データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第74代竹下(昭和62.11.6〜平成1.6.3)
[国会回次] 第114回(常会)
[演説者] 愛野興一郎国務大臣(経済企画庁長官)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 1989/2/10
[参議院演説年月日] 1989/2/10
[全文]

 激動の昭和の時代が終わり、新しい平成の時代を迎えるに当たりまして、我が国経済の当面する課題と経済運営の基本的考え方について、所信を申し述べたいと存じます。

 昭和の経済の歩みを振り返ってみますと、世界的な恐慌に始まり、戦時経済への移行、大戦による国土の荒廃、戦後の混乱と窮乏からの復興という苦難と試練の時代を経験した後、世界でも例を見ない高度成長を実現しました。また、2度にわたる石油危機や大幅な円高など幾多の困難に直面しながらもそれらを克服し、着実な発展を遂げ、我が国は今や世界経済の繁栄に重要な役割を担うに至りました。

 新しい平成の時代におきましても、物価の安定を基礎として、経済の安定と均衡のとれた発展を目指していくべきことは言うまでもありませんが、今後は、特に、経済発展の成果を国民生活の質的向上と経済、科学技術、文化など各方面における世界への貢献にいかに反映させていくかが重要な課題になると考えます。

 また、世界の繁栄と日本の発展は密接不可分に結びついておりますので、あらゆる課題について、世界との関係を念頭に置いた経済運営を行っていく必要があると考えます。

 昨年5月に策定した新しい経済計画「世界とともに生きる日本」におきましても、このような視点に立って思い切った経済構造の調整を推進し、内需主導型経済構造への転換、定着を図っていくことが重要であるとしております。

 私は、新経済計画に示された方向に沿って各般の施策を積極的に推進し、対外不均衡の是正と世界への貢献、豊かさを実感できる多様な国民生活の実現、さらには、産業構造調整の円滑な推進と地域経済社会の均衡ある発展に向けて全力を尽くしてまいる所存であります。

 ここで、内外の経済の現状について申し述べたいと存じます。

 まず、世界経済の動向を見ますと、各国間の政策協調が進展する中で、インフレなき持続的成長が続いております。また、アジアNIESの目覚ましい経済発展やECの市場統合、米加自由貿易協定などの新しい動きも見られます。しかしながら、縮小傾向にあるとはいえ、依然大幅な主要国の対外不均衡、保護主義的傾向の台頭、発展途上国の累積債務問題など、今後解決を図っていかなければならない課題が数多くあります。このような問題を抱える一方、世界経済の相互依存関係はますます緊密なものとなっており、政策協調の重要性は一層高まりつつあります。

 他方、我が国経済は、個人消費や民間設備投資を中心とした自律的な内需主導型の成長過程にあります。こうした中で、引き続き企業収益の増加や雇用情勢の改善が見られ、所得の増加がさらに内需の拡大に結びつくという好ましい循環を形成しております。また、輸出はこのところ強含みに推移しているものの、製品類等を中心とした輸入が引き続き堅調であることなどから、経常収支の黒字幅は縮小傾向にあります。

 このような内外の経済の動向を勘案しますと、昭和63年度の我が国経済は、経常収支の黒字が縮小しつつ、内需中心の景気拡大が維持され、実質経済成長率は、政府の当初見通しを上回る4.9%程度になるものと見込まれます。

 以上のような状況を踏まえ、私は、平成元年度の経済運営に当たりましては、新経済計画に示された方向に沿って、特に、次の諸点を基本としてまいりたいと考えます。

 第1は、内需を中心とした景気の持続的拡大を図るとともに、雇用の安定及び地域経済の活性化を図ることであります。

 このため、主要国との協調的な経済政策を推進しつつ、為替レートの安定を図るとともに、引き続き適切かつ機動的な経済運営に努めてまいる所存であります。

 消費税の導入を含む新しい税制は、広く国民に理解され、円滑に実施されることが重要であります。新しい税制の円滑な実施を図るため、新税制実施円滑化推進本部等を通じて、広報、指導、相談等を初めとする各般のきめ細かな施策を講ずることとしております。

 また、公共事業について、引き続きNTT株式売り払い収入の活用等により事業費の確保を図るほか、中小企業対策や地域雇用対策等についても積極的に推進することとしております。

 金融政策につきまして、内外の経済動向及び国際通貨情勢を注視しつつ、適切かつ機動的な運営を図る必要があると考えております。

 さらに、産業構造調整を引き続き円滑に推進する一方、国土の均衡ある発展や新たなフロンティアの開拓等により、将来に向けて我が国経済社会の発展基盤の整備を図ってまいる所存であります。地域の特性と創意を生かした魅力ある地域づくりを目指すとともに、創造的研究開発を総合的に推進し、また、民間活力の最大限の発揮等を図るため、規制の緩和を推進してまいります。

 平成元年度の我が国経済は、以上のような政府の施策と民間経済の活力が相まって、引き続き対外不均衡の是正を進めながら、内需を中心とした着実な拡大を実現し得るものと考えられます。この結果、平成元年度の実質経済成長率は4.0%程度になるものと見込まれます。

 第2は、自由貿易体制の維持強化に向けて率先して努力するとともに、貿易の拡大均衡を通じた調和ある対外経済関係の形成と、世界経済活性化への積極的貢献を図ることであります。

 改めて申すまでもなく、戦後、我が国経済が飛躍的な発展を遂げてきた背景の1つには、自由貿易体制の恩恵に浴してきたことが挙げられます。対外経済政策の運営に当たりましては、今後とも、自由貿易体制のもとで貿易の拡大均衡を図るという基本的考え方に立って、各般の施策を積極的に展開していく必要があると考えます。

 このため、まず、内需の持続的拡大に加え、我が国市場の積極的開放等による市場アクセスの改善や規制の緩和、流通の一層の合理化などを通じて輸入の拡大を図り、対外不均衡の着実な改善に努めてまいる所存であります。また、投資受け入れ国との調和に配慮し、海外直接投資の推進を図るとともに、輸出がふえやすく輸入がふえにくい体質を改善しながら、国際的に調和のとれた産業構造への転換を推進してまいります。ガットのウルグアイ・ラウンド交渉に対しましても、その一層の進展に向けて積極的な役割を果たしてまいる考えであります。

 発展途上国への経済協力につきましては、我が国の国際的地位にふさわしい役割を果たしていくことが重要であります。このような観点から、政府開発援助の第4次中期目標に基づき、経済協力の拡充と質的改善に一層の努力を払うとともに、発展途上国に対する資金還流の促進などを図ってまいります。

 第3は、物価の安定基調を維持していくことであります。

 物価の安定は国民生活安定の基礎であり、また、均衡のとれた経済発展の基本的要件をなすものであります。最近の物価の動向を見ますと、円高、原油安のメリットが広く国民経済全般に浸透する中で、落ちついた動きを示してきておりますが、今後とも国内の需給動向、国際商品市況、為替レートの動向などを注視しながら、現在の安定基調を維持するべく、細心の注意を払っていく考えであります。

 ここで、消費税と物価の関係について私の基本的な考え方を申し上げたいと存じます。

 消費税の導入の時点で物価の上昇が生じますが、この物価上昇はいわゆるインフレ的な物価上昇とは性格を異にする1回限りのものであります。

 また、消費税は最終的に消費者に負担を求める税であることから、税負担の円滑かつ適正な転嫁を図る必要がありますが、その際、便乗値上げを防止し、既存間接税の廃止等による税負担の軽減額を適切に価格に反映させていくよう努めることが重要であります。

 このため、政府といたしましては、積極的な情報提供や価格動向の調査・監視体制の強化など、万全の対応を図ってまいる所存であります。

 また、消費税導入に伴う公共料金等の改定に当たりましても、物価及び国民生活に及ぼす影響を十分考慮して厳正に取り扱うことを基本としつつ、税負担の円滑かつ適正な転嫁を図ることとしております。

 近年の円高の進展に伴い、国際的に見た我が国の価格水準について割高感が生じてきております。今後は、物価の安定を図るだけでなく、国民生活のより一層の質的向上を図る観点から、内外価格差の縮小に努めていくことが重要な政策課題となると考えます。

 このため、今後とも円高メリットの浸透に努めるとともに、製品輸入の拡大、農業の生産性向上、規制の緩和、流通業における競争条件の整備等についても、積極的に取り組んでまいる所存であります。

 第4は、豊かさを実現できる多様な国民生活の実現を図ることであります。 このため、経済発展の成果をより一層国民生活の質的向上に反映させていくという基本的姿勢のもとに、住生活の改善、労働時間の短縮、自由時間の充実といった課題に、積極的かつ早急に取り組む必要があります。

 住生活の改善につきましては、良質の住宅の蓄積と居住環境の整備を推進するとともに、地価形成の適正化を図るため、総合土地対策要綱等に盛られた各般の施策の強力かつ速やかな実行に努めてまいります。

 また、労働時間の短縮につきましては、本年から国の行政期間等の土曜閉庁や金融機関の完全週休2日制が実施されるのを契機に、完全週休2日制の普及に向けて努力してまいる所存であります。その際、自由時間充実のための施策につきましても、欧米諸国の経験も参考にしながら、幅広い角度から検討してまいります。

 経済社会における国際化、サービス化等の進展に伴い、消費生活の内容や消費者取引の形態はますます複雑かつ多様化してきておりますが、豊かな国民生活を実現する上において、消費者の利益を擁護し増進していくための施策は、重要な柱の1つであります。今後は、悪質な商法等による被害を防止することはもとより、消費者の選択の幅を広げ、より豊かな消費生活を営むための支えとなるよう、消費者教育の充実にも重点を置いてまいりたいと考えております。

 以上、我が国経済が当面する主な課題と経済運営の基本的方向について所信を申し述べました。

 我が国経済は、これまでも、重要な節目節目において、国民の英知と努力を結集し、必要な構造転換をなし遂げることによって、次々と新たな発展の道を切り開いてまいりました。

 私は、輸出依存型の経済から内需主導型の経済に向けて発想を張りかえていくとの観点に立って、経済構造の調整に積極的に取り組み、新しい時代における我が国の発展基盤を築いてまいる所存であります。同時に、その際、国民の勤勉性や変化に対する柔軟な適応力といった我が国社会の特質を十分生かしてまいる考えであります。そして、国民の1人1人がゆとりと潤いのある真に豊かで多様な生活を営めるようにするため、誠心誠意努力してまいります。

 国民の皆様の御支援と御協力を切に願い申し上げます。