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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 武力攻撃事態及び存立危機事態における外国軍用品等の海上輸送の規制に関する法律(平成十六年法律第百十六号)

[場所] 
[年月日] 2022年6月17日
[出典] 総務省
[備考] 令和4年6月17日 施行
[全文] 

第一章 総則

(目的)

第一条 この法律は、武力攻撃事態(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(平成十五年法律第七十九号)第二条第二号に規定する武力攻撃事態をいう。以下同じ。)及び存立危機事態(同条第四号に規定する存立危機事態をいう。以下同じ。)に際して、外国軍用品等の海上輸送を規制するため、自衛隊法(昭和二十九年法律第百六十五号)第七十六条第一項の規定により出動を命ぜられた海上自衛隊の部隊が実施する停船検査及び回航措置の手続並びに防衛省に設置する外国軍用品審判所における審判の手続等を定め、もって我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする。

(定義)

第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 一 外国軍隊等武力攻撃事態又は存立危機事態において、武力攻撃(武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律第二条第一号に規定する武力攻撃をいう。第十六条において同じ。)又は存立危機武力攻撃(同法第二条第八号ハ(1)に規定する存立危機武力攻撃をいう。次号において同じ。)を行っている外国の軍隊その他これに類する組織をいう。

 二 外国軍用品次のイからチまでのいずれかに掲げる物品(政令で指定するものに限る。)で外国軍隊等が所在する地域を仕向地とするもの及び次のリからヲまでのいずれかに掲げる物品(政令で指定するものに限る。)で、武力攻撃事態においては外国軍隊等が所在する我が国の領域又は我が国周辺の公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。以下同じ。)上の地域を、存立危機事態においては外国軍隊等が所在する存立危機武力攻撃を受けている外国の領域又は当該外国周辺の公海上の地域を仕向地とするものをいう。

  イ 核兵器、化学兵器、生物兵器若しくは毒素兵器(これらの運搬の用に供されるミサイルその他のこれらの運搬手段を含む。)又は対人地雷

  ロ 銃砲

  ハ 銃砲弾又は軍用の爆発物(イに掲げるものを除く。)

  ニ 軍用の武器(イからハまでに掲げるものを除く。)

  ホ 軍用の航空機、ロケット、船舶又は車両(イに掲げるものを除く。)

  ヘ 軍用の通信機器又は電子機器

  ト イからヘまでに掲げるものの部分品又は附属品

  チ 軍用の火薬類(爆発物を除く。)又は軍用の燃料

  リ 装甲板、軍用ヘルメット、防弾衣その他軍用の装備品(イからトまでに掲げるものを除く。)

  ヌ 航空機、ロケット、船舶若しくは車両の修理若しくは整備に用いられる装置又はその部分品若しくは附属品

  ル 航空機、ロケット、船舶又は自動車の燃料(チに掲げるものを除く。)、潤滑油又は作動油

  ヲ 食糧(外国軍隊等に仕向けられたものに限る。)

 三 外国軍用品等外国軍用品又は外国軍隊等の構成員をいう。

 四 船舶軍艦等(軍艦及び各国政府が所有し、又は運航する船舶であって、非商業的目的のみに使用されるものをいう。以下同じ。)以外の船舶をいう。

 五 船長等船舶の船長又は船長に代わって船舶を指揮する者をいう。

 六 艦長等第四条第一項の規定により第四章の規定による措置を命ぜられた海上自衛隊の自衛艦その他の部隊の長をいう。

 七 停船検査外国軍用品等を輸送しているかどうかを確かめるため、船舶の進行を停止させて立入検査をし、又は乗組員及び旅客(以下「乗組員等」という。)に対して必要な質問をすることをいう。

 八 回航措置停船検査を行った船舶の船長等に対し、我が国の港(政令で指定するものに限る。第二十八条第一項において同じ。)へ回航すべき旨を命じ、当該命令の履行を確保するために必要な監督をすることをいう。

(国際法規の遵守)

第三条 第四章の規定による措置その他この法律に基づく手続を実施するに当たり、国際の法規及び慣例によるべき場合にあっては、これを遵守しなければならない。


第二章 外国軍用品等の海上輸送の規制

(海上自衛隊の部隊による措置)

第四条 防衛大臣は、自衛隊法第七十六条第一項の規定により海上自衛隊の全部又は一部に出動が命ぜられた場合において、我が国領海、外国の領海(海上自衛隊の部隊が第四章の規定による措置を行うことについて当該外国の同意がある場合に限る。)又は公海において外国軍用品等の海上輸送を規制する必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、同項の規定により出動を命ぜられた海上自衛隊の部隊に、同章の規定による措置を命ずることができる。

2 防衛大臣は、前項の規定による命令をするときは、停船検査を実施する区域(以下「実施区域」という。)を告示して定めなければならない。

(関係機関等に対する周知)

第五条 防衛大臣は、前条第二項の告示をしたときは、直ちに、外務大臣にその旨を通知するものとする。

2 外務大臣は、前項の通知を受けたときは、遅滞なく、関係する外国政府及び国際機関に対して、外国軍用品の範囲及び実施区域を周知させる措置をとらなければならない。

(外国軍用品等の輸送の規制)

第六条 外国軍用品審判所は、第二十七条第三項の規定による送致を受けた積荷又は第三十四条の規定による送致を受けた事件に係る船舶の積荷(以下この条及び第五十二条第一項から第三項までにおいて「積荷」と総称する。)が第二条第二号イに該当する外国軍用品であるときは、第五章に規定する手続に従い、これを廃棄しなければならない。

2 外国軍用品審判所は、積荷が第二条第二号ロからチまでのいずれかに該当する外国軍用品であるときは、第五章に規定する手続に従い、その輸送を停止しなければならない。

3 外国軍用品審判所は、積荷が第二条第二号リからヲまでのいずれかに該当する外国軍用品である場合において、必要があると認めるときは、第五章に規定する手続に従い、その輸送を停止することができる。

4 外国軍用品審判所は、第三十四条の規定による送致を受けた事件に係る船舶が外国軍用品等を輸送しており、かつ、次の各号のいずれかに該当する場合において、当該船舶が外国軍用品等の海上輸送を反復して行うことを防止するため必要があると認めるときは、第五章に規定する手続に従い、その航行を停止することができる。

 一 当該船舶の傭(ルビ:よう)船者が外国軍隊等であるとき。

 二 前号に掲げるもののほか、当該船舶の船長等が外国軍隊等の指揮監督を受けるとき。

 三 当該船舶の旅客の相当数が外国軍隊等の構成員であるとき。

 四 前三号に準ずるものとして政令で定めるとき。


第三章 外国軍用品審判所

(設置)

第七条 防衛省に、臨時に、特別の機関として、外国軍用品審判所を置く。

2 外国軍用品審判所の設置の場所及び期間は、政令で定める。

(任務)

第八条 外国軍用品審判所は、艦長等が停船検査を行った船舶に係る事件(以下単に「事件」という。)の調査及び審判を行うことを任務とする。

(所掌事務)

第九条 外国軍用品審判所は、前条の任務を達成するため、次に掲げる事務をつかさどる。

 一 事件について必要な調査に関すること。

 二 審判に関すること。

 三 審決の執行に関すること。

(外国軍用品審判所長)

第十条 外国軍用品審判所の長は、外国軍用品審判所長とし、第十二条第一項の審判官をもって充てる。

(支部)

第十一条 外国軍用品審判所の事務の一部を取り扱わせるため、所要の地に、支部を置くことができる。

2 支部の名称、位置、管轄区域及び内部組織は、政令で定める。

(審判官及び事務官)

第十二条 外国軍用品審判所に審判官及び事務官を置く。

2 審判官は、法律(国際法規を含む。)、防衛又は海事に関し知識経験を有する者であって、政令で定める資格を有するもののうちから、防衛大臣が任命する。

3 審判官の定数は、政令で定める。

4 事務官は、命を受け、事務に従事する。

(審判官の職権の独立)

第十三条 審判官は、独立してその職権を行う。

(構成)

第十四条 外国軍用品審判所は、審判官五名をもって構成する合議体で、事件について必要な調査及び審判を行う。

2 合議体の合議は、過半数により決する。

3 外国軍用品審判所長は、各事件について、第一項の合議体を構成すべき審判官を指定しなければならない。

4 外国軍用品審判所長は、前項の規定により指定した審判官のうち一人を審判長として指定しなければならない。

5 審判長は、その事件について必要な調査及び審判に関する事務を総理する。

(事務局)

第十五条 外国軍用品審判所の事務を処理させるため、外国軍用品審判所に事務局を置く。

2 事務局の内部組織は、政令で定める。


第四章 停船検査及び回航措置


第一節 停船検査

(停船検査)

第十六条 艦長等は、武力攻撃が発生した事態又は存立危機事態において、実施区域を航行している船舶が外国軍用品等を輸送していることを疑うに足りる相当な理由があるときは、この節の定めるところにより、当該実施区域において、当該船舶について停船検査を行うことができる。ただし、当該船舶が軍艦等に警護されている場合は、この限りでない。

(停船命令)

第十七条 艦長等は、停船検査を行おうとするときは、あらかじめ、無線その他の通信手段を用いて、当該船舶に対し、進行の停止を命ずるものとする。

2 艦長等は、前項の規定により進行の停止を命じた場合において、当該船舶がこれに従わないときは、接近、追尾、伴走又は進路前方における待機を行って、繰り返し進行の停止を命ずるものとする。

3 前二項の場合において、艦長等は、自衛艦旗を掲げるほか、必要に応じ、呼びかけ、信号弾及び照明弾の使用その他の適当な手段により、自己の存在を示すものとする。

(船上検査の実施)

第十八条 艦長等は、前条第一項又は第二項の規定による命令を受けた船舶が停止したときは、海上自衛隊の三等海尉以上の自衛官を当該船舶に乗り込ませ、第二十条から第二十二条までの規定による検査(以下「船上検査」という。)を行わせるものとする。

(船長等に対する告知)

第十九条 前条の自衛官(以下「船上検査官」という。)は、船上検査を行う船舶に乗船したときは、その船長等に対し、船上検査を行う旨及び船上検査の手続に関し苦情があるときは艦長等に対し理由を記載した文書を提出して苦情の申出をすることができる旨を告知するものとする。

(船舶書類の検査)

第二十条 船上検査官は、船長等に対し、次に掲げる書類(以下「船舶書類」という。)の提示を求めることができる。

 一 船舶国籍証書その他の船舶の国籍を証明する書類

 二 乗組員等の名簿

 三 航海日誌その他の航行の状況を記録する書類

 四 船荷証券その他の積荷に関する書類

(乗組員等への質問)

第二十一条 船上検査官は、必要があると認めるときは、乗組員等に質問をすることができる。

(積荷の検査)

第二十二条 船上検査官は、前二条の規定による検査を行った場合においても、なお当該船舶が外国軍用品等を輸送している疑いがあると認めるときは、船長等を立ち会わせて、積荷を検査することができる。

(出入禁止)

第二十三条 船上検査官は、船上検査を行う間は、乗組員等(船長等を除く。)に対し、許可を得ないでその場所に出入りすることを禁止することができる。

(身分証明書の提示等)

第二十四条 船上検査官は、船上検査を行うときは、その身分を示す証明書を携帯し、船長等の請求があるときは、これを提示しなければならない。

2 第二十条から前条までの規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(艦長等への報告)

第二十五条 船上検査官は、船上検査を行ったときは、直ちにその結果を艦長等に報告しなければならない。

(停船検査の終了)

第二十六条 艦長等は、前条の報告を受けたときは、次条第一項の規定による引渡しの求め又は第二十八条第一項の規定による命令をするときを除き、速やかに、停船検査を終了しなければならない。


第二節 回航措置

(外国軍用品の引渡し)

第二十七条 第二十五条の報告を受けた艦長等は、当該報告に係る船舶の積荷が外国軍用品であると認められ、かつ、当該積荷をその自衛艦に収容することができる場合において、第六条第四項各号のいずれにも該当しないと認めるときは、当該船舶の船長等に対し、当該積荷の引渡しを求めることができる。

2 艦長等は、前項の引渡しを受けたときは、調書を作成し、当該船舶の船長等に交付しなければならない。

3 艦長等は、第一項の引渡しを受けたときは、速やかに、書類及び当該積荷とともに事件を外国軍用品審判所に送致しなければならない。

(回航命令)

第二十八条 第二十五条の報告を受けた艦長等は、次の各号のいずれかに該当するときは、当該報告に係る船舶の船長等に対し、我が国の港へ回航すべきことを命ずることができる。

 一 当該船長等が前条第一項の規定による外国軍用品の引渡しの求めに応じないとき。

 二 当該船舶が外国軍用品等を輸送していると認めるとき(前条第一項の規定により外国軍用品の引渡しを求めることができる場合を除く。)。

 三 当該報告のほか、当該船舶の外観、航海の態様、乗組員等の異常な挙動その他周囲の事情等から判断して、なお当該船舶が外国軍用品等を輸送している疑いがあると認めるとき(前二号に該当するときを除く。)。

2 艦長等は、前項の規定による命令をしようとするときは、あらかじめ、船長等に対し、弁明を記載した文書を提出する機会を与えなければならない。

(監視措置)

第二十九条 艦長等は、前条第一項の規定による命令をしたときは、船上検査官に、当該船舶の船舶書類及びその積荷のうち外国軍用品であるもの(外国軍用品の疑いがあるものを含む。)の移動を監視するために必要な封印をさせ、又は装置を取り付けさせることができる。

(回航監督官の派遣)

第三十条 艦長等は、第二十八条第一項の規定による命令をしたときは、当該命令の履行の確保に必要な監督をさせるため、海上自衛隊の三等海尉以上の自衛官を当該命令に係る船舶(以下「回航船舶」という。)に乗り込ませるものとする。

(船長等に対する告知)

第三十一条 前条の自衛官(以下「回航監督官」という。)は、回航船舶に乗船したときは、その船長等に対し、第二十八条第一項の規定による命令の内容及び回航措置の手続に関し苦情があるときは艦長等に対し理由を記載した文書を提出して苦情の申出をすることができる旨を告知するものとする。

(回航監督官の権限)

第三十二 条回航監督官は、第二十八条第一項の規定による命令の履行の確保又は航行の安全若しくは船内の秩序維持のため必要があると認めるときは、回航船舶の船長等に対し、必要な措置をとるべきことを指示することができる。

2 回航監督官は、船長等が前項の規定による指示に従わない場合において、やむを得ない必要があるときは、自ら当該指示に係る措置をとることができる。

3 艦長等は、回航監督官に、第二十九条に規定する措置を講じさせることができる。

(回航船舶への自衛艦旗の掲揚)

第三十三条 回航監督官は、回航船舶に、当該船舶の旗国(海洋法に関する国際連合条約第九十一条に規定するその旗を掲げる権利を有する国をいう。)の国旗及び自衛艦旗を掲げさせるものとする。

(外国軍用品審判所への送致)

第三十四条 艦長等は、回航船舶が我が国の港に到着したときは、速やかに、書類とともに事件を外国軍用品審判所に送致しなければならない。


第三節 雑則

(防衛大臣への報告)

第三十五条 艦長等は、停船検査を行ったとき、又は回航措置をとったときは、速やかに、当該停船検査又は回航措置に関する報告書を作成し、防衛大臣に提出しなければならない。

2 艦長等は、第二十八条第一項の規定による命令をしたとき、又は船長等から第十九条若しくは第三十一条に規定する苦情の申出があったときは、直ちにその旨を防衛大臣に報告しなければならない。

3 防衛大臣は、前項の規定による報告を受けたときは、必要に応じ、関係機関への連絡その他の措置を講ずるものとする。

(艦長等の配慮義務)

第三十六条 艦長等並びに船上検査官及び回航監督官は、停船検査を行い、又は回航措置をとるときは、その対象となる船舶が必要以上に予定の航路を変更することのないように配慮しなければならない。

(武器の使用)

第三十七条 警察官職務執行法(昭和二十三年法律第百三十六号)第七条の規定は、この章の規定による措置を命ぜられた海上自衛隊の部隊の自衛官の職務の執行について準用する。

2 前項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により武器を使用する場合のほか、同項に規定する自衛官は、艦長等が第十七条第二項の規定に基づき当該船舶の進行の停止を繰り返し命じても乗組員等がこれに応ぜずなお当該自衛官の職務の執行に抵抗し、又は逃亡しようとする場合において、当該船舶の進行を停止させるために他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由があるときは、艦長等の命令により、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度において、武器を使用することができる。

(抑留対象者の取扱い)

第三十八条 停船検査を行う船舶又は回航船舶内に抑留対象者(武力攻撃事態及び存立危機事態における捕虜等の取扱いに関する法律(平成十六年法律第百十七号)第三条第六号に規定する抑留対象者をいう。)がある場合におけるその取扱いについては、同法の定めるところによる。


第五章 審判手続

(送致事件の調査)

第三十九条 外国軍用品審判所は、第二十七条第三項又は第三十四条の規定による事件の送致を受けたときは、当該事件について必要な調査をしなければならない。

(調査のための強制処分)

第四十条 外国軍用品審判所は、第三十四条の規定による事件の送致を受けたときは、当該事件に係る船舶の船長等に対し、当該船舶の出航を禁止することができる。

2 前項の規定により出航を禁止する期間は、事件が送致された日から起算して一月とする。ただし、外国軍用品審判所は、通じて一月を超えない範囲で、当該期間を延長することができる。

3 外国軍用品審判所は、第四十五条第一項又は第二項の規定による決定をしたとき、その他第一項の船舶の出航を禁止する必要がなくなったときは、前項の期間内であっても、第一項の規定による命令を取り消さなければならない。

第四十一条 外国軍用品審判所は、事件について必要な調査をするため、次に掲げる処分をすることができる。

 一 当該事件に係る船舶の乗組員その他の関係者又は参考人に出頭を命じて審問し、又はこれらの者から意見若しくは報告を徴すること。

 二 鑑定人に出頭を命じて鑑定させること。

 三 当該事件に係る船舶の船舶書類、積荷その他当該船舶に関する物件の所持者に対し、当該物件の提出を命じ、又は提出された物件若しくは第二十七条第三項の規定による送致を受けた積荷を留置すること。

 四 当該事件に係る船舶その他必要な場所に立ち入り、前号に規定する物件を検査すること。

2 外国軍用品審判所は、相当と認めるときは、外国軍用品審判所の事務官を調査官に指定し、前項の処分をさせることができる。

3 前項の規定により立入検査をする調査官は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。

4 第一項又は第二項の規定による立入検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。

(留置物件の保管等)

第四十二条 外国軍用品審判所は、前条第一項第三号の規定により留置した物件(以下「留置物件」という。)のうち運搬又は保管に不便なものについては、看守者を置き、又は適当と認める者に、その承諾を得て、これを保管させることができる。

2 外国軍用品審判所は、留置物件のうち、人の生命又は財産を害する急迫した危険を生ずるおそれがあるものを廃棄することができる。

(留置物件の返還)

第四十三条 外国軍用品審判所は、留置物件について留置の必要がなくなったときは、その返還を受けるべき者にこれを還付しなければならない。

2 外国軍用品審判所は、前項の留置物件の返還を受けるべき者の住所若しくは居所がわからないため、又はその他の事由によりこれを還付することができない場合においては、政令で定めるところにより、その旨を公告しなければならない。

3 前項の公告に係る留置物件について、公告の日から六月を経過しても還付の請求がないときは、その留置物件は、国庫に帰属する。

4 前項の期間内であっても、価値のない留置物件は、これを廃棄し、保管に不便な物件は、政令で定めるところにより、これを売却してその代価を保管することができる。

(調書の作成)

第四十四条 外国軍用品審判所は、事件について必要な調査をしたときは、その要旨を調書に記載し、かつ、特に第四十条第一項又は第四十一条第一項の規定による処分があったときは、その結果を明らかにしておかなければならない。

(審判の開始)

第四十五条 外国軍用品審判所は、事件について必要な調査の結果、第六条各項に規定する場合のいずれかに該当すると認めるときは、審判を開始する旨の決定をしなければならない。

2 外国軍用品審判所は、前項に規定する場合を除き、審判を開始しない旨の決定をしなければならない。

3 第四十条の規定は、外国軍用品審判所が、事件について必要な調査の結果、第六条第四項に規定する場合に該当すると認めて、第一項の規定による審判開始決定をしたときについて準用する。この場合において、第四十条第二項本文中「事件が送致された日」とあるのは「第四十五条第一項の規定による審判開始決定の日」と、「一月」とあるのは「三月」と、同項ただし書中「通じて一月を超えない範囲で、当該期間を延長する」とあるのは「特に必要があると認めるときは、一月ごとに当該期間を更新する」と、同条第三項中「第四十五条第一項又は第二項の規定による決定」とあるのは「第五十二条第四項又は第五項の審決」と読み替えるものとする。

第四十六条 外国軍用品審判所は、前条第一項の規定による審判開始決定をしたときは、政令で定めるところにより、その旨を公告しなければならない。

2 前項の公告があったときは、利害関係者は、公告の日から三十日以内に、外国軍用品審判所に意見書を提出することができる。

3 外国軍用品審判所は、前項の期間が経過した後、審判を開始するものとする。

4 第二項の規定にかかわらず、利害関係者は、外国軍用品審判所がやむを得ない事情があると認めるときは、同項の期間が経過した後であっても、意見書を提出することができる。

(調査官の権限)

第四十七条 第四十一条第二項の規定により指定された調査官は、審判に立ち会い、証拠の申出その他必要な行為をすることができる。

(審判の公開)

第四十八条 審判は、これを公開しなければならない。ただし、国の安全が害されるおそれ又は外国政府との交渉上不利益を被るおそれがあると認めるときは、これを公開しないことができる。

(審判長の権限)

第四十九条 審判長は、開廷中審判を指揮し、審判廷の秩序を維持する。

2 審判長は、審判を妨げる者に対し退廷を命じ、その他審判廷の秩序を維持するため必要な措置をとることができる。

(証拠の取調べ)

第五十条 外国軍用品審判所は、申立により、又は職権で、必要な証拠を取り調べることができる。

2 刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百四十三条、第百四十四条から第百四十七条まで、第百四十九条、第百五十四条から第百五十六条まで、第百六十五条及び第百六十六条の規定は、外国軍用品審判所が、審判に際して、参考人を審問し、又は鑑定人に鑑定を命ずる手続について準用する。この場合において、同法第百四十三条及び第百六十五条中「裁判所」とあるのは「外国軍用品審判所」と、同法第百四十三条、第百四十四条、第百四十五条第一項、第百五十四条及び第百五十六条第一項中「証人」とあるのは「参考人」と、同法第百四十三条、第百四十四条及び第百四十五条第一項中「尋問する」とあるのは「審問する」と、同法第百四十九条ただし書中「、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で」とあるのは「その他外国軍用品審判所が」と、同法第百五十五条第一項中「尋問しなければ」とあるのは「審問しなければ」と読み替えるものとする。

(利害関係者の意見の陳述等)

第五十一条 第四十六条第二項又は第四項の規定により意見書を提出した利害関係者又はその代理人は、外国軍用品審判所に対し、審判廷における意見の陳述を申し出、又は証拠を提出することができる。

2 外国軍用品審判所は、前項の申出があるときは、審判の期日において、その意見を陳述させるものとする。ただし、審判の状況その他の事情を考慮して、相当でないと認めるときは、意見の陳述に代えて意見を記載した書面を提出させ、又は意見の陳述をさせないことができる。

(審決)

第五十二条 外国軍用品審判所は、審判手続を経た後、積荷が第二条第二号イに該当する外国軍用品であると認めるときは、当該積荷について廃棄の審決をしなければならない。

2 外国軍用品審判所は、審判手続を経た後、積荷が第二条第二号ロからチまでのいずれかに該当する外国軍用品であると認めるときは、当該積荷について輸送停止の審決をしなければならない。

3 外国軍用品審判所は、審判手続を経た後、積荷が第二条第二号リからヲまでのいずれかに該当する外国軍用品であると認める場合において、必要があると認めるときは、当該積荷について輸送停止の審決をしなければならない。

4 外国軍用品審判所は、審判手続を経た後、第三十四条の規定による送致を受けた事件に係る船舶が外国軍用品等を輸送しており、かつ、第六条第四項各号のいずれかに該当すると認める場合において、当該船舶が外国軍用品等の海上輸送を反復して行うことを防止するため必要があると認めるときは、航行停止の審決をしなければならない。

5 外国軍用品審判所は、審判手続を経た後、第六条各項に規定する場合のいずれにも該当しないと認めるときは、その旨を明らかにする審決をしなければならない。

(証拠による事実認定)

第五十三条 前条の審決においては、公知の事実を除き、審判手続において取り調べた証拠によって事実を認定しなければならない。

(審決の方式)

第五十四条 第五十二条の審決においては、認定した事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。

(審決の効力発生時期)

第五十五条 審決は、審判廷における言渡しによってその効力を生ずる。

(審決の公告)

第五十六条 外国軍用品審判所は、第五十二条の審決をしたときは、政令で定めるところにより、その旨を公告しなければならない。

(審決の取消し)

第五十七条 外国軍用品審判所は、第五十二条第二項から第四項までの審決をした後、当該審決に係る積荷又は船舶についてその所有権の移転、仕向地の変更その他の事由により当該審決の要件である事実が消滅し、又は当該事実に変更があったと認めるときは、審決をもってこれを取り消すことができる。

第五十八条 外国軍用品審判所は、第五十二条第二項から第四項までの審決をした後、武力攻撃事態又は存立危機事態が終結したときは、遅滞なく、審決をもってこれを取り消さなければならない。

(事件記録の閲覧、審決書の謄本の交付等)

第五十九条 利害関係者は、外国軍用品審判所に対し、審判開始決定後、事件記録の閲覧若しくは謄写又は審決書の謄本若しくは抄本の交付を求めることができる。

(防衛省令への委任)

第六十条 この法律に定めるもののほか、外国軍用品審判所の審判の手続に関し必要な事項は、防衛省令で定める。


第六章 審決の執行

(審決の執行者)

第六十一条 審決は、外国軍用品審判所長が指定する外国軍用品審判所の事務官(以下「審決執行官」という。)がこれを執行する。

(廃棄の審決の執行)

第六十二条 審決執行官は、第五十二条第一項の審決があったときは、当該審決に係る積荷の無害化のための措置を講じた上で、これを廃棄しなければならない。

(輸送停止の審決の執行)

第六十三条 審決執行官は、第五十二条第二項又は第三項の審決があったときは、当該審決に係る積荷を占有して保管しなければならない。

2 審決執行官は、前項の積荷が腐敗し、若しくは変質したとき、又は腐敗若しくは変質のおそれがあるときは、政令で定めるところにより、これを売却してその代価を保管することができる。

3 審決執行官は、第一項の積荷のうち、人の生命若しくは財産を害する急迫した危険を生ずるおそれがあるもの又は腐敗、変質その他やむを得ない理由により著しく価値が減少したもので買受人がないものを廃棄することができる。

(航行停止の審決の執行)

第六十四条 審決執行官は、第五十二条第四項の審決があったときは、第二十条第一号に掲げる書類その他の当該審決に係る船舶の航行のために必要な文書を取り上げて保管するとともに、当該船舶の出航を禁止しなければならない。

(取消し審決の執行)

第六十五条 審決執行官は、第五十七条又は第五十八条の規定により、第五十二条第二項又は第三項の審決を取り消す審決があったときは、第六十三条第一項又は第二項の規定により保管する当該審決に係る積荷又はその代価をその返還を受けるべき者に還付しなければならない。

2 第四十三条第二項から第四項までの規定は、前項の場合について準用する。

3 審決執行官は、第五十七条又は第五十八条の規定により、第五十二条第四項の審決を取り消す審決があったときは、取り消された審決に係る船舶の船長等に前条の規定により保管する文書を還付するとともに、当該船舶の出航を許可しなければならない。


第七章 補償

第六十六条 外国軍用品審判所が第四十五条第二項の規定による審判を開始しない旨の決定をしたとき、第五十二条第五項の審決をしたとき、又は外国軍用品審判所の審決を取り消す裁判が確定したときは、当該決定又は審決に係る船舶の所有者、賃借人又は傭(ルビ:よう)船者は、国に対し、当該船舶の回航措置により生じた損失(外国軍用品審判所が第四十条第一項(第四十五条第三項において準用する場合を含む。第六十九条において同じ。)の規定による命令をした場合にあっては、当該命令により生じた損失を含む。)の補償を請求することができる。

第六十七条 国は、前条の補償を行った場合においては、同一の事由については、その価額の限度において、国家賠償法(昭和二十二年法律第百二十五号)又は民法(明治二十九年法律第八十九号)による損害賠償の責めを免れる。


第八章 雑則

(参考人等の費用の請求)

第六十八条 第四十一条第一項第一号若しくは第二号又は第二項の規定により出頭又は鑑定を命ぜられた参考人又は鑑定人は、政令で定めるところにより、旅費、日当その他の費用を請求することができる。

(乗組員等への便宜供与)

第六十九条 外国軍用品審判所は、第四十条第一項又は第六十四条の規定により出航を禁止された船舶の乗組員等の本邦への上陸又は本邦からの出国に際して、これらの者が出入国管理及び難民認定法(昭和二十六年政令第三百十九号)等の法令による手続を行う場合においてその手続を円滑に行うことができるようにするため、必要な便宜を供与するものとする。

(行政手続法の適用除外)

第七十条 この法律に基づく処分については、行政手続法(平成五年法律第八十八号)第三章の規定は、適用しない。

(審査請求の制限)

第七十一条 この法律に基づく処分については、審査請求をすることができない。

(政令への委任)

第七十二条 この法律に特別の定めがあるもののほか、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。


第九章 罰則

第七十三条 第五十条第二項の規定により宣誓した参考人又は鑑定人が虚偽の陳述又は鑑定をしたときは、三月以上十年以下の懲役に処する。

2 前項の罪を犯した者が、審判手続終了前であって、かつ、犯罪の発覚する前に自白したときは、その刑を軽減又は免除することができる。

第七十四条 第四十一条第一項第四号の規定による検査を拒み、妨げ、又は忌避した者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

第七十五条 第四十条第一項(第四十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による処分に違反した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

第七十六条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

 一 第四十一条第一項第一号又は第二項の規定による船舶関係者又は参考人に対する処分に違反して出頭せず、陳述をせず、虚偽の陳述をし、又は報告をせず、若しくは虚偽の報告をした者

 二 第四十一条第一項第二号又は第二項の規定による鑑定人に対する処分に違反して出頭せず、鑑定をせず、又は虚偽の鑑定をした者

 三 第四十一条第一項第三号又は第二項の規定による物件の所持者に対する処分に違反して物件を提出しない者

 四 第五十条第二項において準用する刑事訴訟法第百五十四条又は第百六十六条の規定による参考人又は鑑定人に対する命令に違反して宣誓をしない者

第七十七条 第四十九条第二項の規定による審判長の命令に従わなかった者は、五万円以下の過料に処する。


附則抄

(施行期日)

第一条 この法律は、公布の日から起算して六月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。