[文書名] シアトル閣僚会議における河野外務大臣演説
議長、ムーア事務局長、各国閣僚並びに代表団、御列席の皆様、
私は、日本政府を代表して、この会議に臨む我が国の決意について述べたいと思います。まず、閣僚会議開催にあたって、多大なる努力を払って来られた、米国政府、WTO事務局、シアトル市、シアトル・ホスト委員会他、関係者の方々に、厚く御礼申し上げます。
(多角的自由貿易体制へのコミットメント)
議長、
我々は、今世紀前半の二つの大戦と世界大不況からの教訓を得て、その後50年余りにわたり、自由と民主主義を基礎とする平和と繁栄を追求してきました。多角的自由貿易体制は、そのような我々の努力の重要な礎石でありました。
ガットは、誕生以来、国際貿易のルールの強化や自由化の推進を通じ、多角的自由貿易体制の守護神としての役割を果たしてきました。ガット発足以来今日までの間、世界の貿易量は20倍近くにも拡大してきております。さらに、95年初めのWTO発足により、サービス貿易や知的所有権といった新しい分野にも取り組むこととなり、また、紛争処理機能が改善される等、多角的貿易体制は、一層強化されることとなりました。
21世紀を目前に控え、我々は、ガット・WTOが果たしてきた多大なる役割を再認識し、激しく変動する国際経済の中で、WTOに、より効果的な機能を与えるよう、不断の努力を重ねる必要があります。そのためには、今回の閣僚会議により、WTOとして初めてのラウンド交渉の開始を宣言することが、何よりも重要です。
自由貿易の恩恵を受け、経済発展を遂げた我が国は、多角的自由貿易体制の維持、強化に、深くコミットしております。今回の閣僚会議には、私だけでなく、農林水産大臣及び通商産業大臣も出席しており、三閣僚が力を合わせ、今回会議の成功に全力で貢献したいと思います。
(WTOが直面する課題)
議長、
発足して五年になるWTOは、現在早急に取り組まなければならない二つの課題に直面しています。
WTO加盟国のうち4分の3を占める途上国の中には、WTO協定の義務履行に困難を抱えている国もあります。WTOの第一の課題は、このような途上国の関与の問題であり、いわゆる「実施」問題であります。次期ラウンド開始にあたり、この課題に正面から取り組む必要があります。そして、途上国がWTOから十分な利益を受けるためにも、既存のルールの必要な見直しが行われることが重要です。この関連で我が国は、次期交渉で、特にダンピング防止措置に対する規律の見直しを重視しています。さらに、後発途上国に対してはとりわけ配慮が必要です。我が国としても、これらの諸国からの実質的に全ての産品について関税を無税化すべく真剣に取り組みたいと思います。
また、一方で、人々は、貿易の更なる自由化が、環境の保護、食品の安全、農村社会の維持、文化・伝統の保全等にどのような影響を与えるかについて懸念を表明しています。WTOは、これらの問題提起に答えていかなければなりません。これが、WTOに課せられた第二の課題です。特に、持続可能な開発を含めた環境問題、GMO(遺伝子組換え体)、林産物・水産物等の有限天然資源の保存管理等に適切に対処すべきです。また、農業については、食料安全保障、輸出入国間の権利義務のバランスの回復に加え、農業の多面的機能への配慮が重要です。我が国は、来年以降、農業協定第20条に基づき、他の国と協力して交渉する用意があります。しかし、これから交渉に入ろうとする時に、交渉のスタートラインを変更したり交渉結果の先取りをせんとする一部の国々の主張は、建設的とは思われません。
さらに、我々は、21世紀を見据えてWTOのあるべき姿を追い求めていかなければなりません。そのためにも、次期ラウンドでは、これまで述べた点に加え、投資、電子商取引等、新たな課題への対応も重要です。また、WTOが真に普遍的な国際機関となるため、現在加盟作業中の31ヶ国の早期加盟の実現を期待し、引き続き努力していきたいと思います。
(おわりに)
議長、
我々は、今まで以上に、解決の道筋をつけにくい数々の問題に取り組むことが必要となっています。今回の会議に出席している閣僚は、多角的自由貿易体制の大義に強くコミットし、この会議の成功に積極的なイニシアティブを発揮していかなければなりません。それぞれの抱える問題、関心事項は異なるかもしれませんが、各国、各国民が新しいラウンドを開始することの歴史的重要性を認識し、協力と協調の精神をもって、努力することが重要であります。今回の会議が、WTOの輝かしい一ページとなるよう、我が国としても全力を尽くすことを約束したいと思います。
御静聴有り難うございました。