[内閣名] 第101代岸田文雄内閣(令和3.11.10〜 )
[国会回次] 第208回(常会)
[演説者] 山際大志郎内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)
[演説種別] 経済演説
[衆議院演説年月日] 2022/01/17
[参議院演説年月日] 2022/01/17
[全文]
経済財政政策担当大臣として、我が国経済の現状と課題、政策運営の基本的考え方について所信を申し述べます。
この二年間、世界経済は新型コロナウイルス感染症の影響を受け続けてきました。今もまた、オミクロン株の世界的な感染拡大に直面しています。緊張感を持ってその動向を注視するとともに、予防、検査、早期治療の枠組みを一層強化し、万全の体制をとってまいります。
我が国経済については、一昨年来の新型コロナウイルス感染症による厳しい状況から徐々に回復しつつありますが、対面サービスを中心に感染症の影響を大きく受けた業種、そこで働く方々、あるいは休業を余儀なくされた方々など、国民生活や経済への影響は依然として続いています。まずは厳しい状況にある方々を全力でお支えし、経済活動の再開、拡大に向けた基盤を整えていただきながら、傷ついた日本経済を一日も早く立て直す。あわせて、感染状況について最悪の事態を想定して、医療提供体制の強化やワクチン接種の促進、治療薬の確保に万全を期し、経済社会活動を極力継続できる環境を作り、安全、安心を確保してまいります。
また、世界的に生じている半導体不足等のグローバルサプライチェーンを通じた供給制約、原油などの資源、原材料価格の世界的な高騰など、我が国経済を取り巻く環境には多くの下振れリスクが存在しています。内外経済の動向を常に注視し、感染症による影響や金融資本市場の予期せぬ変動等の影響にも十分な目配りを行いながら、万全の経済財政運営を行ってまいります。
こうした観点から、昨年十一月、財政支出五十五・七兆円にのぼる、コロナ克服・新時代開拓のための経済対策を閣議決定し、十二月には、その裏付けとなる令和三年度補正予算が国会で成立いたしました。医療提供体制の強化をはじめとする感染症対策の強化や、厳しい状況にある事業者や生活にお困りの方々への万全の支援、安全、安心を確保した上での経済社会活動の再開といったコロナ対応と同時に、ウィズコロナ、ポストコロナの経済社会をしっかりと見据え、成長戦略と分配戦略を車の両輪にした、成長と分配の好循環を起動させる未来志向の経済対策としております。
この経済対策の効果をより早く、より多くの人々にお届けできるよう、地方や現場の声をきめ細かく聞きながら、円滑かつ着実に実行してまいります。令和三年度補正予算と令和四年度本予算を切れ目なく、十六か月予算の執行を通じた万全の経済財政運営により、実質経済成長率は今年度に二・六%程度、来年度に三・二%程度となることが見込まれ、GDPは来年度には過去最高となると見込まれます。我が国経済を一日も早く民需主導の自律的な成長軌道に乗せ、デフレ脱却、経済再生が実現できるよう全力で取り組んでまいります。
危機に対する必要な財政支出は躊躇なく行い、万全を期します。経済あっての財政です。経済を立て直し、そして、財政健全化に向けて取り組みます。また、新経済・財政再生計画改革工程表の着実な実行やエビデンスに基づく政策立案により、適切かつ効果的な支出を推進してまいります。
日本経済を成長軌道に乗せた上で、岸田政権が目指す新しい資本主義を実現していきます。新しい資本主義は、健全な民主主義の中核である中間層を守り、気候変動などの地球規模の課題に対応しつつ、力強く成長する経済社会への変革を目指すものです。この変革に向けて、単に競争や市場に任せるのではなく、官と民がそれぞれの役割を果たすことで、成長と分配の好循環を実現してまいります。
まずは、成長戦略です。科学技術・イノベーション、気候変動問題への対応、デジタル、経済安全保障を柱とし、大胆な投資を進めてまいります。その際、政府、民間企業、大学等、地域社会、国民・生活者が、それぞれの役割を果たすことが重要です。
科学技術・イノベーションについては、十兆円規模の大学ファンドを本年度内に実現し、運用を開始します。また、世界と伍する研究大学に求められるガバナンス改革や外部資金確保の強化などの大学改革の実現に向けて、新たな大学制度を構築するための関連法案を今国会に提出する予定です。加えて、人工知能、量子、ライフサイエンスといった最先端の科学技術の開発力を強化します。
気候変動問題への対応については、エネルギー供給のみならず、需要側のイノベーションや設備投資など、需給両面を一体的に捉えて、クリーンエネルギー戦略を作ります。
デジタルについては、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて、自動配送や自動運転、ドローン宅配、テレワークといったフロンティア部分を地方から実装します。このため、自動配送サービスや自動運転移動サービスについて、今国会に関連法案を提出し、構造改革を進めてまいります。
経済安全保障については、サプライチェーンの強靱化や基幹インフラの信頼性確保などを進めるため、与党との協議を踏まえ、今国会への新たな法案の提出を目指し、経済安全保障の確立を進めてまいります。
次に、分配戦略です。人への分配は、コストではなく、未来への投資です。官と民が共に役割を果たすことで成長の果実をしっかりと分配し、消費を喚起することで次の成長につなげます。
まずは、国が率先して、看護、介護、保育、幼児教育などの現場で働く方々の給与を引き上げます。その上で、民間企業における賃上げを支援するため、賃上げ税制や補助金など、あらゆる施策を総動員していきます。また、中小企業等が労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できるよう、パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージに基づく取組を進めるなど、賃上げに向けた環境を整えてまいります。
付加価値を創出し、経済的豊かさや力強さをもたらす原動力は、人です。人への投資を抜本的に強化するため、三年間で四千億円規模の施策パッケージを講じてまいります。
春には、新しい資本主義実現会議において、全体のグランドデザインと、その実行計画を取りまとめます。
TPP11等、経済連携の強化も進めてまいります。我が国は、これまで、TPP11協定等の経済連携協定の推進を通じて、自由貿易の旗振り役としてリーダーシップを発揮してきました。日本は、昨年のTPP委員会議長国、本年の副議長国として、引き続き、本協定を通じた自由貿易の推進や、デジタル化などの新たな課題への対処において、主導的な役割を果たしてまいります。
昨年六月、TPP11として初めて、英国の加入手続の開始を決定しました。TPP11は、自由で公正な二十一世紀型の新たなルールを確立するものであり、市場アクセスの面でもルールの面でも高いレベルの内容となっています。日本は、英国の加入作業部会の議長の立場で、手続が協定の高いレベルを維持しつつ進むよう、他の参加国と共にしっかり取り組みます。また、その他の加入に関心を示しているエコノミーについても、協定の高いレベルを満たす用意ができているかどうかについて、しっかりと見極めてまいります。
あわせて、成長戦略に沿った、我が国の発展につながるような対日直接投資を戦略的に推進してまいります。
子供から子育て世代、お年寄りまで、誰もが安心できる全世代型の社会保障を構築してまいります。
先ほど述べた、看護、介護、保育、幼児教育などの現場で働く方々の給与の引上げは、分配戦略としても最優先の課題です。その第一歩として、民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、昨年十一月に閣議決定した経済対策において、必要な措置を行い、前倒しで引上げを実施することとしました。更なる引上げに向けて、昨年末に取りまとめていただいた中間整理に沿って、取組を進めてまいります。
男女が希望どおりに働ける社会や社会保障による負担増の抑制を目指して、女性の就労の制約となっている制度の見直し、勤労者皆保険の実現、子育て支援、家庭介護の負担軽減、若者、子育て世帯の負担増を抑制するための改革等について、全世代型社会保障構築会議において議論を進め、取組を前に進めてまいります。
新型コロナウイルス感染症という厳しい状況の中にあっても、デジタル、グリーン、人工知能、量子、バイオ、宇宙など、新しい時代の種が芽吹き始めています。リモートワークをはじめとする私たちのライフスタイルや意識も大きく変化しました。この萌芽を大きな木に育て、経済を成長させ、その果実を分配政策によってしっかりと国民全員で享受していく、明るい未来を皆様と共に築いてまいりたいと思います。
国民の皆様、議員各位の御理解と御協力をよろしくお願いいたします。(拍手)