データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 国連アフリカ経済委員会における川口外務大臣スピーチ‐アフリカと共に歩む我が国の決意‐

[場所] アディスアベバ
[年月日] 2002年8月26日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

1.冒頭

 アモアコ国際連合アフリカ経済委員会(ECA)委員長、

 アントニオ・アフリカ連合(AU)暫定委員長代理、

 ご列席の各国常駐代表の皆様

 本日、皆様の前でお話しする機会を得られたことを大変光栄に思います。皆様も良くご存知のとおり、数ヶ月前、日本は2002FIFAワールド・カップを共催しましたが、アフリカからの参加チームは、皆連日素晴らしい活躍を見せました。チームの合宿をホストした日本の地方の町々では、小さな子供たちから大人まで、全ての人々がチームと友人となりました。もちろん、アフリカのチームと彼らを受け入れた人々との交流がテレビで放映されました。ワールド・カップを通じて、多くの日本人がアフリカを一層身近に感じたことは、本当に良かったと思います。

 私が、今回のアフリカ訪問をアディス・アベバから開始したのは、偶然ではありません。この美しい都市には、アフリカの統合への動きを象徴するアフリカ連合(AU)や、アフリカ開発の重要な一翼を担う国連アフリカ経済委員会(ECA)の本部があります。日本は、これまでアフリカの真の友人として、永きにわたりアフリカの統合や開発に、皆さんと共に取り組んできました。本日、私は、改めて、対アフリカ協力に取り組む日本の姿勢をお話ししたいと思います。

2.日本の基本姿勢:アフリカ開発会議(TICAD)プロセス

 ご列席の皆様、

 アフリカ問題の解決なくして21世紀の世界の安定と繁栄はありません。アフリカが直面している問題は、アフリカという一地域を超えて、国際社会全体にとって重要な課題です。日本がこのような問題に対して危機感を持ち、1993年に「アフリカ開発会議(TICAD)」を開催してから、来年で10年が経ちます。当時は、冷戦終了直後で、国際社会は「援助疲れ」の兆しを見せていました。日本の主導で始まったTICADプロセスは、98年のTICADII、昨年の閣僚レベル会合と、脈々と続いています。日本はTICADプロセス10周年となる明年10月に、首脳レベルの会合であるTICADIIIを開催します。

 この間、日本が一貫して主張してきたのは、アフリカの開発のためには、アフリカ自身の自主性や自助努力(オーナーシップ)とこれを支える国際社会のパートナーシップが重要だということです。

 どのような開発でも、その裨益者自身が自分の問題として取り組むこと無しには長続きしません。アフリカ開発の実現は、アフリカ自身により主導されることが必要なのです。また、開発努力が実を結ぶためには、国際社会がアフリカ自身の考え方を尊重し、アフリカの努力を対等な立場から支援することが重要です。

 このような日本の考え方に応え、アフリカは、NEPAD策定やAUの発足を通じて、明確なオーナーシップを示しました。日本を含む国際社会は、この努力と成果を高く評価しています。

 これに対し、先般のG8カナナスキス・サミットで採択されたG8「アフリカ行動計画」は、国際社会がアフリカ問題をグローバルな課題と位置付け、NEPADにパートナーシップの精神で応えるものです。「アフリカ行動計画」採択に至るG8での機運の高まりは、2000年九州・沖縄サミットの際に、議長国日本がアフリカ諸国を含めた首脳を東京でのアウトリーチ・セッションに招待したことに端を発しています。G8は、「アフリカ行動計画」で、ガヴァナンスの向上、経済成長及び貧困削減等を追求する国へ強力な支援を行うこととしています。そして、日本も、NEPAD実施に貢献するように、行動計画の実施に率先して取り組んで行きます。

 これからは、NEPADの理念を、政府レベルのみならず、アフリカの市民社会、民間セクターを含めたあらゆる当事者が共有し、力を合わせていくことが必要です。その意味で、私は、アフリカ諸国が、NEPAD実施をアフリカ自身の手で担保するために「アフリカ・ピア・レビュー(相互審査)・メカニズム(APRM)」の導入を決定したことを高く評価しています。日本は、経済協力開発機構(OECD)の相互審査に関して豊富な経験がアフリカにとって有益であると考え、5月のOECD閣僚理事会の機会に、そのために10万ユーロの資金的貢献を行う用意があることを表明しました。また、こうした協力の中で、ECAの知見を効果的に活用することも重要と考えています。

3.TICADIIIに向けた我が国の取組み

 ご列席の皆様、

 それでは次に、来るTICADIIIに向けた日本の取り組みについてお話したいと思います。日本は、TICADIII開催までの期間を「対アフリカ協力飛躍の年」と位置付けています。アフリカ諸国のオーナーシップは、NEPADを通じて、かつてない高まりを見せています。こうした中、私は、TICADプロセスが、これからもアフリカとそのパートナーとが包括的な対話と協力を推進する場として、ユニークな触媒的機能を果たし続けるものと強く確信します。私は、TICADIIIの成功に向けて、アフリカ諸国と共に更なる努力を重ねていきたいと思います。

 日本が、これからのTICADプロセスの中で特に重視したいと考えているのは、(1)アジア・アフリカ協力、(2)日本の開発協力の理念である「人間中心の開発」、そして、(3)開発の前提である「平和の定着」に向けた努力です。

(対アフリカ協力の輪を広げる、アフリカとアジアを繋ぐ)

 まず、我が国は、TICADプロセスを通じて、対アフリカ協力のパートナーシップの輪を拡げるよう努力してきました。これは、20世紀の後半、アフリカ諸国と同じ開発課題に、異なるアプローチで取り組み注目すべきいくつかの成果を収めたアジアの経験・知見が21世紀のアフリカの開発に有益であると考えたからです。

 この新たなアジア・アフリカ協力を象徴するものが「ネリカ米(New Rice for Africa)」です。「ネリカ米」はアフリカ米とアジア米を交配した新しいタイプの稲であり、病害虫にも強く、多収量などの特徴を持ち、現在一部のアフリカ地域においてその開発・普及が進められています。日本としては、このプロジェクトを通じ、アフリカの重要な経済基盤である農業を振興し、食糧安全保障を改善することを期待して協力を進めています。

 なお、食糧安全保障との関連では、私は現在、南部アフリカにおける深刻な食糧不足を深く憂慮しています。この危機的状況に立ち向かうアフリカの人々を支えるべく、約3000万ドルの食糧支援を決定したところです。

 また、開発には、民間部門の有する投資や技術力などの資源を有効に活用することが重要です。現在、アジア・アフリカ協力はアジア諸国の民間セクターを巻き込み重層化しています。アフリカの投資誘致能力の向上や投資環境に関する情報提供を活動内容とする「アジア・アフリカ投資・技術移転促進センター(通称:ヒッパロスセンター)」や、アフリカとアジアとのビジネス機会の拡大を狙いとする「アフリカ・アジア・ビジネス・フォーラム」は、TICADプロセスにおけるアジア・アフリカ協力の良い例です。

 8月に、私が議長を務め、東京で「東アジア開発イニシアティブ(IDEA)閣僚会合」を開催しました。つい2週間前のことです。IDEAの主な目的の一つは、1960年代から90年代にかけ「東アジアの奇跡」とも形容される程の経済発展を達成した東アジア地域の開発経験を他の地域とも共有し、開発に関する国際的な議論に知的貢献を行うことです。この成果は、来るWSSDでも紹介するつもりです。アジアとアフリカとの共通の利益のため、この会合の成果をアフリカ開発にも活かせるよう、明年のTICADIIIを念頭に、今後さらに議論を深めていきます。

(現場志向、人間重視の対アフリカ協力)

 次に、日本は、国づくりの基礎は人づくりにあるとの考えから「人間中心の開発」を重視し、あらゆる開発協力の現場で、教育、保健等の分野において、地道な努力を続けて参りました。この点は、今後も対アフリカ協力の大きな柱の一つです。

 日本は1998年のTICADIIの際に、アフリカ開発を進めるための様々な支援策の一つとして、教育、保健・医療、安全な水の供給の分野で5年間で900億円の無償資金協力を行うことを表明し、これまでに約700億円を実施しています。これにより、約240万人の学童が教育を受け、約290万人が安全な水の供給を受け、2億1500万人の医療条件の改善に貢献することができました。

 我が国がアフリカで重視する給水案件は、寄生虫撲滅といった衛生事情の改善に貢献するのみならず、水くみ作業に費やす時間と労力の軽減に寄与しています。こうした協力を通じて、例えば西アフリカのある国では、水くみから解放された女性達がグループを形成し、共同菜園を運営し現金収入を得るなど、女性の社会進出や、貧困削減の推進にも好ましい波及効果を生みだしています。これらは、我が国の「人間中心の開発」に基づく開発協力の具体例です。

 こうした開発における現場重視のアプローチは、日本で広く支持されています。全世界に派遣された青年海外協力隊員(JOCV)は累計で約23000人を数えますが、そのうち3人に1人がアフリカ諸国に赴任しています。エティオピアにも26人のJOCVがいます。本日、昼食時に私はその若者たちと話をしましたが、その活動は自動車整備や建築技術から料理やバレーボールの指導に至るまで、実に様々であります。しかし彼らに共通する一つのメッセージは、自分自身がアフリカの現場でアフリカの文化と生活にとけこみアフリカの人々と共に汗を流すのだという決意と意気込みでありました。このような日本の将来を担う若者達の熱意に感銘を受け、その熱意が我が国の対アフリカ協力を根底から支えているのだと思います。またアフリカ各地で活躍の場を広げつつある日本のNGO関係者にも、こうした熱意は共有されているものと信じています。

 さらに、今後は、貿易・投資機会を活かし得る人材の育成のため、貿易関連の人材育成に資する支援を強化していきます。貿易、投資を通じた経済成長は、アフリカを含む途上国にとって、加速度的にグローバル化する国際社会で貧困削減や民間部門の振興などを実現する上で重要な課題です。同時に、日本は、すべての後発開発途上国産品に対する無税・無枠の市場アクセス供与という目標に向け努力していきます。

(平和の定着に向けた努力)

 そして、こうした開発努力も平和なくしては実を結びません。「平和の定着」は、今後の我が国の対アフリカ協力の重要な要素の一つです。

 近年、アフリカでは、エティオピア・エリトリア和平の定着、アンゴラでの和平成立、コンゴー民主共和国及びスーダンでの和平交渉における注目すべき進捗等いくつかの前向きな進展が見られます。

 紛争の終結した国を紛争に後戻りさせないためには、紛争当事者間での対話の促進、復旧・復興の妨げとなる対人地雷問題への取り組みや、紛争の犠牲者である難民に対する支援、また、元兵士の市民生活への再統合など社会融和の促進が極めて重要です。このような平和の定着のための取り組みは、日本の得意分野であり、最近ではアフガニスタンなど、経験の蓄積もあります。アフリカでも、既にエティオピア・エリトリアの国境紛争の最終的解決に向けた国境確定作業や地雷除去への支援を行っているほか、シエラ・レオーネに対し、元兵士の社会復帰計画に関する支援を行っています。

 この後私は、日本の外務大臣としては初めてアンゴラを訪問します。同地では、更なる平和定着のために、日本として何ができるか、十分議論してきたいと思います。

 同時に、アフリカにおける紛争予防・解決には、地域レベルでの取り組みが重要です。日本は、AUが平和・安全保障理事会を設置し、紛争予防・解決分野での取り組みの一層の強化に努めていることを歓迎します。そして、この分野でのAUの活動を「AU平和基金」を最大限に活用し、引き続き支援していきたいと考えます。

4.結語

 ご列席の皆様、

 私は、アフリカの持続可能な開発に何が必要なのかを自分の目で確かめた上で、「持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)」に臨めることを非常に嬉しく思います。このサミットで、私は、全ての国が戦略、責任、経験を分かち合う「グローバル・シェアリング」の重要性を訴え、具体的な行動の必要性を主張するつもりです。小泉総理が先日発表した支援策「小泉構想−『持続可能な開発』のための日本政府の具体的行動」は、WSSDに際し、全て日本が実施していくことを決定した一連の支援策です。日本のこの強い決意と熱意がヨハネスブルグ・サミットの成功の一助となることを心から願っています。

 「アディス・アベバ」はアムハラ語で「新しい花」を意味すると伺っております。AU、NEPADという新しい蕾がまもなく大輪の花を咲かせ、やがて大きな実を結び、アフリカの人々の手に届くよう、皆様方が力を合わせて困難を克服していかれることを心から願い、また、日本としても、「アフリカと手に手を取って共に歩んで」いくという決意を再確認して、私のスピーチを締めくくりたいと思います。

 ご清聴ありがとうございました。