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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 安全保障理事会2286(2016)(紛争下の医療従事者及び医療施設の保護に関する決議第2286号)

[場所] 
[年月日] 2016年5月3日
[出典] 国際連合広報センターWebサイト(https://www.unic.or.jp/files/s_res_2286.pdf)
[備考] 2016年5月3日、安全保障理事会第7685回会合にて採択
[全文] 

 安全保障理事会は、

 国際の平和および安全の維持に関する安保理の主要な責任並びに、この文脈において、国際人道法の原則と規則に対する尊重を促進し且つ確保する必要性をくり返し表明し、


 人道要員の保護に関する諸決議2175(2014)および1502(2003)、武力紛争下の文民の保護に関する諸決議1265(1999)、1296(2000)、1674(2006)、1738(2006)、1894(2009)および2222(2015)、子どもと武力紛争に関する監視と報告制度の確立に関する諸決議1539(2004)および1612(2005)、並びに学校および/または病院に対する攻撃に関する決議1998(2011)を含む、全ての関連する安全保障理事会諸決議、並びに武力紛争下の文民の保護および紛争地区における医療要員と人道要員の保護に関する安保理議長の関連する諸声明を想起し、

 人道要員の安全と防護および国際連合要員の保護と表題のついた決議70/104、国際連合の緊急人道支援の調整の強化と表題のついた70/106、およびグローバル・ヘルスと外交政策と表題のついた69/132を含む、全ての関連する総会諸決議を想起し、

 1949年のジュネーブ諸条約および、適用可能な場合には、1977年と2005年のその追加議定書、並びに傷病者の保護、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段と装備、並びに病院とその他の医療施設に関係する関連する国際慣習法、およびあらゆる状況において国際人道法を尊重しそして尊重を確保する武力紛争の当事者の義務を想起し、

 国際連合および関連要員の安全に関する条約およびその選択議定書を想起し、

 医療の職務に専ら従事している人道要員と医療要員が直面している特定の課題を認識しそして全ての人道要員が、国際人道法の下での尊重と保護の権利を与えられていることを再確認し、

 医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段と装備、並びに病院とその他の医療施設の識別が、その保護を高める可能性があることを強調し、そしてこれに関連して、武力紛争の状況における、1949年のジュネーブ諸条約および適用可能な場合にはその追加議定書の下での特殊標章の使用と保護に関連する義務をまた想起し、

 攻撃されてはならない、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段と装備、並びに病院とその他の医療施設を武力紛争の状況において尊重しまた保護する、そして傷病者が、実行可能な限り最大限にそしてできるだけ早く、医学的治療と必要な注意を受けることを確保する、国際人道法の下での具体的な義務を更に想起し、

 一般住民と戦闘員との間を区別する国際人道法の下での義務、そして無差別攻撃の禁止、攻撃されることになっている目標が、文民でもなくまた民用物でもないことそして医療要員彼らの移動手段や装備また病院やその他の医療施設を含む、具体的保護の対象でないことを検証するため実行可能なあらゆることをする義務をまた想起し、そして文民および民用物に対する害を避けることやいずれにしても最小化する目的であらゆる実行可能な用心をする義務を更に想起し、

 これらの義務にもかかわらず、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設に対する暴力行為、攻撃および脅威が、武力紛争の状況で行われておりそしてそのような行為の数が増えていることを深く懸念し、

 地元で勧誘された医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員が、武力紛争の状況におけるそのような要員の中の犠牲者の大多数の割合を占めていることを想起し、

 必要としている住民に対する、医療援助を含む、人道援助の提供が、多くの紛争状況において武力紛争の当事者により妨害されていることを更に懸念し、

 国際人道法の下では、医療サービスに従事している人が、医療倫理の規則または傷病者の利益のために考案されたその他の医療規則に反して行為を果たすことまたは活動を実行することを強要されるものではないことを想起し、

 医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設に対する暴力行為、攻撃および脅威、そして医療援助を含む、人道支援の提供を妨害することが、現行の武力紛争を悪化させそして国際連合憲章の下で国際の平和および安全を維持する安全保障理事会の取組を損なう可能性があることを確信し、

 医療援助を含む、人道援助の提供における人道、中立、公平および独立の人道原則を尊重する武力紛争の全ての当事者の必要性を再確認し、そしてこれらの原則を促進しまた十分に尊重する武力紛争の状況においてそのような援助の提供に従事している全ての関係者の必要性もまた再確認し、

 国家に対し、武力紛争における、傷病者、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設の保護に関する国際人道法の違反が、罰せられないままでないことを確保することを促し、国内法および国際法の下での義務により規定されているように、それに責任を有する者が、刑事責任の免除を得て活動しないこと、そして責任を問われることを確保する国家の必要性を断言し、

 国際法の下では、病院および軍事目標でないことを条件として、傷病者が集められた場所に対して意図的に向けられた攻撃、並びに国際法と一致してジュネーブ条約の特殊標章が用いられている建物、物資、医療部隊および輸送並びに要員に対して意図的に向けられた攻撃は、戦争犯罪であることを想起し、

 刑事責任の免除に対する闘いおよび戦争犯罪と国際人道法のその他の重大な違反に対する責任を確保することは、国際刑事司法制度の活動とそこにおけるこれらの犯罪の起訴を通して強化されてきていることを強調し、そしてこれに関連して、国家のそれぞれの義務に従って国際裁判所や法廷との国家協力の重要性をくり返し表明し、

 武力紛争の状況における、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員が、人間の尊厳に対する哀れみと尊敬と共に、また常に人の生命を念頭に置いて、十分な職業上のまた道徳上の独立性をもって要求にかなう医療サービスを提供しそして患者の最善の利益において行動する義務の下にあり続けていることに留意しそしてその各々の職業上の倫理規定を護持する必要性を強調し、また医療倫理と一致する医療活動を実行しているあらゆる人の不処罰に関する国際人道法の適用可能な規則に更に留意し、

 自らの全領域を通して住民を保護する国家の主要な責任を再確認しそして武力紛争の全ての当事者が、武力紛争における文民および医療要員の保護に関連した国際人道法の下で彼らに適用可能な義務を十分に遵守しなければならないことをこれに関連して想起し、

 1.傷病者、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設に対する暴力行為、攻撃および脅威を強く非難し、そして関係する諸国の一般住民と健康管理制度に対するそのような攻撃の長期の結果に憂慮する。

 2.武力紛争の全ての当事者が、全ての医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設の尊重と保護を確保するため、適用可能な場合には、国際人権法を含む国際法および国際人道法の下での自らの義務、とりわけ1949年のジュネーブ諸条約

の下での自らの義務および1977年と2005年の追加議定書の下での自らに適用可能な義務を十分に遵守することを要求する。

 3.武力紛争の全ての当事者が、国際人道法に適合して、必要としている全ての人に対する、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの装備、移動および外科用品目を含む供給品の安全且つ妨害のない通過を促進することを要求する。

 4.国家および武力紛争の全ての当事者に対し、適切な場合には、自らの関連する国際的な法的義務、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段および医療施設に対する障害、脅威と物理的攻撃に関するデータの収集に対する尊重を確保する国内の法的枠組の策定を通したものを含めて、武力紛争における医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段と装備、並びに病院とその他の医療施設に対する暴力行為、攻撃および脅威を予防しそして対処する効果的な措置を策定することを、そしてこれに関連した課題と良い実践を共有することを強く促す。

 5.国際人道法における教育と訓練が、傷病者、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設に対する暴力行為、攻撃および脅威を停止させそして予防するための取組を支援することにおいて果たすことができる重要な役割を強調する。

 6.国家に対し、自らの軍隊および治安部隊が、国内法の下での自らの権限の範囲内で、傷病者の保護および医療サービスのための現実的な措置を自らの活動の計画や実施に統合するための努力を行いまたは、関連する場合には、継続することを確保することを求める。

 7.刑事責任の免除を終わらせる国際法の下での関連義務を遵守しそして国際人道法の重大な違反に責任を有する者の責任を問うことを確保する国家の責任を強調する。

 8.同様にこれらの行為の再発の一因となる可能性のある、武力紛争における、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設に対して犯された違反や侵害についての支配的な刑事責任の免除を強く非難する。

 9.国家に対し、武力紛争における、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設の保護に関連した国際人道法の違反についての自らの管轄権の範囲内で、独立したやり方で、十分な、迅速な、公平なまた効果的な調査を実施すること、そして、適当と認められる場合には、予防手段を強化し、説明責任を確保しそして被害者の不平の種に対処する目的で、国内法と国際法に従って責任を有する者に対して行動を取ることを強く促す。

 10. 関連する国際連合平和維持活動の職務権限が、適当と認められる場合にはまた事案に応じて、人道原則に従って、医療援助の提供を可能にするための安全な環境に貢献するのに役立つことができることを確実にする安保理の意図を表明する。

 11. 事務総長に対し、国際連合憲章の下での彼の大権に従って、必要としている住民への医療援助の提供が武力紛争の当事者により妨げられている状況に、安全保障理事会の注意をもたらすことを奨励する。

 12. 事務総長に対し、彼の国別状況報告書および文民の保護、傷病者、医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設の保護の問題に対処する、彼らに対する具体的な暴力行為の記録を含む、その他の関連する報告書に、同様の出来事を防止するため、武力紛争の当事者および人道機関を含むその他の関連する関係者により講じられた救済措置並びにそのような行為を行う者を特定しそして責任を問うために講じられた行動を含めることを要請する。

 13. 事務総長に対し、前項で記述された種類の出来事を防止するためまた説明責任をより良く確保しそして傷病者および医療要員と医療の職務に専ら従事している人道要員、彼らの移動手段や装備、並びに病院やその他の医療施設の保護を高めるための措置について勧告と共に安全保障理事会に速やかに提出することを更に要請する。

 14. 事務総長に対し、本決議の実施について12か月毎に安全保障理事会に概要を説明することを更に要請する。