データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第9回UNCTAD総会における池田外務大臣の一般討論演説

[場所] ミッドランド(南アフリカ共和国)
[年月日] 1996年4月30日
[出典] 外交青書40号,208−211頁.
[備考] 
[全文]

 議長、事務局長、ご列席の皆様、

 私は、ここに演説を始めるに当たって、日本国政府を代表して、第9回UNCTAD総会が南アフリカ共和国において開催されることに祝意を表したいと思います。新しい国際情勢の中での開発問題を中心に議論が行われる今次総会が、豊かな未来を持つ新生南アフリカ共和国で開催されることは、正に時宜を得たものと考えます。

 マンデラ大統領をはじめとする南アフリカ政府関係者の方々による今次UNCTAD総会開催のための多大なるご尽力に感謝申し上げるとともに、アーウィン大臣閣下の本総会議長ご就任を心よりお祝い申し上げます。

 また、先ほどタイのアムヌアイ副首相より、次回第10回UNCTAD総会を主催したいとの招請があり、これが直ちに決定されましたが、わが国としては、これを心から歓迎したいと思います。

(世界経済情勢の変化と新たな開発戦略)

 議長、

 今日、市場経済の拡大と著しい技術革新により、財、資本、情報の国際間の移動が、かつてないほどダイナミックに展開されています。このような国際経済情勢の変化に対応するために、各国は、規制緩和、民営化を中心とする国内経済の自由化に努めるとともに、世界貿易機関(WTO)の設立を含む多角的自由貿易体制の強化を図ってきました。

 こうした状況において、開発途上国が、国際経済の新たな枠組みに円滑に参入できるようにすることは、国際秩序の安定と世界経済全体の発展のために益々重要な課題となっています。しかし、現実には、多くの開発途上国が、未だに国内対立、貧困層の存在、社会・経済インフラの欠如、マクロ経済情勢の不安定、民間部門の未成熟などの深刻な問題を抱え、世界市場に十分参入できずにいることも事実であります。

 そこで私は、開発の問題に一層有効に取り組むために、前回カルタヘナ総会で生まれた先進国と開発途上国が協調する「新たなパートナーシップ」の考え方を踏まえ、開発途上国が自助努力を進める中、国際社会全体として真剣に協力するとの観点から、新たな開発戦略を策定する必要を訴えたいと思います。

 新たな開発戦略を策定するに際しては、幾つかの点に留意する必要があると思います。

 まず第一に、開発により達成すべき成果について開発途上国と先進国が共通のヴィジョンを持つことが重要であります。また、このためには、客観的で、実現可能な成果に着目した開発目標を設定することが適当と考えます。例えば、経済開発面では、現在13億人と推計される極度の貧困層の大幅な削減を図ることを目標に掲げ、また、社会開発面では、初等教育の普遍化、乳幼児死亡率の削減、妊産婦死亡率の削減等を目標とし、その実現のために開発途上国と先進国が「新たなパートナーシップ」に基づいて共に協力するというアプローチを採ることが有益であると考えます。

 第二に、経済のグローバル化が進展する中で、開発における民間部門の役割の重要性が高まっており、このことからも、民間企業が自由な経済活動を活発に行うための環境を整備することが特に重要となっています。このためには、開発途上国における法律や制度の整備、マクロ経済の安定化、貿易・投資の促進、技術移転等の多様な政策を含む、包括的なアプローチを探求する必要があります。

 第三に、開発途上国の中にも、世界経済の変化によって生じた機会を十分活用して成長している国もあれば、そうでない国もあります。また、社会、文化、環境・資源などの条件も国ごとに異なります。したがって、個別の国ごとに、最適な政策手段を組み合わせた、きめ細かいアプローチをとることが肝要です。

(UNCTADの新たな役割とわが国の協力)

 議長、

 開発を推進するための国際的な努力の中で、UNCTADはどのような役割を果たしていくべきでしょうか。UNCTADは、開発途上国の世界経済への統合を促進し、途上国が世界経済の変化によって生じた機会を有効に活用できるように支援していく国際機関となるべきであります。具体的には、事務局による水準の高い調査、分析に基づき、行動志向的な政策対話を行い、望ましい措置を特定し、具体的ニーズに応じた技術協力を展開していくべきであります。そのためにも、我々は、政治的で南北対立型になりがちであった従来のUNCTADの交渉スタイルから脱却し、開発途上国と先進国の「新たなパートナーシップ」に立脚した協力を推進する必要があると考えます。

 UNCTADが限られた資源の中で、このような役割を効果的に果たしていくためには、途上国にとって最も重要な、経済のグローバル化と自由化への対応という方向に、その活動を集中することが不可欠であります。近年のUNCTADの活動は、こうした明確な焦点を欠いていたために十分な成果が挙げられなかったのではないでしょうか。

 UNCTAD改革の意義は、開発途上国の世界経済への統合を推進するための活動の強化にあり、この意味からも、改革が単なる節約に終わってはならず、改革によって得られる節約資金の一部は、開発途上国が真に裨益するような活動、例えば技術協力の分野に再投資されることが重要であると考えます。わが国としては、この再投資という考え方に対する各国の支持を強く期待するものであります。

 UNCTAD改革は、今や経済・社会分野における国連改革のテスト・ケースと認識されています。わが国としては、国連全体の活性化の為にも、今次総会が改革案に合意し、これを実施に移すことが極めて重要であると考えます。更に、リクーペロ事務局長が進めておられる事務局改革についても、わが国としてはこれを強く支持いたします。

 議長、

 わが国は、UNCTADが活動の焦点を絞り、国際経済のグローバル化に沿った、より具体的な貢献を行っていくための協力を強化したいと考えております。特に、UNCTADが今後優先的に取り組むべき分野は、貿易・投資面の南南協力の促進であると思います。この面では、世界経済の変化に適切に対応し、急速な経済成長を経験してきた新興工業諸国の経験が大いに参考になると思われます。わが国は、UNCTADがこの分野での途上国間の開発経験の移転に積極的に貢献することを支持いたします。わが国は、UNCTADが、東アジアの多様な成長要因の分析及びその成長手法の他の地域での適用の検討、WTOへの加盟に向け努力している未加盟途上国における国内制度の整備、一次産品に関する企業化の促進などの面で貢献していくことに協力していく所存です。これらの協力の実施に当たっては、特に後発開発途上国が大きく裨益するよう配慮したいと思います。

(アフリカ開発への取り組み)

 議長、

 現在、アフリカ地域には、後発開発途上国48か国のうち33か国が存在していますが、この地域にとり、開発の促進は最も重要な課題の一つであります。1980年から92年までに一人当たりGNPは開発途上国全体で4%増加しているのに対して、アフリカ諸国は平均で1.8%のマイナス成長であったという事実が示すように、アフリカの抱える貧困問題は引き続き深刻であります。また、一部の国は国造りに不可欠な政治の安定をなお達成しておりません。

 他方、近年南部アフリカ諸国に代表されるように、国民和解と民主化を達成し、構造調整政策の実施を始め、着実な国造りに努める「アフリカの新しい流れ」も見られ、国際社会はこれを出来る限り支援していく必要があると考えます。

 アフリカ諸国が自立的な成長を達成するために、国際社会は、アフリカ諸国の適切な開発政策の策定及び実施を支援していくべきであり、また、アフリカ諸国の民主化努力に協力するとともに、経済改革の実施によってしわ寄せを受けやすい基礎社会分野における支援を強化する必要があります。

 わが国は、このような観点から、1993年に東京において「アフリカ開発会議」を開催し、アフリカ諸国による自助努力と良き統治が重要であること、及び開発を進めるに当たって国際社会における「新たなパートナーシップ」が不可欠であることについて合意を見るに至りました。また、わが国は、この会議において表明した、アジアの経験をアフリカ開発に活かすためのフォロー・アップ会合を開催するとともに、民主化支援、経済改革支援、人造り支援、環境支援及び政策対話等を通じた効果的効率的支援の5分野を重点に、積極的に支援を行ってまいりました。

 さらに、わが国は、人口・エイズの問題やポリオの根絶を始めとする地球的規模の諸問題に積極的に取り組んでおります。わが国としては、2000年までにアフリカからポリオを根絶することを目標として、積極的な支援を行う所存であります。

 わが国は、「アフリカ開発会議」以降の進展をレビューし、アフリカ開発のモメンタムを国際社会として更に推進するため、98年を目途に「第2回アフリカ開発会議」を、97年にその準備会合を、それぞれ東京で開催することを提唱いたします。これらの会議には、アジア諸国からもハイレベルの参加を得たいと考えております。

 更に、わが国は、アフリカにおける人造りのために、2015年までにアフリカ諸国のすべての子供が初等教育を受けられるようにすることを国際社会の目標とすることを支持し、アフリカにおける教育を拡充するため3年間に1億ドルを目途に支援を行うことを明らかにしたいと思います。また、人造りの分野において、わが国に、今後3年間で技術研修のため3000名程度を受け入れることに努めるとともに、アジア・アフリカ協力を含む南南協力を推進するため、UNDPにわが国が拠出する「人造り開発基金」のうち200万ドルを活用する方針であります。

(結語)

 議長、

 国連が、開発分野でいかなる役割を果たし得るのかにつき様々な議論が行われております。今次UNCTAD総会は、かかる議論の今後の方向性を示す上で重要な試金石となるものであり、我が国としては、その成功を心より希望するとともに、そのためになし得る限りの努力を傾注する所存であります。ご静聴ありがとうございました。