データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 外務省タウンミーティング第4回会合,川口外務大臣と語るタウンミーティング「WTO新ラウンド〜グローバリゼーションの世界における貿易問題〜」(プレゼンテーション)

[場所] 名古屋(名古屋観光ホテル那古東中の間)
[年月日] 2002年11月30日
[出典] 外務省
[備考] 
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【知っていますか? 名古屋港はナンバー1!】

 では、貿易の話を少しさせていただきたいと思います。日本にとって貿易というのは非常に大事ですが、その日本の貿易は名古屋でもっているという話がまず最初です。

 どういう意味かと言いますと、名古屋港は、日本の貿易について言うと、日本でトップの港です。貿易量もそうです。先ほど、名古屋港の管理組合の方に伺いましたら、金額ベースでもそうだということで、文字通り、日本にとって非常に重要な貿易は、名古屋でもっているということです。

 名古屋港で輸出をしたり輸入をしたりするわけですが、黒字額は、日本の黒字額の10%を名古屋で稼ぎ出しているということだそうです。

 そして、名古屋の港からどういうものが輸出されているかと言いますと、完成自動車、あるいはその部品が大部分を占めていて、北米、欧州、中近東、東南アジア、中国などに出ています。

 輸入の大部分はエネルギーだそうです。その他の生活用品として、例えば北米からオレンジや小麦、欧州からは家具、中国からは衣服、緑茶、花火、竹、東南アジアからは魚やエビ、オーストラリアからは肉などが運ばれてきているそうです。

 これは名古屋の例ですが、日本の他の港をとってもだいたい同じで、今、日本の貿易の構造がそうなっているということです。

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【知っていますか? 身近なモノも輸入品がたくさん】

 身近なところで輸入品はたくさんあります。名古屋で有名なきしめんや八丁味噌を見ていただいても、きしめんやうどんに用いられている小麦の89%は海外から来ているということだそうですし、八丁味噌やしょう油、豆腐に使われる大豆も95%ですから、ほとんどが海外から輸入されているということです。

 先ほど言いましたように、日本から自動車や家電等、多くのものが輸出されているわけですが、それが貿易の黒字を生みだし、日本の雇用や日本の経済の成長に役に立っているということであります。

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【貿易はますます拡大】

 貿易全体を見てみたいと思います。ここにグラフが出ていますけれども、上がGDP(国民総生産)、稼ぎ出しているもので、下が世界貿易の伸びです。

 過去50年間を見ますと、世界の貿易は年平均6.1%で伸びてきた。それに比べて、世界全体のGDPは、その約半分の3.9%で伸びてきた。世界の貿易の伸びが、世界の生産の伸び、あるいは世界の所得の伸びを引っ張っている形になっています。

 では、貿易はなんでこんなに拡大してきたのかと言いますと、今まで「ラウンド」と言われる、例えば東京ラウンド、ケネディ・ラウンド、ウルグアイ・ラウンドと言われる、貿易の自由化を目指した世界の国々の間の交渉があって、その交渉の成果があって、貿易が伸びてきたということです。

 例えば東京ラウンドは、東京を名前に冠しているごとく、スタートしたのが東京だったから名前が付きましたが、東京ラウンドでは、関税、他の貿易を制限するような措置を減らそうということで、それが行われました。

 ウルグアイ・ラウンドは最近ですが、これでは、世界の非農産品、農産品以外のものの関税率が平均6.3%から3.8%に下がった。関税が下がると外国からのものが安くなりますから、貿易が伸びたということです。最後のウルグアイ・ラウンドをやった結果、貿易の自由化のルールを作る場所として、WTOという国際機関も生まれたわけです。

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【新ラウンドの鍵の一つは途上国】

 ここに出ている写真は、2週間ほど前にシドニーでWTOの閣僚会議がありまして、左側の写真はメキシコの貿易大臣、右側の写真はオーストラリアの貿易大臣ですけれども、話をしているときの写真です。

 発展途上国を見てみますと、発展途上国は世界の中で貿易の比重は増えていますが、今まで世界貿易の中で、主なプレイヤーが先進国であったために、発展途上国は不利な立場にいると発展途上国が強く思っている、不満を持っているという問題があります。WTOの加盟国はどんどん増えてきまして、最近、中国も入りましたけれども、今、世界の中で144、そのうちの、数で言うと4分の3が発展途上国ということです。

 アメリカで、昨年9月11日にテロ事件がありまして、世界のテロの原因が何かということを考えたときに、貧困の問題があると言われています。そういった貧困の状況にある発展途上国を、貿易を通ずる経済発展、あるいは開発をすることによって、所得を上げていくことが大事で、そういう意味でも、今やっているラウンドは、開発途上国の問題に焦点を当てることが大事になっているわけです。

 「シドニーミニ閣僚会合でも議論−AIDS医薬品問題」と書いてありますけれども、シドニーで一つ大きなテーマになったのが、発展途上国でエイズや結核などの感染症に悩んでいる人が多い。レソトという国がありますけれども、そこの大臣が言っていたことは、レソトの10代、20代の若者の31%が、発病していないまでも、エイズに感染しているということを言っていました。

 そういう人たちは、薬が高くて手に入らない。これは国の存亡につながる問題ですから、どうやって安い医薬品を、彼らの手に入るようにするかということですが、他方、ただでということになりますと、薬を開発する会社の、薬を開発しようとするインセンティブがなくなりますから、それを維持しながら安く手に入るような方法を、WTOの場でも考えましょうという議論をいたしました。こういう形で、発展途上国にもメリットがあるような交渉が必要だということです。

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【新ラウンドの課題】

 では、今やっている新ラウンド、WTOのラウンドの課題は何かということですが、一つが途上国への配慮、さっき言ったようなことです。途上国がこの新ラウンドで、自分たちにもメリットがあるという形になりませんと、新しいWTOのラウンドは成功しないということになります。

 2番目に、農業とサービス。この2つの分野は、前のウルグアイ・ラウンドをやったときから、継続の交渉が決まっていたわけです。きょうは農林水産省から村上さんに来ていただいていますので、あとでご質問をいただいたらと思いますけれども、わが国としては、農業について言いますと、景観の維持や農業生産に伴って生み出されるさまざまな価値、有形無形の価値がある。それを考えなければいけない。同時に、各国、自然条件や歴史的な背景が違いますから、そういったことを反映して、多様な形の農業が存在し得るような形でなければいけないと考えています。

 それから、新しい分野への対応。環境や投資と書いてありますけれども、環境と貿易というのは、今一つの大きなテーマです。例えば、環境リサイクルというのは非常に大事ですけれども、リサイクルしにくいからガラス瓶を使ってはいけませんということを、ある国が決めたとしたら、ガラス瓶を使って飲み物を製造している他の国のメーカーは、その国に輸出できなくなってしまう。環境か、貿易か、という問題があるわけです。そういった問題についても、議論が行われることになると思います。

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【貿易拡大のために】

 先ほど高島さんから、きょうは記念すべき日で、それはなぜかと言うと、日本とシンガポールの間の経済の連携の枠組が、きょうから実施に移される日、発効する日であるという話がありましたが、貿易を拡大するためにどういうやり方があるかと言いますと、一つが、多国間で話をしていく。WTOという今のラウンドはそうですけれども、多国間の取組があります。同時に、FTA(自由貿易協定)という言葉を、お聞きいただいたことがあるかと思いますけれども、特定の地域、例えば日本とシンガポール、特定の地域や二国間で、ものの関税を撤廃して、貿易を自由化していこうという内容をもつ協定です。

 EPAという言葉がこの画面に書いてありますが、経済連携協定ということで、日本とシンガポールの間で結んでいるのは、このEPAというものですけれども、これは、自由貿易協定、FTAの要素を含んで、より広く経済の連携を図っていく。例えば、人材の交流や投資など、いろいろなことを含めて、経済関係を強くしていきましょうという考え方で作られている協定です。

 EUは今どんどん拡大していますけれども、EUのように特定の地域の国々が集まって、その中で関税を撤廃して、貿易を自由化していこうという取組もあります。しばらく前ですが、北米にNAFTA、カナダとメキシコとアメリカの3つが一緒になって作っているグループですけれども、北米自由貿易地域というものもあります。それから、アジアでアセアン、東南アジアの国々10カ国が集まって作っているグループですけれども、ここでも自由貿易協定をやりましょうという話があります。

 FTAとWTOについての関係は何かということですが、WTOは今、メンバーが144カ国ありますから、非常に大きなグループで、何かやろうと思っても決まらない。今までのラウンドと言われる、例えばウルグアイ・ラウンドも、相当な年数がかかって決着しているわけです。

 他方、FTAというのは、数少ない国で交渉して協定するということなので、もっと早くできる。ただし、範囲は、その交渉をした国々の間だけ。WTOと矛盾しないというのは、WTOで全体の枠組を決めていますけれども、二国間、あるいはその地域の中の取り決めは、一部の国がそれをさらに深堀をする。そういう形で協定を作る。それがFTAで、その2つを日本としてはやっていこうと考えています。

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【新ラウンド〜日本にとっての意味】

 最後に、新しいラウンドが日本にとってどういう意味があるか、日本はなぜ今、WTOの新しいラウンドを一生懸命やっているのかということをお話ししたいと思います。

 この新しいラウンドが、何年もかけて交渉しても、144カ国もあってなかなか合意に達しなくて失敗してしまったとします。何が起こるかと言いますと、今、アメリカではNAFTAという自由貿易の枠組がある。あるいは、ヨーロッパもEUがある。それぞれ地域でグループを作っているところはそれでやっていけますが、日本は、FTAというのは、シンガポールとの間だけで今もっている。交渉は他の国と始めていますけれども。ですから、日本としてはWTO、世界全体の国が、国の間を差別しないで、無差別にルールを作って自由な貿易ができることが大事だということです。

 例えば自動車の関税は、日本に入ってくるときには無税です。ドイツのベンツは、日本に関税率ゼロで入ってくるわけです。アメリカは日本の車を日本から輸出しようとすると、2.5%の関税がかかる。EUは10%、発展途上国では、国によって15%以上かかるところがあります。

 家電を考えてみても、日本に家電が入ってくるときには関税率ゼロです。逆に、日本が輸出しようとすると、中国や途上国では関税率が高いということで、このWTOの新しいラウンドの交渉に成功すると、中国や発展途上国の関税が下がって、あるいは、EUの自動車の関税が下がって、日本の自動車が今までよりも輸出しやすくなるというメリットがあります。

 それから、この新しいラウンドを成功させるために、日本は、農業あるいはサービスに加えて、自動車を含む非農産品が日本の市場に入りやすくなる、市場アクセスの改善と言いますが、あるいは、アンチダンピングというルールがありますが、これを初めとするさまざまな貿易についてのルールを強化する。投資のルールを作るといった、他の要素のメリットもありますから、それを全部合わせて、国によって事情が違うので、あるものだけやっていると、ある国は得をするけど、他の国は損をするということになりますので、いろいろな国がそれぞれメリットを得られるように、さまざまなことをこのラウンドで交渉して、すべての国がどこか得になるように作っていこうという交渉を、これからやろうということです。

 非常に簡単にお話をいたしましたけれども、WTOのラウンドが今始まっていて、2005年1月に決着するということになります。細かいことについてご疑問がおありだと思いますけれども、ベテランがいますので、ご質問はなんでもお答えできると思います。ありがとうございました。