データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第88代第2次小泉純一郎内閣(平成15.11.19〜平成17.9.21)
[国会回次] 第162回(常会)
[演説者] 竹中平蔵経済財政政策担当大臣
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2005/1/21
[参議院演説年月日] 2005/1/21
[全文]

 経済財政政策担当大臣として、その所信を申し述べます。

 小泉内閣が発足した四年前、日本経済は厳しいマイナス成長の中にありました。膨大な不良債権の存在から金融システムへの不安は募り、一方で、財政拡大に過度に依存した従前の経済運営の行き詰まりから、国民の先行き不安が大きく高まっていたのです。

 こうした中で小泉内閣は、改革なくして成長なしとの信念のもと、各般の構造改革に取り組んでまいりました。とりわけ、当初の数年間を集中調整期間として位置づけ、不良債権処理や財政赤字拡大の阻止に象徴されるような、過去の負の遺産の解消に全力を挙げることを目指したのです。

 この間、多くの反対意見が寄せられたにもかかわらず、現実に構造改革は着実な成果を上げつつあります。昨年は、日本経済が長い低迷から脱し、その先にある成長の姿が見え始めた年となりました。景気拡大期間は既に三年に及び、戦後の平均を上回っています。平成十六年度は二・一%程度、十七年度は一・六%程度の実質成長が見込まれるなど、財政を着実に健全化しながら民間需要中心の景気回復が実現されます。デフレ克服に向けた動きも着実に進みつつあります。

 私は、今日の状況はちょうど五十年前の日本経済に似ていると考えます。終戦のショックから間もない昭和三十年、日本経済はおおむね戦前の経済水準を回復し、戦争の負の遺産と決別しました。その翌年の経済白書は「もはや戦後ではない」と宣言しましたが、私は、不良債権問題の終結が見えた今、もはやバブル後ではないと明確に申し上げたいと思います。平成十六年度末までに主要行の不良債権比率を半減するという目標は、その達成が確実に見込まれます。企業部門でも、リストラの完了によって過剰債務や過剰雇用が解消し、収益力の改善が進んでいます。

 同時に、バブル後の長期低迷を脱した今、改めて実感されることがあります。それは、二十一世紀の日本の新しい成長基盤をつくる道のりは依然極めて厳しいものであるということです。負の遺産を清算するための守りの改革から、新しい成長の姿をつくるための攻めの改革へと、まさにこれからが日本経済の正念場と言えましょう。

 私は、二年後の平成十九年という年が、日本経済にとって重要な節目の年になると考えています。それゆえ、そこに至るこの二年間は、かけがえのない二年間と言わねばなりません。

 平成十九年には、日本全体の人口が減少に転じ、いよいよ人口減少社会が現実のものとなります。財政面では、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化に向けて、平成十九年度から次の段階の新たな財政収支改善努力を開始しなければなりません。すなわち、さらなる国民負担が必要かどうか、明確な選択をしなければならないのです。また、平成十九年度は、明治以来の大改革である郵政民営化がいよいよスタートする予定の年でもあります。

 基本方針二〇〇四では、平成十九年度までのかけがえのない二年間を重点強化期間と位置づけました。足腰の強い、そして変化に柔軟に対応できる経済構造をつくるべく、将来の成長戦略を明確にした上で、攻めの改革に取り組まなければなりません。

 かけがえのない二年間の初年に当たる平成十七年、私は、以下の三つの方針で経済を運営し、また経済財政諮問会議での検討を進めてまいります。そうすることによって、日本経済は現状を超えて、さらに持続的な経済発展を実現できるものと考えます。

 その第一は、攻めの改革を具体的な形にすることを通じ、一層の経済活性化を実現することです。攻めの改革の要諦は、民間企業の力、地域の力、そして個々人の力を最大限に引き出す環境を整えることにあります。

 そのためにも、民間でできることは民間で行うことは極めて重要であります。そして、その象徴となるのが郵政民営化です。郵政民営化は、日本の政府と民間がともに二十一世紀型の市場経済システムに移行することを示す象徴であり、私はその責務を誠心誠意果たしてまいりたいと思います。

 郵政民営化については、昨年九月十日に基本方針を閣議決定し、現在それに基づいて、より詳細な制度設計と法案作成を行っています。真に国民のためになる民営化を目指し、与党とも十分に調整を行いながら、関係法案を今国会に提出し、その確実な成立を期してまいります。同時に、これに関連する政策金融の改革、国債管理の新しいあり方等についても、経済財政諮問会議の重要な検討課題と考えます。

 また、攻めの改革としては、市場化テストを含む規制改革の一層の推進、農業、人の移動、サービス部門の構造改革によるアジア等との経済連携の加速、三位一体の改革と地域再生の推進、教育・雇用と人間力強化についても、国民に結果が見えるよう内閣一丸となって取り組んでまいります。

 第二は、社会の諸制度の持続可能性について、国民の信頼感をより高めるための改革を進めることです。

 その中心的課題として、二〇一〇年代初頭に基礎的財政収支を黒字化するための道筋を明確化することは極めて重要です。幸いにして、二年連続の着実な基礎的財政収支改善と民需主導の景気回復が両立する見込みですが、さきに述べたように、平成十九年度にはさらなる国民負担が必要かどうかも含め、財政のあり方について国民的選択が求められます。本年は、こうしたことを念頭に、経済財政諮問会議でも歳入歳出一体となった財政改革の検討を開始いたします。

 さらに社会保障について、将来にわたり持続可能で、若い世代からも高い信頼を得られるような制度の確立に向けて改革を進めることが必要です。このため、年金、医療、介護、生活保護等、社会保障制度全般の一体的見直しを進めます。サービスの質を確保し、かつ経済力に見合った社会保障給付とするための具体的仕組みを早急に検討いたします。また、社会保険庁改革についても、その推移を経済財政諮問会議で注視してまいります。

 第三は、政策プロセスの一層の透明化と説明責任の強化を行うことです。

 過去四年間、毎年六月には政策全般についての骨太の方針を明らかにするとともに、十一月ごろにはそれに基づく予算編成の基本方針を示すことによって、オープンな予算編成プロセスを定着させてきました。さらには、「予算の全体像」や「改革と展望」を公表することによって、マクロ経済と財政の整合的な運営を実現いたしました。

 こうした中で、今、改革の先にどのような経済社会の姿が描けるのか、人口が減少する社会にあって我が国の成長力はどうなるのか、長期的なビジョンを提示することが極めて重要であると考えます。

 このため、本年春ごろを目途に、日本二十一世紀ビジョンを取りまとめることとしています。このビジョンが国民に共有されることによって、不透明感が払拭され、民間の経済活動がより活性化することを期待するものです。

 以上に加え、国民の安全、安心の基盤を整備するために、消費者政策の強化とNPOの活動基盤の整備に引き続き努めます。また、個人情報保護法の本年四月からの全面施行に向けて取り組んでまいります。

 四年前、我々が財政の健全化と景気回復を両立させることを打ち出したとき、多方面から厳しい反対意見が示されました。しかし、我々は約束どおりそれをなし遂げました。同様に、不良債権を二年半で半減させると述べたとき、多方面から今はやるべきではない、達成は不可能だなど、さまざまな反対意見が示されました。しかし、我々は約束どおりそれをなし遂げました。

 断固たる決意と周到な準備をもって小泉改革をさらに進めることこそが、日本経済のさらなる発展を可能にする唯一の道です。私は、将来を決して悲観することなく、安易に楽観することもなく、見え始めた新しい成長の姿をより確かな強いものとし、さらに地域、中小企業にすそ野を広げていくことを粘り強く目指してまいります。

 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をお願いし、所信の表明といたします。