データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] ズヴェズダ造船所における川口外務大臣のスピーチ

[場所] ロシア(ズヴェズダ造船所)
[年月日] 2003年6月28日
[出典] 外務省
[備考] 
[全文]

 御列席の皆様、ただ今、ヴィクターIII級多目的原潜304号の解体にかかる実施取り決めの署名がアンティーポフ・ロシア原子力省次官と野村駐ロシア大使により行われました。日ロの非核化協力事業の中核となる退役原潜解体事業「希望の星」がこれによりスタートを切ることになったことを心より嬉しく思います。

 私は、本日、日本の外務大臣として初めてロシア極東地域を訪問し、ここ沿海地方に参りました。今朝、東京を飛び立ち、2時間後にアルチョム空港に到着、そのまま直接、ボリショイカーメニの町にやって参りました。そして、ここズヴェズダ造船所で、日本とロシアの非核化協力の現場を自分の目で見ることができました。

 10数年前までの東西冷戦時代、ロシア極東は、外国人にとって一部の開放地域を除き、基本的に閉ざされた地域でした。ウラジオストクは太平洋艦隊の母港として、又、ここボリショイカーメニの町も軍事的な重要性が極めて大きな場所として、外国人にとっては全く足を踏み入れることの出来ない地域でした。しかし、その後、東西の冷戦状態は解消し、ロシアは市場経済の国として再出発し、不要となった核兵器を始めとする冷戦の負の遺産については、国際的な協力の枠組みで処理していくことが合意されました。日本もこの10年、積極的にロシアとの非核化協力の実施に努力してきております。そして、今般、私は、このボリショイカーメニの町で、日本の協力の下に建造された液体放射性廃棄物処理施設“すずらん”が立派に稼働している様子を、又、日ロ協力の枠組みで解体される予定の退役原潜を視察することが出来ました。極東に於ける日ロ関係の歴史を思い起こせば、21世紀初頭、この地でこのような日ロ協力の枠組みが動き出していることに感無量の思いがいたします。

 皆様、このズヴェズダ造船所が面している海、日本海の対岸には日本があります。日本海は我々を分かつ海ではなく結びつける海です。現在、日本とロシアは、本年1月、小泉総理とプーチン大統領の間で採択された日露行動計画に沿って、政治・経済・文化を始めとするあらゆる分野で協力関係を更に進めていこうとしていますが、日本の文字通り「お隣り」であるロシア極東地域との関係でも幅広い分野での協力が進展しつつあります。経済分野では、我が国企業による大規模な投資が行われているサハリン・プロジェクトや、日露間で実現に向けて真剣な検討が進められている太平洋パイプライン・プロジェクトを始めとする具体的な協力計画が進展しつつあります。文化面では、「ロシアにおける日本文化フェスティバル2003」の一環として、極東地域においても様々な日本紹介行事が行われています。そして、このボリショイカーメニの地で本格化しようとしているロシア退役原潜解体プロジェクト「希望の星」が、極東地域の環境保全や核物質の不拡散の促進という視点だけではなく、日ロ関係全般、そして、日本とロシア極東の協力関係の強化に資することを確信しております。

 最後に、今後、日ロ協力事業「希望の星」が日ロ両国の緊密な協力の下、順調かつ迅速に遂行されること並びにご列席の皆様の一層の御健勝を祈念申し上げて私のご挨拶とさせていただきます。