データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 第121回OPEC定例総会での日本政府主催夕食会における川口外務大臣スピーチ

[場所] 大阪(ホテルニューオータニ)
[年月日] 2002年9月19日
[出典] 外務省
[備考] 外務省仮訳
[全文]

リルワヌ・ルクマン閣下

アルバロ・シルバ・カルデロン閣下

御列席の皆様

 史上初めて日本で開催される第121回OPEC定例総会に際し、世界の主要産油国の代表が、ここに一堂に会されたことを心より歓迎いたします。この夕べに、日本政府を代表して、夕食会を開催できたことは、私にとり、この上ない喜びであり、かつ光栄なことでございます。私は、皆様とこの夕べの一時を過ごすことができるように、ワシントンD.C.から先ほど直接、大阪に飛んできた次第です。もし、これからお話しするスピーチの中で、不適当な発言がありましたら、時差ぼけのせいだと思ってお許しください。

 米国の友人の何人かに、この夕食会の話をしたら、皆から一様にこう聞かれました。「なぜ、日本でOPEC総会が?」私も最初は同じ質問を自問しました。しかし、考えていくにつれ、その理由につき納得がいきました。日本とOPEC諸国は、限られたエネルギー資源を活用して、如何に持続可能な発展を達成していくかという共通の課題に直面しています。そして我々は、この課題に効果的に対応していくために、今まで以上に連絡を密にし、対話を深める必要があるのです。

(我が国とOPECが直面する共通の課題)

 では、共通の課題とは何でしょうか。我が国とOPECがエネルギーの分野で直面している課題は2つに分けられます。供給サイドでは、エネルギー安定供給の実現が我々の共通の関心であり、そのためには、地域紛争の解決と平和の定着に向けた取り組みを通じて、地域の安定を成し遂げる必要があります。需要サイドでは、我々の共通の関心は、エネルギー源の多角化促進、省エネルギー、エネルギー消費と環境との両立にあります。このことにつき少し詳しくお話ししたいと思います。

 我が国は、エネルギー資源のほとんどを輸入に依存しています。例えば、第一次エネルギーの52%は石油ですが、その8割以上を中東から輸入しています。従って、日本経済が引き続き発展するためには、既にお話ししました課題に対応することが不可欠なのです。

 他方、OPEC諸国もまた経済発展のために、石油の安定的輸出による外貨収入が必要です。その意味で、安定的なエネルギー資源の開発、生産及び輸送に不可欠な地域の安定は、OPEC諸国にとっても有益なことです。また、環境問題は、化石燃料の生産国にとっても一層重要な課題になっています。

 かように、我が国とOPECは、共通の課題に直面しているわけです。

(これらの課題への日本の対応及びOPECとの協力の可能性)

 ここで、日本がこれらの課題に対応するために行っている取り組みについて簡単にお話しし、次にOPEC諸国との協力強化の可能性についてお話ししたいと思います。

(地域の安定のための努力)

 テロに対する闘いは、地域の安定の達成に向けた日本の努力において重要な柱となるものです。9.11以降、日本は直ちに法律を制定し、自衛隊艦船及び航空機の派遣が可能となりました。この新法に基づき、自衛隊の艦船及び航空機が、アフガニスタンにおいてテロと戦う米英に対して支援を行っています。

 本年1月、東京でのアフガニスタン復興支援国際会議の開催に示されているように、私は平和の定着の分野も重視しております。アフガニスタンが二度と「失敗国家」または「テロリストの巣窟」とならないようにしなければなりません。日本は、健康・衛生分野の支援、難民支援及び治安面で懸命に努力しています。日本はまた、難民や武装解除された兵士が再統合できるよう地域社会を再活性化するために多大な努力を傾注しています。

 中東地域において、最近我々は、パレスチナ自治政府の改革への支援に焦点を当てており、この点を長期的な平和の定着及び紛争予防のために不可欠と考えています。我が国は、今後も中東和平プロセスに対する支援において中心的役割を果たしてまいります。

 現在の最大の課題はイラクです。日本は、イラクが査察の即時・無条件・無制限の受け入れと大量破壊兵器の廃棄を含む、全ての関連安保理決議を履行することを求めてきました。私はニュー・ヨークでイラクの外相と会談した際、この点を先方にはっきりと述べました。我々は国連査察を受け入れるという最近のイラクの動きを、イラクにおける査察及び大量破壊兵器廃棄実現に向けた第一歩と考えています。今後の動きを注意深く見守るとともに、外交努力を続けていく所存です。

 今回のOPEC総会でも、地域情勢の緊迫化が世界経済と周辺諸国の経済情勢に不可避的に大きな影響を与えることから、イラクが隠れた大きな話題の一つであったのではないかと思います。

 また、持続可能な開発という共通の課題を持つ日本とOPECが、地域情勢と石油価格の相関関係といった問題について、戦略的な観点から意見交換をする機会を持つことは、双方にとって有益ではないかと考えます。

 この関連では、OPEC定例総会では、石油市場の現状および今後の見通しを分析された結果、従来の生産枠を維持する決定をされたと聞いたところです。石油需要期に入る今年の第4四半期において、今後、石油市場が逼迫する可能性があるのではないかとの懸念もあります。OPECには、引き続き石油市場を注意深くモニターし、必要に際して石油市場の安定化のための迅速かつ適切な対応を期待したいと思います。

(環境問題への対応)

 ここでもう一つ、私がお話ししておきたいことがあります。‐‐それは環境問題です。私は外務大臣に就任する前は、環境大臣を務めておりました。

 環境に優しいエネルギー消費のパターンの開発は、持続的開発達成のための鍵であり、先のヨハネスブルグ・サミット(WSSD)での議論でも取り上げられました。

 この分野で日本が今後、果たしていく重要な役割の一つに、今後エネルギー消費の増加が見込まれる開発途上国への技術協力があります。日本は1960年代の高度成長の時期に深刻な公害問題を経験しました。その経験を通じ、環境対策のために、ノウハウや技術を蓄積してきた経緯があります。我々は途上国におけるエネルギー効率を高め、世界的なレベルで環境保全と調和したエネルギー消費のパターンが実現するよう支援していきたいと考えています。これは、OPEC諸国にとってもプラスになると確信しております。

 この分野でも、我が国とOPECはその協力を強化していく余地が多くあります。例えば、我が国からOPEC諸国に技術を移転する、または、我が国とOPEC諸国が共同で途上国を支援するといった可能性を議論してはどうでしょうか。

(日・OPEC戦略対話の提唱)

 当初生産者カルテルとして成立したOPECが、近年、国際石油市場の安定および世界経済において重要な役割を果たしていることを、益々、自覚してきていることに私は目をとめています。OPECの役割におけるこうした変化により、国際エネルギー・フォーラム(産消対話)は着実な発展を遂げることができました。明後日から大阪で第8回国際エネルギー・フォーラムも開催されることを嬉しく思っています。同フォーラムがこうした産消対話に更に弾みをつける良い機会となることを確信します。

 私はこの夕食会における議論を発展させ、日本とOPECの間でハイレベルの接触を保っていきたいと考えております。私たちはエネルギー分野のみならず、地域安保情勢や経済構造改革といった共通の関心事項をも扱う戦略的な対話の場を持つべきです。私は、例えばOPEC会合と併せてその合間に定期的に実施する、OPECと我が国とのハイレベルなフォーラムの設立を提案したいと思います。このフォーラムの詳細は、今後OPECと緊密に協議の上、決めたいと考えています。私は、このフォーラムがOPECと日本との間の、より包括的かつ戦略的な関係の構築に資することを希望しています。

(結語)

 石油製品の一つである潤滑油のことを、我が国では、しばしば人間関係を密にし、スムーズにするものとして例えることがあります。日‐OPEC関係がより緊密に、且つよりスムーズになるよう、石油は確かに重要な役割を果たしてきました。本日の夕食会が更に重要な役割を果たすことを願っています。

 ご静聴有り難うございました。