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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外務省タウンミーティング第3回会合,川口外務大臣と語るタウンミーティング「日本の対ロシア外交」(プレゼンテーション)

[場所] 札幌
[年月日] 2002年8月22日
[出典] 外務省
[備考] 
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 こんにちは。今日はお忙しい中をお集まり頂きまして、どうもありがとうございました。それでは私からまず最初に、ロシアとの関係について、ちょっとお時間を頂いて、お話しをさせて頂きたいと思います。

 今日は、このタウンミーティングは、外務省のタウンミーティングとしては3回目です。1回目は東京で、これは外務省の改革の問題についてやりました。それから2回目は大阪で、経済協力の問題についてやりました。3回目がこの札幌でのタウンミーティングで、これがロシアと日本の関係についてです。北海道は、ロシアがまさに隣にあるわけですから、ロシアというのは非常に近く感じていらっしゃると思います。したがって、外交問題の中でも、ロシア問題、日本とロシアの関係については、強い関心がおありになるのではないかと思います。私自身も、外務大臣になって、初めての仕事が日露の外相会談ということで、とても印象の強い仕事でありますし、今、一生懸命に取り組んでいるテーマでもあります。

 最近、北方四島の支援問題について、様々なことがマスコミでも取り上げられましたので、特に皆様のご関心が強くあるのではないかと思いますけれども、その結果として、日露関係、或いは日本のロシアに対する政策はどうなっているのか、北方領土問題はこれからどうやって進めていくのか、といった点についてのご質問やご意見がおありになると思います。私は、外務省を代表する者として、皆様にご心配をおかけしているということについては大変心苦しく思っております。今日、時間的には制約がありますけれども、皆さんとこの問題についてできるだけ意見交換をして、ご理解を深めることができればと思っています。

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 まず、日本とロシアの交流の話をしたいと思いますけれども、日本とロシアが初めて外交関係をつくりましたのは、今から150年前の1855年のことでした。当時はロシアは帝政ロシアでしたし、日本は徳川時代ということでして、今とはだいぶ違った。その後、日本においてもロシアにおいても、かなり政治の体制は大きく変わったということです。

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 そして、ロシアの変化ですけれども、ここ数年、大きく変わってきていると思います。ロシアとアメリカ、或いはNATOとの関係を見ても、新しい関係が築かれつつあると思います。この間小泉総理も行かれましたカナナスキス・サミットがカナダでありましたけれども、そこで、2006年にロシアがG8サミットを主催するということが決まりました。ロシアは自由主義、民主主義といった、我が国も持っている価値を共有する国ということになりましたし、国際社会の中でも、ますます責任ある役割を果たしていくことが期待されている国です。この間ブルネイで、ASEAN、アジアの国々との会議の場でロシアのイワノフ外務大臣と会談を持ちました。これは3回目、半年前の2月に私が外務大臣になりましてからロシアの外務大臣にお会いするのは3回目だから2ヶ月に一回会っているということになりますけれども、イワノフ外務大臣に対しまして私は、ロシアを巡る国際情勢、サミットに加わるとか、NATOと近くなるとか、そういった情勢が大きく変化しているのだから、日本とロシアの関係においても、今、平和条約が未締結のままになっているという状態を克服して、新しいレベルの協力関係が日本とロシアとの間で築くことができるようになるということが大事で、そのために協力していきましょうというお話を致しました。

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 最近、特に90年代後半以降の日露関係は、これまでの150年間の日露の歴史の中でも非常に良好な状態にあると私は思います。一つの例を挙げてみますと、日本の総理大臣の相手の国への訪問というのは、外交の中でも最も大事な行事の一つですけれでも、日本とソ連の間−ソ連時代ですけれども−では、1973年に田中総理が公式に訪ソをなさった以降、1991年12月にソ連が崩壊するまで、日本の総理大臣の訪ソというのは行われなかったわけです。1973年が最後だった。ただその後で、ロシアになった後で、首脳と外務大臣のレベルの政治対話というのは活発化していきました。当面の日程としては、私が10月にロシアに行くことになっています。そして今年の12月か来年の1月には、小泉総理大臣が公式に訪露することも予定されています。勿論、これは日本とロシアの関係が、ソ連時代に比べてはるかに緊密になってきたということをあらわす一つの例にしか過ぎません。他にもたくさんあります。

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 ただ、そうした現在の日本とロシアの関係が、満足するレベルまであがってきているかと言うと、これはそうでもないということです。この表は、世界の主要国と日本との関係の強さと比較して、日本とロシアの関係はどうかということを見た表ですけれども、貿易額では、日本とロシアの関係の数字というのは、日米間の40分の1、日中間や日EU間の20分の1にとどまっています。桁が一つ違います。また、人の往来においても、日露間は日米間の65分の1、日EU間の60分の1、そして日中間の30分の1というレベルにしかすぎません。このような数字からもお分かり頂けるように、ロシアは我が国と隣人である、地理的にはそういう関係にありますが、まだまだ遠い存在であるということかと思います。

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 ロシアとG8と言われる主要国との関係を見ましても、日露両国が位置する北東アジア地域を見ても、二国間関係の中では日露関係が最も弱いと見られています。日露関係の発展・強化は、日露両国及び北東アジア地域の安全保障環境の改善ということにも繋がっていくものです。私たちは、ロシアとの間で、平和条約の締結、経済分野での協力、国際舞台における協力という、幅広い分野での三つの課題を同時に前進させるということのために、努力をしているわけです。平和条約が締結されるということになれば、過去の遺産を克服して、日露間に真の信頼関係が築かれるということになります。また経済関係においても、これはどの二国間関係をとっても経済の関係というのは重要な関係であるわけでして、日本とロシアの間の経済関係が発展して、相互依存関係、お互いになくてはならない関係というものができるようになると、必然的に両国の関係の基盤がきちんとしていくということになります。国際舞台における協力、これはテロの対策、環境問題といったことですが、国際社会における両国の貢献を相互に補完して、両国が国際的な広がりを持つ問題に協力しあっていくという関係を作ることができると思います。

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 ロシアの人口というのは日本とほぼ同じぐらいですけれども、面積では日本の50倍あります。我が国とロシアの関係というのは、まだまだ広がる潜在的な可能性があって、その可能性を十分に生かしていないと思います。北海道の皆さんは、ロシアの極東との経済交流の可能性に強い関心をお持ちでいらっしゃるかもしれません。先ほどお示しした表からも明らかでありますように、日本とロシアの経済関係は今後更に広がる可能性を秘めていると思います。例えば極東・シベリアでの石油・ガスといった資源の開発の分野で、ロシアと日本が協力することができれば、ロシアにも日本にも大きな利益になると思います。サハリンでは既に、大規模な石油・ガスの開発のプロジェクトがありまして、日本とサハリンの間を結ぶパイプラインの敷設についても検討が行われています。こういったプロジェクトが本格化していけば、関連ビジネスの受注が増えていって、ビジネス・チャンスが広がるということが北海道において起こってくると思います。そして、エネルギー等の大規模案件もさることながら、日本とロシアの相互利益につながるような新しい協力分野の発掘も大事だと思います。この他にも、ロシアと日本との間では、銃器、麻薬、密漁といった問題での協力や、テロや環境、あるいは地域情勢など、様々な分野で協力をしていかなければいけない、そういった分野はたくさんあるわけです。8月1日、私は先程申し上げたブルネイでイワノフ外相と会談をしました時に、アフガニスタンとタジキスタンの国境地域で麻薬取締のプロジェクトがありますけれども、そのプロジェクトについて、日本はロシアに協力をしますということを言いました。これも幅広い分野での協力の一つです。

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 言うまでもないことですけれども、日本とロシアの関係が今後ますます広がる潜在的な可能性を秘めながら、それが十分にくみ尽くされていないということの最大の要因の一つは、未解決の北方領土問題ということだと思います。領土問題が存在しているために、平和条約が締結できなくて、最終的な戦後処理が行われていない。このために、ロシアと日本の関係が完全に正常化されないままになっているということは、両国にとって大きな不幸であると私は考えています。

 この北方領土問題の解決への政府の基本方針について、これから少しお話しをしたいと思います。

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 まず、はっきり申し上げておきたいのは、北方四島は我が国固有の領土であるということで、この立場が変わることはあり得ないということです。しばらく前、新聞紙上で、「二島先行返還論」ということが言われていました。政府として、ロシアに対して、「二島先行返還」という提案をしたことはないということを、ここではっきり申し上げたいと思います。政府としては、「四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結する」ということが基本的な方針で、これをこれからも堅持していきます。2001年3月にイルクーツクで両首脳間で署名されたイルクーツク声明にも明記されていますけれども、日露両国は、1956年の日ソ共同宣言が、平和条約締結交渉プロセスの出発点を設定した基本的法的文書であることを確認し、その上で、東京宣言に基づいて、四島の帰属の問題を解決して平和条約を締結することを共通の認識にしています。ロシア側に対しては、国後・択捉の帰属の問題について結論を出さなければ、「四島の帰属の問題を解決した」ことにはならない、したがって、平和条約を締結することもできないということを、我が国は明確に説明しています。

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 ロシア側と繰り返し確認していますように、1956年の日ソ共同宣言、東京宣言、そしてイルクーツク声明を始めとする、これまでに蓄積された成果を踏まえつつ、交渉を続けていくことが重要であると考えています。

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 領土問題の解決は決して簡単なことではないと思います。そういうことではありますけれども、この問題は我が国として、決してあいまいにしてはいけない重要な問題です。最も警戒をしなければいけないのは、この領土問題が「風化」していくということです。国民の一人一人にねばり強く取り組んで頂くことが大事だと思います。北方領土問題を解決して、日露の関係を新しいレベルに引き上げ、日露の新しい時代を切り開いていきたい、というのが私の強い希望であり、また、外務大臣としての私の責務であると考えています。地元の北海道の皆様の御支援・御協力を是非頂戴したいと思います。

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 この関連で、最近話題になっている北方四島の支援問題についても触れておきたいと思います。北方四島の住民支援に関連しまして、外務省から2人の逮捕者を出しました。外務省としてその責任を痛感しております。北方四島の住民支援は、これまで支援委員会を通じて行ってきました。この支援委員会につきましては、国会の場で様々な問題点が指摘されました。こうした経緯を踏まえまして、外務省としては、専門家会議を設置致しまして、支援委員会の改革についてご検討頂きました。この委員の方々は、本当に熱心に、時には深夜に及ぶまで議論を重ねて頂いて、結論を出して下さいました。4月26日に専門家の委員の方々から提言を受け取りました。私は、この提言を重く受け止めて、今年度末までに支援委員会を廃止するということとし、北方四島の住民支援につきましては、規模や形態を抜本的に見直した上で、問題の再発防止を確保できるように、支援のあり方を考えていきたいと思っております。

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 この支援委員会は、北方四島の住民支援をやっていただけではなくて、ロシアの市場経済化の支援も行っていました。この分野で中心的な役割を果たしてきましたのが、ロシアの中に7ヶ所あります日本センターです。この日本センターの活動については、私はイワノフ外務大臣からも非常に良い活動をしているという評価を頂きましたし、また、先程申し上げました専門家会議のメンバーの方からも非常に評価をして貰っている活動です。私としては、そういったこともありますので、日本センター事業については、ロシア側のニーズの確認や、支援実施のあり方、透明性を高めていくということを致しまして、問題の起こらないように再発防止策を講じた上で、来年度以降も継続・発展させていきたいと考えています。こうした日本センター事業が大事であるということに鑑みまして、日本センターの活動については、今年度においても事業内容を厳選して、透明性や、公正性を確保して、行っていきたいと思っております。

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 もう一つ、日露青年交流委員会の事業というのがあります。これについても、いくつかの問題点が明らかになりました。今後の日露関係を支えていくためには、国民一人一人の交流が何よりも大事であり、青年交流の意義というのはますます高まっていると私は思います。こうした観点から、透明性の確保など、実際の事業のあり方について、ロシア側と協議していきたいと考えています。

 そして、日露の相互交流、相互理解を促進するために、今後は文化交流にも一層力を入れていきたいと考えています。首脳間の合意によりまして、来年が「ロシアにおける日本年」と位置づけられています。日本の文化をロシアに紹介する事業を進めていきたいと考えています。北海道の皆様にも是非積極的に参加して頂けることを期待しています。

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 時間が限られておりますけれども、最近の日本とロシアの関係について、考えていることをお話しさせて頂きました。

 先程申しましたように、今年の12月から来年の1月までに小泉総理がロシアを訪問なさるということが予定されています。この総理の訪露の際には、平和条約の問題も含めまして、日露間の幅広い協力についてまとめた「行動計画」を作成することが合意されています。私がその前に10月にロシアに行きますけれども、この際には、大きな将来の発展の可能性を秘めた「行動計画」の内容について、イワノフ外務大臣とじっくり話をしたいと考えています。またその際には、今日、まさに領土問題の最前線とも言うべき北海道の皆様から頂くご意見を参考とさせて頂いて、そういった議論にもできるだけ反映をさせていきたいと思います。明日は私は根室に行きまして、自分の目で納沙布岬から北方四島を見たいと思っています。そういった北方四島の風景を目に焼き付けて、今後の日露関係の更なる発展のために努力をしていきたいと考えています。

 御静聴ありがとうございました。