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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 日本経団連に於ける川口外務大臣演説「サミットの模様と当面の外交課題について」

[場所] 日本経団連
[年月日] 2002年7月3日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 ご列席の皆様

 本日は、新たに発足した日本経済団体連合会でお話する機会をいただき、誠に光栄です。

 2月に外務大臣に就任し、小泉総理からまず言われたことは外務省改革でした。私は、外務省改革を実施し、外交に対する国民の信頼を回復することを最優先の課題としてきました。就任直後発表した「開かれた外務省のための十の改革」に基づき、各界の有識者の方からなる「変える会」で具体的な方策につきご議論いただいており、今月中に最終報告を頂く予定です。私は、この報告を踏まえながら改革を一層推し進め、外務省が国民の皆様の期待に十分応える組織に再生するよう取り組んでいきたいと思います。

 一方、その間にも、国際社会では日々刻々情勢が展開しており、我が国外交も待ったなしの取組を必要とされています。私が就任した後だけでも、パレスチナ情勢の緊迫化やインドとパキスタンの間の緊張激化など国際社会全体としての取組を必要とする大きな事態の展開があり、さらには、瀋陽総領事館事件など外務省の対応が大いに問われる事態もありました。外務大臣として、私は、日本の国益という視点を常に持って、駆け足ながら全力で、これら日本外交の直面する課題に取り組んできました。

 本日は、頂いた演題が「サミットの模様と当面の外交課題について」ということでもあり、今年前半を締めくくる大きな外交行事であったG8サミットの成果についてご紹介するとともに、これも踏まえながら今年後半の外交課題についてお話ししたいと思います。

(カナナスキス・サミット)

 私が最近、グローバル化の進む今日の国際社会の姿を表す例として引用させていただいているインターネット上のEメールがあります。「世界がもし100人の村であったら」と仮定するもので、インターネットを通じて世界中で広く読まれていると聞いています。最近では絵本にもなっておりご承知の方も多いかと存じますので細かくは申し上げませんが、G8サミットに参加する8カ国とは、この100人の村の中で最も豊かな一握りの住人であり、かつ、小さな村の人々全体の幸福に最も重要な責任を有するメンバーであると言えるのではないでしょうか。テロや紛争、貧困や環境問題など、今日、地球村は様々な問題を抱えています。このような観点から、私自身、首脳会合に先立って開かれた外相会合に参加し、真摯な議論に加わる中で、あらためて世界全体における我が国の重い責任に思いをいたしました。

 今年のG8サミットは、去年の米国での同時多発テロ以降のテロとの闘い、国際社会における開発、特にアフリカの問題に対する関心の高まりを背景に開かれました。今回のサミットでは、議長国カナダの意向で、首脳による自由で充実した議論を行うというサミットの原点に戻るため、カナナスキスというカナディアン・ロッキーの中の場所が選ばれ、テーマを絞って首脳間でじっくりと議論が行われました。

 会合の結果を簡単に紹介させていただきますと、まず、テロ対策については、米国での同時多発テロ以降初めて8カ国の首脳が一堂に会した機会でもあり、国際的なテロリズムの根絶のため、今後とも一致して取組を強化していくことを確認しました。また、「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するG8グローバル・パートナーシップ」として、大量破壊兵器やその関連物質がテロリストの手に渡ることを防止するために、不拡散、軍縮、テロ対策、原子力安全に関する具体的な協力事業をまずロシアにおいて支援することに合意しました。我が国も、この「グローバル・パートナーシップ」に当面2億ドル余の貢献を表明したのをはじめ、国際社会と連携してテロ対策に引き続き積極的に取り組む決意を表明しました。

 世界経済については、リスク要因の存在や市場動向についての注意すべき動きも指摘されました。しかし、ミクロの面での課題はあるとされましたが、全般的には、世界経済のファンダメンタルズは健全であることについて一致しました。ブッシュ大統領からは、米国における企業統治に対する信頼回復の重要性についての発言がありました。その他、ユーロは堅調に推移しているとの意見が複数の首脳から出されましたが、欧州内での大国と小国との間の是正格差が必要であるとの指摘もありました。

 このような中、日本経済については、小泉総理から、「改革なくして成長なし」との考え方に立って努力を重ねており、5月には景気が底入れしたこと、また、経済活性化戦略等の基本方針を打ち出すなど着実に構造改革を進めていることを説明しました。そして、改革は今や後戻りできない、改革路線を歩み続けると述べました。これに対し、「小泉総理の努力を祝福する」との発言がブレア首相からあり、参加首脳は机を叩いて支持と激励を示したとのことです。私は、このような高い評価は、日本経済再生への各国の強い期待の裏返しであると考えます。我が国自身のためにも、世界経済全体のためにも、政府として一層の決意をもって構造改革を推進していくことが必要であると考えます。

 さらに貿易については、保護主義を防ぐためにも新しいラウンド交渉の期限内、すなわち2005年1月までの終了が必要であること、そのためにも来年の第5回閣僚会合を成功させるよう各国が努力していくことが必要であることについて、意見が一致しました。

 また、8月にヨハネスブルグで開かれる「持続可能な開発に関する世界首脳会議」を念頭に、開発問題と環境問題についても議論が交わされ、会議の成功に向けた努力が必要であることにつき一致を見ました。これについては、後ほどさらに触れたいと思います。

 今回のサミットの主要テーマの一つとして取り上げられたのがアフリカ問題です。世界全体でグローバル化が進展しその果実を多くの人々が享受する一方、この流れから取り残され飢餓や貧困などの困難に直面している人々がいます。特にアフリカでは、紛争や政情不安などの問題と相まって、約3億人、つまり人口の4割以上が1日1ドル以下の生活を強いられています。サミットでアフリカ問題が焦点となった背景には、このような問題が凝縮しているアフリカの問題の解決なくしては、21世紀の世界の安定と繁栄はないという問題意識があります。また、今日的には、テロを正当化する口実として貧困問題を利用させてはならないという緊迫感もあります。

 日本は、90年代以来、アフリカ開発会議(TICAD)を開催するなどアフリカ問題に継続的に取り組んできました。また、サミットの場でも、九州・沖縄サミットに際してのアフリカを含む途上国を代表する首脳との対話に始まるアフリカ問題重視の流れを主導してきたという自負があります。今回のサミットでは「G8アフリカ行動計画」が採択されました。この「行動計画」は、NEPADという開発計画を自ら策定するなどのアフリカ自身による自助努力、「オーナーシップ」の動きに対して、G8として支援・協力の手をさしのべるという「パートナーシップ」の考え方を具体化したものです。このようなオーナーシップとパートナーシップとの相互連関という考え方も、TICADプロセスで日本が主張してきた結果として国際社会に広く根付いたものであり、冷戦終了後、国際社会のアフリカへの関心が薄れる中、地道な努力を積み重ねてきた日本外交が実を結んだものだと思います。

 地域情勢については、アフガニスタン情勢、インド・パキスタン情勢についてG8の果たす役割の重要性について確認されるとともに、特に中東情勢について活発な議論が行われました。外相会合に臨むにあたって、私は、イスラエルとパレスチナを訪問し、外相会合の場ではこれを踏まえて、我が国として中東和平に積極的に関与していくにあたっての考え方を説明しました。カナナスキスでは、直前に行われたブッシュ大統領の演説を踏まえ、米国の果たす役割の重要性や、パレスチナ自治政府改革の必要性、選挙の緊急性などについて認識が首脳間で共有されました。小泉総理からも、我が国として引き続き積極的に役割を担っていく考えを示しました。パレスチナとイスラエルという二つの国家が安全で認められた国境の中で並存するという目標に向けG8としてコミットすることが確認されたことは、重要な成果と考えます。朝鮮半島情勢については、首脳会合と外相会合で、小泉総理と私からそれぞれ、拉致問題をはじめとする諸問題の解決に向けた我が国の方針や、対話を通じて北朝鮮を国際社会に関与させていくことの必要性について説明しました。

 私なりに感じた今回のサミットの意義を一言で申しますと、最初に述べたような「地球村」の将来に大きな責任を有するG8各国の連帯、パートナーシップが一層深められたサミットであったと思います。9月11日以降のテロとの闘いは、G8の連帯無くしては遂行し得なかったのであり、今回のサミットはこのようなG8協調の意義をあらためて確認する場となったと言えましょう。特に、ロシアが2006年のサミットのホスト国となることが決まったことなどは、国際場裏における責任ある協力のパートナーとして、各国がロシアを一層重要視し、その積極的役割を期待していることの反映と言えましょう。

(当面の外交課題)

 さて、サミットで扱われた開発問題やアフリカ問題というテーマは、まさに今日の国際社会全体が取り組む重要課題です。我が国としても、今年後半、今回のサミットの成果も踏まえてこれらの課題に一層積極的に取り組んでいきたいと思います。

(WSSDに向けて)

 92年にリオデジャネイロで開かれたいわゆる「地球サミット」以来、国際社会は「持続可能な開発」の実現に向けて取り組んできました。環境面では、97年に京都議定書が合意されるという成果があり、皆様ご案内のとおり、先般日本はこの議定書を締結しました。一方、グローバル化の負の側面として所得格差が拡大するなど、開発の問題への対応が迫られています。地球サミット10周年である今年、8月にヨハネスブルグで「持続可能な開発に関する世界首脳会議」が開かれますが、これに向けて今年は、3月にメキシコで開かれた開発資金国際会議や先のカナナスキス・サミットなど一連の国際会議において、今後の「持続可能な開発」への取組のあり方について活発な議論が行われてきています。我が国は、「持続可能な開発」のために環境保護と経済開発を両立させていくことの重要性を訴えるとともに、循環型社会の構築や、科学技術を活用した環境保全の促進などを主張してきました。しかし、開発の問題、特に債務救済、援助の増大や途上国にとっての市場確保の問題などについての議論は収斂していません。開発の進め方がヨハネスブルグ・サミットの大きな焦点になってきています。日本としても会議を成功させ、「持続可能な開発」に向けた今後の行動指針について国際社会の合意が得られるよう、全力を尽くす考えです。

 具体的には、ヨハネスブルグ・サミットでは抽象的な目標を掲げるのではなく、これまでに国際場裏で合意された事項を着実に実行していくための、行動指向型の会合となるよう働きかけていく考えです。そのためには、政府が、NGOや企業など民間セクターとの協力を進めることが重要です。ヨハネスブルグ・サミットではNGOの方にも政府代表メンバーになっていただく予定です。会議の成功のため、経済界の皆様のご協力を賜りたく、この場をお借りしてお願い申し上げます。

(アフリカ問題)

 先程ご紹介しましたように、カナナスキス・サミットではアフリカ問題について活発な議論が行われましたが、今後は議論を行動に移し、具体的成果を挙げていくことが必要です。我が国は、来年後半日本で開催する第3回アフリカ開発会議までの1年余を「対アフリカ協力飛躍の年」と位置づけ、アフリカ政策推進のための具体的な措置をとっていきます。これにあたり、次のような点を強調していく考えです。

 第一に、「人づくりこそ国づくり」との考えに立って、教育分野をはじめとする「人間中心の開発」に重点を置いて取り組んでいきます。具体的には、先に発表した、アフリカ諸国を含む低所得国に対する今後5年間で2500億円以上の支援などを着実に実施していく考えです。

 また、アジアの開発経験をアフリカに提供し、アジア・アフリカ協力を進めていきたいと考えます。この一例としてご紹介したいのが、アフリカ米とアジア米を交配することによりできた、病気に強く多くの収穫が得られる「NERICA米」(New Rice for Africa)と呼ばれる新しいタイプの稲についてです。アフリカでは、食糧の安定供給を目的として、日本の協力の下、この「NERICA米」の開発・普及が進められており、これなどは、まさにアジア・アフリカ協力を象徴する事業と言えましょう。

 第二に、貧困の削減や開発促進のためには、援助にとどまらず、国内資金、貿易、投資など幅広い資金を動員することが重要です。特に、途上国産品に対する市場アクセスを改善することは重要な方策です。我が国はすでに、後発開発途上国の鉱工業品に関しほぼ100パーセントの品目について無税・無枠の市場アクセスを提供していますが、さらに来年度の関税改正に向けて無税品目の追加について具体的な内容を早急に検討していく考えです。

 第三に、紛争の解決、平和への努力を後戻りさせることのないよう、アフリカ諸国の努力を支援していきます。私は、外務大臣就任以来、国際社会の中で日本が知見と経験を有している協力分野として「平和の定着」のための貢献を提案しています。この「平和の定着」とは、和平プロセス、国内の治安、そして復興・人道支援の3本柱で協力を行う考え方です。こうした考え方については、アフリカにおいてもシエラレオネに対しては「人間の安全保障基金」を通じて元兵士の社会復帰支援計画への支援を決定しており、今後は長年の紛争が終結したアンゴラへの支援を検討していきたいと考えます。

 このような取組を進めるにあたり、私自身、この夏のヨハネスブルグ・サミット出席の機会をとらえ、是非南アフリカ以外のアフリカ諸国もいくつか訪問したいと考えています。日本の経済協力の現場を訪問したり、NGOの方々や海外青年協力隊員と意見交換をしたいと思います。

(ODA)

 このように、我が国が国際社会の諸課題に一層積極的に取り組もうとしている中、我が国にとっての貴重な外交手段であるODAの重要性はいささかも減じることはありません。更に、地球温暖化や感染症といった問題、平和構築や紛争予防などの分野、テロの温床となりうる貧困問題などについては、ODAによる対応が急務となってきているとの認識が国際的にも高まりつつあり、例えば、2006年までに米国が50億ドル、EUが70億ドルODAを増額することを表明しています。米国がこの公約を達成する場合、我が国が、ODAを巡る状況には厳しいものがある中、仮に現在のODA予算の規模を維持したとしても、2006年には我が国のODAの規模は米国の半分となります。

 我が国のODAに対する評価は国際社会では極めて高く、私も、アフガニスタン訪問など様々な機会を通じてこのことをあらためて認識しました。我が国が十全な形で国際的責任を遂行することができるような質と規模でODAが維持されることが重要です。我々としてもODAの効率性を高めるため、メリハリのある援助とするよう努力しているところです。

 もちろん、昨今、ODAを巡り厳しい見方があるのは事実であり、貴重な予算を使うODAの実施にあたっては国民の皆様の理解と支持を得ていくことが不可欠です。政府としては、現在ODA改革に全力で取り組んでいるところです。先に立ち上げた「ODA総合戦略会議」で私は議長を務めていますが、このような場でODAについて十分な議論をしていきたいと思います。現在、「国民参加」、「透明性の確保」、「効率性の向上」の3つのキーワードに沿って現在ODA改革の具体策を策定中であり、近々発表する予定です。

(近隣諸国との関係)

 当面の外交課題について語る上で、以上のような課題への対応のみならず、近隣諸国との関係が重要であることはいうまでもありません。特に今年後半を通じて、更なる発展を目指さねばならないのが中国、ロシアとの関係です。本日は、この2カ国との関係に絞って、お話いたします。

(日中関係)

 中国との関係については、今年前半、いくつかの問題をめぐって、摩擦が発生し、両国の国民感情を大きく刺激する事態も生じました。日中国交正常化30周年の今年、こうした状況が生じたことは大変残念でありますが、政府として求められるのは大局に立って冷静に問題処理にあたっていくことであると考えます。瀋陽総領事館事件については、このような観点から、先般、タイにて唐家セン外交部長と会談を行い、両国の外交当局間で再発防止のため、協議を行っていくことで合意したところです。同時に、国民レベルでは、現在進行中の「日本年」「中国年」活動をはじめとする幅広い交流事業等を通じ、次の世代を担う若い世代の間の相互理解、相互信頼を一層深めて、今後の両国関係発展の強固な基礎としていくことが重要と考えます。

 小泉首相もおっしゃっていますが、中国の経済発展は決して我が国にとっての「脅威」ではありません。むしろ新産業の育成と中国市場への展開を通じて、日本の産業を高度化し、一層強い日本経済を実現するための「好機」であると考えます。ビジネス界の皆様はすでにこのような認識に立って昨今中国への進出を一層進めておられると承知していますが、貿易、投資などを通じて、相互依存関係が一層強化されていることは、日中関係の安定的な発展にも大いに貢献しています。

 もちろん、経済面においても、両国間では、去年のねぎ等3品目をめぐるセーフガード問題にも見られたように、今後、様々な摩擦が発生することは免れないでしょう。また、知的財産権の保護をはじめ、中国による貿易・投資環境の一層の整備も焦眉の急であり、政府としても中国側に対してできる限りの働きかけ等を行っているところです。こうした観点から、両国間の経済面における紛争の未然防止も念頭に、中国との対話を強化していく考えであり、今年4月には、小泉総理と朱鎔基総理との間で、「日中経済パートナーシップ協議」の設立につき合意しました。この協議で取り上げるべきテーマにつきましては、本日御出席の皆様をはじめ、日中経済交流の第一線で御活躍されている方々からも貴重なアドバイスを頂戴したいと考えており、随時、御意見等をお寄せいただければ幸いです。

(日露関係)

 ロシアについては、最近、残念ながら日露関係の停滞を指摘する声をよく耳にします。こうした中、私は先にG8外相会合出席の際、イワノフ外相と会談を行い、双方向での政治対話の必要性を実感しました。また、カナナスキス・サミットにおいては小泉総理とプーチン大統領とで首脳会談が行われ、「日露行動計画」の作成について合意しました。これらの会談を通じて日露関係の発展の重要性についてあらためて認識の一致が見られたことは有意義でした。特に、今年12月から来年1月の間での総理の訪露、それに先立つ今年秋の私の訪露につき合意したことは、今後の日露関係の進展に弾みをつけるものと評価しております。

 日露関係において、平和条約交渉、すなわち北方領土問題は、国家の主権に直接関わる問題であり、我が国にとって最も重要な外交課題の一つであることは言うまでもありません。したがってこの問題に政府として引き続き真剣に取り組んでいくことは当然であり、ロシア側との間でも交渉を継続することについて意見が一致しています。

 一方、今日の日露関係は、単に二国間の領土問題の枠内に留まるものではなく、例えばテロ対策や密漁問題、アフガニスタンや朝鮮半島情勢をはじめとする地域問題など、国際舞台の幅広い分野において協力が可能であり、また必要である関係となってきております。G8外相会合に先だってイワノフ外相と電話会談を行って、中東情勢やインド・パキスタン情勢について意見交換をしたのもこのような考えからです。

 さらに、資源エネルギー面での可能性に加え、ソ連時代以来の技術力や新たな市場としての発展ぶりは、ロシア経済が日本にとってビジネスチャンスを提供する可能性が益々大きくなっていることを示しています。もちろん投資環境の整備等ロシア自身による努力は不可欠ですが、日本政府としても、このようなロシアの努力に対する支援を継続し、日本企業のロシアでの展開をできる限り側面支援していく考えです。また、プーチン大統領自身が累次表明しているとおり、ロシアはWTO加盟に向け強い政治的意思をもって努力しており、ロシアの国際経済への一層の統合に向け、このような努力に対する支援も継続していく考えです。またこれは、ロシアとのビジネスを行う我が国企業にとっても有益と考えます。

 このように日露間で幅広い協力を進めていく上でも、両国間の相互理解の深化は不可欠であり、文化交流や人的交流にも一層力を注いでいく必要があります。こうした観点から、来年を「ロシアにおける日本年」と位置づけ、様々な文化交流を実施する予定であり、経済界からのご協力もお願いしたいと思います。また、8月下旬には札幌で外務省のタウンミーティングを開催する予定であり、日ロ関係をテーマとしたい考えです。

(結び)

 以上、駆け足でしたが、今年後半の外交日程も視野にいれて、様々な外交課題に如何に取り組んでいくかについて述べてまいりました。もちろん、以上申し上げた課題に取り組むにあたり我が国外交の基軸である米国との関係を更に強化することが必要であるとともに、韓国という重要な隣国との関係強化や、北朝鮮との諸懸案の解決に向けた取組、FTAを含め各国・地域との経済関係強化の枠組みを如何に築いていくか等々、外交当局として取り組まねばならない課題は山積しています。

 結びにあたり、私が強調させていただきたいことは、これら数多くの課題に臨むにあたり、「オールジャパン」として外交を押し進めていくことの重要性です。外交を担っているのは外交当局のみではありません。我が国外交の主張や立場の強さを支えるのはまさに国民各層からの理解や支持です。私が就任以来、外交の「わかりやすさ」や、政策立案にあたっての「透明性」ということを強調してきているのはこのような問題意識によるものに他なりません。

 特に、ご列席の経済界の皆様方には、先に触れましたとおり、環境や開発といったグローバルな分野や、各国との二国間関係など、様々な場面においてお知恵をお借りし、お力添えを頂かなければならないと思います。皆様が各国の経済界、さらには有力者の人々との間で有しているネットワークは日本全体にとってのかけがえのない財産であり、是非ともその力をお借りしたいと思います。あらためて我が国外交推進にあたってのご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 ご静聴ありがとうございました。