データベース『世界と日本』(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 宇宙基本計画(2023年6月13日)

[場所] 
[年月日] 2023年6月13日
[出典] 内閣府
[備考] (令和5年6月13日 宇宙開発戦略本部決定),令和5年6月13日閣議決定
[全文] 

前文

 人類の活動領域は、地球、地球低軌道を越え、月面、更に深宇宙へと、本格的に宇宙空間に

拡大しつつある。この過程で、人類共通の新たな知やイノベーションの創出が期待され、また、宇宙空間を舞台とした新たな経済・社会活動が生まれていくことも見込まれている。

 さらに、地上から数百キロメートルから4万キロメートルほどの上空に配備された多種多様な人工衛星群等から成る宇宙システムが、地上システムと一体となって、地球上の様々な課題の解決に貢献し、より豊かな経済・社会活動を実現するようになってきている。加えて、国際的な安全保障環境が複雑で厳しいものとなっている中、宇宙システムは、安全保障に関する取組の強化を支えている。

 こうした宇宙空間というフロンティアにおける活動を通じてもたらされる経済・社会の変革(スペース・トランスフォメーション)は、これまでのように一部の限られた国々によるものではなく、多くの国々が競争や協力をしながら推し進め、恩恵を受けていくものと見込まれる。また、官主導から官民共創へとその担い手が広がってきており、その変革のスピードは足元で急速に高まっている。

 スペース・トランスフォメーションが世界的なうねりとなっている中、我が国が宇宙先進国として戦後構築してきた宇宙活動の自立性を維持・強化し、スペース・トランスフォメーションにおいて、世界の先頭集団の一角を占め、世界をリードしていけるかどうかが、我が国の存立と繁栄の帰趨を大きく左右することとなる。そのためには、目指すべき宇宙空間の開発・利用の将来像を描き、それを実現するため、時機を逸することなく、必要な対応を取っていかなければならない。

 このため、今後20年を見据えた10年間の宇宙政策の基本方針を以下のとおり定め、スピード感を持って、関係省庁間・官民の連携を図りつつ、予算を含む資源を十分に確保し、これを効果的かつ効率的に活用して、政府を挙げて宇宙政策を戦略的に強化していく。また、宇宙政策に係る更なる態勢の強化について検討していく。


1.宇宙政策をめぐる環境認識

(1)変化する安全保障環境下における宇宙空間の利用の加速

 我が国は、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面している。ロシアによるウクライナ侵略のみならず、インド太平洋地域においても我が国の周辺国・地域は核・ミサイル戦力を含む軍事力を広範かつ急速に増強するとともに、東シナ海及び南シナ海における海空域においては、力による一方的な現状変更の試みが行われている。また、日本海及び太平洋においても我が国の安全保障に影響を及ぼす軍事活動が拡大・活発化している。さらに、サイバー空間、宇宙空間、電磁波領域などにおいて、自由なアクセスやその活用を妨げるリスクが深刻化しており、我が国の安全保障上の関心対象は地理的・空間的に拡大しつつある。

 このような我が国の安全保障上の関心対象の広がりに伴い、高い情報収集・情報通信能力を有する宇宙システムの重要性が急速に高まっている。

 さらに、宇宙システムの重要性の高まりに呼応して、宇宙システムに対する脅威も顕在化しつつある。我が国の周辺国は、近年、衛星破壊実験を行ったほか、宇宙システムに対するサイバー攻撃を含め、物理的手段・非物理的手段による多様な衛星攻撃能力を開発・配備している。

 このような安全保障環境を踏まえ、「国家安全保障戦略」(令和4年12月閣議決定)においては、我が国を全方位でシームレスに守るための取組の一つとして宇宙の安全保障の分野での対応能力を強化することとされた。また、「国家防衛戦略」(令和4年12月閣議決定)においても、防衛力を抜本的に強化するため、衛星コンステレーション等によるニアリアルタイムの情報収集能力の整備を含め、情報収集、通信、測位等の機能を強化することなどが求められている。加えて、「国家安全保障戦略」に基づき、新たに「宇宙安全保障構想」(令和5年6月宇宙開発戦略本部決定)を策定し、宇宙安全保障の分野の課題と政策を具体化し、宇宙安全保障に必要なおおむね10年の期間を念頭に置いた取組を明らかにした。

 我が国は安全保障分野における宇宙利用を強化する「宇宙からの安全保障」と、宇宙システムに対する脅威に対応し、その安定的利用を確保する「宇宙における安全保障」といった二つの取組(以下「宇宙安全保障」という。)を強化していく必要がある。また、この際、宇宙システムのデュアルユース*1*性を踏まえ、これらの取組を全省庁的に推進するとともに、民間部門におけるイノベーションを迅速に活用するため、官民による協力を強化する必要がある。さらに、宇宙空間や宇宙システムのグローバル性を踏まえ、同盟国・同志国とも協力しつつ宇宙安全保障施策を推進し、宇宙の安定的利用へ積極的に貢献していくことが重要となる。

(2)経済・社会の宇宙システムへの依存度の高まり

 通信・観測・測位など、宇宙システムによるサービスは既に日常生活に定着し、我々の経済・社会活動の重要な基盤の一つとなっている。災害時においては、被災状況の把握や緊急時の連絡の手段として大きな役割を果たしてきており、九州地方を中心とした令和2年7月豪雨災害では、衛星観測データが防災機関による災害時の浸水域や土砂崩落箇所の状況把握、防災ヘリのルート検討等の初動対応に活用されるなど、今後も経済・社会を支えるインフラとしての重要性は一層高まると考えられる。

 特に、防災・減災、国土強靱化は喫緊の課題である。現在、基盤的防災情報流通ネットワーク(SIP4D)においても衛星データが災害時に利用されており、将来懸念される地震・津波等の広域・大規模災害や、激甚化・多発化する水害・土砂災害など、災害発生時において、衛星データも活用して数時間以内に迅速に被災状況を把握し、関係機関などに情報提供することが重要となっている。また、豪雨災害等への対応に向けて、最新の観測技術を導入した静止気象衛星を始めとする観測衛星により、線状降水帯等の予測精度の向上を図ることが求められている。

 加えて、宇宙システムの持つ広域的で多様な機能は、地球規模問題の解決にも役立つ。2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、我が国の観測衛星(GOSATシリーズ)による温室効果ガス排出・吸収を実測するための取組が世界的に参照されており、将来的には温室効果ガス排出削減の取組の実効性を担保するツールとしての貢献が期待されている。このほか、エネルギー、環境、食料、公衆衛生、大規模自然災害等の地球規模問題の解決や国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成に我が国が貢献し、外交力の強化にもつなげていく手段として、我が国の優れた宇宙システムを積極的に活用していくことが重要である。

(3)宇宙産業の構造変革

【商業宇宙活動の加速】

 世界的に宇宙活動が活発化している背景として、多くの国が宇宙開発を国の事業として強力に推進し、宇宙関連予算を増加させていることに加え、民間事業者が、政府資金のみならず民間資金を活用し、技術革新と商業化を強力に推し進めていることが挙げられる。米国及び欧州においては、政府が民間主導のプロジェクトを様々な形で支援しており、これを呼び水に、世界の宇宙産業に対する民間投資は継続的に伸長してきた。これによって、ロケット打上げサービスや小型衛星コンステレーション等の分野において、世界市場で活躍する代表的なプレイヤーが生まれている。加えて、中国やインドにおいても、国の事業が強力に推進されているのみならず、手厚い政府支援の下、スタートアップ企業が大型の資金調達に成功する等、アジアにおいても民間事業者の伸長が目覚ましい。

 我が国の宇宙活動を支えてきた重要な基盤である宇宙機器産業が、このような激しい環境の変化の中で世界に伍していくためには、より一層の取組が求められている。従来より、我が国の宇宙機器産業に対する需要は、部品産業を含めたサプライチェーンを維持するには不十分であり、その維持・強化は大きな課題であった。本基本計画は、工程表を通じて産業界の投資の予見可能性を高め、宇宙機器産業の強化を図ってきたが、世界で技術革新や商業化が急速に進む中、世界のマーケットを念頭に、先端・基盤技術への投資や商業化への一層の挑戦が求められている。これを果たせなければ、我が国が戦後培ってきた宇宙活動の自立性を支える宇宙機器産業に深刻な影響が生じることが懸念されている。

 このような中、我が国においては、「国家安全保障戦略」において、宇宙の安全保障に関する総合的な取組を強化することとされており、民間の宇宙技術を我が国の防衛にも活用することで我が国の宇宙産業の発展を促す好循環を生み出す環境を整備していく。

 また、サービス調達*2*に向けた実証の実施や、宇宙資源法*3*や衛星リモートセンシング法*4*の整備等、ルール整備も実施してきている。さらに、宇宙関連企業に新たな担い手も招き入れるべく、2018年からの5年間で、官民合わせて約1,000億円のリスクマネーを宇宙ビジネスに供給する目標を掲げ、日本政策投資銀行(DBJ)及び産業革新機構(INCJ)による公的リスクマネーを呼び水として、その目標を達成した。これによって、小型衛星コンステレーションや小型ロケット、スペースデブリ低減、月面輸送等の分野において、スタートアップ企業が登場しており、その更なる成長と、それに続く新たなスタートアップ企業の登場が期待されている。また、宇宙スタートアップから第1号の株式市場への上場案件が出てきたほか、大企業がスタートアップに出資し、共同開発・製造を目指すなど、宇宙産業エコシステムも新たなステージに入りつつある。

【宇宙ソリューション市場の拡大】

 世界においては、アジャイルな開発手法による宇宙機器のコスト低減と、デジタルソリューション等の技術革新の進展により、宇宙ソリューション市場が拡大している。特に、欧米では、失敗を許容しつつ高い頻度で宇宙実証を行うアジャイルな開発手法を取り入れることで、ロケット輸送や小型衛星等の短期実証によるコスト低減と短期間での新技術の市場投入に成功している。足元では、航空機産業等で開発プロセスのデジタルトランスフォメーション(DX)が起きており、これが宇宙機器にも適用されれば、宇宙機器のコスト低減が更に進む可能性がある。また、宇宙からの高解像度での地球観測などの技術革新の進展や、人工知能やクラウドサービスなどのデジタルソリューションの発達に伴い、これらの技術を組み合わせることで、通信衛星コンステレーションによるブロードバンドインターネット、観測衛星を使ったインフラ管理や災害時の被災状況把握、測位・観測衛星を使ったスマート農林水産業等、新たな課題解決の手法(宇宙ソリューション)が生まれ、その市場が拡大している。我が国においても、自動車やインフラ管理等の多様な分野で準天頂衛星システムに対応する製品やアプリケーションの数が増加してきており、また、地球観測のデータの活用なども広がりを見せつつあり、宇宙の市場規模は、宇宙ソリューション市場も含め、更に拡大していくことが見込まれる。

(4)月以遠の深宇宙を含めた宇宙探査活動の活発化

【宇宙物理学・惑星探査】

 宇宙科学・探査に関する世界的な潮流として、宇宙物理学分野においては、より遠くまで、より鮮明に対象天体等を観測することが重要視され、米国航空宇宙局(NASA)のジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)は科学史に残るような顕著な成果を挙げつつある。このJWSTに代表される数千億円から1兆円を超えるミッションが進められる等、宇宙科学・探査ミッションは大規模化が進んでいる。惑星探査分野では、太陽系において将来人類が居住できる可能性がある唯一の惑星である火星が主要な対象となっており、米国、欧州及び中国は、いずれも、火星からのサンプルリターンという大型計画に取り組んでいる。*5*我が国においても、2029年度に火星衛星からのサンプルリターンを目指し、2024年度に火星衛星探査計画(MMX)探査機の打上げを予定している。

 これまで我が国は、未開拓な分野を研究対象に据え、必要な工学技術を磨くことで、理工融合による先端的な研究成果を上げてきた。「はやぶさ」シリーズは、その代表例であり、太陽系形成当時の状態を保持する可能性のある小惑星という未開拓の研究対象を捉え、我が国独自で磨いた技術でサンプルリターンを実現し、高度な物質分析技術とあいまって、世界でも高く評価される成果を上げた。観測手法や科学上の目的が多様化する中、我が国は、国際協力も選択肢に含めつつ、リソースを有効活用しなければならない。また、今後、他の国々がサンプルリターン分野に参入すれば、その技術的優位性が相対的に低下するおそれもある。我が国が今後も世界的に評価される高度な研究成果を創出するには、萌芽的な基礎研究の中から、独創的な研究領域や先鋭的な技術を見出し、開拓・開発することで、我が国の新たな強みとして育てていく必要がある。

【地球低軌道】

 国際宇宙ステーション(ISS)計画の2030年までの運用期間の延長を米国が表明し、我が国は延長期間への参加を決定した。更にその先の2030年以降を見据えた地球低軌道活動の方針を、各国の政府・宇宙機関は検討している。*6*我が国においては、2030年までのISS運用延長期間においてISS日本実験棟「きぼう」の成果を拡大・最大化していくとともに、2030年以降の地球低軌道活動の在り方について検討を進めている。

【月面探査】

 こうした動きが進む中、ISSの次の有人宇宙活動として、米国は、国際宇宙探査プログラムであるアルテミス計画を推進し、同盟国・同志国と民間産業とともに、火星を含めた深宇宙の有人探査を視野に入れつつ、月面における有人探査活動をスタートさせ、将来的には月面での持続的な活動を目指している。米国のメガスタートアップ企業は、人類の持続可能性と地球環境保護の観点から人類の生存圏を広げるべく、月面や地球近傍、火星の開拓に向け、輸送システムの開発や活動拠点建設に向けた取組を実施している。また、月については、中国、インド、その他の新興国も宇宙開発を加速しており、国際競争が激化している。*7*

 こうした中、我が国は、2019年10月にアルテミス計画に参画することを決定し、2020年代後半に、有人与圧ローバの提供と併せ、米国人以外で初となる日本人宇宙飛行士の月面着陸の実現を図ることとしている。アルテミス計画が政策的に推進される中で、まずは月面の探査を行うこととなるが、その際、研究者の独創的な発想に基づく無人探査計画等とも最大限有効に連携していく必要がある。また、月以遠の深宇宙が人類の新たな活動領域となっていくことを念頭に、月面開発の発展段階に合わせて、水資源を含めた資源探査やそのための基盤整備を適切に進めると同時に、既に我が国の民間事業者が世界に先行して月面探査を試みる動き等も出てきているところ、非宇宙産業を含めた民間事業者の宇宙開発への参画を促し、国際競争力を獲得していくことが必要である。

(5)宇宙へのアクセスの必要性の増大

 世界的な宇宙空間の利用の高まりを背景にして、ロケットの打上げ需要が拡大している。その需要の拡大を受け、米国・中国を中心にして、輸送能力の向上や打上げ価格の低減、打上げの高頻度化が進み、また、小型・中型ロケットの開発に世界各国の数多くのスタートアップ企業が参入するなど、打上げ需要の拡大と宇宙輸送システムの進化があいまって、近年、宇宙輸送を巡る環境は激変し、その変化のスピードは加速している。

 我が国においても、安全保障や経済・社会活動における宇宙システムの重要性が高まっている中、宇宙へのアクセス手段である宇宙輸送システムの必要性はますます大きくなっている。ロシアのウクライナ侵略により、ロシア製ロケットが使用できなくなったことは、我が国の商業衛星の打上げにも影響を及ぼすなど、自立的な宇宙活動を実現する上で、他国に依存することのない宇宙輸送システムを確保することの重要性を浮き彫りにした。

 我が国はこれまで、基幹ロケット*8*を開発し、政府衛星の打上げに優先使用することをもって宇宙へのアクセスを確保し、基幹ロケットに関わる技術・産業・人材基盤を維持してきた。将来にわたって、宇宙へのアクセスを確保し、拡大する宇宙利用に対応していくためには、宇宙輸送システムを担う事業者が、事業の継続性と成長性を確保できることが必須である。そのためには、政府衛星の打上げに加え、国内外の政府・商業需要を取り込み、打上げ数を拡大することが求められる。特に、新型の基幹ロケットであるH3ロケットに対しては、国内外の衛星事業者から多くの期待が寄せられている。

 また、世界的には、米国や中国において月等への大型貨物輸送に対応した宇宙輸送システム

の開発が行われているとともに、これまで米国、中国及びロシアのみが運用を行ってきた有人輸送に対応した宇宙輸送システムについては、新たに欧州とインドにおいて開発に着手する動きがある。今後20年を見据えると、我が国の宇宙活動が更に広がりを見せ、その自立性の確保に向けては、月・火星等への着陸機や補給機、有人輸送などの新たな宇宙輸送が必要となることが見込まれる。

 そうした中、我が国では、基幹ロケットに関し、2022年10月にイプシロンロケット6号機、また、2023年3月にH3ロケット試験機1号機の打上げに失敗した。激変する国際的な宇宙輸送を巡る環境に対応できるようにするためには、両基幹ロケットの失敗に対し、直接の要因のみならず、背後要因を含めた原因の究明とその対策に透明性を持って取り組み、失敗を乗り越え、それを糧とし、我が国として打上げ成功の実績を着実に積み重ねることが不可欠であり、さらに、スピード感を持って、宇宙輸送システムの国際競争力を向上し続けねばならない。

(6)宇宙の安全で持続的な利用を妨げるリスク・脅威の増大

 宇宙空間の利用は、安全保障や経済・社会活動において不可欠なものとなっているが、小型衛星コンステレーションなどによる宇宙機やスペースデブリなどの宇宙物体の増加による軌道上の混雑化により、衛星同士の衝突や衛星とスペースデブリとの衝突などのリスクが増大している。また、破壊的な直接上昇型ミサイルによる衛星破壊実験、衛星同士のつきまといなどの脅威となる行為も懸念事項となっている。

 こうしたリスクに対応すべく、米国連邦通信委員会(FCC)は、地球低軌道の商用衛星の運用終了後の大気圏再突入等による廃棄措置の期限を、運用終了後25年から5年に短縮した。欧州宇宙機関は、2030年までに全ての欧州の衛星を、運用停止後速やかに貴重な軌道上から撤去する目標を示した。また、スペースデブリ低減に取り組む事業者等を評価する民間の認証制度(レーティングスキーム*9*)について欧州の認証機関による運用が開始されるなど、各国が独自に宇宙空間の安全で持続的な利用のために取り組んでいる。軌道上での脅威に対し、我が国は米国等に続き、破壊的な直接上昇型ミサイルによる衛星破壊実験を実施しないことを2022年9月に宣言した。同年10月にはこれらに関する決議が国連に提出され、我が国も原共同提案国となり、賛成多数で採択された。

 また、国際的に、宇宙交通管理(STM)の必要性が指摘されている。2007年に国連スペースデブリ低減ガイドラインが、2019年に宇宙活動に関する長期持続可能性(LTS)ガイドラインが策定され、これらが広く実効的に遵守されることが課題となっている。

 宇宙空間の安全で持続的な利用を実現するための更なる規範・ルールの形成が議論される中、スペースデブリの除去など、これらの規範の遵守に貢献する技術の開発も進められている。

2.目標と将来像

 宇宙空間というフロンティアにおける活動を通じてもたらされるスペース・トランスフォメーション*10*において、我が国として目指すべき目標と将来像として、以下を描き、その実現のために必要な施策を、時機を逸することなく講じていく。

 また、目標と将来像を確実に実現する上で、我が国の宇宙活動の自立性を支える産業・科学技術基盤の強化が必須である。これにより宇宙の利用を拡大することで、基盤強化と宇宙利用の拡大との好循環を実現し、自立した宇宙利用大国となることを目指す。

 その際、宇宙産業を日本経済における成長産業とするため、宇宙機器と宇宙ソリューションの市場を合わせて、2020年に4.0兆円となっている市場規模を、2030年代の早期に2倍の8.0兆円に拡大していくことを目標とする。

(1)宇宙安全保障の確保

i. 目標

我が国が、我が国と価値観を共有する国々とともに、宇宙空間を通じて国の平和と繁栄、国民の安全と安心を増進しつつ、宇宙空間の安定的利用と宇宙空間への自由なアクセスを維持することを目指す。

ii. 将来像

(a) 宇宙からの安全保障(安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大)

 宇宙システムから得られる情報を各種の安全保障上の課題への対応に活用して、外交力・防衛力・経済力・技術力・情報力を含む総合的な国力を強化していく。特に、戦後、最も厳しく複雑な安全保障環境の中、隙のない対応を図るため、衛星コンステレーションや情報収集衛星等による情報収集、安全保障用通信衛星網の多様化、衛星測位機能の強化などにより宇宙システムから得られる広域、高精度の情報を高頻度、高速で有機的かつ効率的に活用する。

(b) 宇宙における安全保障(宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保)

 安全保障・経済・社会活動における宇宙システムの重要性がより一層高まる一方で、拡大する宇宙空間における衛星破壊能力やスペースデブリなどの脅威・リスクへ対応する必要がある。このため、宇宙領域把握、軌道上サービスを活用した衛星のライフサイクル管理、不測の事態における政府の意思決定・対応、国際的な規範・ルール作りへの主体的な貢献など、宇宙システムの安全かつ安定的な利用を確保していく。

(c) 宇宙安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現

 宇宙に係る力強い防衛力は力強い国内宇宙産業と活力あるイノベーション基盤によって支えられる。宇宙産業基盤の強化は技術的・商業的イノベーションへと還元され、安全保障のみならず、経済的な側面からも我が国の国益へと還元される。民間の宇宙技術の安全保障分野への活用が国内宇宙産業の発展を促し、それが我が国の防衛力の強化にもつながる好循環を実現していく。

 このような、安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大及び宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保の具体的な姿として、安全保障のための宇宙アーキテクチャを構築し、これを早期に実装するため、安全保障と宇宙産業の発展の好循環を実現する。

(2)国土強靱化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現

i. 目標

 宇宙ネットワークと地上ネットワークのシームレスな連携による次世代通信サービス、リモートセンシングデータや準天頂衛星システムの高精度測位データを活用した宇宙ソリューション等により、以下の目標を実現し、国連の持続可能な発展目標(SDGs)の達成や「Society5.0」*11*をけん引する。

(a) 地震・津波・集中豪雨等の大規模災害及び大事故に対応し、老朽化するインフラ管理等に役立て、防災・減災及び国土強靱化を推進

(b) 国際協力の下、2050年カーボンニュートラルの実現を含め、深刻化する世界のエネルギー、気候変動、環境、食料、公衆衛生、大規模自然災害等の地球規模課題の解決に貢献

(c) 自動運転やスマートシティ、スマート農林水産業を含む民間市場分野におけるイノベーションの創出

  また、これらを達成するため、失敗を恐れず、タイムリーに先端・基盤技術の実証を行うとともに、衛星データプラットフォームを強化すること等を通じて、

(d) 衛星開発・利用基盤の強化と力強い宇宙産業エコシステムの再構築・更なる発展

を図っていく。

ii. 将来像

(a) 次世代通信サービス

 宇宙ネットワークと地上ネットワークのシームレスな連携により、地球上のあらゆる場所や、自動運転車や空飛ぶ車、ドローン等を含む移動するプラットフォームに対する切れ目のない通信が可能となる。その実現において、通信衛星コンステレーションを含む宇宙ネットワークが、地上ネットワークに並ぶ基幹インフラとなる。

 2030年代に実現を目指している次世代の通信技術であるBeyond5G(6G)においては、我が国の通信衛星(静止衛星、低軌道衛星コンステレーション)を活用したコンステレーションやHAPSなどの非地上系ネットワーク(NTN:Non-TerrestrialNetwork)が多層的に連携することによって、過疎地域や航空、海洋領域を含め、より高速で安定的にシームレスに通信サービスを提供していくことを目指す。これにより、安全保障に止まらず、災害時における通信手段の確保や、宇宙・極域・海洋開発に対する通信・ソリューションにおける活用を推進していく。アルテミス計画においては、月の探査活動の初期段階に通信も含めた基盤の整備が必要となるが、将来的には超長距離の通信ネットワーク技術によって、深宇宙や月との通信も可能となる。また、宇宙空間にもクラウド基盤が展開され、宇宙経由のIoTサービスの展開や、リモートセンシングビッグデータへのエッジAI処理、ロードバランス、ルーティング、ほぼ遅延のない通信等のサービスの提供が実現するとともに、宇宙空間における盗聴・改ざん防止のためのサイバーセキュリティの提供が期待される。

 さらに、衛星光通信技術によって大容量、低遅延、セキュリティが堅牢な情報の伝達を実現していく。また、現代暗号の安全性の破綻が懸念される量子コンピュータ時代において、衛星による量子暗号通信技術により、地上インフラでは実現が困難な、大陸間・国際間の量子暗号通信の実現が期待される。

(b) リモートセンシング

小型衛星コンステレーションの構築の進展や新たなセンサの開発等により、地球観測衛星の時間・空間・波長分解能が高まると同時に、ビッグデータ処理及び人工知能といったソリューション技術が発展する中、地球観測衛星のデータとドローンのデータ、IoTデータ、気象データ、海洋データ、その他の地上で得られるデータ等を組み合わせることにより、幅広いアプリケーション・サービスを実現し、防災・減災、国土強靱化及び地球規模課題への貢献や民間市場分野におけるイノベーションの創出を図っていく。

 リモートセンシングの基幹となる光学や合成開口レーダ(SAR)*12*技術については、広域・高精度・複数センサ統合観測が可能な大型観測衛星に加え、時間分解能を高める小型衛星コンステレーションの構築と技術開発の進展によって、よりタイムリーで解像度の高い観測が可能となってきている。さらに、多波長センサ*13*によって、植生や鉱物、温室効果ガスの種別まで判別することも可能となることに加え、大気の3次元観測に不可欠なドップラーライダー*14*や、都市デジタルツイン*15*の構築に不可欠な高度計ライダー*16*等の利用拡大が想定されている。

 これらリモートセンシングデータと、AI等のデータ分析技術や異なるプラットフォーム間で情報をやり取りする際のインターフェース技術を含めたソリューション技術が組み合わさることによって、短時間かつ自動で宇宙から撮像したデータを地上に届け、必要な解析を行うことができるようになる。これにより、例えば、緊急時の国家の情報共有基盤として、防災・減災や安全保障、海洋状況把握等に役立てていく。また、地球規模課題である気候変動問題について、豪雨、大気等の影響監視に加え、燃料採掘時のメタン漏洩検知を含めた温室効果ガスの排出・吸収の観測等を行うことによって、気候変動への寄与度が把握され、将来的にはカーボンクレジットとしての活用も期待される。官需に止まらず、災害時を念頭に置いた企業の事業継続計画(BCP)や、水害・土砂災害、火災等の保険、地盤沈下、地殻変動の把握、インフラ管理やスマート農業も含めたスマートシティ、再生可能エネルギーの出力予測等、世界で成長が期待される民間市場分野におけるイノベーション創出への貢献も期待される。

(c) 衛星測位

我が国が測位能力を自立的に確保するために整備が進められている準天頂衛星システムは、我が国の安全保障の確保、社会課題の解決や産業・経済の活性化、防災・減災、国土強靱化において必要な位置・時刻情報を提供する社会インフラとして、さらに、アジア太平洋地域における社会インフラとして、その役割を果たしていくことを目指す。

 今後、7機体制の確立により、我が国の衛星のみで測位が可能となる持続測位を実現することで、必要不可欠な社会インフラとして、一層の活用が期待される。一方、バックアップ機能を有する米国等の他国の衛星システムのように、衛星が故障した際にも安定的かつ継続的に利用できる信頼性の確保が、民生利用・安全保障の双方の観点から求められる。

 同時に、準天頂衛星システムが提供する先進的な高精度測位サービスの活用により、将来的には、除雪や点検といったインフラの維持管理作業の効率化や、自動車やドローン、農機等の自動化・無人化によるスマートシティ、スマート農業の実現が期待され、人口減少に直面している我が国における労働力不足や高齢化等の社会課題の解決や、イノベーションによる日本経済の更なる活性化に大きく貢献すると見込まれる。このような将来を見据え、より使いやすい高精度測位サービスの提供を行うことで、高精度な地図等の地上側の情報と組み合わせたソリューションが社会実装され、更にそれが様々な分野に広がっていくことが期待される。

 また、アルテミス計画においては、月の探査活動の初期段階から、月測位衛星システム(LNSS)を含めた基盤の整備が必要となるが、国際協力の下、我が国が技術的強みを有する衛星測位技術によって貢献していくことを目指す。

(3)宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造

i. 目標

(a) 人類共通の知の創出と人類の活動領域の拡大

 宇宙科学・探査は、人類共通の知の創出と、宇宙空間における人類の活動領域の拡大とを目的とする営みである。知の創出は、活動領域の拡大にいかされ、これが更なる知の創出につながっていく。我が国は、リソースを有効に活用し、小惑星サンプルリターン等に続く独創的なアイデアによる卓越した知の創出と、この知に基づき、人類の持続的な活動領域を地球上から地球低軌道、月以遠の深宇宙へと拡大することを目指す。

(b) 新たな産業の創造と人類の活動領域の拡大

 月面探査活動及び地球低軌道活動について、産業振興を通じて新たな市場を構築しながら民間商業活動も含むものへと段階的に発展させることで、人類の活動領域を地球低軌道及び月以遠の深宇宙へと拡大することを目指す。

(c) 次世代の人材育成と国際的プレゼンスの向上

 宇宙科学・探査の成果や、宇宙飛行士の活躍に代表される活動によって、広く国民、特に子供たちの知的好奇心を喚起し、夢や希望、誇りを与え、次世代を担う人材育成と、国際社会における我が国のプレゼンス向上に貢献するとともに、幅広い分野の科学技術をけん引し、民間等との共同研究開発等によって産業競争力の強化にも貢献する。こうした成果や波及効果により、宇宙科学・探査分野の好循環をもたらす。

ii. 将来像

(a) 宇宙科学・探査

【宇宙物理学】

 宇宙物理分野では、現在の宇宙物理学の共通のテーマである、宇宙の起源と進化の理解や宇宙における生命の可能性の探求を大きな目的としている。2040年頃までには、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)の後継の宇宙望遠鏡計画が、我が国を含む国際協力により進展し、地上の超大型望遠鏡群や我が国の中・小型宇宙望遠鏡等との連携により、宇宙の起源や進化、物質の根源等や太陽系外惑星における生命存在環境と生命の可能性に関する知見、ダークマター、ダークエネルギーの正体等が解明されることが期待される。

【太陽系科学】

 太陽系科学分野では、太陽系と生命がどのように生まれ、進化して、現在に至ったかを解明することを目的に掲げている。太陽や磁気圏等の太陽圏の観測により、恒星の活動が地球のような生命が生存できる環境の実現とどのように関連しているか、総合的な理解を深めていく。また、各国によるサンプルリターンを含めた小天体・惑星探査を通した惑星科学・宇宙科学に関する知見を蓄積していく。

 月に関しては、地球に最も近い天体であり、アルテミス計画と連携した探査が進展することで、地殻の物質や内部構造の調査による月の起源や、月面からの電波観測により得られる、宇宙の起源や進化過程に関する科学的知見を蓄積していく。また、地球近傍に位置することから地球からの輸送、通信の観点からも利点があり、火星等重力天体への着陸・帰還技術、惑星表面探査ロボット技術など、今後の太陽系探査に向けた技術獲得・実証を推進していく。

 また、火星では、MMXの成果に加え、米国、欧州及び中国により計画されている無人着陸探査による高精度のその場観察と、サンプルリターン・実試料分析が実現することにより、火星の表層・内部及び起源に関する理解が飛躍的に進展するとともに、生命の痕跡となる有機物が発見される可能性もある。さらに、小天体・彗星のサンプルリターンや木星以遠の惑星・衛星の周回軌道からの観測が進展する。

 火星、小天体・彗星等や月から得られた知見を糾合する等により、太陽系の形成過程や生命の起源等に関する理解を飛躍的に進展させる。同時に、特に惑星探査を通して、人類の活動領域の拡大に資する技術獲得を進めていく。

(b) 月面における持続的な有人活動

 アルテミス計画の進展に伴い、まずは2020年代から科学探査活動の一環として資源探査が行われ、水資源を含め月面における資源の存在状況を把握し、将来の活用の可能性を明らかにする。これを踏まえつつ、月面での有人活動を持続的に行っていくため、民間の参画も得ながら、無人建設等の新技術を開発・活用して電力・通信・測位システムや食料供給システムなどの技術実証と整備を段階的に行っていく。さらに、将来的には、月面が段階的に人類の生活圏となり、新たな経済・社会活動が生み出され、月面宇宙旅行なども期待される。また、アルテミス計画を始めとした各国が実施する月面プログラムを通じて、民間事業者が地上技術を発展させて宇宙転用することを含め、新たな産業の創出を目指す。これによって、月面経済圏として発展していく可能性がある。

 月面の水資源について一定量の存在が確認されれば、生活用水や、電気分解による呼吸用酸素、燃料の調達がその場で可能となり、持続的な有人活動に貢献し、月以遠の深宇宙探査が効率的になる可能性がある。また、シリコンや、鉄・アルミを始めとする金属資源の存在も確認されており、火星等の他天体へ行くための資機材工場となる可能性もある。

(c) 地球低軌道活動

 アクセスや物資補給・回収が比較的に容易な地球低軌道は、我が国の宇宙活動の自立性を確保するとともに、宇宙環境利用のための貴重な場であり、アルテミス計画を始めとする、月周辺や、月面での活動等に必要な技術の獲得・実証(実験の遠隔化・自動化・自律化技術、高効率の環境制御・生命維持技術等)や、宇宙飛行士の訓練・養成など、国として行うべき技術の開発・実証や利用を行っていく。また、国として、我が国の地球低軌道活動を推進するために必要な技術を蓄積し、その成果をポストISSにおける国内の活動主体において活用していく。さらに、アカデミアや国の機関による、地上では行うことができない社会的課題解決・知の創造や研究者・技術者・学生等の人材育成のためにも地球低軌道を利用していく。加えて、非宇宙業界も含めた民間事業者の多様な利用や、商業的な技術開発が進展するとともに、宇宙旅行や宇宙空間でのエンターテインメント等のサービスの展開が期待される。

(4)宇宙活動を支える総合的基盤の強化

i. 目標

 諸外国や民間による宇宙活動が活発化し、競争環境が厳しくなる中、我が国の宇宙活動の自立性を将来にわたって維持・強化していくため、我が国の宇宙活動を支える総合的基盤を強化する。宇宙輸送システムの高度化、スペースデブリ対策及び宇宙交通管理の推進、技術・産業・人材基盤の強化等を図ることで我が国の宇宙産業エコシステムを再構築し、更に発展させていく。特に人材は、価値を生み出す財(たから)であるという意味において、言わば「人財」として捉え、基盤強化と利用拡大の好循環を創出していく。

ii. 将来像

(a) 宇宙輸送

 我が国における宇宙利用の将来像を実現するための宇宙輸送ポートフォリオを、官民一体となって構築し、それにより、他国に依存することなく、宇宙へのアクセスを確保し、自立的な宇宙活動を可能にすることで、我が国の安全保障、国土強靱化や地球規模課題への対応、イノベーション、新たな知・産業の創造等を持続的に実現する。

 新型の基幹ロケットであるH3ロケット及びイプシロンSロケットの打上げ成功の実績を積み重ねた上で、2020年代後半には、高頻度な打上げとより大きな輸送能力、より安価な打上げ価格を実現する宇宙輸送システムを、基幹ロケットと民間ロケットを通じて、我が国全体で構築する。それにより、政府衛星に加え、安全保障や防災・減災、国土強靱化等の社会インフラに活用される我が国の商業衛星と海外の衛星を打ち上げる。

 2030年代には、H3ロケットに続く次期基幹ロケットを運用し、新たな宇宙輸送(月周回軌道への補給機や月面への着陸機の輸送等)を行うことで、我が国の宇宙開発利用の将来像(地球低軌道や月等における宇宙科学・探査、有人宇宙活動等を含む。)を実現していく。次期基幹ロケットでは、機体の一部を再使用化した上で、打上げ頻度や輸送能力を向上させるとともに、打上げ価格を低減する。さらに、将来的には、産学官が連携する中で、完全再使用化や有人輸送にも対応できる拡張性を持つことが期待される。

 また、高速二地点間輸送や宇宙旅行などを実現する新たな宇宙輸送システムを、我が国の民間事業者が中心となり開発・運用することで、新たな市場が創出されることが期待される。

(b) 宇宙交通管理及びスペースデブリ対策

 宇宙領域把握(SDA)体制の整備、国内における官民相互の宇宙状況把握に関する情報共有の枠組みの構築、同盟国・同志国等との協力により、衛星運用状況等の情報共有を進めるととに、より精度の高い衝突警報システムを実現していく。

 また、技術開発・実証の進展により、衛星の運用終了後の適切な廃棄処理が行われるとともに、能動的スペースデブリ除去*17*や、衛星の寿命延長に資する燃料補給、修理などの軌道上サービスが実用化されることで、スペースデブリの数が一定程度まで管理された状態を実現することが期待される。

 このような技術の進展とともに、衛星同士の衝突やスペースデブリとの衝突の防止やデブリ低減等の軌道上サービスを安全かつ円滑に実行していくための軌道利用に関する国際的な規範・ルール等の整備が進み、各国間で実行されることが期待される。

3.宇宙政策の推進に当たっての基本的なスタンス

(1)安全保障や宇宙科学・探査等のミッションへの実装や商業化を見据えた政策

 諸外国や民間の宇宙活動が加速し、グローバルな競争環境が厳しくなる中、これまで以上に宇宙政策を戦略的に進めていくことが必要となっている。このため、前述のように宇宙を利用した将来像を描いた上で、安全保障や防災・減災、国土強靱化及び地球規模課題への対応、科学探査といった国が主体となって実施するミッションへの宇宙技術の実装や、民間事業者による商業化といった、具体的な道筋を常に意識しながら、これらに必要となる基盤の整備やプログラムを実施していく。

 これを通じて、宇宙技術の商業化と日本の勝ち筋を見据えた政策にこれまで以上に政策資源を振り向けることで、宇宙利用の拡大、産業基盤の強化及び更なる宇宙利用の拡大という好循環を実現する、我が国の宇宙産業エコシステムを持続的に発展させていく。

(2)宇宙技術戦略に基づく技術開発の強化

 「国家安全保障戦略」等においては、宇宙の安全保障の分野での対応能力の強化が掲げられると同時に、宇宙システムのデュアルユース性を念頭に、民間の宇宙技術の防衛への活用による宇宙産業の発展・促進が掲げられている。また、防衛分野における先端・基盤技術の投資は、他産業を含めた民生分野における技術・産業・人材基盤の発展をけん引し得る。世界の技術開発トレンドやユーザーニーズの継続的で的確な調査分析を踏まえ、安全保障・民生分野において横断的に、技術・産業・人材基盤の維持・発展に係る課題について官民のプラットフォームにおいて検討し、我が国の勝ち筋を見据えながら、我が国が開発を進めるべき技術を見極め、その開発のタイムラインを示した技術ロードマップを含んだ「宇宙技術戦略」を新たに策定し、ローリング*18*していく。

 宇宙技術戦略では、衛星、宇宙科学・探査、輸送等の技術分野について、安全保障や宇宙科学・探査ミッション、商業ミッション、また、それらミッションに実装する前段階の先端・基盤技術開発に加え、民間事業者を主体とした商業化に向けた開発支援について道筋を示していく。

 開発の道筋を検討するに当たっては、必要な宇宙活動を自前で行うことができる能力を保持(「自立性」の確保)するため、我が国の技術的優位性を強化していくことに加え、経済安全保障環境の変化と、我が国の宇宙活動を支えるサプライチェーンが断絶するリスクを念頭に置いたサプライチェーンの強化(サプライチェーンの「自律性」の確保)に資する技術開発を推進していく。サプライチェーン上のクリティカルコンポーネントを特定し、必要に応じて国産コンポーネント開発を実施していく。また、国による衛星の継続的な整備・利用を積極的に進めるとともに、可能な限り民間事業者からサービス・財を調達することで、民間事業者の投資を促進する好循環を形成していく。さらに、失敗を恐れず、高い頻度で宇宙実証を行うアジャイルな開発手法を取り入れた技術実証を行っていく。

(3)同盟国・同志国等との国際連携の強化

 同盟国である米国や欧州を始めとした同志国等との政府間・企業間連携の下、国際的な規範・ルール作りや標準化等の環境整備に積極的に取り組むとともに、宇宙分野における我が国の強みをいかした役割分担や国際協力を進め、宇宙利用の拡大を通じた経済的繁栄を実現する。また、国・地域における能力構築や課題解決を通じた平和と安定の確保にイニシアティブを発揮し、特に我が国が位置するインド太平洋地域において、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。

(4)国際競争力を持つ企業の戦略的育成・支援

 世界における競争環境が厳しくなる中、我が国の宇宙活動の自立性を支える産業基盤の維持・強化が喫緊の課題となっている。しかしながら、欧米に比べて我が国の国内需要は小さく、部品産業を含めたサプライチェーンを維持するには不十分であることから、国内の技術開発プロジェクトや政府需要の機会を国際市場への展開のために戦略的に活用することにより、国際市場で勝ち残る意志と技術、事業モデルを有する企業を重点的に育成・支援していくことが重要である。当該企業が国際市場でシェアを拡大していくためには、技術的優位性を獲得するだけでなく、コスト競争力の獲得等が必要となる。

 このため、宇宙技術戦略に従って、我が国企業の先端技術開発力を強化していく。また、民主導で宇宙実証に向けて技術成熟度を高める案件については産業界の投資を求めつつ、技術成熟度を高めるために必要な宇宙実証機会を予見可能な形で定期的に提供することを含めて、国・宇宙航空研究開発機構(JAXA)等から企業等の技術開発に対する支援を講じていく。加えて、国際市場の獲得に向け、規範・ルールの形成や二国間対話の場の活用など、総合的な支援を行う。スタートアップ企業についてはSBIR 制度等を通じた支援を行うほか、リスクマネー供給において、開発支援及びサービス調達を実施する政府当局が、政府支援の対象・内容・評価について対外発信を強化し、政府系・民間ファンドや金融機関と意思疎通を図ることで、官民協調した効果的な支援を目指す。

(5)宇宙開発の中核機関たるJAXAの役割・機能の強化

 宇宙活動に革新的な変化をもたらす技術進歩が急速に進展しており、我が国の研究開発レベル・技術力の底上げが急務となっている。我が国宇宙産業は、宇宙開発の中核機関たるJAXAの研究開発成果を基盤にビジネスを展開しているケースも多く、JAXAの先端・基盤技術開発能力と、JAXAによる大学や民間事業者の支援機能を強化し、JAXA、大学及び民間事業者が失敗を恐れずにチャレンジすることで、我が国の宇宙産業を支える技術的優位性を継続的に作り続ける。

 宇宙技術戦略に従って、世界に遅滞することなく開発を着実に実施していくため、我が国の中核宇宙開発機関であるJAXAの先端・基盤技術開発能力を拡充・強化するとともに、プロジェクトリスク軽減のため、プロジェクトに着手する前に技術成熟度を引き上げる技術開発(フロントローディング)も強化する。

 さらに、欧米の宇宙開発機関が、シーズ研究を担う大学や民間事業者、また、商業化を図る民間事業者の技術開発に向けて、資金供給機能を有していることを踏まえ、JAXAの戦略的かつ弾力的な資金供給機能を強化する。これにより、JAXAを、産学官・国内外における技術開発・実証、人材、技術情報等における結節点として活用し、産学官の日本の総力を結集することで、宇宙技術戦略に従って、商業化支援、フロンティア開拓、先端・基盤技術開発などの強化に取り組む。

 商業化に向けた支援においては、米国のスタートアップ企業がNASA等が提供する実証・サービス調達の機会を活用して、短期間で技術熟度を高め、世界市場を席捲している現状を踏まえ、研究開発支援、定期的な宇宙実証機会の提供や可能な限りのサービス・財の調達の実施等を通じて、民間事業者を主体とした技術開発を支援していく。これらによって、重要技術について自律性を担保しつつ、JAXAによるミッションの効率化・高機能化を図るとともに、宇宙業界全体の技術力・産業競争力の底上げを図っていく。

 加えて、経済・社会活動にとって不可欠な宇宙空間の安全かつ安定した利用等を確保するため、宇宙の安全保障の分野での対応能力を強化することが必要であり、我が国全体の宇宙に関する能力を安全保障分野で活用するため、宇宙安全保障に係る事業にJAXAの知見・技術を活用する。

 これらの取組を実施するため、JAXAの人的資源を拡充・強化するとともに、産学官との人材交流を強化していく。特に、宇宙開発を担う主体に加えて、安全保障を含んだ宇宙を利用する主体との交流を一層進めていく。

(6)人材・資金等の資源の効果的・効率的な活用

 今後20年を見据えた10年間に実施する国の具体的な施策・プロジェクト等を可能な限り記した「工程表」及び「宇宙技術戦略」により、人材・資金等の資源の効果的・効率的な活用を図り、技術開発を含めた宇宙政策の成果の最大化に努める。今後10年間の明確な成果目標を設定し、事前及び事後の評価を徹底することで、既存プロジェクトの徹底した効率化、合理化、メリハリ付けを図りつつ、政策効果の最大限の発揮を追求する。

4.宇宙政策に関する具体的アプローチ

(1)宇宙安全保障の確保に向けた具体的アプローチ

【基本的な考え方】

 我が国は、宇宙安全保障上の目標を実現するため、安全保障のために宇宙システムの利用抜本的に拡大していく。宇宙システムから得られる情報を各種の安全保障上の課題への対応に活用しながら、軍事・外交・経済・情報を始めとした我が国の安全保障に関わる総合的な国力を強化していく。

 また、安全保障・経済・社会活動における宇宙システムの重要性がより一層高まる一方で、拡大する宇宙空間における脅威・リスクへ対応するため、同盟国・同志国等とともに宇宙空間・宇宙システムの安全かつ安定的な利用を確保していく。

 加えて、宇宙技術のデュアルユース性に鑑み、民間の宇宙技術の安全保障分野への活用が我が国の宇宙産業の発展を促し、それが我が国の防衛力の強化にもつながるという好循環を実現していく。総合的な防衛体制や防衛力を抜本的に強化するため、政府関係機関が開発を行う先端・基盤技術を積極的に活用することが、宇宙産業基盤の強化につながる。宇宙産業基盤の強化は技術的・商業的イノベーションへと還元され、安全保障のみならず、経済的な側面からも我が国の国益へと還元される。こうしたことを念頭に、開発と利用を推進していく。

(a) 宇宙安全保障のための宇宙システム利用の抜本的拡大

【衛星コンステレーション等を活用した情報収集体制の構築】

宇宙空間から我が国周辺における軍事動向等について常時継続的に情報収集・分析等を行うため、安全保障用途に資する衛星コンステレーションの構築や情報収集衛星の機能強化を始め、民間衛星や同盟国・同志国との連携の強化といった様々な手段を組み合わせて隙のない情報収集体制を構築する。特に、スタンド・オフ防衛能力の実効性確保の観点から、目標の探知・追尾能力の獲得を目的とした衛星コンステレーションを構築するとともに、政府による民間サービスの調達を拡大し、防衛や海洋状況把握などに必要な衛星能力の「質・量」を確保する。これらに加え、静止光学衛星等の利用や、データ中継衛星の利用、画像分析へのAIの活用を通じた情報伝達の「速度」の向上など、情報収集・分析能力を抜本的に強化する。 (内閣官房、外務省、防衛省)

【情報収集衛星の機能強化】

 安全保障環境が厳しさと不確実性を増す中、光学・レーダ衛星各4機及びデータ中継衛星を加えた機数増を着実に実施し、10機体制が目指す情報収集能力の向上を早期に達成する。その際、衛星の開発等に当たっては、必要な機能の確保に留意しつつ、競争環境の醸成や同型機一括調達等によるコスト縮減等を図るとともに、内閣衛星情報センターと防衛省・自衛隊を始めとする関係省庁との協力・連携を強化するなどして、収集した情報の更なる効果的な活用を図る。

(内閣官房、防衛省等)

【安全保障用通信衛星の多層化】

 今後の衛星通信網は、自衛隊の任務拡大や海上保安庁の能力強化等に伴う需要増や周辺国による衛星への妨害能力の向上に対応する必要がある。このため、米国を中心とする加盟国間で通信帯域を共有する枠組みであるPATS(Protected Anti-Jam Tactical SATCOM)へ参加して同盟国等との相互運用性を確保しつつ、PATSに適合した耐傍受性・耐妨害性のある防衛用通信衛星を確保する。また、次期防衛通信衛星に導入することを念頭に、妨害に対抗する技術を開発する。さらに、民間の通信衛星コンステレーションなどの利用を促進する。このように、静止軌道から低軌道までの衛星等を活用し、重層的で冗長性のある衛星通信網を構築する。(国土交通省、防衛省)

【衛星コンステレーションに必要な共通技術の確立】

 現代においては、衛星データのリアルタイムな利用が各国の防衛力・情報力の優位性を左右する要素となっていることから、セキュアで、大容量の通信を可能とする光データ伝送の技術や、オンボードで処理する技術を確立し、衛星コンステレーションから得られた衛星データを利用者がリアルタイムで利用できる能力を獲得する。(内閣府、総務省、経済産業省、防衛省)

【衛星測位機能の強化】

 同盟国との協力により高い抗たん性を有する衛星測位機能を担保しつつ、自律測位の観点から準天頂衛星システムの機能性や信頼性を高め、衛星測位機能を強化する。そのため、準天頂衛星システムについて、7機体制から11機体制に向け、コスト縮減等を図りつつ、検討・開発に着手する。また、欧米における政策・研究開発動向を見据えつつ、将来システムの検討及び研究開発を進める。

 なお、防衛省及び海上保安庁は、準天頂衛星を含む複数の測位信号の受信機の導入を推進する。また、防衛省は、宇宙空間での測位信号の活用について検討を進める。(内閣府、文部科学省、国土交通省、防衛省)

【ミサイル防衛用宇宙システムに必要な技術の確立】

 我が国の周辺国・地域による弾道ミサイルや極超音速滑空兵器(HGV)等の開発・装備化に対応するため、広域において継続的に脅威を探知・追尾し、各種装備品の間の迅速な情報伝達を行う能力や、衛星で捉えたミサイル追尾情報を、直接、迎撃アセットに伝達する能力が重要である。このため、米国との連携可能性を踏まえつつ、衛星を活用したHGVの対処能力の向上のための技術実証を行う。また、弾道ミサイルやHGV等の脅威の探知・追尾性能の向上に向けて、高感度・広帯域な赤外線検知素子等の研究開発を推進する。(防衛省)

【海洋状況把握等】

 関係省庁の連携の下、広域の状況を把握し得る人工衛星等の宇宙技術を活用し、我が国領海等における効率的な海洋情報収集及び海洋監視体制の強化、並びに海洋状況表示システム「海しる」等による情報共有体制の強化を推進する等、我が国の海洋状況把握能力の強化に取り組む。このため、各種政府衛星や民間の小型衛星(光学衛星、SAR衛星、AIS/VDES衛星等)等の活用に加え、同盟国・同志国等との連携・情報共有体制の強化を推進する。(内閣府、外務省、経済産業省、国土交通省、防衛省等)

(b)宇宙空間の安全かつ安定的な利用の確保

【宇宙システム全体の機能保証強化】

 宇宙空間における脅威・リスクに対応するため、抗たん性の高い宇宙システムを構築する。このため、宇宙システムの同一機能を有する衛星を多数保持する「拡散」、同一機能を様々な形態で保持する「多様化」を始めとした施策を推進する。また、宇宙システムに対する脅威・リスクの予兆等に関する情報の収集・分析機能を強化するほか、衛星機能を喪失した場合に直ちに機能を復旧するため、即応打上能力を含めた再構築機能の整備を行うとともに、サイバーセキュリティ体制の確保などを行い、物理的及び非物理的な両面から宇宙システムの抗たん性を確保する。

 また、宇宙に関する不測の事態が生じた場合においても、経済・社会活動にとって不可欠な宇宙空間の安全かつ安定した利用等を確保するため、政府が事態を正確に把握・分析し、官民が一体となった対応を適切に行い得る体制を構築する。このため、まずは関係各府省庁と自衛隊、民間事業者との情報共有体制を強化した上で、内閣官房、内閣府、防衛省・自衛隊などにおける不測の事態に関する情報収集・分析・共有、そして政府としての意思決定をするための体制を整理・強化する。この際、内閣府が行う官民が参加する机上演習等を積極的に活用することにより、その連携の強化や体制の整理を継続的に行う。(内閣官房、内閣府、総務省、法務省、外務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)

【宇宙領域把握(SDA)体制の構築】

 これまで構築してきた宇宙物体の位置や軌道等の情報を把握する宇宙状況把握(SSA: Space Situational Awareness)体制に加え、宇宙物体の運用・利用状況及びその意図や能力を把握する宇宙領域把握(SDA:Space Domain Awareness)体制を構築する。このため、我が国独自のSDA衛星を保有するとともに、他国の動向等を踏まえつつ、更なる複数機での運用に関する検討を含めた各種取組を推進する。あわせて、実効的なSDA を実施するために必要な、将官を指揮官とする宇宙領域専門部隊を新編する。さらに、宇宙作戦能力の強化に併せて航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とする。また、多国間演習への参加に加えて、米英豪加NZ仏独等の同盟国・同志国とともに我が国及びこれらの国々の官民の衛星を防衛するための取組を強化する。さらに、SDA体制を拡充する上で、JAXAと防衛省はSSA分野に関する協力に引き続き取り組むとともに、防衛省においては、民間企業がSSA衛星を含め地上や宇宙センサを用いて収集した情報の取得を拡大する。加えて、衛星運用事業者から防衛省のSSAシステムへ軌道情報等を提供可能な枠組みを構築し、より精度の高いSSA情報を民間事業者に配布可能な官民の情報のサイクルを確立するほか、SDA能力の発揮をサイバーセキュリティの観点から保証するとともに、同盟国・同志国、JAXA及び民間事業者との連携を強化し、必要な信頼性の向上を図る。また、情報通信研究機構(NICT)の行っている宇宙天気に関する取組について、防衛省・自衛隊として宇宙領域における作戦等に活用していく。あわせて、宇宙天気予報に関わる防衛省・自衛隊の人材育成を行うための研修を行う。(総務省、文部科学省、防衛省)

【軌道上サービスを活用した衛星のライフサイクル管理】

 大型の各種静止衛星や高機動の推進技術を必要とするSDA 衛星においては、搭載される推薬の量の制約が、衛星寿命に大きな影響を与える。そのため、推薬補給技術などの軌道上サービス技術を活用し、衛星のライフサイクルを適切に管理することにより、限られた数の衛星を有効に活用していく。また、これら、宇宙空間が戦闘領域化していく中で、防衛省によるSDA 活動などを適時適切に実施するために重要な技術を、可能な限り早急に確立する。 (防衛省)

(c)安全保障と宇宙産業の発展の好循環の実現

【政府の研究開発・実装能力の向上】

 技術進歩・イノベーションが急速に進む宇宙分野において、民間及び政府の総合力を活用し、早期の装備化・効果的な研究開発を行っていく。特に安全保障の中核たる防衛省は、作戦、戦略上のニーズを踏まえた調査研究を集中的に行い、装備化・運用までを迅速かつ効率的に行うとともに、積極的に民間からの提案を受けつつ、民間技術を活用することで、早期装備化に向けた取組を推進する。

 また、総合的な防衛体制の強化のための府省横断的な連携の下、防衛省・自衛隊のニーズを踏まえ、政府関係機関が行っている先端技術の研究開発を防衛目的に活用することで、政府の研究開発を積極的に、防衛力の抜本的強化につなげる。現時点では国内での技術等が未成熟であるものの、他国の動向等を踏まえれば、安全保障にも資すると考えられる先端技術は一定程度存在すると考えられる。このような技術はデュアルユース性の観点から政府全体での研究開発が期待できることから、衛星コンステレーションの構築・運用や、衛星通信の抗たん性向上・容量増加、機動的かつ効果的なSDA 活動に資することを目的とした共通基盤技術を重視していく。

 さらに、関係府省庁や関係機関が協力し、最先端技術の活用を検討するため、国内外の研究機関や大学・大学院、民間企業等との人材交流や技術協力等を行うとともに、各府省庁において、宇宙に関する専門的知見を有した人材の育成・登用や関係府省庁間でのキャリアパスを含めた情報共有・人事交流の仕組みの構築を検討する。(防衛省等)

(2)国土強靱化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現に向けた具体的アプローチ

【基本的な考え方】

 防災・減災、国土強靱化や気候変動を含めた地球規模課題の解決と、民間市場分野での幅広いイノベーション創出に貢献し、SDGsの達成やSociety5.0の実現をけん引するため、宇宙技術戦略に基づき、通信・リモートセンシング・衛星測位システムの利用ニーズに基づいた開発・整備・活用を戦略的に進める。その際、アジャイルな衛星開発手法の導入を拡大するとともに、我が国のロケットを優先的に活用しながら、衛星の宇宙実証機会を拡充することを通じて、衛星開発・実証サイクルの加速化を図っていく。また、衛星利用による宇宙ソリューションビジネスの海外展開強化や、衛星データの利用拡大、担い手の拡充等を図っていく。

(a) 次世代通信サービス

【Beyond5G 時代を見据えた次世代通信技術開発・実証支援】

 2030 年代に実現を目指している次世代の通信技術であるBeyond 5G を見据え世界の開発競争が激化している中、陸・海・空さらには宇宙をシームレスにつなぐために、我が国が非地上系ネットワーク(NTN)を世界に先駆けて開発・実装・利活用を一体的に進めていく。それにより、現在ネットワークが整備されていない遠隔地に加え、ドローンや空飛ぶ車等の飛行体への通信サービスの提供など多様な通信サービスの実現や、地政学リスクや災害リスクに備えた強靱なネットワークの実現を目指していく。

 これらを実現する基盤となる技術について、フルデジタルを始めとしたSDS*19*技術、通信衛星とIoTの連携、Beyond5G/NTN関係の技術、衛星光通信技術等に関連する国産の技術開発・実証、通信衛星バスの小型化・低廉化を強力に推進し、必要な海外展開支援も実施していく。なお、海外展開の際には、衛星通信技術のデュアルユース性を念頭に、官民による市場開拓等、効果的な支援を実施していく。

 また、非地上系ネットワーク(NTN)は、離島、海上、山間部等の効率的なカバーや自然災害を始めとする非常時等に備えたネットワークの冗長性の確保に有用であることから、前述の関連技術の開発・実証支援を推進するとともに、関連する制度整備を進めるなど、サービスの導入促進のための取組を推進する。(内閣府、総務省、外務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【フルデジタル化通信衛星の実装に向けた開発・実証支援】

 国際的に急速に進展する通信衛星の大容量化、デジタル化を実現し、変動する通信需要に迅速かつ柔軟に対応可能なハイスループット衛星通信*20*技術を確立するため、技術試験衛星9号機(ETS-9)を2025年度に打ち上げるべく、必要な開発を継続するとともに、打上げ後の海外展開を含めた実装を着実に進め、当該分野における国際競争力強化を図っていく。(総務省、文部科学省)

【量子暗号通信の早期実現に向けた開発・実証支援】

 我が国が強みを持つ衛星量子暗号通信技術の社会実装を早期に実現し、将来市場において我が国の技術的優位性を獲得していくため、距離に依らないグローバル規模での量子暗号網構築のための研究開発を進めるとともに、今後の活用等について安全保障分野も含め検討を進め、宇宙実証の実施など、早期実現に向けた取組を積極的に推進していく。(総務省、防衛省等)

(b) リモートセンシング

【防災・減災、国土強靱化及び地球規模課題への衛星開発・運用とデータ利活用促進】

 台風・集中豪雨の監視・予測、航空機・船舶の安全航行、地球環境や火山監視等、国民の安全・安心の確保を目的として、気象衛星・地球観測衛星による切れ目のない観測体制を維持していく。

 静止気象衛星ひまわりについては、2機による切れ目のない安定観測体制を維持していく。ひまわり10号については、線状降水帯や台風の予測精度を抜本的に向上させる大気の3次元観測機能等最新の観測技術を導入し、2029年度の運用開始に向けて着実に整備を進める。(総務省、国土交通省)

 また、先進光学衛星(ALOS-3)については、H3ロケット試験機1号機による打上げの失敗により、防災・減災や、地理空間情報の整備、沿岸域や植生域の環境保全への利用・研究等、先進的な光学データ利用の促進への影響が想定されるところ、ユーザー官庁を含めた関係府省庁や民間事業者等と対話を進めながら、再開発の要否も含め、今後の方針についての検討を進める。高分解能と広視野を両立させた先進レーダ衛星(ALOS-4)については、具体的な打上げ時期を設定の上、打上げ・運用を着実に実施していく。また、ALOS-4に続く、JAXAにおける新たな観測衛星の開発に当たっては、産学官による議論を踏まえつつ、宇宙技術戦略のローリングの中で、宇宙利用の将来像、自律性、我が国の技術的優位性を整理しながら検討していく。その際、欧州でプロジェクトメイキングの段階から民間の意見を取り入れステージゲート型の官民共同開発プログラムを実施している等の国内外の事例や、複数の衛星ミッションを統合的に利用する観点、社会実装や国際競争力強化に不可欠な予見性・継続性の確保の観点も踏まえながら、検討を実施していく。(内閣府、文部科学省、農林水産省、国土交通省等)

 加えて、大規模災害等の発生に際しては、被災等の状況の早期把握や被災者等の迅速な救助及び避難等に資するため、関係府省間において情報収集衛星により収集した情報を共有する

とともに、その画像データの適切な利活用を図る。(内閣官房等)

 国の衛星(ALOSシリーズ)を民間小型SAR衛星コンステレーションで補完することによっておおむね3時間に1回の頻度で国土の観測が可能となることが期待されており、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期においては、それらを統合的に利用した衛星画像の解析データの提供について、ユーザー官庁等の意見を踏まえながら、社会実装に向けた検討を進めていく。(内閣府、文部科学省、国土交通省等)

 世界の温室効果ガス濃度の分布状況とその時間的変動を継続的に監視するとともに、海面水温等を効率的に把握することでスマート水産業等に貢献できる温室効果ガス・水循環観測技術衛星(GOSAT-GW)を2024年度に打ち上げるべく、開発を着実に進めるとともに、2024年末までに、途上国においても排出量報告が求められるようになることを見据え、我が国が世界に先駆けて開発した衛星を用いた温室効果ガス排出量推計技術の活用を促し、国際標準化を目指していく。また、陸海空の水の変動を監視することで異常気象の監視やスマート水産業等に貢献し、我が国が強みを有するマイクロ波放射計の技術については、継続的な高度化に向け将来ミッションの検討を進める。国際連携ミッションである、大気の3次元観測による豪雨・豪雪の予測精度向上等に貢献する降水レーダ衛星等について、着実に開発を進める。

 また、国・JAXAの地球観測衛星を着実に運用し、エネルギー、環境、農林水産業、公衆衛生、水循環・気候変動等の地球規模問題の解決やSDGsの達成に貢献する。地球観測に関する政府間会合(GEO)の枠組み等も活用し、官民におけるデータの利活用や公共性の高いデータの提供等による国際協力の推進を図るとともに、産学官連携や国際連携による挑戦的な新規技術の研究開発の加速や観測網の構築を進める。(外務省、文部科学省、環境省等)

【衛星関連先端技術の開発・実証支援】

 光学の観測衛星技術については、世界で商業フェーズに入っていることも念頭に置き、官民で役割分担しながら、高精度3次元観測等の革新的な技術開発やデータ分析技術開発によるデジタルツイン*21*の構築に向けた取組を推進する。また、民間小型光学衛星コンステレーションについては、小型多波長センサの開発や、国内外での衛星データ利用実証、災害時に迅速に観測データを活用できる衛星群の運用や地上処理の高度化などを支援していく。(文部科学省、経済産業省)

 合成開口レーダ(SAR)技術については、高分解能化等に必要な研究開発支援を一層進めつつ、2025年までに民間事業者による小型SAR衛星コンステレーションを構築すべく、政府が早期にアンカーテナントとなり得るテーマを優先して実証事業を推進し、商業化を加速していく。(内閣府等)

 また、我が国が強みを有し、地盤の変化等の観測に役立つLバンドSAR技術及び衛星システムの高度化に関するプロジェクトの検討を進める。(文部科学省)

 加えて、衛星の設計・開発・製造プロセスのDXのための取組を進める。(文部科学省、経済産業省等)

(c) 準天頂衛星システム

【7機体制の着実な構築と11機体制に向けた検討・開発着手】

 持続測位を可能とする7機体制構築に向け、H3 ロケットの開発状況を踏まえて、2023 年度から2024 年度にかけて順次準天頂衛星を打ち上げ、引き続き着実に開発・整備を進める。

 自動運転、農業、交通・物流、建設等の様々な分野における準天頂衛星システムの更なる利活用促進に向け、必要な支援策、環境整備等に関する施策について関係省庁が連携して検討及び実施する。

 防災利用については、「災害・危機管理通報サービス」の拡張や「衛星安否確認サービス」の運用を着実に進めるとともに、防災を所管する政府・地方公共団体の防災計画と整合を図りつつ、今後の防災関連サービスの在り方について、ユーザーの要望を踏まえ検討を進める。また、準天頂衛星システムがアジア太平洋地域での社会インフラとして貢献できるよう、海外向け高精度測位サービス(MADOCA-PPP)や「災害・危機管理通報サービス」について、必要な機器の整備や人材育成等の政府間の連携を強化していく。

 7機体制確立以降の将来的な準天頂衛星システムについて、普及期から本格的な利用への移行に向けて、バックアップ機能の導入による社会インフラとしての安定性・信頼性の向上や、先進的な製品・サービスの提供に向け、周囲にビル等の障害物があるような場所でも利用しやすい高精度測位サービスの実現といった、国内のユーザーからの要望に応えていく必要がある。測位サービスの安定供給を目的としたバックアップ機能の強化や利用可能領域の拡大のため、7機体制から11機体制に向け、コスト縮減等を図りつつ、検討・開発に着手する。将来の準天頂衛星システムの技術開発及び開発整備に当たっては、初号機システム及び5~7号機搭載ペイロード開発の成果や知見、次期測位技術の先行開発を行ってきたJAXAとの連携協力を更に強化拡大し、総合的なシステムとして効率的かつ着実に実施することが適切である。また、海外の技術動向や国内外のニーズを踏まえつつ、信頼性・機能性向上や抗たん性の強化等の測位技術の高度化や、主要技術の国産化を戦略的かつ継続的に進めるため、関係省庁・機関、産学官の協力を強化して推進する。(内閣官房、内閣府、総務省、外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国

土交通省等)

(d) 衛星開発・利用基盤の拡充

【衛星データ(衛星リモートセンシング・測位)の利用拡大と政府によるサービス調達の推進】

 官民によるリモートセンシングデータの利用を加速していくため、政府によるリモートセンシングデータのサービス調達を、民間に率先して一層推進する。また、関係府省は、それぞれの業務について、衛星リモートセンシングデータの利用の可能性を検討し、合理的な場合には、これを利用することを原則とするとともに、利用分野に応じた衛星リモートセンシングデータへの要求仕様を明確化する。あわせて衛星リモートセンシングデータの活用を加速するための実証事業等を充実させ、社会実装につなげる。その際、本格的な政府のサービス調達に早期につながる又は他の自治体や民間活用へ波及効果の高い事業やテーマを戦略的に支援していく。加えて、自治体や民間活用も念頭に置いて、リモートセンシングデータの活用が推奨される場面やその方法等について具体的に記載した手順書の整備や利用現場の人材育成を含めた環境整備を実施していく。

 データ利用省庁等によって構成される「衛星リモートセンシングデータ利用タスクフォース」において、各利用省庁がサービス調達の実態や活用拡大に向けた課題及び推進方策を分析し、好事例の共有を行う。これを他の利用省庁や自治体に水平展開することで、政府や自治体の業務の効率化や高度化に向けた衛星データの利用拡大につなげていく。(内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)

 衛星リモートセンシング・測位データを含む地理空間情報は、Society 5.0 を実現させる鍵であり、「地理空間情報活用推進基本計画」(令和4年3月閣議決定)におけるシンボルプロジェクトを始め、自然災害・環境問題への対応、産業・経済の活性化、豊かな暮らしの実現等といった国内外の幅広い分野において、衛星データを利用した事業を推進し、「地理空間情報高度利用社会(G空間社会)」の実現を図る。特に防災分野については、地理空間情報を高度に活用した防災・減災に資する技術に関する取組を関係府省間で有機的に連携させる統合型G空間防災・減災システムの構築を推進する。また、G空間情報センターがデータプラットフォームとして機能することで、地理空間情報の円滑な流通及び利活用を促進する好循環を目指す。(内閣官房、内閣府、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省)

 また、衛星測位技術を用いた農機の自動走行技術、衛星画像を活用した作物の生育状況診断や、林業・水産業分野での衛星情報の活用等、スマート農林水産業技術の開発・実証・実装を一層推進し、農林水産業の生産現場における担い手の減少や高齢化による労働力不足などの課題解決を図る。(農林水産省等)

【衛星開発・実証プラットフォームにおけるプロジェクトの戦略的推進】

 安全保障・民生分野横断的に、衛星の利用側も含めた産学官の主体で構成される「衛星開発・実証プラットフォーム」において、世界の技術開発トレンドやユーザーニーズの継続的で的確な調査分析を踏まえ、技術・産業・人材基盤の維持・発展に係る課題について検討し、我が国の勝ち筋を見据えながら、我が国が開発を進めるべき技術を見極め、関係省庁・JAXAにおいて、体系的にプロジェクトを立案・推進する。

 ミッションへの実装や商業化に向け、アジャイルな開発手法を取り入れつつ、大学・研究機関・民間事業者等が失敗を恐れず、高い頻度で宇宙実証を行う機会の充実を図る。必要に応じて軌道修正も行いながら、適切な役割分担の下、必要な資源を投じ、効果的に産学官の関係機関が連携を取りながら検討を進める。(内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省等)

【宇宙機器・ソリューションビジネスの海外展開強化】

 国内市場のみでは宇宙ビジネスの市場規模が限定されるところ、海外展開に向けて、官民体となった取組を強化していく。また、宇宙機器や衛星の輸出に止まらず、宇宙を利用したソリューションビジネスの海外のパートナーとの共創を支援することで、市場が拡大し、機器開発・製造へと資金が巡る循環を作っていく。

 その際、アジアを含めた新興国において宇宙の利活用に向けた機運が高まる中、東南アジア・オセアニア・中東等を重点地域として協力関係を深化させていく。具体的には、アジア・太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)や二国間対話等の国際的枠組み、さらには産業界における国際的なイベントやワークショップ等を有効活用することによって、民間事業者の海外展開を支援していく。また、重点国には大使館、国際協力機構(JICA)、JAXA、日本貿易振興機構(JETRO)、UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)-GLOBAL、専門家等と連携して現地ネットワークを整備し、現地の政府機関、宇宙機関、企業、潜在ユーザー等とともに衛星データ利用ソリューションを共創するための取組を総合的に実施していく。

 また、宇宙分野と非宇宙分野との交流や意見交換の場を設けることに努め、主要な国際会議等の場での官民対話を通じ、海外の官民のニーズやシーズを聴取し、把握することで案件形成につなげていく。さらに、国際連携による挑戦的な新規技術の研究開発の加速や観測網の構築、全地球観測衛星による国際協力を推進し、我が国の技術力の維持・向上を図る。(内閣府、総務省、外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省等)

【異業種や中小・スタートアップ企業の参入促進による担い手拡充】

 JAXAの研究開発成果を活用した事業の創出及び内製の開発にこだわらず、外部知見を活用したオープンイノベーションを喚起する取組を強化する。このため、JAXAにおける異業種や中小・スタートアップ企業を含めた民間事業者との共同研究、パートナーシップ構築の取組を推進するとともに、JAXAの出資機能及び資金供給機能の活用等を更に促進していく。

 また、国際市場で勝ち残る意志と技術及び事業モデルを有する日本企業に対するリスクマネー供給や、実証事業等による参入検討の機会を提供する。

 さらに、リモートセンシングデータ等におけるアプリケーション側を含めたスキル向上のための研修等を通じて、異業種人材の参入を含めたデータ利用人材の育成を支援していく。(文部科学省、経済産業省、防衛省)

【衛星データ及び地理空間データプラットフォームの充実・強化】

 国内の衛星データプラットフォームについて、サービス調達等による支援を進めるとともに、他分野の地理空間データプラットフォームや海外の衛星データプラットフォームとの連携、多種衛星のオンデマンドタスキングシステムの開発、解析ツールの拡充、光通信衛星ネットワークとの連携によるリアルタイム性の向上等の機能拡充を、関係省庁が連携しつつ進めていく。

 また、海外における衛星データ需要の取り込みを念頭に、海外での実証実験の加速を含めた海外展開支援や、海外におけるアプリケーション開発を支援していく。(経済産業省等)

【宇宙天気予報の高度化・利用拡大】

 太陽活動等は衛星運用等に支障を及ぼすおそれがあり、宇宙通信・観測・測位や地上インフラ機能等の安定的利用の確保や安全保障分野での活用のため、我が国上空の宇宙環境を観測するセンサの開発やひまわり10号への搭載等を通じた観測・分析能力の充実・強化を図るとともに、警報の対象やユーザーへの影響を分かりやすく示した新たな警報基準を策定する等、宇宙天気予報の高度化・利用拡大を一層進めていく。(総務省、国土交通省、防衛省)

【宇宙太陽光発電の研究開発】

 エネルギー問題、気候変動問題、環境問題等の人類が直面する地球規模課題の解決の可能性があり、また、宇宙構造物等の給電システムへの応用も期待できる宇宙太陽光発電システムの実用化に向け、宇宙太陽光発電システム研究開発ロードマップ等に基づき、着実に取組を進める。その際、宇宙太陽光発電の研究開発は、IoTセンサ、ドローン、ロボット等へのワイヤレス給電等、地上の技術、月面・月軌道応用への派生も期待できることに留意する。(文部科学省、経済産業省)

(3)宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造に向けた具体的アプローチ

【基本的考え方】

 独創的なアイデアを生み出し、特長ある技術を発展させることによって、独創的・先端的な研究成果を創出するよう、危機感を持って取り組んでいく。その際、国際的な研究の潮流や目覚ましい研究成果、民間の最新の技術動向等を常に注視し、国際協力ミッションでの実施も視野に入れて計画を立案し、必要に応じて改善を図る。科学的な知の創出に加え、国民への夢・希望の提供、経済・社会、外交等の側面にも配慮し、広く国民の支持と理解を得る努力を行いながら、宇宙科学・探査ミッションを推進していく。

 加えて、我が国にとって、月面活動等のための技術実証等、地球低軌道活動の意義は引き続き存在することから、当該活動に必要な場と機会を確保する。

(a) 宇宙科学・探査

宇宙科学・探査ミッションについては、研究者からの提案に基づくボトムアップを基本としてJAXAの宇宙科学・探査ロードマップを参考にしつつ、今後も一定規模の資金を確保し、推進する。今後10年間では、戦略的に実施する中型計画に基づき3回の衛星・探査機の打上げ又は海外主導ミッションへの中型計画規模での参加及び主として公募により実施する小型計画に基づき、2年に1回のペースで5回の衛星・探査機の打上げを目指すとともに、戦略的海外共同計画(海外主導ミッションに中型計画の規模を上回らない規模で参加することも必要に応じ検討)や小規模計画に基づきミッションを推進する等、より小規模なミッションでの成果創出機会も確保する。(文部科学省)

【宇宙物理学】

 我が国単独では実施が困難な大型の海外計画への存在感を持った形での参画を目指す。このため、JAXAや宇宙物理学分野の研究者のコミュニティが一体となった協力体制を構築し、国際動向の情報収集を行い、長期戦略を立案して必要な技術開発を行っていく。また、国際的な大型計画とも相補的でかつ独創的・先鋭的な技術を活用した、我が国としての、科学的にユニークな中・小型のミッションの創出を目指す。(文部科学省)

【太陽系科学】

 我が国が強みを持つ小天体探査については、「はやぶさ」シリーズで獲得した世界でのリーダーとしての地位の維持・向上を図る。探査機を更に高度化し、サンプルリターンを行う次世代の小天体探査のミッションの対象や手法について具体的な検討を行う。また、強みをいかした国際協力等により、彗星などの海外主導大型の探査計画への中核としての参画について検討を進める。加えて、太陽観測・太陽圏科学分野でも引き続き先鋭的な観測技術・手法の検討を図る。

 同時に、アルテミス計画との連携を視野に、月及び火星について科学的成果の創出及び技術面での先導的な貢献を図る。

 アルテミス計画による月面活動の機会(有人与圧ローバの活用を含む。)を活用し、「月面における科学」(i. 月面からの天体観測(月面天文台)、ii. 重要な科学的知見をもたらす月サンプルの選別・採取・分析、iii. 月震計ネットワークによる月内部構造の把握)の具体化を進める。「月面における科学」の研究の実施及び必要な要素技術の開発のため、小型月着陸実証機(SLIM)技術を維持・発展させた月探査促進ミッションと、可能な限り民間サービスを活用していくことについて検討を進める。

 火星本星の探査については、米国と中国による大規模な計画が先行する中、将来の有人探査に向けて、2030年代には国際的な役割分担の議論が開始される可能性があるため、2040年代までの長期的視点を持って、我が国が有利なポジションを得るために、産学のリソースを最大限に活用して、米中を始め他国が有していない我が国の独創的・先鋭的な着陸技術・要素技術等の発展・実証を目指すとともに、火星本星の探査に関する検討を行う。

 また、太陽系進化の解明を図るために、小天体・彗星、外惑星を探査する次期ミッションの対象や手法について具体的な検討を行う。(文部科学省)

【重要技術の開発】

 宇宙科学・探査に関する宇宙技術戦略策定に際しては、高度な宇宙科学・探査ミッション実現のため、科研費等による基礎的な研究の成果や産業界における技術の進展等に鑑み、政策的な優先度を勘案して、獲得すべき重要技術を宇宙技術戦略において特定する。

 我が国の現状の強みである小惑星等のサンプルリターン技術については、今後も世界でのリーダーとしての地位を維持・向上させるため、その技術を更に高度化するとともに、高度な分析技術を維持・発展させる。また、宇宙技術戦略に基づき、将来の我が国の強みとなり得る最先端技術(例えば、太陽光推進技術、大気圏突入・減速・着陸技術、越夜・外惑星領域探査に向けた半永久電源等の基盤技術等)の開発を行い、成果の蓄積を図る。

 ミッションのプロジェクト化に当たっては、フロントローディングの考え方により、重要な要素技術の研究開発を事前に行うことで、プロジェクトを行い、円滑にマネジメントでき、企業の開発リスクが低減されるよう、図っていく。(文部科学省)

(b) 月面における持続的な有人活動

【国際パートナーや民間事業者と連携した持続的な月面活動】

 人類の恒常的な活動領域が深宇宙に拡大することを目指し、アルテミス計画の下、国際パートナーとともに国として主体性を持って、持続的な月面探査と、探査の進展に応じた基盤整備を実施する。また、限られたリソースの中、効果的・効率的な開発を推進し、新たな市場を構築するため、科学・資源探査、基盤整備に向けた技術実証及び可能な限り民間サービスの調達を行うことによる産業振興を行い、民間活動の段階的発展を図る。

 具体的には、アルテミス計画の下、国際協力による月・火星探査を実施するとともに、持続的な有人活動に必要となる、環境制御・生命維持システム、月周回有人拠点(ゲートウェイ)補給機及び有人与圧ローバの研究開発、月極域探査機(LUPEX)による水資源関連データの取得等に向けた取組を着実に実施していく。既に要素技術開発に着手した月周回衛星による測位・通信システムについても、着実に研究開発を進めるとともに、国際協力の下、位置付けていく。また、月面での持続的な活動に不可欠なインフラとして、資源探査・採掘利用、電力供給、無人建設及び食料生産といった技術に関する研究開発を実施する。加えて、これらの技術を輸送する手段として、月面への輸送能力(ロケットを含む。)の整備と向上、及び月面着陸技術の実証等を目指した月探査促進ミッションを含めた月面着陸機の研究開発を実施する。

 また、人類の活動領域の拡大を念頭に置くと、将来、政府中心のミッションから民間による月面商業活動に段階的に移行し、月面経済圏が構築されることも期待される。これを見据え、政府はJAXAとともに、民間事業者の早期参入を促進すべく、支援を実施する。例えば、科学・探査ミッョンについて、重要技術について自律性を担保しつつ、民間事業者による事業化が進んでいる部分については、可能な限り民間事業者によるサービスを調達することで、効率化を図る。また、民間事業者による新事業の創出のため、月及び地球低軌道での宇宙実証の定期的で予測可能な機会を提供する。持続的な月面探査の実現を目指すアルテミス計画への参画の機会を活用し、米国人以外で初となる日本人宇宙飛行士の月面着陸など、日本人宇宙飛行士の活躍の機会を確保する。(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)

【月面開発工程の具体化に向けた構想策定と官民プラットフォームの構築】

 人類の持続的な活動領域の拡大と新たな市場の構築を見据え、月面活動に必要な技術開発・実証等を行うに当たって、政府と宇宙開発の中核機関であるJAXAは、月面活動に関するアーキテクチャ*22*の検討を進めつつ、アルテミス計画等の進捗を考慮し、技術開発のベンチマーキングを定期的に実施することで、宇宙実証・導入まで見据えた研究開発工程の具体化を遅滞なく実施していく。このため、官民プラットフォームを構築するとともに、月面の持続的な探査及び開発に関する構想を新たに策定する。その際、効果的・効率的に我が国の国際的プレゼンスを高めて今後の強みとなる戦略的な技術を精査し、国際協力における位置付けを含めて検討し、開発・実装を推進していく。(内閣府、総務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省)

【将来市場形成に向けた規範・ルールの形成】

 日本が同盟国・同志国等とともに国際標準・規格策定に向けた議論を主導することによって、日本の宇宙産業の発展に貢献していく。

 具体的には、月面資源開発について、世界で4番目に宇宙資源法を整備した国として、宇宙資源法における民間事業者による商業活動の優良事例を積み重ねることを通じて、効率的な宇宙資源開発を目指す。また、民間事業者による宇宙資源開発について、国際世論の賛同を得て、行動の規範を形成していくことを目指す。具体的には、国際社会の平和や産業振興、人類社会の発展といった理念を共有する同盟国・同志国等と協力し、宇宙資源法許可案件について、民間事業者による商業的な宇宙活動の活性化に向けて、国連等の場で積極的に理解促進に向けた発信を行っていく。

 また、月面における科学探査や商業資源開発・利用を行うに当たっては、複数のミッション間での活動の重複や衝突を防止するため、情報提供による透明性の確保や、安全区域の設定について、アルテミス合意署名国を始めとする他の宇宙活動国との調整枠組みに参加し、国際的に調和のとれた制度構築に貢献するとともに、紛争の未然防止に取り組む。(内閣府、外務省等)

(c) 地球低軌道活動

【ISS延長期間(~2030年)】

 ISSの利用に関するJAXAの現行スキームを、米国との比較を含めて包括的に検証し、現在よりも民間事業者やアカデミア等が使いやすいスキームに見直すなどして、日本実験棟「きぼう」の利用拡大と成果の創出・最大化に取り組む。また、より使い勝手を良くするための方策を追求するため、実験機材の共同利用など国際連携による実験実施等について、ISS関係各極との協議を行う。

 また、民間の創意工夫を最大限活用してISS利用を促進する方策やフレームワークを検討し、民間の利用ニーズの掘り起こしを行うとともに、2030年代の地球低軌道活動を見据えた民間による利用実証の機会を提供することなどにより、ポストISS時代における事業展開を目指す企業やエンドユーザーの拡大を図る。

 さらに、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)により、ISSへ安定的に物資の補給を行い、あわせて、その機会を活用してアルテミス計画や将来の探査、低軌道活動等に資する技術獲得等の取組を行う。また、我が国の宇宙活動の自立性の確保や、月周辺や月面での活動、地球低軌道における民間活動を支える技術*23*の研究開発及び実証の場として、ISSを最大限に活用するとともに、そのために必要な要素技術・システムの研究開発を進める。(文部科学省等)

【ポストISS(2030年以降)を見据えた取組】

アルテミス計画等の月以遠への活動も見据え、戦略的に我が国の地球低軌道活動に必要な場と機会を確保するため、ポストISSの在り方を、国内外の状況を注視しながら日本の利用活動に空白を生じさせないよう、以下のいずれの選択肢も、実現可能なタイミングで検討し、結論を得る。

① 宇宙ステーション、モジュール又は実験設備等を我が国又は我が国の民間事業者が所有した上で活動すること

② 海外民間商業ステーションが提供する利用サービスを調達すること

これらの中から、ポストISSの在り方を決定するに当たっては、これまでに培ってきた技術の維持・継承の実現性を担保しつつ、国として必要な技術実証・学術研究の場の確保、宇宙飛行士の育成・訓練の場や体制の確保、国際的プレゼンスの維持・向上、産業界の参入可能性・事業発展性・競争力確保、費用対効果等の観点も踏まえ、総合的に検討を行う。

 また、ポストISSの在り方に応じ、我が国の地球低軌道活動を着実に推進するために必要な技術を検討し、着実に研究開発を進める。

 さらに、今後の民間による地球低軌道の利用の進展を睨み、宇宙ステーションの運営主体が民間となることに伴い必要となる国際的・国内的な法的枠組みや、求められる国際技術標準・規格等について、検討を進める。(外務省、文部科学省等)

(4)宇宙活動を支える総合的基盤の強化に向けた具体的アプローチ

【基本的な考え方】

 宇宙輸送システムの高度化、スペースデブリ対策を含む宇宙交通管理の推進、技術・産業・人材基盤の強化、宇宙領域把握能力の強化等によって、我が国の宇宙活動を支える総合的基盤を強化する。また、これにより我が国の幅広い分野での宇宙安全保障の改善につなげる。

 宇宙輸送については、我が国の衛星を国内で打ち上げる体制を整え、我が国全体の打上げ能力の強化に取り組む。政府衛星の打上げには基幹ロケットを優先しつつ、当該衛星のサイズや打上げのタイミング等に応じて、国内の民間ロケットを活用することにより、国内の宇宙輸送に関わる技術・産業・人材基盤を下支えする。また、宇宙へのアクセスの拠点となる射場・スペースポートについても必要な対応を講ずる。その上で、宇宙輸送システムを担う事業者等による再投資を促進し、それによる更なる国際競争力の強化を通じ、打上げ数を増大させ、宇宙輸送産業の成長サイクルの構築を目指す。

 宇宙交通管理に関する国際的な規範・ルールの形成に向けては、我が国によるスペースデブリ対策の技術開発・実証を進め、優良事例を創出することで国際的な発信力を高めていく。

 技術・産業・人材基盤の強化については、徹底した調査分析に基づく宇宙技術戦略の下、先端・基盤技術開発や、商業化に向けた開発支援を実施する。また、国等によるプロジェクトにおける契約制度の見直しや、異業種やスタートアップ企業の事業化支援、人材基盤維持発展のため産学官による研究開発プログラムの充実や、リスキリング、人材交流等を図っていく。さらに、安全保障分野における人材育成を進めるとともに、関係省庁、機関、企業等との交流を活性化する。その際、宇宙技術のデュアルユース性に鑑み、安全保障と民生利用の用途に、政府関係機関が開発を行う先端・基盤技術や商業化に向けて開発支援を行った成果を積極的に活用することが、宇宙活動を支える総合的基盤の強化につながることを念頭に、将来的なユーザーの声も踏まえつつ、開発と利用を推進していく。

(a) 宇宙輸送

【基幹ロケットの継続的な運用と強化】

 安全保障を中心とする政府ミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの自立性を確保する上で不可欠な輸送システムである基幹ロケット(H-ⅡAロケット、H3ロケット及びイプシロンSロケット)を主力として、我が国の宇宙活動の自立性を確保する。

 そのため、イプシロンロケット6号機及びH3ロケット試験機1号機の打上げ失敗に関わる直接要因のみならず、背後要因を含めた原因の究明とその対策に透明性を持って取り組んだ上で、基幹ロケットの打上げ成功実績を着実に積み重ねる。政府衛星を打ち上げる場合には、基幹ロケットを優先的に使用するとともに、打上げの高頻度化と、安全保障上必要となる宇宙システムの打上げや国際市場に対応する打上げ能力の獲得を目指した高度化(輸送能力の強化・衛星搭載方式の多様化・打上げ価格の低減等)にスピード感を持って取り組む。その際、世界情勢の変化も念頭に、開発コストや打上げ価格等への影響にも十分な注意を払いつつ、基幹ロケットに関わるクリティカルコンポーネントの国産化など、サプライチェーンの自律性強化に向けた対策を講ずる。また、打上げ数を増やすため、海外衛星の打上げ需要を取り込むべく、相手国政府機関・企業との対話を通じた民間事業者の商業活動の後押しなど、官民一体となった取組を進める。加えて、基幹ロケット・射場及び試験設備の適切な維持・管理に向けて、老朽化対策等の必要な措置を実施するとともに、高頻度打上げ対応に向けた射場の在り方についての検討と取組を継続的・計画的に進める。(内閣官房、内閣府、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省等)

【民間ロケットを担う事業者の開発・事業支援】

 我が国全体で打上げ能力の強化、即応性・機動性の向上を図るため、民間ロケットを担う事業者の開発・事業支援に取り組むとともに、政府衛星の打上げについても、当該衛星のサイズや打上げのタイミング等に応じて、民間ロケットによる輸送サービスを活用する。

 このため、国内でロケット開発に取り組む事業者が、国際競争力を持ったロケットを開発できるよう、国等によるSBIR制度やアンカーテナンシー、JAXAによる技術・知見の提供及び施設設備の供与などを通じて、国内でロケット開発に取り組む事業者の開発・事業支援を拡充する。

 その際、宇宙輸送市場で勝ち残る意志と技術力を有する事業者を選抜し、集中的に支援することにより、国際競争力を持たせることに留意する。(内閣官房、内閣府、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【新たな宇宙輸送システムの構築】

将来にわたって我が国の宇宙活動の自立性を確保するため、宇宙開発利用の将来像(地球低軌道や月等における宇宙科学・探査、有人宇宙活動等)にも対応する次期基幹ロケットの開発に向けた取組を進める。そのため、産学官の連携の下、JAXAが中心となり、輸送能力の大型化・再使用化・低コスト化などに必要な次世代の宇宙輸送技術の研究開発に取り組む。

高速二地点間輸送や宇宙旅行のような、中長期的に大きな市場が期待される分野についても、取組を主導する民間事業者における開発・事業化を促進するため、国・JAXAと民間事業者が連携し、次期基幹ロケットの開発に向けた取組と連携した形で、海外の開発動向も踏まえ、有人輸送などに必要となる要素技術の開発を進める。また、有人輸送に関わるシステムの在り方について検討する。さらに空中発射などの多様な打上げサービスを確保する。(内閣府、文部科学省、防衛省等)

【宇宙輸送に関わる制度環境の整備】

増加する国内の衛星打上げ需要やグローバル需要に応え、次世代の宇宙輸送技術の研究開発、海外の宇宙輸送技術の活用、サブオービタル飛行などの我が国に前例のない多様な取組を進め、我が国の宇宙産業の裾野を拡大させ、ひいては我が国がアジア・中東における宇宙輸送ハブとしての地位を築くことを目指す。

具体的には、ロケットの即応的な打上げや海外衛星の打上げ需要の取り込み、サブオービタル飛行を始めとした新たな宇宙輸送ビジネスを実現させるために必要な制度環境の整備に取り組む。

また、我が国全体の打上げ数の拡大や、新たな宇宙輸送システムの実現に向けて、拠点となる射場・スペースポートや、次世代技術の実証に必要となる実験場整備について、宇宙システムの機能保証や地方創生等の観点を含めて、官民で必要な対応を講ずる。(内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、防衛省等)

(b) 宇宙交通管理及びスペースデブリ対策

 宇宙交通管理に関する関係府省等タスクフォースにおける方針等を踏まえ、関係府省等が連携して、宇宙空間の安定的かつ持続的な利用を確保するための取組についてスピード感を持って推進する。

 JAXAは民間事業者と協力し商業デブリ除去技術の実証(CRD2)を進めるとともに、国・JAXA等は、運用を終了した衛星等の軌道離脱、軌道上での衛星の寿命延長・燃料補給など、スペースデブリの低減に資する技術の開発等に取り組み、民間事業者による新たな市場開拓を支援する。(文部科学省、経済産業省、防衛省)

 これらの技術の開発状況に応じて、政府衛星については、スペースデブリの低減に資する技術の導入に取り組む。また、低軌道を周回する政府衛星については、可能な限り、運用終了後に大気圏に突入するまでの期間を短縮させる。加えて、基幹ロケットについては、ロケット打上げ時の上段の制御再突入などの取組を国際競争力の確保に留意した上で進めていく。(内閣官房、内閣府、総務省、外務省、文部科学省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省)

 スペースデブリ低減に取り組む事業者等を評価する制度(レーティングスキーム)等について、制度・運用の改善等に関する国際的な議論への積極的な参加を継続する。(経済産業省)

 宇宙交通管理に関して、我が国が国連等における議論に積極的に参加し、宇宙活動に関する長期持続可能性(LTS)ガイドラインの普及推進並びに宇宙新興国に対する国内ガイドライン及びルールの整備・運用に係る構築支援を行う。

 これらの取組を通じて優良事例を創出し、我が国が宇宙交通管理及びスペースデブリ対策に関する国際的な規範・ルール作りに積極的に参画する。(内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省)

(c) 技術・産業・人材基盤の強化

【宇宙技術戦略の策定・ローリング】

 宇宙技術戦略を策定・ローリングし、これを踏まえ、先端・基盤技術開発の一層の強化と、民間を主体とした商業化に向けた技術開発の支援を進めていく。

 当該戦略策定においては、我が国の強みを強化していくことに加え、我が国の自律性を強化するための技術を特定し、これを踏まえて開発を推進していく。サプライチェーン上のクリティカルコンポーネントを特定し、必要に応じて国産コンポーネントの開発を実施していく。(内閣官房、内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【先端・基盤技術開発の強化】

 宇宙技術戦略を実行していくため、関係府省庁・機関における先端・基盤技術の開発・利用に関する取組との連携を図りつつ、我が国の中核的宇宙開発機関であるJAXAにおける先端・基盤技術開発能力の一層の強化を行う。それと同時に、先端・基盤技術の開発に当たり、産学官の英知を結集・活用する仕組みを強化する観点から、JAXAにおける、企業、大学等に研究資金を戦略的かつ弾力的に供給する機能を強化する。これにより、JAXA自ら開発に携わると同時に外部への資金供給を通じてオープンイノベーションを図る。

 また、プロジェクトに着手する前の技術開発としてフロントローディングを実施することで、開発段階で大きな技術的課題に直面するリスクを軽減する。(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【商業化に向けた支援の強化】

 商業化の加速に向けて、宇宙技術戦略を踏まえ、関係府省庁・機関における商業化に向けた支援に関する取組との連携を図りつつ、国際市場で勝ち残る意志と技術、事業モデルを有する企業を重点的に育成・支援していく。民主導で宇宙実証に向けて技術成熟度を高める案件については産業界の投資を求めつつ、定期的で予測可能な宇宙実証機会の提供を含めて、国・JAXA等から企業等の技術開発に対する支援を講じていく。また、政府による宇宙機器の整備及び宇宙機器・データの利用を継続性をもって積極的に進めることで民間の投資を促進する好循環を形成するとともに、我が国の情報収集衛星を始め、政府主導のプロジェクトから得られた共通技術や基盤技術の成果をスピン・オフし、民間事業者の国際競争力を強化する。加えて、国際市場の獲得に向け、規範・ルールの形成や二国間対話の場の活用など、総合的な支援を行っていく。

 日本が強みを持つ自動車部品、電子部品等の高性能・安価な民生技術の宇宙転用には、放射線試験等の宇宙環境試験による性能確認が不可欠であるが、環境試験の機会が限定的であることが技術の宇宙転用の障壁となっているため、宇宙用部品の環境試験データが安価・短納期で取得・共有される仕組みを構築する。(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

開発プロセスのDX、3Dプリンティング、アジャイル開発等の先進的な製造・開発手法を衛星システム開発に適用し、政府衛星の効率的な開発及び商業衛星の競争力強化を図るため、官民が対話を行い協調領域・競争領域を識別しつつ、他業界・国際的な動向も踏まえて段階的に実装を進める。(文部科学省、経済産業省等)

【異業種や中小・スタートアップ企業の宇宙産業への参入促進及び事業化支援】

 異業種や中小・スタートアップ企業の宇宙産業への参入促進及び事業化支援に当たっては、関係府省庁・機関における取組との連携を図る。

 加えて、JAXAの研究開発成果を活用した事業創出及び内製での開発にこだわらず外部知見を活用したオープンイノベーションを喚起するため、JAXAにおける異業種や中小・スタートアップ企業を含めた民間事業者との共同研究、パートナーシップ構築の取組を強化するとともに、JAXAの出資機能及び資金供給機能の活用等を更に促進していく。

 宇宙を活用したビジネスアイデアコンテスト(S-booster)については、コンテスト受賞企業が政府における他のスタートアップ開発支援プログラムや民間プログラムにアクセスしやすくすることで、コンテスト後のフォローアップを充実化させる。また、「スタートアップ育成5か年計画」に基づき、SBIR制度を活用し、スタートアップ企業の育成を図る。(内閣府、文部科学省、経済産業省、防衛省)

【契約制度の見直し】

 JAXA等の国立研究開発法人を含む国等のプロジェクトの実施に際しては、民間事業者にとっての事業性・成長性を確保できるよう、国益に配慮しつつ契約制度の見直しを進める。

 JAXAにおいては、技術的難易度の高い衛星開発プロジェクト等におけるフロントローディングの強化や開発リスクの段階に応じた契約による官民の開発リスク分担の必要な見直しを行うとともに、プロジェクトの進捗に応じた支払い手法を検討する。また、著しい物価・為替変動への対応を継続的に実施するほか、防衛産業における取組を参考に、JAXAから衛星開発プロジェクト等を受託する民間事業者の適正な利益を確保する施策を講ずる。なお、民間事業者が支払制度や契約の履行要件などについて理解を深め、より高い予見性をもって参画することができるよう、JAXAは調達・契約に際しての民間事業者とのコミュニケーションの充実を図る。(内閣府、総務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【JAXAの人的資源の拡充・強化】

 JAXAにおいて、先端・基盤技術の研究開発能力の強化と、産学官の英知を結集する活動を強力に進めていくために、JAXAの人的資源を拡充・強化する。また、JAXAと産学官との人材交流を強化していくとともに、JAXAと宇宙開発を担う主体及び安全保障を含む宇宙を利用する主体との交流を一層進めていく。(文部科学省等)

【人材基盤の強化】

 将来の宇宙分野の発展を支える次世代人材の育成等に関しては、大学を始めとする教育機関においては、最先端かつ実践的な研究開発活動への大学生や高専生などの参加機会(日本実験棟「きぼう」での宇宙実験、超小型衛星の開発・実証、観測ロケットの開発・運用など)の提供、JAXAの資金供給機能の強化等による研究の充実等を通じて、先端・基盤研究を担う大学等における人材育成への支援等を強化する。JAXAの大学共同利用システムにおいては、宇宙科学・探査に関する学術研究を進め、JAXAと大学等との人事交流を推進するとともに、長期的な視点を持って大学院生に対する研究・教育・プロジェクトの一体的な実施による人材育成を行う。人文・社会科学やAI・デジタル技術等に関する高度な知見を有する人材に関しては、宇宙分野への積極的な参画を促すための基盤・拠点の構築*24*を進める。また、海外人材の受入れやクロスアポイント制度の活用等を通じて、人材交流・ネットワーク強化を図る。その際、経済安全保障の観点も含め、情報・技術の保全について十分に留意する。さらに、科学技術分野の人材育成も視野に小中学校を含む学校教育と連動し、教材開発等の取組を進める。(文部科学省等)

 加えて、拡大する宇宙人材の需要に応え、人材を確保するため、他産業の人材の宇宙分野への流入促進及び宇宙人材の流動化促進に取り組む。宇宙機器の製造分野に加え、リモートセンシング等のデータ利用側を含めたスキル向上のための研修等を通じた人材流動化を図る。(経済産業省等)

【国際宇宙協力の強化】

 宇宙に関する二国間対話等を通じ、宇宙における安全保障の確保や地球規模課題への対応、宇宙科学・探査の推進、新たな産業の創造、宇宙の持続的利用のための規範・ルール作り等に関する国際協力を推進する。

 特に日米間においては、安全保障、民生宇宙利用、宇宙科学・探査等の宇宙に係る全ての分野での包括的な連携をより一層強化する観点から、官民が一体となった協力を推進し、日米同盟の強化に貢献する。また、同志国等とは、先端技術の共同開発、衛星へのミッション機材の相乗り、衛星データの共同利用等において互いにプラスとなる協力関係を構築する。さらに、宇宙新興国に対しては、相手国のニーズに寄り添った人材育成や能力構築支援、設備機器・サービスの供与等による協力を行う。こうした取組などを通じて、特に我が国が位置するインド太平洋地域において、自由で開かれた国際秩序を維持・発展させる。

 また、国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)、国連衛星測位システムに関する国際委員会(ICG)、APRSAF、多国間GNSSアジア会合(MGA)、GEO、地球観測衛星委員会(CEOS)、日米豪印等、多国間の協力枠組みを活用した国際宇宙協力を積極的に推進し、宇宙の持続的利用等に貢献することにより、我が国としてリーダーシップを発揮し、プレゼンスの向上につなげていく。(内閣官房、内閣府、総務省、外務省、文部科学省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省等)

【国際的な規範・ルール作りの推進】

 我が国の宇宙空間の安全かつ持続的な利用を確保すべく、将来の宇宙利用像を見据えながら、国際的規範・ルール作りに貢献する優良事例の発信等により、多国間の枠組み等における議論に積極的に参画し、実効的な規範・ルール作りに我が国が一層大きな役割を果たす。また、宇宙活動の安全かつ持続的な利用に関する国際会議を我が国が持続的に開催すること等により、国際的な議論における影響力を確保する。さらに、我が国も米国等とともに主導的な立場に立ち、積極的に規範の内容を定めることにより、宇宙空間において高まっている脅威に対する抑止力とする。(内閣府、外務省、文部科学省、経済産業省、防衛省等)

【国民理解の増進】

 我が国の宇宙開発利用の推進に当たり、国民からの幅広い理解や支持を得ることを目指し、宇宙開発利用の意義及び成果の価値と重要性について適時適切に情報発信を行い、国民の理解を増進する。また、日本人宇宙飛行士の宇宙空間での活躍や、深宇宙にまで人類の活動領域が拡大していくことは、広く国民、特に子供たちに夢と希望を与え、次世代を担う人材を育成することにつながり、こうしたことは、イノベーションや新たな成長の礎となることを踏まえ、これらの価値を十分にいかした取組を進める。(内閣府、文部科学省等)


{*1* 安全保障⽤途及び⺠⽣⽤途の双⽅に活⽤可能なこと。}
{*2* 従来から政府機関において実施してきた「開発仕様」や「設計基準」等を⽰して、⺠間事業者から機器等を調達するのではなく、「サービス仕様」や「安全要求」等を⽰して、⺠間事業者からサービスを調達すること。}
{*3* 宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(令和3年法律第83号)}
{*4* 衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律(平成28年法律第77号)}
{*5* ⽶国は2021年に探査機の⽕星着陸に成功、中国も2021年に⽕星探査機の軟着陸に成功し、サンプルリターン計画については2028年の打上げを⽬指している。}
{*6* ⽶国は、国として地球低軌道活動を継続するに当たり、戦略的に合理化を図る⽅策として、⺠間商業ステーションを活⽤する⽅針であり、4社の⺠間事業者を選定し、ISS運⽤終了後(ポストISS)の地球低軌道拠点や輸送⼿段の検討を⾏っている。中国は、政府が既に宇宙ステーションを完成させており、2022年から、その活動を本格化させている。ロシアは、時期は未定であるが、ISS計画を離脱し、独⾃の宇宙ステーションの建設を開始する計画を有している。}
{*7* 中国は、2019年に世界で初めて⽉の裏側への探査機着陸、2020年には⽉⾯⼟壌のサンプルリターンに成功した。ロシア等と連携し、2028年頃までに国際⽉⾯研究基地の基本構造を完成させ、有⼈⽉⾯探査を実施する計画を表明している。インドは、2023年に⽉⾯探査機を打ち上げ、初の⽉⾯着陸に挑戦する予定となっている。韓国も2022年11⽉に⼤統領が宇宙ロードマップを発表し、宇宙開発機関を新設して開発予算を倍増し、2032年に⽉着陸と資源採掘を実施することを掲げている。}
{*8* 安全保障を中⼼とする政府ミッションを達成するため、国内に保持し輸送システムの⾃⽴性を確保する上で不可⽋な輸送システム。}
{*9* 産業界が能動的に宇宙環境の持続的利⽤に取り組むための国際的な格付け認証スキームとして、世界経済フォーラムの下で検討されてきた制度。}
{*10* ⼈類の活動領域が拡⼤し、宇宙システムが、地上システムと⼀体となって、地球上の様々な課題の解決へ貢献する等、宇宙空間というフロンティアにおける活動を通じてもたらされる経済・社会の変⾰。}
{*11* サイバー空間とフィジカル空間を⾼度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両⽴する、⼈間中⼼の社会のこと。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、⼯業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、「第5期科学技術基本計画」(平成28年1⽉閣議決定)において我が国が⽬指すべき未来社会の姿として初めて提唱。}
{*12* マイクロ波を地球に向かって照射し、反射波を受信することにより地表⾯の物性や起伏、凸凹、傾斜などを能動的に観測し、昼夜の別なく、雲や⾬等の天候にもほとんど影響を受けない電波センサ。
{*13* ある特定波⻑帯の周波数のみを観測するチャネルを複数持ち、複数の波⻑帯に関する情報を得て、⼈の眼では識別できない情報を可視化するセンサ。}
{*14* レーザー光を⼤気中に発射し、⼤気中のエーロゾルの動きを捉えた散乱光を探知し、その周波数の変化(ドップラー効果)を観測することで、⾵速・⾵向や対象物の移動速度等を観測することが可能なセンサ。}
{*15* 現実世界の物体や環境から収集したデータを使い、仮想空間上に全く同じ環境を再現するテクノロジーのこと。}
{*16* レーザー光を地表⾯に出射し、レーザー光が反射して戻る時間から距離(⾼度)を測定することで、受動的光学センサ(太陽光の地表⾯反射光や地球の放射を測定するセンサ)では観測ができない鉛直⽅向の情報の取得を可能とし、地表⾯の各種⾼度情報を得るセンサ。}
{*17* 軌道上に存在するデブリを専⽤衛星等を⽤いて軌道から取り除く技術。}
{*18* 宇宙技術戦略において特定された取組を実施しながら、継続的に最新動向等を踏まえた改訂を⾏うこと。}
{*19* 衛星搭載通信ミッション機器のデジタル化によって、軌道上で時間・周波数・空間領域での無線リソース制御を⾏える衛星のこと。}
{*20* ⼀度に複数のアンテナビームを集中照射することで⼤容量通信を実現できる衛星通信システムのこと。}
{*21* 現実空間の膨⼤な情報をIoTを介して収集し、AIによってデータ分析・処理を⾏い、仮想空間に環境を再現する仕組み。}
{*22* 全体システムがどのように⽬的を実現しているのかについて基本的なコンセプトやシステム性質、及び全体システムが⽬的を実現するための原則・ルール・ガイドライン等の総称。}
{*23* ⽉周辺や⽉⾯での活動、地球低軌道における⺠間活動を⽀える技術として、例えば、効率的な拠点運営や宇宙実験等に資する遠隔化・⾃動化・⾃律化技術、⾼効率の環境制御・⽣命維持技術、輸送を始めとする⾼信頼性・低コスト化基盤技術、低軌道プラットフォームや有⼈往還に関する要素技術等が想定される。}
{*24* 具体的には、⼤学や⾼専等において、講義や体験型ワークショップ、体験学習等の実施、開催及びそれらに基づくカリキュラム構築、教材作成等の取組を通じて、国際的な規範・ルール作りやAI/IoT/ビッグデータ等に関する知⾒と宇宙分野の知識等を併せ持った研究者・技術者を育成する。}