データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国際経済協力会議閣僚会議における宮澤外務大臣の演説

[場所] パリ
[年月日] 1975年12月16日
[出典] 外交青書20号,81−82頁.
[備考] 
[全文]

議長,代表各位

1.わが国政府を代表し,本日ここに国際経済協力会議が開催され,先進工業国と開発途上国の間の幅広い経済問題につき対話を行うための第一歩が踏み出されることとなつたことを心から歓迎する。

  特にわが国はこれまで一貫して,このような対話の実現を希求し,そのための努力を払つてきたわけであり,われわれはこの会合に出席できることを特に大きな喜びとするところである。

2.わが国は,本会合の開催にあたり,関係国が果たしてきた役割を高く評価するものであり,特に仏政府のイニシアティヴ及び同政府が行つた準備及び配慮に対し敬意を表したい。

3.現在,世界の多くの国は未だに不況,インフレ,国際収支困難という「三重苦」を脱したとはいえず,特にスタグフレーションの継続は多くの国にとり困難な問題となつており,なかんずく,大半の非産油開発途上国については困難が大きい。

  世界がかような「三重苦」を脱し,安定かつ継続的な成長を実現することはすべての国が現在必要としていることである。そのためには,各国が各々の努力を国際協力を通じて行うべきであり,国際協力の最も効果的かつ現実的な形態を模索することが必要であろうと考える。

4.エネルギー問題,一次産品問題,開発問題及びこれらに関連する金融問題はいずれも現下の国際経済が直面する困難な問題である。これらの分野での協力の態様の検討にあたつては,まず各参加国が,各国経済が深く相互に関連しており,いずれの国も単独では問題の解決をはかりえない現実を十分認識することが必要である。

5.わが国としては,準備会合の勧告に基づき今次会議により設立される4つの委員会の活動を通じて参加国の間で建設的な討議が行われ,先進工業国と開発途上国との間に対決ではない,調和ある永続的な関係を確立するための不断の努力が積み重ねられ,根をおろすことを期待している。

6.これら4委員会の取り扱う問題についてのわが方の基本的考え方を述べれば次のとおりである。

  まず,エネルギー問題については,世界経済とエネルギーの価格及び供給は密接に結びついていることを各国等しく認識するに至つている。さらに,エネルギー問題はもはやいかなる国も単独では解決しえなくなつており,その根本的解決のためには産油国・消費国を含む関係国による対話が最も有効かつ必要なのである。かかる認識に基づき,エネルギーの分野では,石油問題と世界経済との関係等を過去の経験をも正しく踏まえて,消費国と産油国との間に調和ある永続的な関係を促進していくを望んでいる。

  次に一次産品問題については,一次産品の生産維持拡大及び貿易を通じて,生産国と消費国との双方に最も効果的に,かつ合理的な条件で一次産品が用いられることが,世界経済の健全なる発展に肝要であると考えているところ,長期的視点からいかなる方途が望ましいかを検討すべきと考える。この際我々としては,他の機関における進歩を勘案することが必要であろうと考える。

  開発問題については,開発途上諸国の自助努力を基礎とした経済発展に対するaspirationを理解し,かつ,開発途上諸国が現下の困難なる経済状況にあることを配慮して,協力に基づいて開発途上国の開発を促進するための方途を,他の国際機関の場における進捗及び既に達成された成果を踏まえつつ,検討することが必要であると考える。

  更に,金融委員会においては,IMF・世銀等の国際機関の権限を尊重しつつ,他の委員会の作業に関連し,また,参加国にとつて重要な金融問題をとりあげるべきものと考える。

7.準備会合において採択された最終宣言は2回にわたる長い討議を経て達成された関係国の妥協の上に成立しているものである。本件会議は,準備会合最終宣言の勧告に基づき4委員会を設置し,同委員会の討議開始に必要な手順を整えるところにその目的がある点を想起すべきと考える。わが国は同宣言の提案を全面的に支持するものであり,本件会議がこれをendorseする形で各委員会の一般的方向付けを設定することにより所期の成果を収めるよう希望する。

8.最後に,今次会合が議長の指導のもとに,各国の協力をえて成功裡に終わり,委員会が,明年早々にも実際の活動を開始しうることとなつて,明年が対話という観点からみて飛躍の年となることを祈りたい。