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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] アフリカに関する安保理閣僚会合における小渕外務大臣演説

[場所] ニューヨーク
[年月日] 1997年9月25日
[出典] 外交青書41号,245−246頁.
[備考] 
[全文]

議長、

事務総長、

ご列席の皆様、

 私はまず、本日の議長であり、アフリカに関する安保理閣僚級公式会合のイニシアティブを取られたオルブライト米国務長官閣下の熱意と御努力への敬意と謝意を表したいと思います。本日の会合において安保理が閣僚級でアフリカに対するコミットメントを改めて明らかにすることは極めて有意義なことであると考えております。

議長、

 今日のアフリカで生じている多くの深刻な紛争は、アフリカの平和と繁栄にとってのみならず国際社会全体が直面している最も大きな挑戦であります。国連の主要機関として国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を負っている安保理にとって、アフリカの問題の解決のために如何なる成果を上げられるかが、その実効性の試金石となっております。冷戦終焉後のアフリカでは、「良き統治」の失陥、市民社会の崩壊或いは部族間の対立等に起因する紛争のように、社会的要因が原因となっている紛争が数多く生じており、これらは冷戦時代の紛争とは様相を異にしております。アフリカの多くの地域の社会生活を破壊しているこのような紛争の多発を前にして、安保理が必ずしも有効に対処できていないとの批判も見られます。安保理は、自らの役割をもっと能動的に発揮すると共にアフリカ諸国自身による紛争予防・解決への努力を今後一層積極的に後押ししていくべきであります。まさに安保理がアフリカの紛争に一層有効に対処できるよう、その正統性と実行性を向上するための改革が緊急に求められているのであります。

 これらの紛争の原因の多くがアフリカ諸国の固有の社会状況に根ざすことから、安保理は、アフリカ統一機構(OAU)、あるいは西アフリカ諸国経済共同体といった地域的国際機関との協力関係をこれまで以上に密接にしていくべきであると考えます。我が国は、明年1月に、「紛争予防戦略に関する国際会議」を東京で開催致しますが、同会議では、アフリカに焦点をあてて、本日の会合の成果をも踏まえてこの点についても具体的な提言を求める考えであります。

 さらに、アフリカにおける紛争の予防と解決を考えるに際しては、難民、避難民等に対する人道支援の側面も重要です。我が国は、UNHCR、ユニセフ、国際赤十字等の国際的な人道関係機関のこれまでの努力を評価すると共に、今後、安保理がこれら機関等とこれまで以上に密接な協力関係を追求すべきであると考えます。また、全ての紛争当事者に対し、国際的な人道法の原則を十分に遵守するとともに、人道要員の安全確保のために最大限の努力を行うよう改めて訴えます。

議長、

 我が国は、アフリカの紛争問題に対処するためには、開発の問題にも対処することが極めて重要であると考えております。なぜなら、開発と平和は、いわばコインの表と裏の関係にあり、開発なくして紛争の火種は除去されず、また平和なくして開発の条件は整わないからであります。我が国は、国連と協力しつつ開発問題への取り組みを通じて国際平和に貢献すべく、途上国自身の主体性と先進国と途上国との「真のパートナーシップ」に基づいた「新たな開発戦略」を提唱しております。この戦略は、我が国をはじめとするドナー諸国が途上国及び世銀、国連等の開発問題の全てのパートナーと力を合わせてODA、貿易、投資、人造り等を有機的に組み合わせて開発を進めようとする包括的な戦略であります。この戦略の具体化のために全ての当事者から指示と協力が得られるよう期待しております。明年秋には、閣僚レベルの参加する「第2回アフリカ開発会議」を国連及びアフリカのためのグローバル連合(GCA)と共催で東京で開催する予定であります。この会議においては、この戦略をアフリカに適用する方途を探り、アフリカの開発を通じたアフリカの紛争予防の促進のために実質的な前進を得るよう、関係各国の協力を得たいと思います。

議長、

 我が国は、アフリカの安定を達成することは、21世紀の国際社会全体が、平和と安定の基礎の上に一層の繁栄を続けていくための重要な鍵であると考えております。安保理は、紛争の問題と開発の問題を、密接な相互連関性をもって捉えるべきであり、更に人道支援の側面、紛争後の復興開発の問題をも視野に入れた包括的なアプローチを探求すべきであると考えます。そのためには安保理と他の機関との協力の強化が必要なことは言うまでもありません。我が国としては、事務総長が、かような問題意識に基づき、アフリカにおける紛争解決の具体的方途を検討の上、早期に提案されるよう求めます。右提案をもとに、我が国としても可能な貢献の方途を一層積極的に探求していきたいと考えております。また、各国の賛同が得られれば、適当な場合には、明年前半に予想される我が国の議長国就任の際に「紛争予防戦略に関する国際会議」の成果をも考慮に入れつつ、本件を改めて安保理で取り上げる機会を設定したいと考えます。

 ありがとうございました。