データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際人道法違反処罰法

[場所] 
[年月日] 2022年6月17日
[出典] 総務省
[備考] 令和4年6月17日 施行
[全文] 

(目的)

第一条 この法律は、国際的な武力紛争において適用される国際人道法に規定する重大な違反行為を処罰することにより、刑法(明治四十年法律第四十五号)等による処罰と相まって、これらの国際人道法の的確な実施の確保に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 捕虜 次のイ又はロに掲げる者であって、捕虜の待遇に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(以下「第三条約」という。)及び千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ諸条約の国際的な武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(議定書Ⅰ)(以下「第一追加議定書」という。)において捕虜として取り扱われるものをいう。

  イ 第三条約第四条に規定する者

  ロ 第一追加議定書第四十四条1に規定する者(同条2から4までの規定により捕虜となる権利を失う者を除く。)

 二 傷病捕虜 捕虜であって、第三条約第百十条第一項(1)から(3)までに該当する者をいう。

 三 文民次のイ又はロに掲げる者であって、戦時における文民の保護に関する千九百四十九年八月十二日のジュネーヴ条約(以下「第四条約」という。)及び第一追加議定書において被保護者として取り扱われるものをいう。

  イ 第四条約第四条第一項に規定する者(同条第二項及び第四項の規定により被保護者と認められない者を除く。)

  ロ 第一追加議定書第七十三条に規定する者

(重要な文化財を破壊する罪)

第三条 次に掲げる事態又は武力紛争において、正当な理由がないのに、その戦闘行為として、歴史的記念物、芸術品又は礼拝所のうち、重要な文化財として政令で定めるものを破壊した者は、七年以下の懲役に処する。

 一 第一追加議定書第一条3に規定する事態であって、次のイ又はロに掲げるもの

  イ 第一追加議定書の締約国間におけるもの

  ロ 第一追加議定書第九十六条2の規定により第一追加議定書の規定を受諾し、かつ、適用する第一追加議定書の非締約国と第一追加議定書の締約国との間におけるもの

 二 第一追加議定書第一条4に規定する武力紛争(第一追加議定書第九十六条3の規定により寄託者にあてた宣言が受領された後のものに限る。)

(捕虜の送還を遅延させる罪)

第四条 捕虜の送還に関する権限を有する者が、捕虜の抑留の原因となった武力紛争が終了した場合において、正当な理由がないのに、当該武力紛争の相手国(当該武力紛争の当事者間において合意された地を含む。次項において「送還地」という。)への捕虜の送還を遅延させたときは、五年以下の懲役に処する。

2 前項に規定する者が、正当な理由がないのに、送還に適する状態にある傷病捕虜の送還地への送還を遅延させたときも、同項と同様とする。

(占領地域に移送する罪)

第五条 第三条第一号に掲げる事態において、占領に関する措置の一環としてその国が占領した地域(以下「占領地域」という。)に入植させる目的で、当該国の国籍を有する者又は当該国の領域内に住所若しくは居所を有する者を当該占領地域に移送した者は、五年以下の懲役に処する。

(文民の出国等を妨げる罪)

第六条 出国の管理に関する権限を有する者が、正当な理由がないのに、文民の出国を妨げたときは、三年以下の懲役に処する。

2 占領地域からの出域(被占領国からの出国又は被占領国の国境を越えない占領地域外への移動をいう。以下同じ。)の管理に関する権限を有する者が、正当な理由がないのに、文民(被占領国の国籍を有する者を除く。)の占領地域からの出域を妨げたときも、前項と同様とする。

(国外犯)

第七条 第三条から前条までの罪は、刑法第四条の二の例に従う。


附則抄

(施行期日)

第一条 この法律は、第一追加議定書が日本国について効力を生ずる日から施行する。

(経過措置)

第二条 第七条の規定は、この法律の施行の日以後に日本国について効力を生ずる条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされる罪に限り適用する。