や海外への依存度の増大などの問題解決に向けた検討を行う。
安定的な確保が求められる技術や機器について中小企業を含めた国内企業の参入を促進する。また、政府が一体となって試験方法の標準化や効率的な実証機会の提供等に取り組み、我が国の優れた民生部品や民生技術の宇宙機器への転用を進める。
文部科学省及び経済産業省を始めとする関係府省、JAXA等の研究機関、産業界及び学界がこれまで以上に連携し、技術開発のロードマップの作成など研究開発と産業競争力の強化を通じた産業基盤の維持、強化を一体的かつ計画的に推進する。
(3)宇宙を活用した外交・安全保障政策の強化
(3‐1)宇宙外交の推進
① 現状と課題
我が国の宇宙開発利用は、米国との協力を基礎として展開してきており、1969年の日米交換公文に基づいた輸送システム及び衛星に係る技術導入を契機とし、民生・安全保障両分野に亘り安定的な関係を築いてきている。
多国間協力については、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)、宇宙活動に関する国際行動規範への取組、宇宙活動の透明性・信頼醸成措置に関する政府専門家会合(GGE: Groupof Governmental Experts)などにおいて、宇宙空間の平和利用や宇宙空間における責任ある行動のための透明性及び信頼醸成に関する措置(TCBM: Transparency and Confidence‐Building Measures)の履行等持続可能な宇宙活動を実現するためのルールづくりに関する議論が実施されており、我が国の積極的な参加が求められている。また、我が国は多国間協働プログラムである国際宇宙ステーション計画にアジアで唯一参画している。
開発途上国との宇宙協力は、相手国のニーズを踏まえ、我が国の宇宙インフラの提供のみならず、JAXAや国際協力機構(JICA)が人材育成や宇宙利用技術の共同研究などを積極的に推進している。このような途上国への支援に当たっては、我が国が外交の柱として掲げる「人間の安全保障」に留意した我が国らしい支援を実施しており、当該国の宇宙開発利用の促進を図っている。
また、アジアの新興国を中心に防災や国土管理等のため宇宙インフラに対するニーズが急速に高まりつつあることから、相手国のニーズを十分に踏まえつつ、我が国の宇宙システムや知見を外交のツールとして活用していく必要がある。
宇宙開発利用は民生・安全保障など多様な分野に関係するとともに、宇宙開発利用に着手する国が急速に拡大してきている。そのため、国際連合等の枠組みを活用した多国間の対話や協力と、二国間での宇宙政策全般に係る意見交換や協力関係を拡大、深化することが重要である。
② 5年間の開発利用計画
a)ASEAN諸国を始めとする新興国に対する積極的な「宇宙外交」の推進
「ASEAN防災ネットワーク構築構想」の推進、APRSAF、センチネルアジア等の枠組みの活用、アジア開発銀行等との協力を通じ、アジアを中心とする新興国との協力を、我が国のリーダーシップの下で着実に進める。
b)多国間協力の着実な推進
国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)における、宇宙空間の研究に対する援助、情報の交換、宇宙空間の平和利用のための実際的方法及び法律問題の検討に積極的に貢献する。
宇宙活動の持続可能性の強化のため、「宇宙活動に関する国際行動規範」の策定に、我が国としても積極的に取り組むとともに、できるだけ多くの国が参加するよう協力する。
また、我が国は、宇宙活動の透明性・信頼醸成措置(TCBM)に関する政府専門家会合(GGE)の議論の動向を注視し、参加国を通じて我が国の意見が反映されるように取り組む。
ジュネーブ軍縮会議(CD)での「宇宙における軍備競争の防止(PAROS:Prevention of an Arms Racein Outer Space)」等の重要な課題に関する議論に我が国として引き続き積極的に参加する。
c)宇宙先進国との二国間関係の強化
米国との民生・安全保障両分野における宇宙政策の戦略的な対話を強化していくとともに、他の先進国との二国間対話の強化により、宇宙政策全般に係る協力関係を強化する。
d)宇宙開発利用に関する国際標準化の推進
宇宙開発利用を進めていく上で、我が国の主導により宇宙技術に関する設計・品質、評価方法に関する国際標準化を推進する。
(3‐2)宇宙を活用した安全保障政策の強化
① 現状
a)国際社会における宇宙と安全保障の現状
宇宙条約(「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国
家活動を律する原則に関する条約」昭和42年条約第19号)の第三条において「国際連合憲章を含む国際法に従って、国際の平和及び安全の維持並びに国際間の協力及び理解の促進のために活動を行う」と明記されている。*11*
b)安全保障に係る宇宙利用の位置付けの経緯
我が国の安全保障分野での宇宙利用は、1969年に国会で採択された「宇宙の平和利用決議」の趣旨を尊重し、自衛隊による宇宙利用を「その利用が一般化している衛星及びそれと同様の機能を有する衛星(昭和60年2月6日政府見解抜粋)」、即ち、通信衛星、気象衛星、測位衛星、情報収集衛星のように、その利用が一般化した機能を有する衛星に限定してきた。
2008年8月に施行された宇宙基本法第一条(目的)において、我が国の宇宙開発利用は、「日本国憲法の平和主義の基本理念を踏まえ」推進することが明記された。また、宇宙基本法第十四条において、基本的施策の一つとして「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発利用を推進するため、必要な施策を講ずるものとする。」と位置付けられた。
2012年7月に施行された改正JAXA法においては、第四条(機構の目的)を宇宙基本法と整合的なものとするために改正され、日本国憲法の平和主義の理念に則って活動を行うことを明確にした。
② 課題
a)海外における宇宙の安全保障上の位置付けの高まり
世界の主要国において、リモートセンシングなどによる情報収集や衛星通信、衛星測位等、安全保障分野での宇宙の利用が進められており、我が国においても対応を検討する必要がある。
b)関係国で連携した宇宙インフラの整備厳しい財政制約の中、各国とも関係国との連携が進められており、デブリ対策、宇宙状況監視(SSA)等の検討に、我が国も参画していく必要がある。
③ 5年間の開発利用計画
我が国の安全保障上、宇宙利用は有効な手段であり、特に情報把握、情報共
有、指揮・統制手段等の高度化を図る上で宇宙利用は極めて重要である。各分野における方向性は以下のとおり。
a)情報把握
宇宙分野の技術動向等を踏まえ、広域における総合的な警戒監視態勢の在り方について検討し、情報収集施設・器材・装置等の整備、更新と能力向上に努める。
情報収集衛星については、4機体制を確実に維持するとともに、より高い撮影頻度とすることによる情報の量の増加、商業衛星を凌駕する解像度とすること等による情報の質の向上、増大するデータの受送信及び判読・分析を迅速に行い、速やかなプロダクト配付を可能とすることによる即時性の向上等により、情報収集衛星の機能の拡充・強化を図り、引き続き必要な情報収集を実施する。
リモートセンシングについては、平時における協力だけでなく、災害状況把握等における二国間、多国間協力による衛星整備体制を推進するとともに、衛星データ販売事業者等に係る規制事項や価格設定の在り方等の標準的なデータポリシーの在り方を検討する。
また、政府全体としての取り組みを踏まえた宇宙状況監視、及び、宇宙を利用した海洋監視の実施を視野に入れた検討及び赤外線センサーシステムの宇宙空間での実証に向けた検討を行う。
b)情報共有、指揮・統制等
自衛隊の情報共有、指揮・統制等のための高機能なXバンド衛星通信網を構築する。
また、準天頂衛星システムとGPSとの相互運用性を高める等衛星測位の活用方策に係る検討を進める。
c)防衛大綱を踏まえた宇宙を活用した安全保障政策の推進
なお、今後の安全保障に係る宇宙開発利用については、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱」の見直しの結論も踏まえて、推進していく必要がある。
(3‐3)国別対応方針
① 米国
日米を始め、欧州、加、露が参加し、国際宇宙ステーション(ISS)計画を進めている。
衛星測位分野では、1998年9月の日米首脳会談の際に発出された日米GPS共同声明に基づき、全世界的測位衛星システムの利用に関する日米協議を行っている。
2008年11月から日米宇宙政策協議(民生・商業利用)を立ち上げ、政府レベルで宇宙協力全般(安全保障分野を除く)について意見交換等を実施している。
安全保障分野においては、2009年11月の日米首脳会談で日米同盟深化の一環として宇宙における安保協力の推進が決定され、2010年9月から、定期的に安全保障分野における日米宇宙協議を実施し、政策連携、情報分析、運用面での協力等幅広く意見交換を行っている。
さらに日米の協力を深化させるため、2011年6月の日米安全保障協議委員会「2+2」共同発表において安全保障分野における協力についてあり得るべき協力分野を特定した。
2012年4月の日米首脳会談の成果文書「ファクトシート:日米協力イニシアティブ」において、民生・安全保障関連の各分野における一層の協力の追求や、宇宙に関する包括的対話の場を設けることが確認された。これに基づき、日米宇宙協力を着実に推進する。
2012年4月の日米首脳会談の成果文書「ファクトシート:日米協力イニシアティブ」(抜粋)
○民生宇宙協力
日米両国は、宇宙の平和的探査及び利用に関する枠組協定の交渉の早期
妥結を通じ、また、以下の具体的な活動を追求することにより、民生宇宙
協力を深化させることにコミットした。
・様々な目的で利用されるGPSと日本の準天頂衛星システム(QZSS)の間の相互運用性及び地域的ナビゲーションの向上の観点を含めた協力
・環境、科学、災害監視を目的とした衛星によるリモートセンシングデータの利用促進のための調整を始めとする温室効果ガス観測衛星のような衛星による地球観測ミッションに関する協力
・2016年以降の国際宇宙ステーションの運用の継続
○安全保障上の宇宙に関する協力
日米両国は、宇宙活動に関する国際行動規範を始め、自発的かつ実際的な宇宙に対する透明性の向上及び信頼醸成のための措置を追求することや宇宙状況監視に係るサービスや情報共有のための枠組を構築することなど多様な協力措置を通じ、安全保障上の宇宙に関するパートナーシップを深める。
○宇宙に関する包括的対話
日米両国は、環境調査、科学的発見、国家・国際安全保障及び経済成長に取り組む上での、宇宙に関する事項及び協力に対して、政府一体となったアプローチを確保するため、全ての関係省庁・機関の関与を得て宇宙に関する対話を強化する。
②EU、カナダ、英国
a)EU
2011年5月の日EU定期首脳協議の共同プレス声明に基づき、EUと日本は衛星測位に関する協力のための政府レベルの協力枠組を構築する可能性を追求することを決定した。また、EUは宇宙活動の透明性と信頼醸成措置(TCBM)を促進する観点から「宇宙活動に関する国際行動規範案」を提案しており、日本を含め各国に対し本規範への参加を求めている。我が国はEUが主導してきたイニシアティブを歓迎し、宇宙活動に関する国際的な行動規範策定に関する議論に積極的に参加していく旨表明している。
衛星測位に関する協力については、我が国の準天頂衛星システムとガリレオとの衛星測位に関する協力を進めていく必要がある。
宇宙活動に関する国際行動規範案については、我が国としてもできるだけ多くの国が参加する規範となるように、積極的に取り組んでいく。
また、宇宙政策についての対話を行い、協力の可能性について検討を行う。
b)カナダ
2012年3月26日、宇宙開発戦略本部事務局、文部科学省、宇宙航空研究開発機構(JAXA)及びカナダ宇宙庁(CSA)を当事者とし、日本とカナダの間の宇宙協力を促進することを目的として覚書を作成した。
協力対象分野は、地球観測、宇宙探査、宇宙科学、宇宙教育等の分野であり、本協力文書の実施のために、日加の関係者による合同会議を開催し、ワーキンググループの設置や各協力案件の状況の把握を含め、日加間の情報交換や協力を促進する。
今後、合同会議を開催し、協力対象分野から相互にとって利益のある協力案件を絞り込み、協力を推進する。
c)英国
2012年4月10日、宇宙開発戦略本部事務局、日本国外務省、英国宇宙庁及び英国外務省を当事者とし、共同で日英間の宇宙分野の協力について案件の発掘、企画立案、促進を行うことを目的とした覚書を作成した。
協力対象分野としては、(i)民生地球観測、(ii)衛星航法システム及びその利用、(iii)宇宙技術分野における産業協力、(iv)宇宙基盤を活用した新サービスやアプリケーションの開発、(v)宇宙空間利用のための国際規範における協力等であり、本覚書の実施のために、関係者による合同委員会を開催する。
今後、合同委員会を開催し、上記協力対象分野から、双方に利益のある具体的協力案件を絞り込み、協力を推進する。
③ ASEAN諸国を始めとする新興国
我が国の衛星データ等の宇宙技術をASEAN諸国が抱える防災等の課題の解決に有効なツールとして引き続き活用していく。
ASEAN諸国等を対象として準天頂衛星システムの利用拡大を図る。また、「ASEAN防災ネットワーク構築構想」を進めることにより、当該地域の発展に貢献するとともに、日ASEAN関係を強化する。
新興国のニーズを満たすことができると考えられる我が国の宇宙技術を、インフラ海外展開を通じて提供することで、両国の互恵的な関係を構築する。
(4)相手国のニーズに応えるインフラ海外展開の推進
① 現状と課題
我が国の宇宙産業の国際競争力はいまだ十分とは言えないが、これまでの衛星の海外受注実績は、2008年シンガポールと国内の2機、2011年トルコ及びベトナムからそれぞれ2機の衛星受注に成功しており、ロケットについても2009年に韓国衛星1機の受注が実現した。
アジアを中心とした新興国では通信・放送や防災等のニーズに対応するための通信衛星・リモセン衛星、及びこれらを輸送するための打ち上げサービスのニーズが拡大している。また、測位衛星の利用についても関心が高い。同時に、相手国は、衛星のみならず、人材育成や技術移転等を含めたパッケージとして提供されることを強く期待している。
したがって、政府としてインフラ海外展開等の支援を積極的に行うことが重要である。2010年9月、「当面の宇宙政策の推進について」(平成22年8月27日宇宙開発戦略本部決定)を踏まえ、内閣官房の総合調整の下、関係府省や関係機関からなるタスクフォースを設置し、宇宙システムの海外展開を推進している。
これまでの海外展開は、衛星の提供を中心に考えられてきたが、特にアジア諸国を始めとする新興国においては、単なる衛星の提供のみならず、自国の技術者や産業の創出に関心が高いことから、ソリューションの提供等相手国の多様なニーズに対応する必要がある。
② 5年間の開発利用計画
今後、国が行う衛星開発や技術開発については、我が国宇宙産業の国際競争力強化に資する形で取り組む。
「ASEAN防災ネットワーク構築構想」や「チリにおける防災警報システム」のように、相手国の抱える課題解決のための「ソリューション提案型の戦略作り」を進め、ニーズの掘り起こしを図る。
相手国のニーズに応えるため、関係省庁間の協力を密にし、衛星の提供に留まらず、人材育成、技術移転、相手国政府による宇宙機関設立への支援等を含めたパッケージで取り組む。
これらの取り組みと併せて、政府幹部によるトップセールスや在外公館の活用等を進める。海外市場獲得に当たっては、宇宙機器の全体システムのみならず、サブシステムや部品等様々なレベルで進める。
(5)効果的な宇宙政策の企画立案に資する情報収集・調査分析機能の強化
①現状と課題
宇宙政策は、外交・安全保障政策、産業政策、科学技術政策と密接に関連しており、我が国の宇宙政策の企画・立案に当たって、国内外の政治、経済、産業、科学技術等の動向を含めた総合的な情報収集、分析体制の整備が必要不可欠である。
内閣府及び関係府省の企画立案機能を強化するため、在外公館を始め、内外の宇宙開発利用関連の情報収集や調査分析機能を整備することが必要である。
②5年間の開発利用計画
宇宙開発利用に関する政策の企画立案に資するため、宇宙政策委員会及びJAXAの情報収集、調査分析機能を強化する。
国内においては大学等とのネットワークを強化し、海外においては在外公館やJAXAの海外駐在員事務所等を活用し、海外研究調査機関や国際機関のほか、海外事情に精通する人材との連携等を図る。
また、情報収集、調査分析した成果については、定期的に情報発信し、関係者間で情報共有を図る。
(6)宇宙開発利用を支える人材育成と宇宙教育の推進
①現状と課題
我が国の宇宙機器産業の従業員数は約7千人、過去最も多かった1995年頃の7割弱に減少しており、米国の約10分の1、欧州の約5分の1である。近年、我が国における宇宙航空関連の大学学部・大学院の定員は増加しており、大学院修了者も増加傾向にあるが、修了者の進路として、宇宙航空産業や研究機関に就職する割合は10〜20%程度となっている。
今後、我が国宇宙開発利用を支える人材は、宇宙機器産業の人材のみならず、宇宙利用の拡大を担う研究者や宇宙開発利用を総合的に俯瞰しプロジェクトを企画立案し得る人材が必要になる。また、技術的な専門家だけではなく、国際的な宇宙法や安全保障にも精通した人材が必要とされている。
このような人材の育成及び確保のためには、大学における教育機能の強化や宇宙を対象とする初等中等教育の充実も重要である。また、国際貢献や国際協力による効率的な宇宙インフラの構築の観点から、我が国の宇宙システムの導入に関心のある新興国の人材育成や宇宙教育も重要である。
② 5年間の開発利用計画
a)宇宙開発利用を支える人材の育成及び確保
我が国の宇宙開発利用を支える人材の育成に関し、学術のための宇宙科学を含む宇宙開発利用全体の研究開発を引き続き先導する人材と、宇宙機器産業の人材に加え、宇宙利用の拡大を支える宇宙利用サービス産業やユーザー産業における人材、さらにはプロジェクトをまとめ上げる総合力を有する人材が求められており、政府、自治体、大学、JAXA、産業界等が連携し、人文・社会科学分野も含めた人材の育成及び確保や宇宙教育の強化を図る。
また、科学技術に対するリテラシーを向上させる上で、宇宙は青少年期から興味や関心を持ちやすい分野であり、学習意欲の向上にも有効と考えられることから、宇宙教育を重要な手段として科学技術に関する初等中等教育を充実する。
b)新興国の人材育成への協力
宇宙開発利用を推進する新興国は、宇宙政策や宇宙産業を担う人材育成に対するニーズが高く、アジア太平洋地域を中心に我が国への期待が大きい。
そのため、新興国からの留学生の受け入れに対する政府支援を強化するとともに、大学レベルでの超小型衛星開発事業や国際宇宙ステーション計画(ISS)などの我が国宇宙開発利用プロジェクトの実施を通じ、新興国の人材育成に貢献する。
(7)持続的な宇宙開発利用のための環境への配慮
①現状と課題
宇宙開発利用を進めるに当たり、地球環境への配慮とともに、ロケット打ち上げや人工衛星に起因するデブリ発生の低減等、デブリ除去等、宇宙開発利用自体による宇宙空間における環境への配慮が不可欠となっている。
2007年1月に中国が自国の人工衛星を弾道ミサイル(衛星攻撃兵器(ASAT: anti‐satellite weapon)により破壊する実験を行ったことに続き、2009年2月には、米国とロシアの人工衛星が周回軌道上で衝突したことにより多数のデブリが発生、今後、デブリの数はデブリ同士の衝突連鎖によっても更に増大していくと予想されている。
宇宙環境保全に関しては、1967年の宇宙条約において、宇宙空間における有害な活動の禁止が規定されている。
1980年代後半からスペースデブリ問題に対処する国際協力の必要性が認識されるようになり、1993年には、「宇宙機関間スペースデブリ調整委員会」(IADC: Inter‐Agency Space Debris Coordination Committee)が設置され、2002年に「IADCスペースデブリ低減ガイドライン」が採択された。これを踏まえ、2007年には、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)において、「スペースデブリ低減ガイドライン」が採択され、現在、デブリ対策を含めた「宇宙活動の長期的持続可能性」について検討が進められている。
また、国連において、2012年に宇宙空間における透明性・信頼醸成措置(TCBM)に関する政府専門家会合(GGE)が設置され、安定的かつ持続可能な宇宙環境の確保についての議論が行われている。
国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)においても、国連やIADCの動きを受けて、航空機宇宙機技術委員会宇宙システム分科会において、デブリ発生防止のための宇宙機・ロケットの設計・運用方法の規格(ISO‐24113)を定めている。
② 5年間の開発利用計画
a)宇宙環境の保全
i 国際的な対話の推進
安定的かつ持続可能な宇宙環境を確保するため、COPUOSや宇宙空間の活用に関する国際的な規範づくり等に我が国としても積極的に参加し、国際的な貢献を行う。
ii スペースデブリ低減ガイドライン
国連スペースデブリ低減ガイドラインなどの国際的な勧告及びISO規格等を考慮に入れて宇宙開発利用を推進する。
iii 宇宙状況監視(SSA)
我が国の安全かつ安定した宇宙開発利用を確保するため、デブリとの衝突等から国際宇宙ステーション(ISS)、人工衛星及び宇宙飛行士を防護するために必要となる宇宙状況監視(SSA)体制について検討を行う。また、宇宙利用や地上に影響を与える太陽活動や宇宙環境変動などの自然現象を観測・解析・予測する宇宙天気予報についても充実・強化を行う。
iv デブリ除去技術開発
今後、国際的な連携を図りつつ、我が国の強みをいかし、世界的に必要とされるデブリ除去技術等の開発を着実に実施する。
b)地球環境への配慮
宇宙開発利用は、国民生活の利便性の向上や産業、行政の高度化・効率化に寄与するのみならず、地球規模のエネルギー・環境問題の解決への手段となり得る可能性を秘めている。そのような宇宙の開発利用に当たっては、開発利用そのものが地球環境に与える影響について配慮する必要がある。
(8)宇宙活動に関する法制の整備
① 現状と課題
米国、フランス等の主要国においては、国の許可、監督や宇宙損害の賠償の仕組みを規定する宇宙活動法の制定が進み、民間の宇宙活動に係る規制が行われている。また我が国においても民間事業者によるロケット打ち上げ、国外での打ち上げ委託、人工衛星の管理等の業務が行われている。
2008年に制定された宇宙基本法において、宇宙活動に係る規制その他の宇宙開発利用に関する条約その他の国際約束を実施するため、また、国際社会における我が国の利益の増進及び民間における宇宙開発利用の推進に資するよう、法制の整備を実施していくことが定められた。
また、現在、多国間協議の場において、宇宙活動の安全性及び持続可能性等を向上させていくための「宇宙活動に関する国際行動規範」について検討が行われているため、宇宙活動に関する法制整備の検討においてもその状況に留意する。
② 5年間の開発利用計画
今後の宇宙活動に関する法制整備の検討においては、民間の宇宙活動を円滑に推進するとともに、宇宙産業の健全な発展を促進する観点から、適切な政府の関与の在り方を考慮する。
また、具体的な検討に当たっては、宇宙活動の定義、国の許認可及び監督を行うために必要となる基準、事故等による被害者の保護の在り方、被害者への賠償に関する国と事業者の責任の適切な配分等に関して、必要に応じて欧米の産業保護策を参考にしつつ、検討を進める。
3‐4.宇宙関連施策を効率的・効果的に推進する方策の在り方
(1)重複排除
限られた財源の中で効率的かつ効果的に事業を推進するため、プロジェクトやその中で行われる研究開発内容の重複を排除することが重要である。また、現在、実施されている小型衛星の実証事業や機器、部品等の信頼性向上のための宇宙実証事業などに関しては、関係府省協力の下、効率的かつ効果的に推進する。
(2)民間活力の活用
政府による衛星開発事業の実施に当たっては、PFIなど官民連携により、民間企業の宇宙ビジネスへの参入を促進させるとともに、経費の削減を図る。また、民生部品の活用、衛星開発における民間出資の受入れ、補助金による民間負担を導入した衛星開発など、民間活力を活用し、効率的に事業を実施する。
(3)関係府省間の連携強化
① リモートセンシング衛星に関する連携強化
陸域・海域観測衛星など複数の府省において実施されている同種の事業について、相互連携の強化が必要である。
具体的には、リモートセンシング衛星について、衛星投入軌道の調整、衛星の相互運用、撮像要求に対する一元管理などを連携して行うことにより、運用の効率化を図る。
また、我が国は、海外の商用衛星画像の購入に毎年約100億円を要しており、このようなニーズを十分に踏まえて、衛星の開発・整備を進める。
政府衛星の利用環境を整備するため、関係省庁連携の下、「衛星データ利用促進プラットフォーム」を構築する。
② 政府衛星の打ち上げ等の効率的実施
政府全体の衛星開発や打ち上げに関する総合調整を行うことにより、ミッションの相乗りやデュアルローンチなど効率的な事業の実施を図る。
③ 防災・災害対応
防災や災害対応を目的とした宇宙利用技術について、関係府省間で連携し、その効果的かつ効率的活用を進める。
(4)海外展開支援のための施策連携
宇宙利用のニーズが拡大している新興国において、海外からの宇宙システム導入に際し、自国の宇宙技術の振興や宇宙産業の育成を発注の条件とする場合が多い。
そのため、我が国の宇宙システムの海外展開に当たっては、我が国産業競争力の強化に加え、輸出金融などのファイナンスの供与、ODAによる途上国支援、APRSAFや国際宇宙ステーション(ISS)の活用、現在実施中の研究開発や人材育成事業との連携、政府によるトップセールスや在外公館の活用など、可能な限りの政府による支援策を効果的に組み合わせて推進する。
(5)研究開発事業の省庁間連携や宇宙開発利用の事業評価の徹底等
文部科学省、経済産業省、JAXAがこれまで以上に連携し、研究開発と産業競争力の強化を通じた産業基盤の維持、強化を一体的かつ計画的に推進する。
宇宙開発利用に関する事業は、長期の期間と多額の費用を要するものが多い。効率的な事業実施を担保するため、評価の徹底(事前、事業実施中、事後を含む)、事業管理の強化を行う。
(6)運用経費や施設設備の維持費の合理化
衛星等の運用費については、複数衛星の運用を一括して民間事業者に委託したり、商業価値のある衛星データについては民間活力を利用しつつデータの販売益によって運用費に充当するなど効率化を進める。
また、射場等宇宙開発利用に係る施設設備の維持費等を節減することに努める。
第4章宇宙基本計画に基づく施策の推進
我が国の宇宙開発利用を総合的かつ計画的に推進するために、以下の施策を推進する。
(1)宇宙基本計画に基づく施策の実施
① 宇宙基本計画に基づくJAXA中期目標の策定
平成25年度を開始年度とするJAXAの新たな中期目標は、独立行政法人宇宙航空研究開発機構法第19条の規定により、宇宙基本計画に基づいて策定される。
② 宇宙開発利用に関する経費の見積り方針
内閣府は、毎年度の概算要求に合わせて、宇宙政策委員会の審議を経て「宇宙開発利用に関する経費の見積り方針」を取りまとめ、関係省庁に提示する。また、関係省庁は本方針に沿って概算要求を行う。
内閣府は必要に応じて本方針のフォローアップを行い、要求内容を評価する。
③ 宇宙関連施策の評価
関係府省の宇宙関連施策を、政府全体として効率的かつ効果的に実施する必要がある。宇宙関連施策は、長期間かつ多額の費用を要し、多くの場合、事業開始後の大きな方針変更が難しい。
したがって、主要な事業については、事業着手の前に宇宙政策委員会において、厳正に評価する。
また、事業開始後も中間評価を行うことによって、適宜事業内容の修正等を行うとともに、事後評価を行うことによって、他の事業の改善に役立て、今後の事業に反映する。
④ 宇宙開発利用に関する関係府省等連絡調整会議の開催
内閣府は、関係府省からなる連絡調整会議等を活用して、宇宙政策全般に関する調整を行うとともに、利用者のニーズや開発者の技術シーズ等を取りまとめ、これを開発内容に反映する等、効率的・効果的な宇宙政策の企画、立案及び総合調整を行う。
(2)施策の進捗状況のフォローアップと公表
宇宙基本計画に基づく個別施策の進捗状況について、フォローアップを行い、適宜公表する。
(3)宇宙以外の政策との連携
本計画の実施に当たっては、主要経済政策、防衛計画の大綱、地理空間情報活用推進基本計画、科学技術基本計画など宇宙以外の関係する政策と十分な連携を図る。
{*1* 宇宙基本法第二十四条参照}
{*2* 独立行政法人宇宙航空研究開発機構法第十九条参照}
{*3* 独立行政法人宇宙航空研究開発機構法第十八条及び第二十六条参照}
{*4* 独立行政法人宇宙航空研究開発機構法第十八条及び第二十六条参照}
{*5* Command, Control, Communication, Computer, Intelligence, Surveillance, Reconnaissanceの略で「指揮、統制、通信、コンピューター、情報、監視、偵察」という機能の略称。}
{*6* 宇宙産業は、衛星、ロケット、地上施設等の製造を行う「宇宙機器産業」、衛星を活用して測位、リモートセンシング、衛星通信・放送等のサービスを提供する「宇宙利用サービス産業」、GPS端末、カーナビ機器、BS受信機等ユーザー端末等を提供する「宇宙関連民生機器産業」とこれらのサービス・機器を利用する「ユーザー産業」と定義される。}
{*7* 人工衛星等を活用した自然災害リスクに関する情報の共有等によるASEAN全体の防災能力強化を図る目的で、2011年に日本側よりASEAN側に提案した構想。人工衛星の連携運用等により、ASEAN全体の災害監視、防災対応に貢献する。}
{*8* 補完機能とは、衛星測位の利用可能となる場所と時間が拡大すること。補強機能とは、衛星測位の精度及び信頼性を向上すること。}
{*9* 世界の衛星測位市場は、7兆円(2005)から56兆円(2025)に拡大する見込みである(2006年EU調査)。}
{*10* 参加機関(14宇宙機関):ASI(イタリア宇宙機関)、CNES(フランス国立宇宙研究センター)、CNSA(中国宇宙国家航天局)、CSA(カナダ宇宙庁)、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)、DLR(ドイツ航空宇宙センター)、ESA(欧州宇宙機関)、ISRO(インド宇宙研究機関)、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、KARI(韓国航空宇宙研究所)、NASA(米国航空宇宙局)、NSAU(ウクライナ国立宇宙機関)、Roscosmos(ロシア連邦宇宙局)、UKSA(英国宇宙庁)}
{*11* 第四条「条約の当事国は、核兵器及び他の種類の大量破壊兵器を運ぶ物体を地球を回る軌道に乗せないこと、これらの兵器を天体に設置しないこと並びに他のいかなる方法によってもこれらの兵器を宇宙空間に設置しないことを約束する。月その他の天体は、もっぱら平和目的のために、条約のすべての当事国によって利用されるものとする。」}