[内閣名] 第90代安倍晋三内閣(平成18.09.26〜平成19.09.26)
[国会回次] 第166回(常会)
[演説者] 大田弘子経済財政政策担当大臣
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2007/1/26
[参議院演説年月日] 2007/1/26
[全文]
経済財政政策を担当する内閣府特命担当大臣として、所信を申し述べます。
日本経済は、長い停滞のトンネルを抜け出し、ようやく正常な状態に戻りつつあります。今回の景気回復は、企業が設備、雇用、債務の過剰を解消させる過程であっただけに、正規雇用の回復がおくれるなど、雇用面での課題が残されています。また、地域間で回復のばらつきが見られます。こうしたことから、回復の実感に乏しいという指摘が聞かれます。しかし、バブル崩壊後の負の遺産を克服し、五年間の長きにわたって回復基調が持続しているということ、これは意義深く、喜ばしいことです。
これをさらに息長く持続させることで、企業から家計へ、また日本全体へと回復を広げる必要があります。平成十九年度には、物価安定のもとで、国内民間需要を中心に、実質二%程度の成長を続けるものと見込んでいます。政府と日本銀行は、マクロ経済運営に関する基本的視点を共有しつつ、物価安定のもとでの民間主導の持続的な成長のため、一体となった取り組みを行ってまいります。
経済環境はこのように好転していますが、グローバル化や少子高齢化など大きな変化に対応した新しい経済社会の仕組みはまだでき上がっていません。これをつくることが安倍内閣の課題です。
日本が目指すべき経済社会の姿とそれを実現するための経済財政運営の中期的な方針について、このたび、「日本経済の進路と戦略」を閣議決定いたしました。
これまでの改革は、日本経済の負の遺産を取り除くための改革でした。これから始まるのは、日本経済の新たな可能性を切り開くための改革です。「進路と戦略」に沿って、経済財政諮問会議がエンジンとなって改革を進めてまいります。
その目指すところは、人口が減る中にあって、成長を持続させ、生活の質を高くしていくことです。これは、人口増加を前提とした社会を人口減少に適合する社会に変革せずには実現しません。未曾有の高齢化に直面する日本がすぐれた経済社会の仕組みをつくることができるならば、それは、欧米だけではなく、急速な高齢化が見込まれるアジアのモデルになります。
人口減少社会において目指すべき成長の姿は、家計を起点とした好循環です。イノベーションや規制改革によって新しい商品、サービスが提供され、消費需要がつくり出されれば、それは質の高い雇用を生み出すことにもつながります。消費者の視点から供給サイドの大胆な改革を行うこと、すなわち消費革新を行い、家計を起点とした成長の姿をつくり出すことが重要です。
成長のかぎとなるのは、生産性上昇、オープンな国づくり、そして人材の活用です。
第一の生産性については、例えば生産性倍増のような明快な目標を掲げたプログラムを四月をめどに策定します。特に重視するのは、非製造業、すなわちサービス産業の生産性改革です。サービス産業はGDPの七割を占めますが、生産性の伸びは低くとどまっています。また、健康、医療の分野、教育、職業訓練の分野、家事や子育て支援の分野などでは、利用者のニーズが高いにもかかわらず、それにこたえ切れていません。消費者の立場に立った規制改革を進めること、それからITを本格的に活用することによって、この分野の生産性はまだまだ高めることができます。
政府の分野も生産性を高めなくてはなりません。どうしても公務員でなければならない事業以外は、市場化テストの対象とするなど、民間の活力と創意工夫を取り入れることが必要です。
第二は、オープンな国づくりです。
世界最大の成長センターであるアジアに位置する日本は、オープンな経済システムをつくることで、成長のエネルギーを相互に生かすことができます。海外、特にアジアとの経済連携を強化することが必要です。WTOを基本としつつ、経済連携協定、EPA交渉を戦略的に展開するため、ことし春までにEPA工程表を改定し、今後二年間で締結国を現在の四カ国から少なくとも十二カ国へと三倍にすることを目指します。
また、対日直接投資を飛躍的に増加させることが、産業の空洞化を防ぎ、国内で質の高い企業間競争を行うために重要です。さらに、金融資本市場の国際競争力強化など、グローバル化のための包括的な政策を打ち出していきます。
第三は、人材です。
すべての人がそれぞれの能力を生かし、働きがいを持ち、それが経済の活力と両立するような環境が整えられなくてはなりません。これまでの労働市場に残されている六つの壁、すなわち、正規、非正規の壁、働き方の壁、年齢の壁、性別の壁、国境の壁、官民の壁、この六つの壁を克服し、人口減少下で貴重な人材が生かされる労働市場のあり方を審議し、政策に反映させていきます。
また、九〇年代以降の経済低迷期に新卒で社会に出た人々の雇用が問題になっています。正規社員への道が閉ざされ、技能を身につける機会がないまま、不安定な雇用を余儀なくされているこれらの人々についても、人材活用の視点が重要であり、能力形成支援などを打ち出していきます。
サービス産業の生産性向上、アジアとの連携強化、多様な人材の活用は、地域の活力を高めるためにも重要なかぎとなります。ヘルスケアや家事支援、観光などの需要拡大は、地域の消費と雇用に直結します。
さて、成長への取り組みと並ぶ車の両輪として、財政健全化への取り組みを進めます。基本方針二〇〇六に沿って、歳出歳入一体改革を着実に推進し、二〇一一年度には国、地方合わせた基礎的財政収支を確実に黒字化させます。国民負担の増加を最小にするために、歳出削減の裏づけとなる制度改革を基本方針二〇〇七において取りまとめるなど、歳出改革を全力で進めます。また、財政再建と景気変動への対応を両立させるには、経済状況に応じて財政再建のスピードをコントロールしながら、中期で予算を管理する必要があります。歳出改革がきちんと行われているかどうか、五年間にわたって点検することといたします。
同時に、若い世代の負担が過重にならないように、医療・介護サービス分野のコスト構造の是正など、社会保障制度の一体的見直しを進めます。
子供や孫の世代の公的負担を極力抑制することは、私たちの責任です。高齢世代が未来の子供たちの選択肢を狭めることがないように、ほかの世代に過度に頼らない世代自立の社会構造を築くことが必要だと考えます。
我が国は、これからの五年間で新しい成長経済への移行を目指します。当初の二年間をそのための離陸期と位置づけ、集中的に改革に取り組みます。適切なマクロ経済運営のもとで、こうした取り組みが行われることによって潜在成長率が徐々に高まり、今後五年間のうちに、人口の減少にもかかわらず、二%程度あるいはそれをかなり上回る実質成長率が視野に入ることが期待されます。
我が国は、成長のための潜在的な力を十分に持っています。働く人々の能力が存分に生かされ、内外の資金が効率的に経済活動に活用され、そして、イノベーション、すなわち技術のみならず広く経済社会のシステムの革新が絶えず創造される環境が整うならば、人口減少下にあっても、成長を続け、生活の質を向上させることができます。
しかし、そのためには制度の大胆な改革が必要です。五年後には団塊世代が高齢期に到達することや、経済のグローバル化が急速なスピードで進むことを考えれば、この五年間は、日本がしっかりした成長基盤を築くラストチャンスです。改革のために残された時間は決して長くはありません。
昭和三十一年の経済白書は、「もはや戦後ではない」という言葉で余りに有名ですが、この白書の真骨頂は、「世界技術革新の波に乗って、日本の新しい国造りに出発することが当面喫緊の必要事ではないであろうか。」と述べ、その後の技術革新を中心とした高度成長の姿を予見したことです。資源に乏しい日本は、イノベーションが核となって成長してきました。これは、日本がイノベーションを生み出し、それを活用するすぐれた人材に恵まれている証拠です。この経済白書から五十年たった今、第三次産業革命と言われるIT革命のただ中で、日本は新しい成長の姿をつくり出し、新しい国づくりに出発するときを迎えています。
私は、もう一度、日本のすぐれた人材の力を十分に引き出し、新たな成長につなげていきたいと思います。
安倍総理のリーダーシップのもと、緊張感を持って、経済財政政策の運営と、経済財政諮問会議の運営に当たります。国民の皆様と議員各位の御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。