[内閣名] 第49代第3次吉田(昭和24.2.16〜27.10.30)
[国会回次] 第7回(常会)
[演説者] 青木孝義国務大臣(経済安定本部総務長官)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 1950/1/23
[参議院演説年月日] 1950/1/23
[全文]
本日、第七国会の再開にあたりまして、日本経済に関する諸情勢と重要施策につき一言申し述べる機会を得ましたことは、私の欣快とするところであります。
わが国経済の諸情勢が、昨年春の均衡予算の編成と、單一為替レートの設定を中心とする経済安定諸政策の実施によつて、急速に安定化の道をたどつて参りましたことは、まずもつて御同慶にたえないところであります。
日銀券の発行高は、一昨年末の三千五百五十三億円から、昨年に入つて収縮を続け、七月末二千九百五十五億円となり、年末は一昨年末とほぼ同額をもつて越年し、おおむね正常な季節的変動の型におちつく姿を見せております。物価につきましても、補給金の削減や為替レート設定等に伴い、若干公定価格の値上りはありましたが、一方自由価格は昨年以来低落を続けておりますので、これらを総合いたしますれば、実効物価は昨年初頭以来大体同一水準にあり、平均資金もおおむね横ばいの状況であります。これらの経済諸指標について見まするに、わが国の経済は、ここにほぼ安定の線に立ち返つたと申し上げ得るのであります。
右のごとく、わが国経済安定化の傾向著しきものがありますとともに、生産は昨年度に比して二割程度の上昇を示し、需給の均衡は次第に回復して参りました。かような情勢に応じ、政府は統制の大幅廃止に努めつつあり、この統制の廃止と需給の均衡化は、自由競争の範囲を拡大して、企業経営の合理化を初じめ、経済の一般的な正常化に大いに貢献しているのであります。貿易についてみましても、輸出は、海外市況の不振、ポンドの切下げ等困難な絛件のもとにおいても、全国民の協力と努力とにより、昨年度に比して二倍近くに上昇する予想であります。かく経済が安定し、生産、貿易も上昇したので、国民生活もおのずからおちつきを示す傾向にあり、これらはいずれも、わが国経済の各分野において、払われた全国民の経済再建への努力と熱意によるものでありまして、ここに深く感謝の意を表する次第であります。
しかしながら、一歩顧みて、わが国民経済の基盤に思いをいたしますならば、わが国はいまだ巨額の輸入超過の状態を免れず、その赤字は一に米国の援助によつてまかなわれていることは御存じの通りでありまして、また国土の復旧は思うにまかせず、企業の資本は消耗し、わが国経済の将来の発展の基盤は、いまだ十分ではないといわなければならないのであります。さらに目前の問題といたしましても、産業資金確保の困難、一部商品の総体的過剰と輸出入滞貨等の現状から、生産の伸び悩みの傾向も見られるのであります。
以上申し述べましたような、残された長期的な問題とともに、われわれの当面している現実の諸困難を打開して、わが国経済の真の自立を得るためには、なお各界の一層の努力により、国民経済規模の着実な拡大に努めなければならないと信ずるのでありまして、以下、これがために重要なる諸施策について所見を申し述べたいと存する次第であります。
まず貿易の振興策でありますが、貧弱な国土資源のもとに重大な人口をかかえているわが国経済としては、将来の自立と発展は一にかかつて貿易の振興にありと申しても過言ではないのでありまして、政府といたしましても、この点に施策の最重点を置き、これが推進について鋭意努力している次第であります。
先般、第六臨時国会において成立を見ました外国為替及び外国貿易管理法の施行は、終戦後のわが国貿易にとつて、まさに画期的な意義を有するものでありまして、すでに諸般の法令の整理もほぼ完了し、輸出貿易につきましては、昨年十二月一日から、政府の許可制度は原則としてこれを廃止し、業界は、従来の煩雑な手続から解放されて、きわめて自由に輸出業務に従事することができることとなりました。また輸入貿易につきましても、本年一月一日から、従来の政府輸入が大幅に民間輸入に切りかえられ、すでに本年一月ないし三月分として、受取勘定一億七千百万ドル、支拂勘定一億四千八百万ドルの外貨予算の編成が完了いたし、民間輸入実施の第一歩を踏み出すことになつたのであります。かくして、ここに民間貿易の領域は著しく拡大せられ、業界の創意と経験による貿易規模の拡大に期待するところまことに大なるものとなつたのであります。
しかしながら、貿易の飛躍的増大を期するためには、これと同時に、さらに各般の施策が強力に推進されることが必要であります。
まず第一に、海外輸出市場の拡大をはかることが最も重要であります。これがため、貿易協定の範囲をさらに拡大して行きますとともに、協定の運用にあたつては、協定国相互間において積極的に買い進むことによりまして、協定額の拡大的均衡を達成することが期待されるのであります。さらに戰前においてわが国貿易の五○%以上を占めていたアジア諸地域との貿易につきましては、そのわが国貿易に上において占める地位の重要性にかんがみ、極力その回復増大をはかつて行きたい次第でありまして、これがため、わが国の買付市場を極力これらの地域に転換する等の措置により、これらの地域における輸入力不足の打開に費やしたい所存であります。
第二に、貿易條件の改善をはかることが刻下の喫緊事であります。すでに昨年来、連合諸国の行為により、あるいは外貨保留制度の運用等によりまして、貿易関係者の海外渡航は相当件数に上り、いわゆるめくら貿易の打開に貢献しておりまするとともに、昨年秋にはフロア・プライス制度が撤廃になり、また本年一月からCIF輸出、FOB輸入取引も実施されることになり、大いに取引條件の改善が期待されることになつたのであります。政府といたしましては、今後とも貿易関係者の海外渡航をさらに促進いたし、かつ通商代表の海外派遣をすみやかに実現するとともに、海外市場の調査機能を整備強化して、めくら貿易の打開に一層努力し、あわせて邦船の外航就航を期待して外航船の建造を促進し、貿易収支の改善をはかりたい所存であります。
第三に、国際物価の低落傾向、海外市場のいわゆる買手市場化の傾向、及びポンドを初めとする各国の為替切下げ等により、輸出面における競争はまことに熾烈をきわめているのでありまして、この間に伍して、わが国の輸出貿易を伸張させていくためには、産業の全面的な合理化の推進が要請せられるのであります。政府といたしましても、産業合理化の推進に積極的に協力して参りますとともに、特に輸出産業につきましては、資材資金等の確保において最優先の取扱いをなし、これが育成に努力して行きたい所存であります。
以上の諸施策につきまして、幸い連合諸国の好意ある配慮を得て、国民あげて貿易第一のために努力を惜しまないならば、貿易の振興は期して待つべきものがあると信ずるものであります。
なおこの際外資の導入について一言いたします。申すまでもなく、日本経済再建のためには、外資の導入に期待するところまことに大なるものがありますが、政府といたしましては、目下利子、利潤等の海外送金の確保、外国人課税に対する特例等につき、その具体的方策を鋭意検討いたしておる次第でありまして、これらの施策により、また国内経済の安定向上の趨勢とも相まつて、外資の導入は今後大いに
促進されるものと信ずるのであります。
次に生産について申し述べますと、戦後わが国の鉱工業生産は、国民各位の努力と政府の施策とによりまして逐年増加の一路をたどり、戰前に比較いたしまして、約八割の回復を示すに至つております。しかし、国際経済への全面的参加を急ぐべき日本産業の立場から考えまするならば、原材料及び製品の品質の向上、コスト及び原單位の引下げ、労働能率の改善等、緊急に解決を要すべき重要な問題が幾多残されているといわなければならないのであります。もとより、かような企業合理化への努力は、昨年以来の経済正常化の進捗に伴い著しく推進されつつあり、すでに相当程度の成果を収めつつあることは、まことに喜ばしいところであります。政府といたしましては、今後企業合理化をなお一層推進するために、核企業がみずからの創意とくふうを生かして自主的な合理化努力をなし得るよう、また自由競争原理の導入によつて、各企業がきそつて経営合理化を推し進め、その成果を収め得るよう、そのための諸條件を整えることに万全を期して行きたい所存であります。最近における経済統制の大幅の廃止は、かかる見地から見て、きわめて重要な意識を有するのであります。すなわち、当初二百五十二品目に及んでいた指定生産資材に関する割当統制は、昨年中における大幅の統制廃止に引続き、さらに本年に入り八十一品目の統制を廃止した結果、現在おおむね四分の一程度に縮小するに至つております。また物価統制についても、逐次その幅を縮小して、現在おおむね二分の一程度になつております。今後もさらにこの方針を推し進め、経済正常化の基盤を育成して行く所存であります。さらにまた、各企業がみずからの合理化を全面的に推進するためには、当然老朽設備の補修改良と近代的設備の導入が要求せられ、これによる労働能率の向上と、それらの前提となるべき工業技術の改善が切実に要請されるのであります。またこの点につき、今後積極的な外資導入に伴い、新しい技術の導入が期待せられているのでありますが、政府といたしましても、工業技術の振興、技術の導入に一層の努力を傾けて行きますとともに、産業設備合理化のためのいわゆる合理化資金の確保に支援を惜しまぬ方針でありますが、各企業に対しては、さらに一層合理化への努力を拂うよう、重ねて要望してやまぬ次第であります。
なお、ここで中小企業の問題について申し上げます。わが国における中小企業が国民経済において占めまする役割のまことに重要なことについては、すでに御承知の通りでありまして、ことに当面する輸出振興の建前から申しましても、これら中小企業が、みずから経営を合理化して、その特質を発揮し、十分その使命を達成し得るかいなかは、今後のわが国貿易に至大の関係を有するものであります。政府といたしましても、わが国中小企業の実情に即しつつ、その企業内容の強化、金融上の措置、技術指導等につき、許す限りの努力を傾けておる次第であります。
さらに、これらの施策と関連して、資産再評価の問題を控えております。政府は、これによつて企業の資本の充実を促進し、経営の正常化に貢献することを期待しているのでありますが、その実施にあたつては、できるだけ企業や経済の実情に即した奉納によつて実施の円滑と成果を期して行きたい所存であります。
以上のごとき産業合理化への努力によつて、わが国経済は逐次その基礎絛件を強化して行くべきことが期待せられるのでありますが、さらに今後におけるわが国の人口構成と、これに応ずべき国民経済の規模、産業の構造等をもあわせて深く思いをいたしますならば、わが国経済の自立と発展の基盤はなお脆弱たるを免れないのでありまして、この際あえて各般の困難を克服しつつ、あとう限りわが国経済の基盤の育成と健全化をはかり、もつて将来に備うべきことが要請せられるのであります。このため政府は、たとえばわが国生産力の基幹となるべき電源の開発につき、あらゆる努力を重ねてその実施の推進に努めるほか、鉄鋼、石炭等重要産業の生産設備の更新改良等をさらに積極的に進めるとともに、外航船の建造等にも力をいたしつつある次第であるます。
経済基盤育成の問題は、さらに農業生産についても同じく重要なるものがあります。農民諸君の久しきにわたる努力と輸入食糧の増加等によつて、最近における食糧事情は著しく緩和せられて来たのでありますが、この反面、農村人口の増大、農業経営の零細化、農家所得の減退等によりまして、農業経営は困難を加えつつあります。しかして、いわゆる農村インフレによつておおわれていた農業の生産基盤の脆弱さが、ようやく表面化せんとするやに懸念せられ、ことに将来日本農業が外国農業と競争関係に立つべきときをも考えますると、幾多重大な問題を将来に控えているといわなければならないのであります。政府は、ここに思いをいたしまして、農業生産の基盤確保のために、耕地その他の災害復旧や、水利及び土地改良等、農地の改良造成その他の農業諸施策を国力の許す限り促進して、農業経営の安定に費やしたい所存であります。
なお水産については、連合国の好意による漁区の拡張が認められ、漁獲高も漸次回復して参りましたが、今後におきましても、水産物が国民の蛋白質給源として最も重要であることにかんがみまして、特に水産資源の保持育成と、その利用の高度化を推進して行きたい考えであります。
しかしながら、ただいま申し上げましたような鉱工業、農業等各部門における国内資源の利用開発にあたつては、その施策は最も総合的かつ基本的なるを要するものでありまして、政府は、これがため、今後さらに広く、治山、治水、利水、電源開発及びこれに関連した産業立地等について、総合的な国土開発と強力なる建設を推し進めて行きたいと存ずるのであります。
しかしながら、以上のように生涯を充実し、経済基盤を育成するための諸施策を実施するにあたつては、特に所要の設備資金確保の問題に当面するのであります。まず、この点につき重要な役割を果すべき見返り資金の運用でありますが、政府はもとより、その早期有効なる運用に一層のくふうと改善を凝らして行く所存でありまして、これにより効果的かつ迅速な投資目的の達成を目ざすものであります。二十五年度の見返り資金総額は、前年度からの繰越しを加えまして約千五百八十億円と見積もられ、その運用にあたつては、国有鉄道、通信事業、国有林野等に使用するほか、住宅建設や道路、河川工事等の公共事業に対しても相当額を活用することとし、さらに私企業につきましては、現下喫緊の電源の開発、船舶の新造及び改造のほか、重要鉱工業及び農業面に対しても投資の円滑を期して行きたい考えであります。また二十五年度におきましても、相当額の政府債務の償還によつて、大量の資金が、金融機関に還流することが予想せられております。政府は、この還流資金が有効なる投資に向うよう、日本銀行の市場操作を中心とする活発なる融資あつせん等に期待しますとともに、さらに日本興業銀行その他長期金融機関の増資による債権発行の拡張等、融資活動の積極化をはからんとするものであります。なおまた、増資、起債によつて企業の自己資金調達の円滑化をはかる等、これらの諸施策をあわせて正常なる長期資金供給に力をいたしますほか、預金部資金の産業資金への活用についても、その実現を期する所存であります。
このような諸方策に即応した金融機関の積極的な協力によりまして、健全にしてかつ正常なる金融が確保せられるとともに、金利の引下げによる生産コストの引下げによる生産コストの引下げをも期待してやまぬのであります。
さらに政府は、セメント、鉄鋼等の良好な生産現況にかんがみて、財政面におきましても、災害復旧、治山、治水等に重点を置いた公共事業費の増加、住宅資金の新規計上等、建設資金の確保に、財政力において許しまする限りの努力を示しますとともに、これらの面からも有効需要と雇用機会の増大に資せんといたしたのであります。
以上申し述べました施策を適時適切に実施いたしました場合の昭和二十五年度の生産と貿易の見通しにつき、ここに一言いたしまするならば、おおむね次の通りであります。
まず二十五年度の鉱工業生産は、二十四年度に比べまして約二割の上昇が期待できるのであります。今、重要部門について一応推算いたしますると、一部機械類、非鉄金属等で、補給金の削減、需給の関係等により生産上昇を期待しがたいものでありまするけれども、需要基礎素材について見ますれば、たとえば電力は約三百八十億キロワツト・アワー、普通鋼鋼財約二百五十万トン、セメント約四百万トン等を予想せられるのであります。これらの数字を昭和七−十一年の水準と比較いたしますると、鉱工業生産は九○%程度に当り、終戦直後のはなはだしい資材難の当時と比較いたしまして格段の上昇と復興とを認め得るわけでありまして、また同時に、輸入の増大、企業の合理化の進捗等によりまして相当なコスト切下げや品質の向上を期待し得ると信ずるのであります。他面貿易におきましても、前に申し述べました民間貿易体制の実施によつて、二十五年度は、輸入約十億ドル、輸出は六億ドルを越ゆるものと予想せられるのでありまして、このうち輸出は、二十四年度の輸出見込みと比較いたしましても二割以上の増加となり、これをあわせ考えますれば、一部困難な事情や部面もありましょうけれども、全国民の積極的なる問題打開への努力によつて、総じて明るい見通しを抱いてよいと信ずるものであります。
最後に、以上の諸施策と関連して国民生活安定の問題でありますが、申すまでもなく、国民生活の安定は、基本的には生産の上昇、貿易の振興による国民所得の増加と、物価安定の効果的達成によるべきものでありまして、生産及び貿易については、前に申し述べた通りであります。物価につきましては、経済の正常化の要請から、補給金の削減に伴う一部公定価格の引上げ、並びに昨年末以来貨物運賃、電力料金、消費者米価等の引上げを実施したのでありますが、他面輸入の増大や生産の合理化によるコストの低下と織物消費税、取引高税、物品税等間接税の撤廃ないし軽減の実施、並びにこれに伴う一部自由価格の下落傾向をあわせ考えまするならば、実効物価としてはその水準に大きな変動はなく、また今後もこの傾向を持続するものと考える次第であります。しかして、このような物価水準のもとにおいて、政府といたしましては、今後とも物価体系の正常化と、三百六十円レートを基準とする国際物価水準へのさや寄せ等所要の調整に留意して参りたい所存であります。さらにまた、政府は、このような物価安定への一層の努力とともに、税制改革による所得税軽減の措置をもつて、財政事情の許す限り国民負担の軽減をはかり、生計費への圧迫を防止して、実質賃金の充実に努めることといたした次第であります。
また、この実質賃金の充実のためには、衣食住にわたる国民生活の安定がその根本でありますが、この点については、当初五十四品目あつた指定配給物資の割当統制はおおむね半減し、生活必需物資の需給は全般的に次第に緩和して参つたのであります。特に主食につきましては、今後相当量の小麦、米等の輸入が期待せられますので、政府は配給食糧の質的向上に努めることといたしたのでありますが、なお今後においても需給の見通しが明確になる時期におきましては、配給量についても検討を加えたい所存であります。また綿花、羊毛等の原料輸入の増加等によつて国民の衣料事情は大いに改善せられ、一人当り四ポンド近くに当る見込みでありますが、特に国民の最も要望する綿製品につきましては、現在の見通しでは約二ポンドで、本年度の二倍近くを配給することができる見込みであります。さらに依然として深刻な住宅問題に対処いたしまして、公共事業費による庶民住宅の建設、住宅金融機関の創設等の諸施策によつて住宅建設を促進し、住宅不足の緩和をはかつて行く考えであります。
かくして政府は、実質賃金の充実と国民生活の安定が漸次達成せらるべきことを念願するのでありますが、現在の経済諸条件の制約のもとにおいては、雇用の問題はきわめて重要な問題となるのであります。もちろん、雇用の機会は根本的には各種産業活動の拡大と貿易の振興によつて増大して行くべきものと考えるのでありますが、前に申し述べました通り、政府といたしましては、一般的な産業及び貿易の振興とともに、公共事業費の増加や、見返り資金等による建設投資の促進によつて積極的に雇用機会の増大をはかつて行くことに全力を傾注する所信でありますが、この間不幸にして発生した失業者に対しては、失業対策費の適切な運用、失業保険制度等の充実によつて補つて参りたい所存であります。
以上、わが国経済の現状及び将来につき、政府の諸対策と見通しの大要を申し述べたのでありますが、これを達観いたしまするに、わが国経済はようやく安定の域に達し、今後さらに全国民の積極的な再建への熱意と努力が展開せられ、これとともに施策のよろしきを得まするならば、少なくとも二十五年度の経済は、本年度に比べまして一段の漸進を期待し得ることと信ずるのであります。しかしながら、その前途には、国内的にも国際的にも幾多の克服すべき困難な問題が横たわつているのでありまして、国民をあげてさらに決意を新たにすべきことを重ねて要望してやまぬ次第であります。国民経済の真の自立と再建こそ、真の政治的自立の基本であります。戰後のあの混乱と障害とを切り抜けて、ここまで到達することを得たわが国民の熱意と努力をもつていたしますならば、必ずや明るい希望を持つて国際社会に参加し、自立と自由の国民として立つ日の遠からぬことを信ずるものであります。