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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 気候変動、エネルギー及び環境に関するシンガポール宣言

[場所] シンガポール
[年月日] 2007年11月21日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

 我々、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国、オーストラリア、中華人民共和国、インド共和国、日本、大韓民国及びニュージーランドの国家元首及び行政府の長は、シンガポールにおける2007年11月21日の第3回東アジア首脳会議(EAS)に際して、

 2007年1月15日に採択された東アジアのエネルギー安全保障に関するセブ宣言、2007年9月8日にシドニーで採択された気候変動、エネルギー安全保障及びクリーン開発に関するAPEC首脳宣言、2007年11月20日にシンガポールで採択された環境の持続可能性に関するASEAN首脳宣言並びに第13回国連気候変動枠組み条約締約国会議及び第3回京都議定書締約国会合に関するASEAN宣言に示された地域的なコミットメントを歓迎し、

 地球規模での気候変動に対処するメカニズムの中核としての国連気候変動枠組み条約への、また、関係国については京都議定書への我々のコミットメントを確認し、

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第4次評価報告書を歓迎し、

 気候変動が、特に途上国における社会経済開発、保健及び環境に及ぼす負の影響を懸念し、それ故に、途上国の適応能力を拡大すること及び国際社会が温室効果ガスの排出増加に喫緊に取り組むべく行動することの必要性を強調し、

 急速な経済成長は、域内の持続可能な開発と貧困撲滅に貢献する一方で、エネルギー消費の増加、並びに、地域及び地球規模のエネルギー安全保障上の懸念に取り組む上で新たな課題を提起すること、また、2000年から2030年の間にアジアの17億人にのぼる都市人口は倍増が予想されていることから、都市化の進行は環境管理の必要性を増加させることを認識し、

 持続可能な開発の文脈において、気候変動、エネルギー安全保障及びその他の環境・保健問題という相互に連関した課題に対し実効的なアプローチをとる必要性、また、気候変動及びエネルギー安全保障政策の追求が貿易、投資及び社会経済開発を阻害すべきではないことを再確認し、

 EAS参加国はそれぞれ異なる経済開発の段階にあること、また、我々の経済は化石燃料への依存の度合いが異なり、多くの場合これに深く依存していることを認識し、地球規模の環境問題に取り組むためのいかなる行動も、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則に従い、各国・地域をとりまく多様な状況を考慮に入れるべきであり、

 気候変動への対処に関する地球規模の議論に貢献してきたオーストラリア、中国、インド、インドネシア、ニュージーランド、日本及び韓国を含む、EAS参加国による様々な努力を評価し、

 相互の利益と公益のためにこうした課題に対処する集団的活動を実施する上で、EASが果たし得る重要な役割を強調し、ここに以下のとおり宣言する。

1.全ての国は、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則に基づき、気候変動という共通の課題への取り組みにおいて役割を果たすべきであることを強調する。

2.長期的に、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させるとの共通の目標にコミットする。

3.より実効的な2013年以降の国際的な取り決めへの道を開くため、長期的で願望としての排出削減目標に関する共通理解に達するための作業を支持する。

4.適応は、地域にとって極めて重要な問題であることを認知し、そのようなものとして、緩和と適応の双方の措置に重点が置かれるべきであり、持続可能な開発は適応を促進するものであると認識する。

5.衡平、柔軟性、実効性並びに共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力の原則を考慮しつつ、また、我々の異なる社会及び経済状況を反映しつつ、幅広い分野において、温室効果ガスの排出を含む気候変動に取り組むための個別及び集団的活動を実施する。

6.国連気候変動枠組み条約のプロセスの下で、実効的、包括的及び衡平な2013年以降の国際的な気候変動取り決めに向けたプロセスに積極的に参加する。また、この文脈において、2007年12月にインドネシアのバリで開催される第13回国連気候変動枠組み条約締約国会議及び第3回京都議定書締約国会合の成功への支持を改めて強調する。

7.気候変動への地域の脆弱性に関する理解を深め、以下を含む適切な緩和及び適応措置を実施する。

a.EAS域内の途上国のキャパシティ・ビルディングのために、財政的な支援を結集し、協力する。

b.投資、技術的及び財政的な支援並びに技術移転をはじめとする様々な手段を通じて、域内におけるクリーン技術の利用を奨励する。

c.国際的な専門家とも連携して、科学技術に関する知見を交換するとともに、気候変動の影響を最小限にするための適切な適応措置の共同研究及び開発に向けた協力を拡大する。

d.域内の気候変動及び環境保護対策の影響を評価するため、各国において、また、適切な場合においては共同で、研究を実施する。

e.気候変動の影響に関する一般の人々の認識を高めるとともに、気候変動の影響を緩和する努力への参加を拡大する。

f.環境管理のための革新的な手段や資金メカニズムを含む、持続可能な消費及び生産様式を促進するための政策及び手段の開発及び拡大を支援する。

8.セブ宣言及び2007年8月23日に開催された第1回EASエネルギー大臣会合の共同閣僚声明に基づき、エネルギー効率向上のために実施中の協力、並びに、再生可能及び代替資源の利用を含むよりクリーンなエネルギーの利用を、以下を通じて強化する。

a.エネルギー集約度の顕著な削減の達成に向けて努力する。

b.自主的なエネルギー効率改善目標の2009年までの策定、環境的・社会的に持続可能なバイオ燃料の参照指標の策定及びエネルギー市場の統合に向けた協力への支持、並びに、適切な場合における、ASEANエネルギー・センター(ACE)及び東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)をはじめとする地域の研究機関の活用を含む、EAS参加国のエネルギー大臣が提言した措置を実施する。

c.建築物、産業設備及び工程、車両並びに電気機器を含む主要な経済セクターにおけるエネルギー効率及び省エネの向上のための技術の研究、開発、利用及び普及を推進する。

d.費用対効果の高い炭素緩和技術及び石炭のクリーン利用を含むよりクリーンな化石燃料に関する技術の開発、並びに、環境にやさしい持続可能なバイオ燃料の生産のための地域協力を強化する。

e.関心のあるEAS参加国については、国際原子力機関(IAEA)の枠組みの中で、原子力安全、核セキュリティ及び核不拡散、特に保障措置を確保した形での民生用原子力発電の開発及び利用のための協力を行う。

9.とりわけ以下を通じて、持続可能な森林経営の促進、違法伐採との闘い、生物多様性の保全及び経済・社会的背景への対処等を通じて、造林及び植林、並びに、森林減少、森林劣化及び森林火災の削減のための協力を推進する。

a.森林に関する法執行並びに違法伐採及びその他の有害行為と闘うためのガバナンスを強化しつつ、環境的に持続可能な域内の森林計画及び経営を奨励する。

b.域内の全ての種類の森林の累計面積を2020年までに少なくとも1,500万ヘクタール増加させるというEAS全体の願望としての目標を達成するために努力する。

c.地球規模及び地域の森林減少・劣化の防止、植林基金、並びに、適切な場合における自然保護債務スワップ取り決めなどの造林及び植林への取り組みを改めて支持する。

d.適切な国際的インセンティブ及び支援などを通じて、途上国における森林減少による排出の削減に向けた行動を促すための国連気候変動枠組み条約の下での作業を引き続き支持する。

e.ASEAN泥炭地帯管理イニシアティブ、「ハート・オブ・ボルネオ」保全計画、アジア森林パートナーシップ並びに持続可能な森林経営及び再生のためのアジア太平洋ネットワークなどの地域の森林イニシアティブ、また、森林及び気候に関するグローバル・イニシアティブ並びにインドネシアの森林11か国フォーラム・イニシアティブなどの地球規模での取り組みへの評価を表明する。

10.地域及び地球規模レベルでの、砂漠化対処条約及び生物多様性条約の実施を引き続き支持する。

11.環境破壊の防止を含む、国家開発上の懸念に対する措置を取ることを通じて地球規模の環境問題に対処するコベネフィット・アプローチを推進する。

12.気候の可変性及び変動並びに他の環境問題によって高まる自然災害リスクへの対応能力及び措置に関する協力を強化する。

13.水によって引き起こされる大規模な気象災害を緩和する適応戦略の策定を奨励する。

14.沿岸及び海洋生態系の保全及び持続可能な管理を促進し、漂着ごみなどの海洋汚染、並びに、サンゴ礁、マングローブ、海草藻場、湿地及び海山などの保護された地域及び脆弱な地域の破壊を防ぐための取り組みに参加するよう、地域及び国際社会に呼びかけるとともに、こうした取り組みの一つとして、「サンゴ礁、漁業及び食糧安全保障に関するサンゴ・トライアングル・イニシアティブ」を歓迎する。

15.安全な飲料水及び基礎的な衛生へのアクセスを拡大し、2007年12月の第1回アジア太平洋水サミット、2008年6月のシンガポール国際水週間、国際黄河フォーラム及び2008年国際衛生年などのイニシアティブを通じた統合水資源管理を推進する。

16.調整のとれた、持続可能な国家の鉱物資源管理を奨励し、環境的に適切で効率的な採鉱方式を促進する。

17.環境教育を推進し、EAS参加国における持続可能な開発を確実なものとしていく上での課題に対処するための人的資源能力を強化する。

18.とりわけ以下の措置を通じて、域内で急速に進行する都市化によって生じる環境問題に対処する。

a.交通、緑地形成、水管理、都市緑地及び都市の生物多様性保全を含む都市計画、衛生及び廃棄物処理、3R(廃棄物の発生抑制、再使用及び再生利用)並びに大気汚染、悪臭、水質汚濁及び土壌汚染対策などの分野における経験、専門的知識及び技術を互いに提供する。

b.「低炭素社会」、「コンパクトシティ」、「エコシティ」及び「環境的に持続可能な交通」などのイニシアティブを評価する。

c.2008年6月に住みよい都市に関するEAS会議を開催し、都市化、気候変動、エネルギー及び環境という相互に連関する問題に取り組むとのシンガポールの提案を歓迎する。

19.関係閣僚に対し、この宣言に関する我々の議論をフォローアップし、我々の議論に基づき行動するよう指示するとともに、これに関連し、

a.2007年8月23日にシンガポールで開催された第1回EASエネルギー大臣会合による作業を賞賛し、第2回EASエネルギー大臣会合を2008年に開催するとのタイの提案を歓迎する。

b.2008年の第四四半期に第1回EAS環境大臣会合を開催するとのベトナムの提案を歓迎する。

2007年11月21日、シンガポールにおいて決した。

【首脳の署名】