[内閣名] 第62代第2次佐藤(昭和42.2.17〜45.1.14)
[国会回次] 第55回(特別会)
[演説者] 宮澤喜一国務大臣(経済企画庁長官)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 1967/3/14
[参議院演説年月日] 1967/3/14
[全文]
今後の経済運営についての所信を明らかにし、国民各位の御理解と御協力を得たいと存じます。
最近におけるわが国経済の動向を見ますと、個人消費の堅調や在庫投資の回復に加えて、民間設備投資も増勢に転じ、これを反映して、生産、出荷は大幅な増加を示しております。
このような経済の上昇基調は、昭和42年度にも引き継がれ、経済はさらに拡大の方向をたどるものと考えます。反面、卸売り物価は強含みに推移しており、消費者物価の騰勢にも依然根強いものがございます。また、国際収支につきましては、ここ数年、為替銀行の対外資産、負債の状況は相当改善されてはおりますけれども、わが国が次第に資本輸出国に転じつつあることを考えますと、貿易収支では相当の黒字を確保しておかなければなりません。輸出の伸びの鈍化、輸入の増加という最近の動きには注意を要します。
したがって、今後の経済運営にあたっては、これらの動向に細心の配慮をいたし、今後、経済情勢の推移に応じて、財政金融政策の機動的、弾力的運用を行なうことにより、景気の行き過ぎを未然に防止する考えでございますが、民間経済界におかれましても、慎重な投資態度をとられるように強く期待をいたすものでございます。
このように経済が運営されますならば、昭和42年度においても、国際収支の均衡をはかりながら、実質9%程度の安定した成長を期待することができるものと考えます。
物価の安定は、当面する最も重要な問題であります。
政府は、今日まで、諸般の物価対策を実施してまいりました。本年度の消費者物価の上昇は、ほぼ5%にとどまる見込みであり、来年度におきましては、4.5%の範囲内におさめたいと考えております。
消費者物価の上昇は、構造的、制度的要因による面が大きく、その早急な解決は容易ではございません。じみちではあっても、農業、中小企業、流通部門などにおける近代化のための構造政策の推進、公正な価格形成のための競争条件の整備、労働力の有効活用など、物価安定のための対策を着実に実施していくことが重要であります。政府は、昭和42年度予算において、これらの施策の推進に必要な措置を講ずることといたしております。特に、国民の日常生活に欠くことのできない生鮮食料品については、野菜の集団産地の育成、肉牛対策の拡充、中央卸売市場及び公設小売市場の整備など、きめこまかい対策を実施することといたしております。
米価の問題につきましては、国民生活及び国民経済に影響するところが大きいので、基本的には稲作経営の生産性向上、米流通の合理化などを強力に進めることによって対処いたしますとともに、あわせて、適正な需給の見通しによる安定的な輸入を行なうことについても十分な配慮をいたす必要がございます。しかし、当面の問題として、生産者米価と消費者米価の逆ざやの現状を放置しておきますことは、財政負担の累積的増大を招き、食糧管理制度の円滑な運用を阻害するおそれが大きいので、家計への影響を考慮しつつ、消費者米価の最小限の改定はやむを得ないものと考えます。
近年における地価の高騰は、国民の住宅建設を困難にし、公共事業の進展を妨げているのみならず、一般的な物価上昇に及ぼす影響も無視できません。地価を安定させるためには、新規宅地の開発を推進し、生活環境施設の整った宅地を大量に供給することが肝要でございます。また、同時に、国土の公共性、社会性を十分認識して、土地の合理的利用、開発利益の帰属などの問題について、従来の考え方に検討を加えるとともに、土地取得制度の改善をすみやかに実現しなければならないと考えます。
騰勢を続けてきた卸売り物価につきましては、供給力の増大等により、今後は比較的安定した推移をたどるものと考えます。しかしながら、卸売り物価の動向は、わが国経済の国際競争力に直接影響を与えますので、今後とも十分注意してまいる所存であります。
次に、経済成長の過程において、賃金、所得が増加し、生活水準が向上していくことは、それ自体好ましいことと存じます。しかし、労働力需給の逼迫に伴い、それが生産性の低い部門の価格、料金の引き上げに転嫁され、消費者物価上昇の大きな原因となっていることも否定できません。このような現状にかんがみ、国民経済全体の立場から、名目賃金よりも実質賃金を重視して考えるべき時期にきているものと考えるのであります。
なお、政府は、今般、産業関係、労働関係、消費者関係等各界の学識経験者からなる物価安定推進会議を設けまして、決意を新たにして、物価対策の推進に当たることにいたしました。
昭和30年代における経済発展により、国民の所得水準は大幅に上昇し、重化学工業国への飛躍を遂げ、国際社会におけるわが国の地位も著しく高まりました。
しかしながら、反面、その過程において、各種の不均衡が表面化してまいりました。先ほど申し上げました消費者物価の大幅な上昇もその1つであります。また、住宅、生活環境施設の整備の立ちおくれ、農業、中小企業、流通部門の近代化のおくれ、企業体質の悪化などが、今日の問題となっております。
さらに、昭和40年代においては、資本自由化などによる本格的な開放体制への移行、質量両面の労働力不足の本格化、都市への入口の集中に伴う地域社会の変貌など、内外にわたる経済社会の条件変化が予想されます。
このような事態に対処するために、政府は、経済審議会の答申に基づき、今後長期にわたる経済運営の指針として、今般経済社会発展計画を策定いたしました。政府は、この計画に基づき、昭和42年度からの5ヵ年間に、特に次の3つを重点政策課題として取り上げ、その積極的推進をはかる決意でございます。
まず第1は、物価の安定であります。
安定した経済成長を維持しながら、消費者物価の上昇率を徐々に引き下げ、計画期間の終わりには、年3%程度にまで低下させることを目標して、このため、各般の物価対策を今後一そう強力に推進する考えであります。
第2は、わが国経済の効率のよい経済に再編することであります。
資本の自由化や関税一括引き下げという当面の問題、さらに今後本格化する労働力不足に対処するためには、資本と労働を最も有効に活用するよう、わが国経済のあらゆる面にわたって効率化をはからなければなりません。このため、技術開発力の強化と産業体制の整備を進めるとともに、近代化のおくれている部門への投資を増大し、経済各部門の均衡のとれた発展をはかる所存であります。
第3は、社会開発を一そう推進することであります。
計画期間中におおむね27兆5000億円にのぼる社会資本を投じ、道路、住宅、生活環境施設などの整備を積極的に進めますとともに、社会保障の充実、公害の防除につとめるなどによって、国民に快適な生活の場を確保いたしたいと存じます。
さらに、大都市への人口の過度の集中を防止し、都市、農村を通じて、地域の特性に応じた住みよい国土の建設を促進するため、地域開発諸施策の一そうの充実をはかってまいる所存であります。
政府は、以上申し述べた重点政策課題を達成し、さらに、国際収支の均衡をはかりつつ、今後5ヵ年間、年平均8%程度の安定した経済成長を維持する所存であります。
以上、わが国経済の当面する諸問題と今後の経済運営について、所信を申し述べました。
国民各位の御理解と御協力を切望いたします。