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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第2回アフリカ開発会議(TICAD II)における高村外務大臣政策演説

[場所] 東京
[年月日] 1998年10月21日
[出典] 外交青書42号,228−230頁.
[備考] 
[全文]

議長、

御列席の皆様、

 小渕総理大臣は、一昨日の開会式において、「TICADプロセス」で「アフロ・オプティミズム」の実現を目指そうと提案致しました。アフリカが抱える課題とその解決へ向けた具体的なアプローチと優先づけがこの2日間の討議の中で明確になったと思います。私は、開発におけるオーナーシップ(自主性)の着実な定着を歓迎すると同時に、アフリカ諸国とアフリカ地域内外の諸国のパートナーシップが確たるものとなるよう強く期待しております。民間主導型成長とこれを支援する開発パートナーやアフリカ政府の具体的政策が行動に移されれば、必ずや21世紀は新生アフリカの時代となると確信致します。

 このようなアフリカのオーナーシップ及び国際社会とのパートナーシップという考え方に基づき、本日、私達は「行動計画」を採択致します。私は、この「行動計画」の柱のうち、社会開発、経済開発、開発の基盤整備、南南協力の推進、援助協調の強化に焦点を当てて、我が国の考えと貢献策について述べたいと思います。

 第一に、開発の基本目的は全ての人々の生活の向上にあり、このような「人間中心の開発」を実現する上で、基礎教育の充実、保健医療サービスの改善、清潔で十分な水資源の確保が極めて重要であります。

 TICAD I以降の過去五年間に、わが国のODAにより、アフリカにおいて約120万人の子供達に新たな教育施設の整備が行われ、また良質な水の確保と保健医療サービスの向上を通じ1,500万人以上の人々の基礎的な生活環境を改善してきました。わが国としては、「行動計画」に含まれる初等教育の普及や妊産婦・幼児死亡率の低下等についての目標達成に向けて貢献するため、アフリカにおけるこれらの基礎生活分野での支援を継続し、向こう5年間を目途に900億円程度の無償資金協力実施を目指す所存です。この結果、新たに約200万人の児童生徒に新たな教育施設が提供され、更に1,500万人以上の人の生活環境改善が図られることが期待されます。

 また、マラリアをはじめ寄生虫病対策を進めるための協力センターをケニア及びガーナに設置し、国際的な研究の連携や技術研修の拠点として育てていくための支援を行います。

 更に、従来から積極的に取り組んでいる人口やエイズの問題に関する支援やポリオ撲滅に向けた支援を国際機関や米国とも協調しつつ進めていきます。

 第二に、民間セクターの活性化を通じた経済開発が、アフリカを世界経済に統合するために不可欠であると考えます。その一助としてわが国がマレイシアや国際機関と協力して「アフリカ投資情報センター」を設置し協力を進めます。また、本日「行動計画」の採択後に開催される「官民交流セッション」においても、わが国経済界とアジア・アフリカ諸国の参加者の間で民間経済交流につき有益な議論が行われることを期待します。

 アフリカの基幹産業である農業に関しては、持続可能な食料・農業生産の確立を図るため、アジア諸国との連携も図りつつ稲作を振興するための協力を西部及び南東部アフリカで展開していく考えです。

 また、今後有望なアフリカの観光産業について、人材開発を中心とした支援を行う予定です。

 第三に、開発の基盤となる安定化のための支援が重要です。

 アフリカの持続的開発には、民主化、良い統治、人権の尊重、法の支配を確立することが不可欠です。そのため、アフリカの文化や伝統に留意しつつ、適切な制度・組織を構築し、人材を育成する必要があると考えます。また、持続的開発には紛争の予防が極めて重要であり、紛争後の復興開発が遅滞なく進められる必要があります。平和と安全があって初めて経済発展につながっていくという認識を、本会合への参加者は共有できたのではないかと思います。

 わが国は、国連開発計画(UNDP)と協力して、アフリカ各国の統治の透明性や説明責任の向上を促していく考えであります。また、アフリカ統一機構(OAU)の紛争予防・管理・解決メカニズムの強化を支援したり、アフリカ難民の再統合に向けた国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の活動を支援していく考えであります。現在サハラ以南アフリカには二千万弱の地雷が埋設されていると言われています。既にわが国は対人地雷禁止条約を批准しましたが、「犠牲者ゼロ」の目標達成に向けて地雷除去と犠牲者支援のため5年間を目途に100億円程度の支援を行うこととしており、その一環としてモザンビーク等のアフリカ諸国についても資金的・技術的支援を行って参ります。

 第四に、アジア・アフリカ協力を含む南南協力の拡大は、今後アフリカ開発に大きな役割を果たすものと考えます。現下の厳しい経済情勢にも拘わらず積極的にサブ・サハラ・アフリカへの支援を表明したアジア諸国や、北アフリカ諸国を高く評価します。特にアジアの国々の過去30年間の高成長の経験を技術協力等を通じて共有することは、アフリカ諸国にも大きな利益をもたらすものと信じます。

 また、アジア・アフリカ・フォーラムを今後も定期的に開催し、両地域間の政策対話の基本的枠組みを維持していく所存です。

 第五に、アフリカ諸国と種々の開発パートナーとの協調を強化するために、アフリカ開発のためのネットワーク構築を提案します。

 わが国は、わが国の協力により設立されたケニアのジョモケニヤッタ農工大学等をアフリカ諸国に広く裨益する人造りの拠点とすべく協力を進めたいと考えており、将来的に他のドナー等の支援を得て人造り拠点のネットワークが形成されることを期待します。

 また、アフリカ開発に関する共同研究や人材育成事業の実施を目的とする開発研究機関のネットワークを、アフリカ、アジア、他のドナー諸国の間で構築する予定です。さらに、わが国との交流のネットワークのために「日・アフリカ交流構想」を取り進めてゆきたい考えです。

御列席の皆様、

 本日、私達が採択する「行動計画」には適切なフォローアップ・メカニズムが必要です。そのためにわが国は、UNDPと協力の上、「TICAD・ファシリティー」を設け、アフリカで地域別にモニター会合を開き、また優良なアジア・アフリカ協力プロジェクトを支援していきたいと考えています。

 「山と山は出会わないが、人と人は必ず出会う」というスワヒリ語の格言があると伺っています。今次TICAD IIにおいては、アフリカとその開発パートナーの政府間の対話のみならず、民間分野も含めたより多角的な対話の第一歩が踏み出されました。例えば昨日は、開発において益々重要な役割を果たしつつあるNGOの代表から今後のアフリカ開発への建設的なご示唆を頂きました。また、アフリカ開発に係る研究活動の重要性について国連大学学長から意義深い発言を頂きました。開発には多様なプレイヤーの広範な知見とリソースが的確に動員されなければなりません。今後とも、わが国を含むアジアとアフリカのあらゆるレベルでの交流の拡大を期待したいと思います。

 御静聴有り難うございました。