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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第89代第3次小泉純一郎内閣(平成17.09.21〜平成18.09.26)
[国会回次] 第164回(常会)
[演説者] 与謝野馨経済財政政策担当大臣
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2006/1/20
[参議院演説年月日] 2006/1/20
[全文]

 経済財政政策担当大臣として、その所信を申し述べます。

 我が国経済は、輸出、設備投資の回復に加え、個人消費の増加により持続的な景気拡大へと歩を進めつつあります。こうした持続的な成長軌道への日本経済の復調ぶりは、企業の収益・景況感、雇用・所得状況などにも明確に示されています。日はまた上るという見方が海外であらわれるなど、海外投資家も積極的な評価を行い始めました。

 日本経済は、総じて言えば、十年余りにわたる長期停滞のトンネルを抜け出したと考えます。

 いわゆるバブル経済の崩壊によって、我が国は諸外国にも類を見ない巨額の資産価値の下落を経験いたしました。時を同じくして、グローバル経済下での競争環境の激変という事態にも直面をいたしました。いわば経済非常時ともいうべき局面に陥ったわけであります。

 こうした難局のもとで、我が国の国民、個々の企業や事業家は、おのおのの持ち場で、まさに粒々辛苦して克服の努力を進めてまいりました。

 小泉内閣は、過去五年間、経済財政諮問会議を活用した明確な方針設定と、郵政民営化や公共事業費削減など、批判や反対にも揺るがない、断固たる構造改革実行という首尾一貫した姿勢を貫いてまいりました。これにより、国民の変革意識を喚起し、自立自助へと方向づけてきました。

 こうした国民個々の変革努力の積み重ねと政府による改革断行が相まって、日本経済は、その潜在力が素直にマクロの数字に反映される平時の経済に復帰しつつあると考えます。ただし、若年層の失業率は高く、また、中小企業を取り巻く環境は大企業に比べて厳しいものがあり、地域経済についても依然としてばらつきが見られることには留意が必要です。

 我が国経済の先行きにつきましては、国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれ、平成十八年度の実質成長率は一・九%程度になると見込んでおります。

 過去十年余りにわたる長期停滞のトンネルを抜け、我が国は、いよいよその持てる力を総動員し、直面する歴史的課題に正面から挑戦していく局面に入ったと考えます。

 いわば、新たな挑戦の十年が始まったとの時代認識に立って経済財政政策を担当してまいる所存です。

 具体的には、人口減少、少子高齢化が本格化する前に、経済財政政策の二つの最優先課題として、財政健全化と成長力・競争力強化、これを同時に実現していく必要があると認識しております。

 これら二つの課題に官民それぞれが、攻めの姿勢で取り組んでいくための土台づくりを早急に行ってまいりたいと考えております。

 現時点でのマクロ経済の最大の懸念材料は、我が国経済が現在もデフレの状況にあることと考えます。

 デフレからの脱却は、中期的なマクロ経済財政運営の基礎となるものであります。民間需要主導の持続的な成長と両立するような安定的な物価上昇率を定着させるべく、政府、日本銀行が一体となって取り組んでいく必要があります。政府としては、経済活性化に裏打ちされた力強い資金需要を創出する一方で、日本銀行には、引き続き実効性のある金融政策を講ずるとともに、市場の信認を確かなものとするよう期待しております。

 経済財政運営の最優先事項の第一は、民間需要主導の持続的な経済成長との両立を図りつつ、危機的状況にある我が国財政を着実に健全化していくための具体的道筋を明らかにし、それを確実に実行することであります。

 これまで政府は、二〇一〇年代初頭に基礎的財政収支を黒字化するという目標の実現に向け、歳出改革を中心に努力を傾注してまいりました。この目標を達成するためには、さらにこれまで以上の歳出削減や税制を含む諸改革を行うことが必要です。

 この基礎的財政収支の黒字化は確実に達成する必要がありますが、国民が真に将来を安心できる財政の姿を実現するという観点から見れば、そこに至る一里塚にすぎません。重要なことは、公債残高の発散的増大が生じたり、公債市場の混乱による金利急騰のリスクが高まったりすることがないように、二十年程度先まで視野に入れつつ、財政健全化の道筋を明らかにしていくことであります。

 その際、市場からの信認を得るに足る堅実な前提を基礎として、楽観論にも悲観論にも偏ることのないリアリズムに徹した議論を行っていくべきと考えます。

 こうした観点から、歳出歳入一体改革についての選択肢及び改革工程を本年六月を目途にお示しするべく、経済財政諮問会議の場では精力的に議論を行ってまいります。

 審議においては、例えば以下のような項目を一体的に検討し、選択肢や工程を明らかにしてまいりたいと考えております。

 第一に、長期的な経済シナリオや経済社会環境を反映した政府の支出規模の目安、主な歳出分野についての具体的な目標を盛り込んでいくことが重要と考えます。

 第二に、社会保障や地方交付税など大きな義務的歳出項目について、中期的な改革の方向性をお示しいたします。

 社会保障制度については、人口減少、少子高齢化のもとでも持続可能なものとなるように、世代間の公平性や効率化等の観点に立ち、改革を強力に推進していくことが必要と考えます。

 また、地方交付税については、補助金の問題とあわせて、政府部門において効率的な予算の利用や節約が自律的に生み出されるようなシステムへの思い切った転換が必要であり、こうした観点からの改革を進めることが肝要であると考えます。

 第三に、包括的かつ抜本的な税制改革のあり方について議論をいたします。持続的な経済社会の活性化を目指して徹底した議論を行い、必要な負担増を求める際には国民の十分な理解を前提としたものであることが必要であります。

 第四に、歳出歳入一体改革の一環として、引き続き、公務員総人件費削減、政策金融改革、政府資産・債務改革、特別会計改革、市場化テストによる官業の民間開放など、政府自身の効率化、歳出削減につながる改革には手を緩めることなく取り組んでまいります。

 財政の健全化は、民間需要主導の経済成長の持続なくしては不可能です。二つの目標を両立させていくことが必要不可欠であり、マクロ経済と財政との関係に十分注意を払いながら、財政収支改善の速度等のあり方について検討してまいります。

 こうした議論を通じて、日本が将来目指すべき国の形についての選択肢を国民にわかりやすく示すことが必要であります。国民の幅広い議論を喚起した上で、十八年度中に歳出歳入一体改革についての結論を得ます。

 経済財政運営の最優先事項の第二は、中国、インドの台頭など世界の経済地図の劇的な変動の中で、我が国の潜在力を最大限に引き出し、豊かで美しい日本を保つだけの国際競争力を維持することであります。

 悲観論や縮み思考では将来は開けません。七〇年代の原油価格の高騰は、省資源・省エネルギー型技術を得意とする我が国企業の競争優位を後押しする結果となったことが好例であります。労働力人口減少は、資本蓄積と生産性向上により克服することができます。急速な高齢化社会は、各国に例を見ない新たな就業構造と市場をつくり出す機会ともなります。こうした我が国の強みを戦略的に生かしつつ、成長するアジアのダイナミズムを取り込んだ強靱な経済システムの構築に向けて構造改革を進めることが求められます。

 そのためには、第一に、人材、資金、特許などの知的資本、チームワークなどの組織資本が円滑に生産性の高い部門にシフトし、二十一世紀にふさわしい新たな産業構造に転換していくための環境を整備することが必要であります。

 第二に、都市、環境、健康、食、文化、教育などの面での質の高い、新しい需要がさらなる技術・サービス革新を生み出すといった好循環をもたらす仕組みの検討が求められます。こうした好循環の創出は、国際競争力を強化するために不可欠の要素であります。潜在需要を掘り起こすための公共部門の新たな役割についても議論してまいります。また、官製市場の改革・開放をさらに進めてまいりたいと考えます。

 第三に、豊富なグローバル資本や成長するアジアの活力を取り込みつつ、我が国の強みを戦略的に活用できるような経済連携の枠組みづくりが求められます。

 経済財政諮問会議では、こうした成長力と競争力の強化に向けた戦略的対応をグローバル戦略として議論を深め、本年の骨太方針に盛り込んでいく所存であります。

 恒産なくして恒心なしとの言葉があります。将来の世代が夢を持って安心、安全を享受しながら活躍できるように、また、豊かで美しい日本を将来世代に引き継いでいけるように、私たちの世代が責任を持って改革を続行しなければなりません。

 経済財政諮問会議は、これまでの構造改革に大きな役割を果たしてまいりました。本年も、小泉総理のリーダーシップのもと、歳出歳入一体改革を初めとして、改革の加速、深化に向けて真摯な審議を行ってまいります。

 国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をお願いし、所信の表明といたします。