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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第97代 第3次安倍晋三内閣(平成26.12.24〜平成29.11.1)
[国会回次] 第190回(常会)
[演説者] 甘利明内閣府特命担当大臣
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2016/1/22
[参議院演説年月日] 2016/1/22
[全文]

 演説に先立ち、一言申し上げます。

 今回の週刊誌報道の件でお騒がせをしている件につきましては、大変申し訳なく思います。

 本件につきましては、必要な調査を行い、事実を確認の上、国民に疑惑を持たれないよう、しかるべき時期にしっかりと説明責任を果たしてまいります。

 経済財政政策を担当する内閣府特命担当大臣として、我が国経済の課題と政策運営の基本的考え方について所信を申し述べます。

 安倍内閣では、大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の三本の矢から成る経済財政政策を一体的に推進をしてきました。こうした政策の下、実質GDPは安倍内閣発足時と比べ十二兆円増加し、名目GDPも二十八兆円増加をしています。企業収益は過去最高、倒産件数は二年連続で一万件を下回るなど、企業を取り巻く環境は改善をしています。有効求人倍率は全ての都道府県で上昇し、全国で見れば二十三年ぶりの高水準、就業者数は百十万人以上の増加となったことに加え、賃上げ率は二年連続で前年を上回り、最低賃金は三年連続の大幅な引上げ、雇用者報酬は名目、実質共に増加傾向となるなど、雇用・所得環境は改善をしています。また、経済環境の改善の効果もあり、来年度の国と地方の税収の合計額は平成二十四年度と比較して約二十一兆円増加、消費税率引上げ分を除いても約十三兆円増加すると見込まれるなど、財政状況も改善をしています。このようにデフレ脱却・経済再生に向けた取組は、全体として着実に前進しており、景気は緩やかな回復基調が続いています。

 本日閣議決定をした政府経済見通しでは、平成二十八年度の日本経済について、雇用・所得環境が引き続き改善をし、経済の好循環が更に進展をするとともに、交易条件が緩やかに改善する中で、堅調な民需に支えられた景気回復が見込まれ、経済成長率は実質で一・七%程度、名目で三・一%程度になると見込んでおります。

 当面の経済財政運営に当たっては、これまでのアベノミクスの成果の上に、デフレ脱却・経済再生と財政健全化を、双方共に更に前進をさせます。

 デフレ脱却・経済再生につきましては、アベノミクス第二ステージにおいて、戦後最大の名目GDP六百兆円を二〇二〇年頃に達成することを目標とし、これまでの三本の矢を束ねて一層強化した新たな第一の矢である希望を生み出す強い経済を推進していきます。経済の好循環が回り始め、多くの人々が自信を回復しつつある今こそ、長く染み付いたデフレマインドから決別をし、過去最高の企業収益を攻めの投資や、賃金引上げによる消費の拡大に回していかなければなりません。これらの施策による成長の果実を活用して、第二の矢の夢を紡ぐ子育て支援、第三の矢の安心につながる社会保障を推進をし、第二、第三の矢が強い経済にも寄与するメカニズムを通じて、新・三本の矢が一体となって成長と分配の好循環を強固なものとしていきます。

 このため、昨年十一月末に取りまとめた一億総活躍社会の実現に向けて緊急に実施すべき対策における強い経済実現に向けた当面の緊急対策、すなわち、投資促進・生産性革命の実現、賃金・最低賃金引上げを通じた消費の喚起、女性・若者・高齢者・障害者等の活躍促進、ローカル・アベノミクスの推進を通じた地域の付加価値創造力の強化等を着実に実行しなければなりません。例えば、投資を促進するため、平成二十八年度には、法人実効税率を二・一四%引き下げることとし、目標としていた二〇%台を改革二年目にして実現してまいります。また、産業界には、過去最大の企業収益を踏まえ、昨年を上回る賃上げを期待するとともに、最低賃金については、年率三%程度を目途として、名目GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていくことにより、全国加重平均が千円となることを目指してまいります。こうした取組によって、六百兆円経済の実現に向けた動きを加速するとともに、デフレ脱却への歩みを確実なものとし、足下の景気をしっかりと下支えしてまいります。

 また、第四次産業革命への対応等の中期的な課題や、賃金・所得の向上を引き出すサプライサイドの強化、多様な潜在ニーズを顕在化させること等を通じた消費喚起、成長と分配をつなぐ経済財政システムの構築などについては、経済財政諮問会議等の場で更に議論を進め、本年の骨太方針において、六百兆円経済の実現に向けた全体像をお示しをいたします。

 日本銀行には、経済・物価情勢を踏まえつつ、二%の物価安定目標を実現することを引き続き期待をします。

 経済再生なくして財政健全化なし。我々が目指すのは経済再生と財政健全化の二兎を得る道です。昨年の骨太方針二〇一五において定めた経済・財政再生計画に基づき、二〇二〇年度の財政健全化目標の達成に向けて、デフレ脱却・経済再生、歳出改革、歳入改革を三本柱として、経済・財政一体改革に取り組んでまいります。見える化とワイズ・スペンディングを柱とする経済・財政再生アクション・プログラムにおいて具体化をした改革工程やKPIに基づき、改革の進捗管理、点検、評価を行い、関係者・現場の創意工夫を重んじるボトムアップによる躍動感ある改革、言わば工夫の改革を進めてまいります。

 安倍内閣が進める成長戦略は、強い経済を実現する上で要の政策です。未来投資による生産性革命と、ローカル・アベノミクスの推進を車の両輪に、その実行を今まで以上に加速し断行いたします。

 改革の取組を始めて三年、大胆かつスピード感を持って強力に施策の実行・実現を図るとともに、いわゆる岩盤規制と呼ばれた分野を含め多くの成果が出始めています。

 日本再興戦略策定以降、これまでに六十本を超える成長戦略関連法が成立をしました。これらの法律をしっかりと実行するとともに、引き続き本通常国会でも成長戦略の実行に必要な法案を提出してまいります。

 世界は第四次産業革命と言われる、IoT、ビッグデータ、人工知能時代を迎えようとしています。このため、産業競争力会議で成長戦略進化のための検討を進めてまいります。また、昨年十月に設置をした未来投資に向けた官民対話等を通じ、未来社会の到来に向けた成長分野、投資分野について、官民でビジョンを共有し、必要な規制・制度改革については政府を挙げて迅速かつ効果的に対応してまいります。

 健康・医療の分野では、昨年四月に設立をされた日本医療研究開発機構を中心に、基礎から実用化まで切れ目ない研究支援を行うなど、健康・医療戦略を着実に推進してまいります。

 TPPは、二十一世紀のアジア太平洋地域に、自由で公正な一つの経済圏を構築をする挑戦的な試みです。人口八億人、世界の約四割であるGDP三千百兆円という、かつてない規模の市場を包含する経済連携であり、我が国のGDPを約十四兆円押し上げ、雇用を約八十万人増加させると見込んでいます。

 このような経済効果を具体化させるとともに、TPPの影響に関する国民の不安を払拭するために、昨年総合的なTPP関連政策大綱を決定をし、その一部については平成二十七年度補正予算及び平成二十八年度予算にも盛り込んだところです。さらに、農林水産業の成長産業化を一層進めるために必要な戦略や、我が国を貿易・投資のグローバル・ハブとするための政策などについては、本年の秋を目途に具体化をしてまいります。

 今後とも政策大綱に基づき、政府一体となって効果的な政策の実施に取り組むとともに、TPPのメリットを最大限生かし、強い経済を実現するため、協定の早期署名・発効に向けて取り組んでまいります。

 少子高齢化が進展する中で、社会保障の安定財源確保と財政健全化を同時に達成する観点から、引き続き社会保障・税一体改革に取り組んでまいります。世界に誇るべき社会保障制度を次世代に引き渡していく責任を果たすため、社会保障の充実・安定化に取り組むとともに、医療・介護情報の見える化を進め、各地域の状況を比較した結果も踏まえて支出の効率化・適正化を図ることとします。また、有識者から成る社会保障制度改革推進会議において、二〇二五年を展望した中長期的な改革の検討を進めてまいります。

 マイナンバー制度については、昨年十月よりマイナンバーの通知が行われ、本年一月よりその利用が開始されたところです。マイナンバー制度の利活用の推進について、関係省庁と連携を取りながら積極的に進めてまいります。

 安倍内閣は経済最優先で取り組み、我が国経済は緩やかな回復基調が続いており、もはやデフレではないという状況まで来ました。十五年以上続いたデフレの重力圏から脱却できるかの瀬戸際にあるとも言えます。今後、アベノミクスによる経済の好循環を一層確かなものにしていくためには、我が国の将来への不安を払拭し、消費や投資が積極的に行われる環境をつくっていくことが重要です。その上で、少子高齢化による生産年齢人口の減少という構造的な課題に正面から取り組まなければなりません。

 経済成長の成果を子育て支援や社会保障の基盤強化に分配することにより、培った安心が消費や投資を支えるとともに、社会の多様性の実現が労働参加率の向上やイノベーションを通じた生産性向上を促す、それらが更なる成長を促し、更なる分配の原資にもなっていくという成長と分配の好循環を構築するため、全力を尽くしてまいります。

 国民の皆様と議員各位の御理解と御協力をよろしくお願い申し上げます。(拍手)