[文書名] 日本記者クラブにおける川口外務大臣政策演説
ご列席の皆様、
私は、2月1日に外務大臣に就任して以来、外務省改革を実施し、外交に対する国民の信頼を回復することを最優先の課題としてきました。2月12日に、「開かれた外務省のための十の改革」を発表しました。これに基づき、具体的な改革措置を議論頂くため、6日には、「変える会」の初会合が開かれました。この会合では、メンバーの方々から、貴重な、そして率直なご意見を頂きました。私は、今後とも、「変える会」など様々なご意見を幅広くお伺いしながら、外務省の改革を断行していく決意です。
外務省改革の重要性は些かも変わることはありません。同時に、外務大臣として、日本外交の課題に取り組み、日本の国益のため邁進すべきことは、申し上げるまでもありません。本日は、日本外交が現在如何なる課題に直面しているのか、そうした課題に如何に取り組んでいくべきかについて、就任以来考えてきたことを、論点を絞って申し上げます。
(川口外交のスタイル)
私は、「強く」、「温かく」、「わかり易い」外交を目指します。
日本外交は「強く」なくてはなりません。我が国の安全と繁栄のため、国際社会において言うべきことは言い、やるべきことはやる、という主体的で積極的な外交を、私は目指します。
日本外交は「温かく」なくてはなりません。貧困や紛争に苦しむ人々への配慮や、異なる文化や伝統への理解という、血の通った「温かい」視点を忘れない外交を、私は目指します。
日本外交は「わかり易い」ものでなくてはなりません。国民に理解され、支持されるような、国民の眼から見て「わかり易い」外交を、私は目指します。
(近隣諸国等との関係)
日本外交を取り巻く環境は全般的に良好です。とりわけ、我が国の同盟国である米国との固い絆は、先月のブッシュ大統領訪日の際に改めて確認されました。私も、パウエル国務長官との間で外務大臣同士の緊密な関係を作ることができました。我が国と米国は、基本的な価値観を共有する、世界一位、二位の経済大国として、国際社会の様々な課題に取り組む重要なパートナーです。また、アジアにおける米国のプレゼンスは、この地域の安定にとって極めて重要なものです。我が国と米国は、今後とも、互いに言うべきことは言いつつ、しかし決して離れることのない協力関係を一層発展させるよう、努力して行かなくてはなりません。
近隣諸国との関係ではいくつかの懸案があることは事実です。特に、北朝鮮をめぐる安全保障上・人道上の諸問題は重要な懸案として、全力を挙げて取り組まねばなりません。しかし、こうした点を除いて、近隣諸国との関係は、前向きに進んでいると認識しています。私は、こうした前向きの動きを更に推し進めていきます。
韓国及び中国との関係は、去年の秋に小泉総理が両国を訪問して以来、前向きな軌道に乗っています。今年は、日中国交正常化30周年、日韓国民交流年、日中韓国民交流年であり、日韓共催のワールドカップ・サッカー大会もあり、いろいろなイベントが目白押しです。未来を担う若い人たちの間で、海を越えた相互理解を一層深める絶好のチャンスです。様々なイベントを是非とも成功させ、韓国との間でも、中国との間でも、未来志向の協力関係が一層強まるようにしたいと思います。あらゆるレベルでの交流を通じ、東アジアの安全と繁栄の確保に向けた韓国と中国との力強い協力関係が確認されることを期待しています。
我が国は、民主化と市場経済化の進むASEAN諸国との間で、緊密な協力関係を築いてきました。1月の小泉総理の東南アジア5カ国訪問は、その更なる飛躍のための重要な機会となるものでした。今年7月末のASEAN拡大外相会議(PMC)やASEAN地域フォーラム(ARF)が、私にとって、地域協力の推進に向けた外交のデビューの場となりますが、総理訪問の成果を着実にフォローアップしていきたいと考えています。
プーチン大統領のリーダーシップの下で変革しつつあるロシア、また、EU統合の深化と拡大が進む欧州諸国との関係でも、幅広く、緊密な協力関係が進んでいます。私の外務大臣としての初仕事は、就任翌日のイワノフ・ロシア外相との会談でしたし、また、欧州諸国の外務大臣とも頻繁に電話で連絡をとっています。
(国際社会の直面する課題)
こうした一方で、国際社会全体を見渡すと、私たちは、二つの大きく、困難な課題に直面しています。
第一に、国際社会の平和と安定は、重大な挑戦に直面しています。世界各地で勃発する地域紛争は、国際社会の深刻な不安定要因です。昨年9月11日の米国における同時多発テロ以後、私達は、世界のどこにいようとも、テロの脅威、そして大量破壊兵器の拡散の脅威を、感じざるを得ません。
第二に、貧困、難民、環境破壊、感染症といった、人間そのものを脅かす諸問題があります。これらは、国連やG8などの政府間のフォーラムを超えて、NGOや市民運動を巻き込んだ全人類的なテーマとなっています。
我が国は、近年、「人間の安全保障」、つまり、国際社会において、人間一人一人の生存、尊厳、生活への脅威への取組が重要であるという視点を提示しています。このような視点は、国際社会全体の平和・安定と繁栄を考える上で重要な要素です。これは、国際社会の中で広く共有されるようになってきました。
一つのEメールが、インターネットを通じて世界中で転送されています。最近絵本にもなっていて、ご存じの方も多いかと思います。そのEメールは、「世界がもし100人の村であったら」と仮定します。すると、100人のうちの20人は、「栄養がじゅうぶんではなく1人は死にそうなほど」で、「空爆や襲撃や地雷による殺戮や武装集団のレイプや拉致」に脅かされていることになるそうです。グローバル化によって小さくなった地球という「村」の中では、一部の住人だけが恵まれた生活を続けることは出来ません。IT時代、グローバル化時代の中で、このような温かく、そして客観的な眼差しが育まれています。
我が国が自らの安全と繁栄を確保していくことこそが、外交の目標です。そのためには、国際社会全体の平和・安定と繁栄の実現に取り組むことが不可欠になります。我が国は、天然資源に恵まれず、国際社会との協調以外、およそ、とるべき道は考えられません。地域紛争をなくし、経済発展とグローバル化の恩恵が、一部の国々だけでなく、途上国を含む世界の隅々にまで共有されることは、間違いなく、我が国の利益に適うものです。テロや貧困といった課題は、国際社会の平和・安定と繁栄に対する深刻な障害になりかねません。その意味で、我が国自身の安全と繁栄の確保にとっても、重大な障害です。
紛争やテロ、貧困など国際社会の直面する課題に取り組むため、日本外交には何が求められるのでしょうか。それは、無法や混乱に断固として立ち向かう「強さ」です。国際社会の弱者への配慮を忘れず、人間一人一人に目を向ける「温かさ」です。そして、こうした取組に国民の方々が目を向け、取り組む者に理解と支持を与えてくれるような「わかり易さ」です。私は、外務大臣として、「強さ」、「温かさ」、「わかり易さ」を軸に、これらの重要な課題に取り組んでいきます。
以上申し上げた点を踏まえ、当面の我が国の外交にとって特に重要な2つの点に絞り、お話しします。第一の点は、国際社会の平和と安定への脅威の問題です。第二の点は、途上国の開発の問題です。
(テロ、大量破壊兵器の拡散、紛争)
昨年9月11日の米国での同時多発テロをきっかけに明らかになったのは、内戦の続くアフガニスタンを拠点としたテロ組織アル・カイダの世界的な活動でした。また、世界が目の当たりにしたのは、テロリストが大量破壊兵器の技術や物資を入手しかねないという事態でした。こうして、テロ、大量破壊兵器の拡散、地域紛争といった問題は、もはや私達の日常と遠く離れた問題とは考えられなくなりました。私達市民一人一人は、世界のどこにいようと、ニューヨークだろうと、東京だろうと、ニューデリーだろうと、このような脅威に現実に晒されています。こうした危機感が、広く共有されるようになりました。9月11日の事件は、まさしく世界にとって大きな転機でした。
重要なことは、危機に直面した国際社会が、テロとの闘いのために団結したことです。そして、テロの資金源を断ち、テロリストによる大量破壊兵器の入手を阻止し、航空機や原子力発電所などの施設の安全を確保し、法の網の目を世界中に張り巡らせるなど、様々な取組を進めています。我が国としても、先日国会に提出させて頂いたテロ資金供与防止条約を早急に締結するなど、引き続き必要な措置をしっかりと実施していかなくてはなりません。特に、各国にテロ資金対策など包括的な措置をとることを求めた国連安保理決議1373の実施は、中心的な課題です。また、国際的な広がりを有するテロのネットワークを根絶するためには、各国がそれぞれ国内的な努力をするだけでは足りません。ASEANなどの地域協力体と連携し、この地域の各国の間で、テロ対策や大量破壊兵器の拡散防止の経験やノウハウ、情報を幅広く共有する努力も、併せて行っていく必要があります。紛争や不安定を助長する地雷や小型武器の分野で、実践的な取組を積み重ねていくことも大切です。我が国は、こうした分野で率先して取り組んでいく用意があります。テロとの闘いは、今後も続く、長く厳しいものです。喉元過ぎて熱さを忘れるようなことがあれば、手痛いしっぺ返しを受けることを忘れてはなりません。
アフガニスタンでは、国際社会の協調の下で、アフガニスタン人自身による安定した国造りに向けた努力が日々続いています。その中で、我が国は、今年1月のアフガニスタン復興支援国際会議の開催国として、また、アフガニスタン復興支援運営グループの共同議長として、復興の取組に主導的な役割を果たしてきています。今後、地雷除去や麻薬問題にも率先して取り組んでいく考えです。このような復興のプロセスを推し進め、国内の安定に向けた政治プロセスを後押しするため、今月、外務省とJICAを中心とする調査ミッションが現地を訪問しました。また、昨日まで、総理官邸のアフガニスタン復興支援調査合同ミッションが現地を訪問したところです。アフガニスタン国内のタリバーンやアル・カイダに対する米軍を中心とする軍事作戦は、国際社会の支持の下で、引き続き行われています。我が国は、テロ対策特別措置法に基づく協力活動を継続しています。
私は、欧米諸国やイスラム諸国と共に、我が国が、国際社会の平和と安定を目指す「団結」の重要な一翼を担っていることを、誇りに思います。そして、このような活動の中で、日本外交を適切にリードしていくことは、外務大臣としての重要な仕事だと考えています。
そのため、私は、国会の御了承が得られるのであれば、4月末から5月初にかけての連休を利用して、アフガニスタンを訪問したいと考えています。外交を進める上で、現地の情勢をこの目で見て、関係者の話をこの耳で聞き、雰囲気をこの肌で感じることに、勝る方法はありません。暫定政権の関係者に加え、現地で活躍する国際機関やNGOの方々と直接お話しする機会を持ちたいと考えています。
また、私は、アフガニスタン復興支援の実施に当たり、我が国とパキスタンやイランなど隣国との間での協力も、重要と考えます。アフガニスタンと地理、歴史、言語、伝統などの面で近いこれらの国々とは、例えば、アフガニスタン政府のキャパシティ・ビルディング、つまり行政能力の訓練・向上の分野で、有益な協力が出来るのではないかと期待しています。隣国の協力が得られれば、当面首都のカブールを中心に考えられがちな復興支援に、地方の要素を加えることも考えられるのではないでしょうか。このような観点をも踏まえ、私は、いずれかの時期に、イランも訪問したいと考えています。
目の前に立ちはだかっているのは、アフガニスタンの人々に支持された政権を発足させ、国土の安定と治安を確保し、復興を着々と進めて行くという、決して容易でない課題です。国際社会は、カルザイ議長を中心とする暫定政権の活動を支援し、暫定政権と共に、持てる知恵と力を出し合う必要があります。我が国はこのような取組の中で積極的な役割を果たしていきます。
テロとの闘いやアフガニスタン情勢に加え、国際社会の平和と安定の脅威となっているのは、大量破壊兵器の開発や拡散の問題です。特に、イラクについては、国際社会に深刻な懸念を与えています。イラクが主張しているように「潔白」であるならば、無条件に国連の査察を受け入れ、自ら「潔白」を証明すべきです。そのような証明を求めることについて、国際社会は一致しています。国際的な連帯の下で、懸念の解消に向けた働きかけと効果的な対話の努力を、続けていかなくてはなりません。我が国としても、このような努力を積極的に行っていきます。
現在、国際社会における紛争の観点から最も懸念されるのは、暴力の悪循環が続いているパレスチナ情勢です。我が国を含む国際社会は、双方の当事者に対し、最大限の自制を求めるとともに、和平への道に復帰するよう、働きかけを続けることが不可欠です。中東和平については、現在、サウジアラビアのアブドッラー皇太子のイニシアチブなど、現状打開に向けた様々なアイディアが表明され、また、米国も、ジニ特使を現地に再び派遣するなど、取組を強めています。これらの取組は、紛争の拡大が国際社会全体を不安定に陥れるようなこととなってはならないという、国際社会の強い決意の現れに他ならず、我が国も歓迎しています。
今後、アブ・アラ・パレスチナ立法評議会議長の訪日や、ヨルダンのムアッシャル外相の訪日が予定されています。これらの機会に、現状を打開し、和平に向けてイスラエル・パレスチナ双方の当事者が歩み寄るために、我が国として何が出来るかを率直に話し合いたいと考えています。私は、イスラエル・パレスチナ双方の中で、和平への望みを捨てずに努力している人々を支援していくことが、重要だと考えます。このため、我が国としては、こうした関係者を招いて率直な対話の機会を設けることも、検討していきたいと思います。
(開発問題)
続いて、2つ目の重要課題である「開発」の問題について申し上げます。
国際社会における貧困対策、環境対策、感染症対策などの議論を進めていくと、途上国の経済発展の問題、つまり「開発」の問題につながります。本来は貿易問題を扱う場であるWTOのような国際機関においても、貿易や投資の自由化により途上国が充分に利益を享受することが必要ということから、近年「開発」が重要な論点の一つになっています。また、紛争の予防との関連でも、経済成長を通じて社会の安定をもたらすことが重要だということから、「開発」の意義が以前にも増して重視されています。更に、最近では、「テロの温床」への対策という観点から、「開発」を重視する議論もあります。
このような中で、国際社会は、二つの課題に直面しています。第一は、開発のための資金がもはや右肩上がりではないという現実です。これは、厳しい財政事情の中で、ODA予算が10%削減される我が国に限ったことではありません。統計上も、世界のODAや途上国への民間の資金などの流れの合計額である開発資金は、96年をピークに、3年間で約3割減少しています。その一方で、途上国からは、開発援助の増加の必要性が訴えられています。このように、開発資金の需要と供給の間のギャップが、深刻化しています。
第二は、「開発」と「環境」の関係です。「開発」が持続可能であるためには、「環境」の保全は重要な課題です。「環境」は、また、「人間の安全保障」の観点からも極めて重要です。冒頭のEメール「世界は100人の村」では、100人のうち「17人は、きれいで安全な水を飲むことができない」ということになるそうです。環境破壊という人間一人一人の生存そのものに対する脅威をそのままにして、「開発」を続けていくことはできません。同時に、環境対策を進めるためには、「開発」によって人々の生活が改善されることが重要です。「開発」と「環境」は両立できるものだと思いますし、また、両立しなくてはなりません。
今年は、今週いっぱいメキシコのモンテレイで行われる「開発資金に関する国際会議」、8月末から南アフリカのヨハネスブルグで行われる「持続可能な開発に関する世界首脳会議」など、「開発」に関する重要な国際会議が立て続けに開かれます。また、6月のカナダのカナナスキス・サミットでも、アフリカをはじめとした途上国の開発問題が大きく取り上げられる見込みです。特に、ヨハネスブルグで開かれる首脳会議は、リオの地球環境サミットから10年目という節目の年に開かれ、世界中の首脳が集まる極めて重要な会議です。私は、是非とも小泉総理に御出席頂きたいと思います。併せて、閣僚レベルでの適当な機会が設けられるのであれば、私自身も参加したいと考えています。会議では、我が国の考え方をはっきり示していきます。
先程、私が申し上げた二つの課題は、こうした会議においても、重要な論点となる見込みです。そのような中で、世界一の援助大国である我が国に対する途上国や他の援助国の期待には、極めて大きなものがあります。「開発」の問題は、テロや大量破壊兵器の問題に劣らず、今年の日本外交にとって大きな課題です。万一、国際社会が「開発」の問題への対応を誤り、国際社会の平和・安定と繁栄が阻害されたり、地球規模で環境破壊が進むようなことがあれば、我が国自身の安全と繁栄も損なわれることになります。
我が国としては、どのように取り組んでいくべきでしょうか。
まず、我が国は、一連の重要な国際会議を通じた議論に積極的に参画し、国際社会が「開発」問題への対応を誤らないよう、努力します。その際、我が国としては、責任の共有、知識や経験の共有を通じて、経済成長と社会的安定、環境保全の恩恵を地球規模で共有できるということを訴えていきたいと考えています。このような観点から考えると、途上国の自助努力や教育、人材育成、さらには、ODAのみならず、投資・貿易を含めた幅広い開発資金の活用が重要です。加えて、我が国としては、先進国から途上国にどれだけ援助や投資が流れたかという「開発のインプット」よりも、結果としてどれだけ人々の生活が改善されたかという「開発のアウトプット」に着目する発想の転換の必要性も、訴えていきます。
「開発と環境の両立」という観点から引き続き重要なのが、地球温暖化問題です。私自身、先日パウエル国務長官に訴えましたが、我が国としては、引き続き、これらの会議の機会も活用して、米国の建設的な対応を求めていきます。また、途上国も含めた国際的ルールの構築に向け努力していきます。我が国は、この分野において主導的役割を果たしてきました。そうしたことを踏まえ、今国会において京都議定書の締結を承認頂けるよう全力を尽くしていきます。
我が国が開発の問題に取り組む際に、ODAの効率化・透明化が極めて重要です。これは、「開かれた外務省のための10の改革」の中でも掲げた目標です。国民の税金を無駄にしたり、資金が不適切に使用されたりしてはなりません。限られたODA予算を最大限有効に活用するためにも、ODAが透明性を持って実施されるよう、早急に具体的措置をとらなくてはなりません。そのため、ODAの透明性を高めるための新たな仕組みの設置、評価を担当する経済協力局幹部への外部の人材の登用、ODA実施に関する適切な監査手法の導入などの措置を、早急にとってまいります。ODA改革については、去年より約半年間、第二次ODA改革懇談会において、改革の具体策について議論頂いています。近く最終報告が発表される予定ですので、これも踏まえつつ、ODA改革を進めていく考えです。
最後に、現在の国際社会が直面している紛争、難民、貧困、感染症、環境などの諸問題が集中するアフリカに対する取組について述べたいと思います。アフリカは、世界中のどの地域よりも、「人間の安全保障」の視点が必要な地域です。
1960年代から70年代にかけてアジアと比べても遜色の無い成長を見せていたアフリカ諸国は、今日では世界の発展の流れから取り残されつつあります。サハラ以南アフリカに住む人々の半数近くが、1日1ドル以下、つまり缶ジュース1本分の費用での生活を余儀なくされています。アフリカの中には、成人の3分の1以上がHIV/エイズに感染している国があります。また、アフリカでは、5人に1人が紛争の被害を受け、難民・避難民は600万人以上に達すると聞いています。その一方で、サハラ以南のアフリカは、世界の陸地の20%と人口の10%を占めます。このようなアフリカの問題が、一連の国際会議の中心的なテーマとなっているのは当然です。去年の1月に当時の森総理が現役総理として初めてアフリカを訪問した際に述べたように、アフリカ問題の解決なくして、21世紀の世界の安定と繁栄はないと言えるでしょう。
我が国は、国際社会に先駆けて、アフリカ問題の重要性に光を当てて地道な努力を積み重ねてきました。冷戦後、国際社会のアフリカへの関心が低下していた93年に、東京でアフリカ開発会議を開催しました。その後、98年に第二回会議を開催し、現在、来年後半に第三回アフリカ開発会議を開催するよう準備を着々と進めています。また、2000年の九州・沖縄サミットの機会には、我が国は、議長国として、サミット史上初めてアフリカ諸国を含む途上国の首脳との対話のセッションを設けました。そうした成果は、去年のジェノバ・サミット、そして今年のカナナスキス・サミットへと引き継がれています。二国間でも、我が国は、イギリスやフランスなど旧宗主国と並ぶ、対アフリカのトップ・ドナーとして、誠実に相手国を支援する協力を行ってきています。
近年、アフリカにおいて自助努力の気運が高まっています。去年7月、アフリカ諸国自身による初の開発戦略、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」が取りまとめられました。今年の夏には、これまでのアフリカ統一機構(OAU)が衣替えし、新たにアフリカ連合(AU)が発足します。「アフリカの時代」が始まろうとしています。国際社会の関心がテロとの闘いだけに限られてはなりません。このようなアフリカの自助努力を、我が国を含む国際社会は積極的に、また、継続的に支援していかなくてはなりません。
私は、今後、第三回アフリカ開発会議までの1年余を「対アフリカ協力飛躍の年」と位置づけ、我が国の対アフリカ政策の更なる強化に向けた具体的な措置をとっていきます。何よりもまず、私自身、近い将来、アフリカ諸国を訪問したいと思います。例えば、8月末からの南アフリカのヨハネスブルグでの会議に私自身も出席できるのであれば、その機会に、他のアフリカ諸国にも足を運び、各国の政府関係者だけでなく、我が国の海外青年協力隊員やNGOの方々など、現地で活躍する方々とお会いして、率直な意見交換をしたいと考えています。また、タウンミーティングなどの機会に、国民の皆様に、アフリカの抱える諸問題とともに、その魅力や潜在的な力への理解を深めて頂けるよう、努力します。
(結語)
ご列席の皆様、
冒頭に申し上げたEメールの例えに戻りたいと思います。我が国は、世界という「100人の村」の中で、これまで活発に消費を享受し、今や倹約を始めつつある「いちばん豊かな8人の1人」に当たるのではないでしょうか。自分では10年前の生活に比べて現在の生活に苦しさが感じられるわけですが、「100人の村」の中では、相変わらず皆から大変うらやまれる存在です。重要なことは、「100人の村」の全ての家から笑い声が聞こえ、どの家の子どもたちも健やかに育ち、村の緑が豊かになり、そして村の人々皆の安全が守られることが、この「いちばん豊かな8人のうちの1人」の幸福をも一層確かなものにする、ということです。
私は、「強さ」、「温かさ」、「わかり易さ」を軸に、日本という「一家」の利益、そしてその基礎となる「村」全体の利益を実現するため、精一杯取り組んで行きたいと思っています。その際には、皆様から、ご指導、ご協力を頂くことが不可欠です。是非よろしくお願いしたいと思います。
ご静聴ありがとうございました。