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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本国際問題研究所における高村外務大臣講演「現下の国際情勢とわが国の外交課題」

[場所] 東京
[年月日] 1998年10月30日
[出典] 外交青書42号,230−237頁.
[備考] 
[全文]

一.序

 ちょうど3ヶ月前の本日、外務大臣に就任しました高村です。本日は「現下の国際情勢と日本の外交課題」という演題を頂いておりますが、本題に入る前に、先ず就任3ヶ月ということで若干の所感を述べさせて頂きたいと思います。この3ヶ月間は、延長された臨時国会の会期とほぼ重なったにも拘わらず、各方面の御理解を得て自分としてもかなり精力的に外交日程をこなしたと自負しております。簡単に振り返ってみますと、まず8月中旬に中国と米国を訪れ、それぞれ唐家セン外相、オルブライト国務長官、コーエン国防長官と会談し個人的な信頼関係を確立して参りました。9月下旬には国連総会出席の機会に14ヶ国の外相と個別の会談を行った他、日米安全保障協議委員会、アフリカに関する安保理閣僚級会合、G8外相会合等に出席し、さらに、EU、アフリカ、リオ・グループ、ASEAN、GCC(湾岸協力理事会)といった地域グループとも協議いたしました。そして今月上旬に金大中(キム・デジュン)韓国大統領をわが国にお迎えしたことはまだ皆様の記憶に新しいところでありましょう。その後、懸案であったロシア訪問を実現して小渕総理の訪露の地ならしを行い、先週には80ヶ国、40国際機関から閣僚レベルの参加を得て東京で第2回アフリカ開発会議を開催したところですが、これで一息つけるという訳ではなく、11月も外交日程は目白押しです。私の就任以来のわずか3ヶ月の外交の足跡ですら、今日いかに日本が世界と密接に結びついているかということを如実に物語っています。また、逆にこのことは、様々な国や地域との多岐に亘る対話なくして日本の国益の実現を図ることが難しくなっていることの証左でもありましょう。この3ヶ月間、こうした間口と奥行きの広い、しかも密度の濃い外交を期して駆け足で通り抜けてきたとの感がありますが、本日、日本外交の課題の全体像を皆様と共有することにより、私自身あらためて大局的な見地から今日の日本を取り巻く国際情勢と日本の外交課題というものに焦点を当ててみることが有益ではないかと考えている次第です。

二.国際情勢の基本認識

 さて、21世紀を目前に控えた現在、わが国を取り巻く国際情勢は如何なるものでしょうか。

(新たな国際秩序を求めて)

 第一に指摘したいのは、新たな国際秩序を求めた模索の進行です。第2次世界大戦後の国際秩序を支配した東西冷戦に終止符が打たれ、今日、冷戦構造に代わる新たな安定的な国際秩序があらゆる角度から模索されてきております。ワルシャワ条約機構が解消され、NATOは東欧諸国に門戸を開きはじめ、EUも着実に統合の度合いを高めています。アジア太平洋地域においては、APEC、ASEAN地域フォーラムをはじめとする地域協力の枠組みの整備・強化が着実に進められています。また、戦後一貫して日本の安全保障に大きな役割を果たしてきた日米安保体制は冷戦終結後もアジア太平洋地域において安定的で繁栄した情勢を維持するための基礎であり続けることが日米首脳レベルで確認されました。このように、私ども外交当局は、既存の枠組みの見直しや新たな枠組みの構築といった作業を通じて、いかにして自国を取り巻く国際環境を安定させ、国民により豊かな生活を保障していくかという観点から外交に取り組んでおります。

(グローバリゼーション)

 第二は、グローバリゼーションの流れです。現在世界的規模で、モノ、カネ、人、技術、情報といったあらゆる要素がより自由に、迅速に、しかも大量に国境を越えて移動する現象が起こっています。このよな{前4文字ママ}グローバリゼーションのもたらすダイナミズムは、現在の国際社会を特徴づける大きな潮流となっています。一方、近年グローバリゼーションの持つ負の側面も遍く認識されるようになってきたのではないでしょうか。昨今のアジアの金融危機は、グローバリゼーションが金融システムの脆弱な部分を突いて如何に深刻な経済的及び社会的打撃を与え得るかということを如実に示しました。更に、グローバリゼーションと相互依存の深まりの中で顕在化してきた地球環境問題、国際組織犯罪、テロリズムなどの地球規模問題は従来以上に国際社会の一致した取組を必要としています。

(わが国を取り巻く安全保障環境)

 第三に、アジア太平洋地域に目を転じてみますと、冷戦終結は、この地域においても確実に前向きな動きをもたらしていますが、依然として多くの不安定要因が存在することは否定できません。北東アジアの平和と安定を脅かした北朝鮮によるミサイル発射や、国際的な核軍縮・不拡散体制を揺るがしたインド・パキスタンによる核実験などは、こうしたアジアにおける潜在的な不安定化要因を象徴する出来事でした。

(世界の経済情勢)

 第四に、アジアを含め世界の経済動向も決して楽観を許すものではありません。昨年7月以来アジア地域内で連鎖的に波及した経済危機や、本年5月にロシアを襲った通貨危機は、世界に張り巡らされた情報通信網や国際金融市場を通じて瞬時に域外に伝播し、全世界を震撼させました。日本経済も昨年秋以降極めて厳しい状況にあり、わが国としての現下の最大の課題は経済を回復軌道に乗せることです。

(非国家アクターの役割増大)

 第五に、国際情勢における無視し得ない流れの一つとして、国家以外の主体のいわば表舞台への登場といった現象が挙げられます。即ち、一般市民の主体的な参加や自発的な支援によって支えられているNGOが、開発、人権、環境など地球的規模の諸問題の解決に向けた国際的な意思決定プロセスへ参加するなど、より積極的な役割を担いつつあります。たとえば、最近の環境関連の国際会議の場に多くのNGOが結集し、その発言力を高めてきていることは注目すべきことです。一方、国際社会に対する暴力的な挑戦とも言えるテロリズムについても国家以外を主体とするものが出現しており、NGOが前述したように前向きな役割を果たしているのとは対照的に、非国家アクターの興隆の負の側面を示す現象として捉えることができると思います。

三.わが国の外交課題

 以上、国際情勢の基本認識についてひと通り述べさせて頂きましたが、それではこうした情勢の下でわが国が如何なる外交を展開していくことが望ましいかについてお話したいと思います。

(外交の基本方針)

 わが国の外交の基本方針は、わが国の安全と繁栄を確保し、国民の安全で豊かな生活を実現していくことにありますが、相互依存化が進む国際社会において、国際社会全体の安定と繁栄なしにわが国の安全と繁栄を確保することは益々困難になっています。このような観点から、まずわが国の安全を確保するための環境作りが日本外交の最重要課題のひとつです。具体的には、地域における米国の存在・関与を通じた不測の事態の抑止・解決、核不拡散体制の強化と軍備管理・軍縮の推進、紛争予防に向けた種々の努力、周辺諸国との対話や交流による信頼情勢措置等を通じたわが国を取り巻く安全保障環境の安定化です。また、世界の繁栄に向けた取組と共に、深刻化する地球環境問題、国際組織犯罪、テロなどの地球規模問題への国際的取組に積極的に貢献し、人類社会全体をこれらの脅威から守ることも我々外交に携わる者の責務であると認識しています。

 以下、安全と繁栄という二つの課題に整理して個別に敷衍していきたいと思います。

(日米安保体制を含む日米関係)

 先ず、安全の確保という観点から日米関係について述べてみたいと思います。政治・安全保障、経済、地球規模問題など、幅広い分野において築かれてきている日米の協力関係は、引き続き日本外交の基軸であります。先の日米首脳会談においても、両首脳間で日米関係の重要性が再確認され、幅広い事項につき緊密に協議・協調していくことで意見が一致しました。

 日米関係の根幹をなす日米安保体制は、日本の安全保障政策の重要な柱であるとともに、依然として不確定な要素を抱えるアジア太平洋地域の平和と安定を支える役割も果たしています。政府としては、その一層円滑で効果的な運用のために、「日米防衛協力のための指針」関連法案等の早期の成立・承認に向け努力しているところです。

 また、沖縄における米軍基地問題につきましては、来月の県知事選に向けて県内で活発な御議論がなされており、政府としても関心を持って見守っているところです。政府としては、SACO最終報告の着実な実施が沖縄県の方々の負担を軽減するための最も確実な道であると考えており、今後とも沖縄の方々の御理解と御協力を得て努力してまいります。

 更に、世界第一位、第二位の経済力を持つ日米両国の協力関係が現在様々な問題を抱えている世界経済の安定と繁栄の増進に極めて重要であり、先の首脳会談においても、厳しい世界経済情勢に対処するためにも、引き続き両国間の政策協調のための努力を強化することで両首脳一致しています。

(日露関係)

 次に、ロシアとの関係ですが、現在日露関係は一連の首脳会談の成果を踏まえ、あらゆる分野で着実に進展を見せています。政府としては両国間の「間断なき対話」を通じて、今後とも様々な分野での協力を進めつつ、両国首脳間の合意に従い、東京宣言に基づき2000年までに平和条約を締結するよう全力を傾注していきたいと考えています。私自身、先にニューヨークでイワノフ外相と会談した際、これまでの両国関係の発展の方向性に変化がないことを確認しました。更に今月中旬にロシアを訪問した際にも、クラスノヤルスク及び川奈における首脳間の合意を再確認すると共に、来月の小渕総理の訪露の際にエリツィン大統領自身から川奈でのわが国提案に対する回答が行われることを改めて確認しました。平和条約の締結は、日露間の過去に大きな区切りをつけ、両国間の未来志向的な関係構築に弾みをつけるのみならず、アジア太平洋地域の安定に大きく貢献するものとなるでしょう。また、ロシアは現在厳しい経済状況下に置かれていますが、わが国は、これまでロシア政府が民主化、市場経済化という改革努力を進めてきたことを評価しており、今後ともこうした改革努力を支持していきます。

(日中関係)

 中国との関係ですが、日本と中国は、アジア太平洋地域全体の平和と繁栄に責任を有する二大国として二国間関係を発展させていく必要があります。本年は日中平和友好条約締結20周年に当たりますが、これまで築き上げてきた両国関係の礎をより確固たるものとしていくために、要人往来や安全保障に関する対話をはじめ、将来に向けた若い世代間の交流などを通じて、国民レベルで相互理解や信頼関係を一層深めていかなければなりません。また、こうした二国間関係強化の努力に加え、今後は国際的な課題への取組における日中間の協力を拡大し、共に行動する関係を構築することが重要です。来月25日からの江沢民国家主席の来日は、こうした今後の日中関係の新たな方向性を打ち出す良い機会になると考えています。

(朝鮮半島)

 そして、わが国に最も近い朝鮮半島との関係について見てみたいと思います。民主主義、市場経済といった基本的価値を共有し、安全保障上の利害を共にする韓国との友好協力関係は、わが国の朝鮮半島政策の基本です。先般金大中(キム・デジュン)大統領が訪日されましたが、長年に亘って日韓間において特に感情的論争を誘発してきた歴史認識の問題を両国首脳が正面から取り上げ、過去の総括を踏まえて21世紀に向けた新たなパートナーシップを構築していくことに合意したことは、日韓関係史上極めて画期的な出来事でした。この成果を踏まえ、日韓関係を更に高い次元の友好協力関係に発展させていくためには、双方による不断の努力が不可欠です。今回合意された「行動計画」の中には多くの具体的な協力案件が盛り込まれていますが、これらの着実な実施をはじめとする地道な努力を通じて、真のパートナーシップの確立を目指していきたいと考えています。

 日朝関係については、基本的には韓国や米国と緊密に連携しながら、朝鮮半島の平和と安定に資するような形で不正常な関係を正していく方針です。しかし、先般の北朝鮮によるミサイル発射は、国民の北朝鮮に対する警戒心を大きく募らせました。また、このような行為は、わが国の安全保障や北東アジアの平和と安定の観点のみならず、大量破壊兵器の拡散防止の観点から極めて遺憾です。こうした状況を踏まえ、わが国は、北朝鮮に対して厳重抗議するとともに、国交正常化交渉の再開を当面見合わせることにしました。また、国連安保理においてはわが国の問題提起を踏まえた議長による対プレス声明が発出された他、ICAO、MTCR等の国際場裡においてもわが国の懸念が広く共有されました。一方、KEDOについては、ミサイル発射後その進行を見合わせてきました。しかし、KEDOは北朝鮮の核兵器開発を阻むための最も現実的且つ効果的な枠組みであり、その維持はわが国の安全保障上極めて重要であります。更に朝鮮半島情勢への対応に当たっては、日米韓の足並みをそろえることが重要です。こういった諸点に鑑み、先般KEDOへの協力の再開を発表したところです。

(地域協力)

 以上のような二国間協力と並行して、アジア太平洋地域を中心とした安全保障対話を推進していくことは、域内の信頼関係構築と安定化に資するものです。ASEAN地域フォーラムは、米国、ロシア、中国を含むアジア太平洋諸国の外相が一堂に会し、この地域の政治・安全保障に関する意見交換を行う「対話の場」として94年に発足しました。多様性に富んだこの地域の安全保障分野における協力関係は、各国が長期的視野に立った努力を続けることにより漸進的に発展していくものと考えています。また、こうした地域的取組を補完するものとして、北東アジアにおける多国間の安全保障対話の実現も将来的な検討課題であると考えます。

(核不拡散体制の強化と核軍縮の推進)

 こうした二国間関係や地域協力の強化に加え、核不拡散体制の強化、核軍縮の推進や紛争予防に向けた努力も重要です。今年5月のインドとパキスタンによる核実験は、国際的な核不拡散体制に対する大きな挑戦であり、わが国は直ちに両国の行為に対する強い遺憾と抗議の意を表明し、一連の厳しい措置をとりました。また、8月には、当国際問題研究所と広島平和研究所共催の下で「核不拡散・核軍縮に関する東京フォーラム」の初会合が開催されましたが、その際にもNPT体制の堅持・強化の必要性を強調する多数の意見が表明されました。わが国としては、両国による核実験によって、過去数十年に亘って築き上げてきた国際的な核不拡散体制がその意義を失うことのないよう、引き続きNPT及びCTBTの未締結国に対し締結を強く求めると同時に、全ての核兵器国が核軍縮を一層推進させるよう要請していきたいと考えており、先日国連においてこうした内容を盛り込んだ決議案を提出したところです。9月の国連総会においてインド及びパキスタンがCTBT署名・批准に向け前向きな意思を明らかにしたことは、一歩前進として評価しています。わが国は今後とも両国による早期の無条件締結を含め、6月のG8外相声明が求めた事項を実施するよう強く働きかけていく考えです。

(紛争予防の努力の強化)

 また、冷戦終結後、国際社会全体の協力に基づく協調的秩序の可能性が模索されてきていますが、民族的、宗教的な対立にも起因する地域的紛争は却って増えています。これらの紛争に対処するためには、既に起きた紛争をどう解決するかということ以上に、これをどう予防するかが重要であり、国連を中心とする実効的且つ効率的な紛争予防の実現を目指していくことが重要です。既に起きた紛争への対処については、わが国は、従来より国連平和維持活動や人道的な国際救援活動に人的・物的協力を行ってきています。また、今年9月には、改正された国際平和協力法に基づき、ボスニア・ヘルツェゴビナにおいてOSCEの管理の下で行われた選挙に選挙管理・監視要員を派遣しました。そして、紛争を未然に防いでいくためには、貧困をはじめ紛争の背景にあるあらゆる要因を総合的に把握して問題に取り組むという包括的なアプローチが必要です。わが国が数年来提唱してきた「新たな開発戦略」は、まさにこのような考え方の延長線上に位置づけられるものであり、OECDをはじめ、国連においても支持の裾野を広げつつあることは歓迎すべきことです。わが国としては、平和と表裏一体の関係にある開発への国際的な取組において今後とも主導的な役割を果たしていきたいと考えています。

 以上、わが国の安全、世界の平和の実現に向けた対応について述べました。次に、こうした安全保障環境と並ぶもう一つの柱である「繁栄」に向けた取組について、昨今のアジア経済・通貨危機への対応、開発援助に焦点を当てながら話してみたいと思います。

(日本及びアジアの経済回復に向けた努力)

 わが国は、アジアの安定的発展のためにこれまで最大限の貢献をしてきました。現下の通貨・経済危機に対しても総額約430億ドルにのぼる世界最大規模の対アジア諸国支援策を率先して実施してきており、この度新たに総額300億ドル規模のアジア諸国向け資金支援スキームを提示しました。この度町村政務次官が東南アジア諸国を訪問して参りましたが、各国でこのようなわが国の姿勢が高く評価されていると共に、支援の具体化への強い期待に接したとの報告を受けています。同時に、わが国自身の経済の早期回復も、アジア、そして世界の繁栄に不可欠です。アジア諸国やG8諸国をはじめとする多くの国々がわが国の金融システム安定化などに向けた取組に注目しています。わが国としては自国経済の再活性化との観点のみならず、世界経済の発展との観点からも、経済を回復軌道に乗せる努力を一層強化していく考えです。

(開発援助)

 次に、途上国の開発についてですが、冷戦の終結により国際社会が一致してこの問題に取り組む環境はむしろ整ったと言えます。現在、わが国の財政は極めて厳しい状況にあり、ODAを巡る国内の環境も順風とは言えませんが、他方で、アジア経済危機や環境問題などニーズは増大しており、こうした厳しい時期においてこそ、わが国の国際協力の姿勢を後退させてはならないと考えます。限られた財源の中でより効果的・効率的かつ透明性のあるODAの実施に向けて、必要な改革と見直しに努める所存です。また、国際社会の共通課題としての開発問題への取組の一環として、先週第2回アフリカ開発会議を東京で開催しました。アフリカ諸国の自助努力による国造りを支援していく上で「新たな開発戦略」を彼地で如何に展開していくかについて議論し、具体的な「東京行動計画」を策定出来たことは有意義であったと自負しています。

(より良い地球社会の構築への取組)

最後に、より良い地球社会づくりについて触れます。

 米ソ二極構造が崩壊し国際社会の一体化が進む中、国際社会全体の協調なくしては有効な解決が難しい問題が人類社会の前途に立ちはだかっています。今世紀急速に進んだ工業化がもたらした外部不経済とも言える地球環境問題が、長期的には人類存亡の危機をもたらしかねないとの認識が国際的に共有され、解決策が模索されてきています。わが国には、かつての深刻な公害問題に対処し克服してきた経験と技術がありますが、これを国際的な取組に生かすべくリーダーシップを発揮していくことは、子孫に美しい国土と住み良い環境を残すという現世代の責務を果たすことにもなろうと考えています。こうした観点から、わが国は地球環境問題を外交の最重要課題の一つと位置づけ、積極的な役割を果たしてきており、今後こうした取組を一層強化していきたいと考えています。

 また、善良な市民の生命と安全を脅かすテロにも断固として立ち向かって行かなければなりません。わが国は、この分野における国際協力に積極的に参加すると同時に、外務省におけるテロ情報の収集・分析体制の強化、世界の危険地域に関する国民への情報提供の強化に努めています。

 更に、世界各地に滞留する難民や避難民の存在は、人道上の問題であると同時に、関係地域や世界全体の平和と安定に影響を及ぼしかねない不安定要因となっています。わが国は難民・避難民に対する人道援助を重視しており、9月30日に再任された緒方貞子氏を長とする国連難民高等弁務官事務所などの取組を今後とも支援していきたいと考えています。

四.結語

 以上、少々長くなりましたが、現下の国際情勢、そしてそれに基づくわが国の外交課題について概観しました。こうした多岐に亘る外交課題は、今までの外交の積み上げがあってこそ前向きに取り組んでいけるものであり、その意味において、私は外交における継続性が如何に重要かを繰り返し述べてきております。歴代の外務大臣は、刻々と姿を変える世界の中で日本外交の課題の実現という目標を目指し、各々のカラーを発揮しながら日本外交の舵を取って来られました。21世紀を目前に控えた今日、日本外交の舵取り役を新たに拝命した私が目指すべき外交方針は、小渕総理が提唱された「国民と共に歩む外交」を引き続き推進すると共に、自分なりに「リーダーシップのある外交」を確立することであると心得ています。「リーダーシップのある外交」という言葉に、私は2つの意味を込めております。1つは、日本が国家として国際社会においてリーダーシップをどう発揮していくかということ、2つ目に、そうした日本外交を展開していく中で私共政治家が如何にリーダーシップをとっていくのか、ということです。政治家である我々が如何なるビジョンを国民に提示出来るかということが今まさに問われていると認識しています。

 冷戦の終焉により、国際社会全体の協力に基づく協調的秩序の重要性が増しています。紛争のない豊かな社会を築いていくためには、全ての国家そして人類全体が手に手を携えて前進していかなければなりません。我々の世代が次の世代に対して負っている使命を国民と共に改めて認識し、より良い未来を目指す国際社会を、その先頭集団の1ヶ国として力強くリードしていくとの決意の下で日本外交を進めていくことが、私をはじめとする外交当局に求められているということを肝に銘じておく所存です。

本日は御清聴どうもありがとうございました。