データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第29回エカフェ総会における大平外務大臣演説

[場所] 東京
[年月日] 1973年4月12日
[出典] 外交青書18号,67−73頁.
[備考] 
[全文]

議長,代表各位,御列席の皆様

 私は,先ず日本代表団を代表し,議長および副議長に対し,満場一致の指名を受けられたことに心からの祝意を表します。また,エカフェ加盟諸国の代表の方々を日本にお迎え出来たことをよろこぶものであります。さらに,私は,中国が本総会に出席されたことに歓迎の意を表するとともに,中国が今後エカフェの活動を一層充実したものとするため,積極的に貢献されることを期待するものであります。私は,同様に,今回準加盟国として初めて総会に参加するクック諸島の代表団を歓迎いたします。

議長

 エカフェは,発足以来四半世紀を経過し,今年はその第二の四半世紀に入りました。この間,エカフェは世界最大の国連地域経済委員会に成長し,また,アジア・太平洋地域最大の協力機構に発展致しました。私は,この機会に,これまでアジア・太平洋地域における地域協力のパイオニアとしてのエカフェを立派に統率してこられた歴代事務局長に深い敬意を払うものであります。わけても1959年以来この職にあり,今日のエカフェを築かれたウ・ニュン現事務局長の献身的努力を高く評価するものであります。

議長

 ここ1,2年来エカフェ地域はさまざまな重要な出来事を経験いたしました。それらはこの地域における潮流が大きく変りつつあることを示唆するものであります。ヴィエトナムおよびラオスにおける和平協定の成立もその一つであります。私は久しく待望されていた和平の実現を歓迎するとともに,今後この和平が真に定着してエカフェ地域全体の安定に資することを心から希望するものであります。そのためにはこの地域全体の経済開発を通じて民生の安定と向上をはかり,平和の基礎固めを行なうことが肝要であります。

議長

 今やエカフェは,このような新情勢を背景として,また近く新事務局長を迎えて,第二の発展の時代を迎えんとしています。このような展望を前にして,私はエカフェの意義とあり方について若干所見を述べたいと思います。

 先ずわれわれが留意すべきことはエカフェ諸国の多様性ということであります。エカフェ地域は民族,伝統,発展段階,社会体制等において相異なる多数の国々から成つているということであります。

 また,エカフェは,他の国連地域経済委員会と異なり,ほとんど総ての域内諸国とこの地域の開発に関心を抱く主要な域外先進諸国を包含していることであります。この多様性と普遍性とを兼ね備えていることが,エカフェの強みであり,また活力の源でもあると思います。

 私は,今後エカフェがその特性を十分に発揮し,地に着いた,かつ,真に有効な,諸国間の協議と協力の場として発展して行くことを心から期待するものであります。このためには,今やエカフェで取り上げるべき問題は多岐にわたつているだけに,常に問題の優先度を考える必要があると思います。また,検討の基礎となる調査・研究を充実するとともに,精力的に多角的審議を尽して,この地域の開発努力が全体として最大限の効果を挙げるよう配慮すべきでありましよう。

 あわせて,私が強調しておきたいのは,エカフェの有するよき伝統を維持して行くということであります。それはエカフェが経済・社会開発のみに専念し,かつあくまでも各国の立場を尊重してその決定は原則としてコンセンサスによるという慣行を確立してきたということであります。エカフェが多様性の中に協力の方途を見出しえたのはまさにこの二つの原則が維持されてきたからであると思います。私は,エカフェが政治紛争の場と化したり,南北対決の場に転ずることのないよう,この機会に強く希望を表明しておきたいと思います。

議長

 1973年は第2次国連開発の10年の「開発戦略」をレビューするはじめての年にあたります。また今次エカフェ総会は地域レベルにおける右レビューの実施という重要な任務を与えられています。エカフェ地域は世界の人口の過半数を占めており,この地域における戦略目標の達成は第2次開発の10年の成否を左右する重要性を有しています。エカフェ諸国としては,現実的かつ的確な対策を講じ,開発目標の達成に全力を尽すべきであると考えます。

議長

 われわれが常に心すべきことは,遥か将来を予見しつつ,手近かで緊急な問題から片付けて行くということであります。これはすべての問題についていえることでありましようが,特にアジアの経済開発について重要なことと考えます。この意味で私が先ず取り上げたいのは,エカフェ開発途上国にとつての農業開発,とりわけ食糧生産の重要性ということであります。

 アジアの開発途上地域の経済は農業依存度が極めて高く,農業開発は経済開発の成否を左右する重要性を有しています。もとより,この地域における工業化および資源開発の推進は極めて重要であり,わが国としてもこのための協力をおしむものではありません。しかしながらわが国自身の経験からみても,最近のアジア諸国の状況からみても,工業化を成功させるためには先ず農業の基礎固めを行なつておくことが肝要であると考えます。

 かかる観点からみてこの地域の農業生産に画期的な意義があつたのはいわゆる「緑の革命」であります。しかし,最近では,その「緑の革命」がこのままではモメンタムを失なう惧れが生じてきているといえます。それどころか,アジア諸国における米不足は本年に入り更に深刻さを増しております。かかる米不足は開発の促進のためにも民生の安定のためにも大きな問題であります。わが国としては,当面の協力策として,わが国の食糧援助においてアジアの伝統的米輸出国の産米の一部を買い上げ,これを米不足国へ供与してまいりたいと思います。また,米不足国における増産対策については,このための経済技術協力を一層強化して行く方針であります。

議長

 従来,エカフェの場では農業問題は主たる討議の対象とされていなかつたと承知しています。それには種々それなりの理由がありました。しかし,エカフェがエカフェ地域の経済社会開発に関する重要問題を検討する場である以上,私は,農業の問題も当然エカフェの場で積極的に取り上げるべき問題であると考えます。

 具体的には,米を中心とする農産物の需給の実情把握と短期および長期の見通しの検討,需給の安定化のための方策の探究,増産と生産の安定化のための施策の推進等がそれであります。食糧生産の増大と安定化には農業の近代化が必要であります。従来エカフェで取り上げている工業化や天然資源の開発についても,農業関連産業の育成,インフラストラクチャーの整備といつた面から,もつと農業開発と有機的に結びつけるべきでありましよう。かくして,効率的な農業開発に重点をおいた総合的見地からの新たな経済開発戦略の探究こそ,エカフェに課せられた使命ではないかと考えます。

 このためには,これまでエカフェに欠けていた農業問題に関する政府間協議の場を持つこと,例えば農業会議の開催ないしエカフェ農業委員会の設立について検討すべきであります。従来極度に手薄であつた事務局の農業関係部局も強化すべきであります。また必要と認められれば農業開発に関連する問題を総合的に研究するための場を設けることも考慮すべきでありましよう。その際はFAOをはじめこの分野で有益な活動を行なつている諸機関,諸団体と十分連携を保ち,かつ,調整をはかつて行くべきであると考えます。

 以上の諸問題につきわが国としては幅広く協力策を検討して行く意向であります。例えば,農業関連産業の育成という観点から,アジア農業機会研究所の設立のため全面的に協力する用意があります。

 このほか身近かな問題としては,食糧不足を深刻化させ,大衆の貧困,大量失業の要因ともなつている人口問題や,社会開発問題についても,速やかに適切な施策をあわせて講じて行く必要があります。

議長

 私が提起したい第二の問題は,より長期的にみたエカフェ地域の将来という問題であります。

 エカフェ地域の開発途上国はいずれも近代化を目指して経済開発を推進しています。その過程で生じる最も大きな問題の一つは,一国の開発と地域全体の発展とをどのように関連付けるかということであります。エカフェ域内開発途上国は,その人口,資源,発展段階等におてい{前2文字ママ}種々様々なものがあります。それだけに各国ばらばらに開発努力を進めることは,市場の規模,資源の効果的利用,総合的経済力の拡充といつた点からみて種々問題があり,その間の調整をはかることが望まれます。

 これは究極において国家主権と国民の選択に関連する問題であり,それだけに言うは易くして実行困難な問題であります。エカフェにおいて,かねてから計画調整が討議されながら,結果において殆んど進展を示していないことがその証左であります。しかし,そのことはこの問題の重要性を否定するものではなく,むしろ困難であるからこそ一層この面における努力を払う必要があるのではないかと考えられます。

議長

 私はこの問題の難しさを述べて来ましたが,つきつめてみれば,この問題の本質は自己を犠牲にすることにあるのではなく,自己の特性に最も適した開発の方途を探究することにあります。私はアジア諸国がかかる観点から長期的にみたアジアの共同開発計画とでも呼ぶべきものを目指して,エカフェにおいても種々具体策を検討してみることを希望するものであります。そのためには,各国の実状と理念を最もよく知る各国の専門家を中心に検討を進めて行くことが肝要だと考えます。

議長

 私が第三に取り上げたいのはインドシナの問題であります。

 ヴィエトナム戦争の終結がアジアにおける新しい時代のはじまりとなりうる重要な出来事であることは前述のとおりであります。しかし,ヴィエトナムに次いでラオスにおいても和平協定が成立したものの,カンボディアにおいては依然解決の糸口もつかぬ状態が続いており,この地域で達成されつつある和平にはなお不安定なものがあります。私は,インドシナ諸国民が一日も早くこの地域の復興と再建のためにすべてのエネルギーを傾注することが出来るようになり,民生の安定と福祉の向上をはかり,もつて,インドシナ地域に永続的な平和が確保されることを心から念願するものであります。

 わが国としては,インドシナの復興援助について出来るだけの協力を惜しむものではありませんが,この種の援助は,全インドシナ地域を対象として,社会体制の相違を越えた幅広い国際協力に基づくことが望ましいと考えます。しかし,わが国としては,被援助国の意向もあり,また,関係各国とも協議する必要がありますので,その間,二国間ベースでも出来るところから援助を推進していく所存であります。

 インドシナ和平の問題は近隣諸国にとつても言うまでもなく重大な関心事であると思います。インドシナ地域に対する復興開発援助の実施にあたつては,当然のことながら,周辺諸国の利益が配慮されなければならないことは言うまでもありません。もとよりわが国のこれら諸国に対する従来よりの経済協力政策の推進についてはなんら変化はありません。また,わが国政府がインドシナ地域に対して援助を行なう際には,近隣諸国の産品の活用に配慮する所存であることを,この機会に明らかに致したいと存じます。

 現在インドシナ地域においては,メコン委員会その他の活動を通じて,エカフェは重要な役割を果たしつつあります。また,インドシナ地域の復興と開発は,この地域の諸国のみならず,近隣諸国,さらには広くエカフェ諸国共通の関心事であると信じます。今後のインドシナ地域に対する経済協力をより効果的なものとするためには,何よりも,インドシナ諸国のみならず,近隣の東南アジア諸国の長期的な経済見通しに基づいて援助のあり方を検討することが必要であると考えます。エカフェは,従来よりの実績に照らしても,かかる分野で十分貢献しうるものであると信じます。また,わが国としてはかようなエカフェの活動については全面的に支援したいと思います。

 更に,エカフェがこのような役割を十分に果たしうるためにはすべてのインドシナ諸国がエカフェに参加していることが望ましく,一日も早くそのような日が来ることを期待するものであります。

議長

 わが国はこれまでアジアの繁栄と発展のために出来るかぎりの協力を行なつてきました。これは一つにはかかる協力が同じアジアの先進国としてのわが国の責務であると考えるからであります。また一つにはアジアの繁栄と発展なくしてわが国の繁栄も発展もありえないと考えるからであります。わが国としては,これまでに達成した経済的成果を,国内においては福祉社会の実現に仕向け,外においては開発協力の推進といういずれも真に平和的な目的に有効に利用する方針であります。また新国際ラウンドの推進等世界経済の新しい秩序作りにも積極的に貢献して行く方針であります。

 貿易面では,今後とも輸入の自由化,関税の引下げ,一般特恵の質的改善等を通じてこれら諸国からの輸入の拡大をはかつて行く意向であります。

 わが国のエカフェ開発途上諸国からの輸入は近年急速に伸びており,このような伸びが継続するならば,これら諸国からのわが国の輸入は5年後には100億ドルを越えることも不可能ではないと思われます。この場合,わが国における高賃金と労働力の逼迫,産業構造の高度化,国際通貨変動により生じた価格競争力の変化等を総合すれば,エカフェ開発途上国が従来より推進してきた工業化の結実たる農産加工品ないし工業製品はわが国においてますます販路を拡大することになると期待されます。

 経済協力面においては,わが国はGNPの1%目標を既にほとんど達成し,また昨年の第3回国連貿易開発会議においてODA0.7%目標を受諾しました。更にわが国援助のアンタイイングにつきましては,かねてよりその積極的拡大に努力する方針を表明してきております。昨年12月の第7回東南アジア開発閣僚会議においては,私はかかるアンタイイングの積極的拡大の一環としてわが国の供与する借款につき開発途上国からの調達の道を開く意向を表明いたしました。しかしわが国の援助の内容については,質量の両面にわたつて改善すべき余地が未だ多く残されております。援助条件については累次の国際的目標を考慮しつつ最善の努力を続け,またアンタイイングについても一般的なアンタイイングの実施に向かつて,積極的努力を続ける所存であります。また援助の対象分野についても,工業プロジェクトのみならず,前述の農業をはじめインフラストラクチャーの部門更には医療,教育,マンパワー等の社会開発の分野に従来以上の重点を指向してゆく考えであります。

議長

 現状において多数の問題が山積し,迅速な処理を要していることは,経済概観の指摘するとおりであります。しかし,私は,人類がこれまで数多くの問題を克服し発展を続けてきたことを想起し,英知を結集し,希望をもつて,将来に対処して行くべきであると考えます。わが国は他のエカフェ諸国と相たずさえて,エカフェ地域の繁栄と発展のために出来るかぎりの協力を続けて行く所存であります。

 有難うございました。