データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第62代第2次佐藤(昭和42.2.17〜45.1.14)
[国会回次] 第61回(常会)
[演説者] 菅野和太郎国務大臣(経済企画庁長官)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 1969/1/27
[参議院演説年月日] 1969/1/27
[全文]

 私は、当面する経済情勢とこれに対処する所信を明らかにし、国民各位の御理解と御協力を得たいと存じます。

 最近のわが国経済は、個人消費、民間設備投資等の根強い増勢と輸出の好調にささえられて堅調な拡大を続けており、また、国際収支は、海外景気の上昇等を背景に急速な改善を見せております。

 他方、国際経済の動きを見ますると、1昨年下期以降回復に転じました世界景気は、その後も基調的には上昇過程をたどっており、また、昨年の秋一時動揺を見せた国際通貨情勢も、その後の国際金融協力の進展と関係各国の自国通貨防衛のための各種の施策等により再び落ちつきを取り戻しております。

 しかしながら、このような好調に見える経済情勢の中にあって、消費者物価の上昇基調が依然として根強く、また、海外経済面においても、先行き米国景気の動向等により世界貿易の伸びの低下が見込まれるほか、国際通貨情勢の推移もなお流動的であるなど、必ずしも楽観を許さない面も出てきております。

 さらに、現在のわが国経済には、良質両面の労働力不足の本格化、経済の国際化の本格的進展、公共投資と民間投資との不均衡、消費構造の変化に対する供給態勢の不適応、都市への人口の過度集中など、経済社会の基本的な条件変化が一そう強まりつつあります。

 このような内外の経済情勢にかんがみ、政府は、まず、物価の安定を第一義的な目標とし、経済の拡大が過度にわたることのないよう慎重な態度で臨み、また、国際収支の動向に留意しつつ、機動的な経済の運営を行なうとともに、旧来の制度、慣行を改善する等、経済の効率化を促進し、長期的視野に立って、均衡のとれた持続的な経済成長の基盤の整備をはかってまいる所存であります。このような経済運営のもとにおいて、来年度の経済成長は実質9.8%程度と、本年度の12.6%程度に対し控え目な姿となる見込みであります。

 当面特に重要な物価の問題につきましては、現在のような根強い消費者物価の上昇は、国民生活面に大きな負担となるばかりでなく、経済の健全な発展をそこなうことになると考えられます。

 このような物価情勢にかんがみ、政府としては、物価の安定を再重点施策としてこれに全力を傾注することとし、来年度については、いやしくも公共料金の引き上げにより物価の上昇を主導することのないよう、国鉄運賃を除き、極力これを抑制することといたしました。すなわち、消費者米価については、昨年度14.4%、本年度8.0%の引き上げに対し、来年度はこれを据え置く方針を明らかにし、基礎的な生活物資である麦、塩についてもその値上げを行なわないこととし、電信電話料金については、その体系の合理的な改定を行なうにとどめ、実質的には引き上げを認めないことといたしました。また、国鉄運賃については、国鉄経営の状況にかんがみ、長期にわたる根本的な構造改善が確実に実行されることを前提とし、国及び地方の財政援助と相まち、最低限度の幅に限って値上げを認めることといたしましたが、国鉄運賃の値上げが他の関係公共料金の便乗値上げを誘発することのないよう、特にきびしい態度をとることにいたします。

 もとより、消費者物価の上昇は、わが国経済の急激な発展に伴う経済各部門の生産性上昇の格差による構造的な要因に基づくところが大きいので、この面からの各般の施策をじみちにに{前5文字ママ}推進していくこともまた基本的に重要であります。

 このような観点から、農業、中小企業等低生産性部門の合理化、近代化、流通機構の改善、公正な競争条件の整備、輸入政策の弾力的活用、消費者行政の推進などの諸施策を一そう強力に推進するとともに、生産性が上昇している部門では、その成果の一部を価格引き下げに回すような環境をつくってまいりたいと考えております。

 また、土地問題につきましては、地価の高騰に対処するため、地価対策閣僚協議会等の場において検討を進めているところでありますが、今後、土地関係法令の運用、土地税制の改善等を通じ、土地の有効利用を促進するとともに、物価の安定に資する所存であります。

 以上申し述べましたような政府の施策と国民各位の御協力により、来年度の消費者物価の上昇率を5%程度におさめたいと考えております。

 次に、わが国経済の効率化を進め、今後における経済成長の基盤の整備をはかるため、まず財政面においては、公債発行額を極力押えるとともに、昨年度に引き続き総合予算主義の定着をはかることにより、財政が適正な資源配分、景気調整などの機能を十分果たし得るよう配慮いたしました。さらに、総合農政の推進、中小企業の構造改善等、産業体制の効率的な整備、金融の効率化、企業の異質の改善につとめ、また、社会資本の充実、過密過疎、公害対策の強化等を通じ社会開発の促進をはかることといたしております。

 次に、国際経済関係の緊密化する中にあって、世界経済におけるわが国の地位の向上にかんがみ、国際化に即応する体制の整備につとめつつ、貿易及び資本の一そうの自由化を進めるとともに、引き続き輸出の振興、経済協力の推進、貿易外収支の改善につとめることが重要であります。

 また、労働力不足の進展に備え、労働力の有効活用及び人的能力の開発を促進する所存であります。

 わが国経済が、今後、安定かつ持続的な成長を遂げていくためには、長期的な観点からその進むべき方向を示すことが必要であります。このような見地から、私は、次に経済社会発展計画と全国総合開発計画について申し述べたいと存じます。

 まず、1昨年策定を見た経済社会発展計画について申し上げます。

 この計画は、経済の効率化を軸とし、物価の安定と社会開発の推進を再重点の政策課題とし、42年度を初年度とする5ヵ年計画でありますが、その後におけるわが国経済の目ざましい成長により、現段階において計画と実勢との間にはかなりの乖離が生じてきております。私としては、上記の政策課題は、依然として堅持されるべきものであると考えますが、この計画が、政府のみならず民間経済活動の指針として重要な役割りを果たしつつあることにかんがみ、また、その後における情報化社会への進展等に見られる変化を踏まえ、新しい観点から政策課題について配慮しつつ、本計画について検討を加える段階に来たと考える次第であります。今後、政府としては、経済審議会等の場を通じ各方面の英知を集め、計画のあり方等も含め、この問題に積極的に取り組み、わが国経済の進むべき方向を明らかにしてまいりたいと考えております。

 次に、国土総合開発の問題について申し上げます。

 現在の全国総合開発計画は、37年に策定を見たものでありますが、その後における急速な経済成長と都市化の進展に伴って地域経済社会は急激な変化を遂げ、いわゆる過密過疎現象が問題となってきております。このような事態に対処して、都市、農村を通じて豊かな社会を創造し、住みよい国土を建設していくためには、全国にわたる情報通信網と高速交通体系を整備して国土の開発可能性を拡大し、この基礎の上に、各地域の特性に応じた開発事業を推進するとともに、魅力ある広域生活圏を形成するなど、新しい国土経営の基盤をつくり上げることが必要であります。

 このため、現在、新しい全国総合開発計画の策定に取り組んでおりますが、この計画は、それができ上がる過程において、全国民の深い御理解と御協力を得て実効あるものとすることが肝要でありますので、関係各方面の御意見も十分取り入れつつその策定を進め、国土開発の基本的報告を明らかにしてまいりたいと考えております。

 以上、わが国経済の当面する諸情勢について私の所信を申し述べました。  国民各位の御理解と御協力を切望いたします。