[文書名] 第58回国連総会における川口外務大臣一般討論演説
(序)
議長、事務総長、御列席の皆様、
まず、ハントゥ・セントルシア外務大臣閣下が、第58回総会議長に就任されたことを心より御祝い申し上げます。また、カバン・チェコ共和国元副首相兼外務大臣閣下の第57回総会議長としての御努力に敬意を表します。
演説を始めるにあたり、イラクの復興及び安定の確保に粘り強く取り組んでこられた、デ・メロ特別代表をはじめとする国連職員の方々が卑劣な爆弾テロの犠牲となられたことに、日本政府を代表し、心より哀悼の意を表します。
(イラク問題と国連のあり方)
議長、
昨年の一般討論演説以降、我々は、イラク問題に多くの時間と労力を費やしてきました。この過程において、国際の平和と安全の維持に主要な責任を有する安全保障理事会、ひいては国連のあり方に疑問が呈されるようになったことを、我々は、今一度真剣に考えるべきです。
その構成が最も普遍的で、世界の直面する多様な問題を包括的に扱いうる国際機関は、国連の他にはありません。私は、国連が今後も他の国際機関では代替できない重要な役割を果たしていくものと確信しています。
しかし、イラク問題の対応の過程で揺らいだ国連への信頼感を取り戻すには、国連自体、改革を通じてその役割を一層強化する必要があります。そのための行動が、今、加盟国に求められています。
(大量破壊兵器の不拡散とテロとの闘い)
議長、
大量破壊兵器の拡散やテロは、特定の地域にとどまらず全世界的な広がりをもつようになり、我々の生活にとって新たな脅威となっています。こうした問題の解決には、すべての国が自国の問題として、脅威に直面している国と共に真剣に取り組むことが重要です。
イラクにおいては、イラク人自身による統治を一日も早く実現するために、その平和と復興に向け国際社会が一致団結して取りくみ、その中で、国連が一層重要な役割を果たすことが必要です。我が国は、新たな安保理決議が採択され、イラク人自身の統治への道筋が明確となり、復興や安全確保に向けた国際協調が一層強化されることを強く期待します。また、国際社会と共にイラクの平和と復興にできる限りの努力をし、来月マドリッドで開催予定のイラク復興支援国会合の成功のために尽力します。
中東和平に関し、私は、和平に到る唯一の途である「ロードマップ」が、重大な局面にあることを深く憂慮しています。事態の沈静化へ向けた両当事者による最大限の努力と自制が求められています。テロは断固として許されず、パレスチナ自治政府は早急に新内閣を立ち上げ、過激派を取り締まらねばなりません。またイスラエルも、自らの行為がもたらす結果を十分に認識し、賢明な、かつ慎重な対応を行わなければなりません。特にアラファト議長を実力で排除すれば、事態を悪化させるのみであり、イスラエルが排除の措置を実行に移さぬよう、改めて要請します。
北朝鮮による核兵器の開発、保有は、北東アジア地域の平和と安全及び国際的な核不拡散の観点から、絶対に容認することはできません。このような立場から、北朝鮮に対し、すべての核開発計画を、速やかに、完全、検証可能かつ不可逆的な形で廃棄することを改めて求めます。この問題は、六者会合プロセスをはじめとした外交努力により平和的に解決されるべきです。また、日朝平壌宣言に基づき、核問題、ミサイル問題、昨年12月の本総会で採択された強制的失踪決議でも明記された拉致問題等の日朝間の諸懸案を包括的に解決した上で、日朝国交正常化の実現を目指していきます。
イランについては、イランが12日のIAEA理事会における決議を重く受け止め、本年10月末までに問題点の是正を通じたIAEAへの完全な協力、IAEA追加議定書の即時かつ無条件の締結と完全履行など、要求されたすべての措置を早急に履行し、国際社会の核問題への懸念を解消することを求めます。
以上に述べた課題への対応にも明らかなように、核兵器不拡散条約(NPT)体制は重大な岐路に立っています。我が国は、核の惨禍が再び繰り返されることがないよう、NPTを礎とする国際的な核軍縮・不拡散体制の維持・強化に積極的に努力しています。国連の場でも、今次総会において「核兵器の全面的廃絶への道程」決議案を提出し、圧倒的多数の支持を得て採択されることを目指します。また、NPT体制を強化する具体的措置として、CTBTの早期発効を極めて重視しています。
同時多発テロ以降の国際社会の真剣な取組にも拘わらず、ジャカルタ、バグダッドなど世界各地で、テロにより依然多くの尊い人命が失われています。国際テロ組織を撲滅するには、すべての国のテロ対処能力を向上させることが必要です。我が国は、アジア諸国を中心に、途上国のキャパシティ・ビルディング支援を引き続き行っていきます。また、テロリストにテロの手段、安住の地を与えないためにも、すべての加盟国に対して、テロ防止関連条約の早期締結、安保理決議1373の履行を求めます。
(包括的かつ、きめ細やかで地道な日本外交の推進)
議長、
21世紀の世界が直面する危険や脅威に対処するには、軍事的、政治的側面の取組だけでは不十分です。社会、人道・人権、経済復興を含むあらゆる側面からのきめ細やかな、地道な対応が必要です。また、人権、民主主義、良き統治が確保され、人間一人ひとりの能力が最大限に発揮できる社会環境を作らなければなりません。
かかる認識に立って、我が国は、「平和の定着と国造り」を外交と国際協力の柱として掲げ、国連平和維持活動をはじめとする種々の分野で積極的に貢献してきています。さらに、「人間の安全保障」の考え方の下、人間一人ひとりの保護と能力強化に取り組んできております。今後も、ODAをはじめとする外交手段を活用し、国連、各国、NGOと共に、「人間の安全保障委員会報告書」の提言の実現に向け努力します。
そうした我が国の取組の具体例としては、東ティモールでの自衛隊部隊の派遣を含む国造り支援、国連アフガニスタン支援ミッションと共に取り組んでいるDDRプログラム、「スリランカ復興開発に関する東京会議」の開催を踏まえた和平プロセスと復興開発の支援などがあります。
人間一人一人の安心を確保するには、感染症対策も重要です。SARSの事例は、感染症対策への各国の協力の重要性を改めて示すものでした。また、昨日の国連エイズ・ハイレベル会議において「政治宣言」が掲げる目標への世界各国のコミットメント、及び世界エイズ・結核・マラリア対策基金の重要な役割が再確認されたことを歓迎します。
アフリカについては、我が国は、開発の前提である平和と政治的安定の確保に向けた紛争予防のための支援を行うと共に、経済成長を通じた貧困削減に向けてオーナーシップとパートナーシップという原則に基づきその開発を支援してきました。TICADプロセスは今年で十周年を迎えます。今月29日より開催するTICAD IIIでは、アフリカ開発における国際社会の知恵と経験を共有し、NEPADのオーナーシップに応えるべく、国際機関、関係諸国、特に発展を遂げているアジア諸国や市民社会のパートナーシップの拡大を図ります。
議長、
ここで、アジアの一員として、アジア地域の平和と安定に関して二つの問題を提起したいと思います。
ミャンマーにおけるスー・チー女史拘束という憂慮すべき事態を速やかに解決し、国民和解と民主化に向けた動きを具体的に進展させるために、我が国は粘り強い外交努力を行っていきます。
また、カンボジアのKR裁判に関しては、裁判プロセスを実現し、国際社会における法と正義の原則を確固たるものにするためにも、各国が相応の協力を行っていくことが不可欠です。
議長、
多様性が尊重される国際社会においては、世界全体が一つとなって行動していくための共通ルールの構築が極めて重要です。国連はそうした分野で大きな成果を挙げてきました。我が国は、先ほど述べた、社会・経済、環境、人権など幅広い分野におけるきめ細やかな、地道な対応を支える土台として、ルールの構築に向けて、今次総会をはじめ国連の場で次のような課題に取り組みます。
環境については、気候変動交渉の国際的モメンタムが失われないようにしなければなりません。この点に関し、京都議定書の早期発効、米国、開発途上国を含むすべての国が参加する共通ルールの構築の重要性を訴えたいと思います。
障害者の権利の保護と促進を進めていくことも重要です。今年6月に障害者権利条約案の起草作業を行う作業部会の設置が決定されたことを歓迎し、その策定に向けて積極的に取り組んでいきます。
「持続可能な開発のための教育の十年」については、ユネスコが中心となって策定する予定の実施計画案を促進する決議の採択を目指します。
防災は、21世紀のより安全な世界に不可欠な要素であり、WSSDのフォローアップであるばかりでなく、持続可能な開発のための諸課題を達成するための前提です。我が国は、21世紀の新たな防災戦略を策定するために、国連防災世界会議の我が国での開催を提案します。
(国連改革)
議長、
国連が、国際社会共通のルールに基づいた平和で繁栄した社会の実現という役割を果たすには、国連改革、特にその中核ともいうべき安保理改革が急務です。
現代の紛争は、国家の機能不全による内戦の拡大などに象徴されるように、多様化、複雑化しています。こうした状況の変化を受けて、安保理は、必要な場合には多国籍軍の派遣によって秩序を回復し、さらには、PKOの任務も、停戦監視等の軍事面や警察分野の活動に加え、難民の帰還支援といった人道面の活動、民主化のための選挙支援、復興支援などに拡大しています。現代の紛争の解決には、これらの様々な問題に対処する必要があります。
安保理自体も、こうした時代の要請に包括的に対処できるよう、グローバルな責任を担う意思と能力を有する国を新たに常任理事国に加える形で機能を強化することが必要です。我が国は、そうした安保理改革の実現のために積極的に取り組み、改革された安保理の中で、常任理事国として、かかる責任を一層積極的に果たしたいと考えています。
国連における安保理改革の議論は、開始されて既に10年が経過し、どのように改革すべきかについて論点が出尽くしているにもかかわらず、残念ながら具体的な進展は見られません。
このままでは、時代の変化に対応する国連自体の能力が問われることになるといっても過言ではありません。今こそ具体的に行動を開始する時です。アナン事務総長は、「国連ミレニアム宣言の実施」の報告の中で、国連改革の重要性を強く訴えておられます。国連創設60周年にあたる2005年に行われるミレニアム宣言の進展のレビューまでに、国連の変革に関し合意すべきであると提案されています。私は、そうしたレビューの機会に各国の首脳レベルが集まり、安保理改革をはじめとする国連改革に関し政治的意思決定をすべきであると考えます。
また、旧敵国条項は、1995年の総会決議において既に「死文化している」と決定されています。しかし、このような条項が、削除されず未だに国連憲章に存在すること自体、極めて問題です。我が国は、国連改革の動向も踏まえながら、この問題の適切な解決方法を探求していきたいと考えております。
国連が一層効果的かつ効率的に機能するように、行財政改革を積極的に推進することも重要です。国連予算の規模については、加盟国の財政負担への配慮が必要です。そのため、厳格なプライオリティづけや、不要不急の活動の廃止を求めます。よりバランスのとれた国連分担率を目指して、適切な解決方法を検討することも課題です。また、国連事務局の職員数に関し、未だに加盟国の間で衡平な地理的配分が達成されていないのは憂慮すべき現状であり、改善が必要です。
(結語)
議長、
我が国は、世界の平和と繁栄は国連が重要な役割を果たし国際社会が協力することによりはじめて実現できるものと信じ、その有するすべての手段をもって、国連憲章に謳う目的の達成のために国連の諸活動に寄与してきました。我が国が今後も国連の諸活動に積極的に関与していく方針に些かの揺るぎもありません。
しかし、国連、特に安保理が60年前の基本構造を維持するままでは、その正統性は揺らいでいると言わざるを得ません。
私は、すべての加盟国に対し、国連を機能強化し、その正統性を確固なものとするため具体的行動をとることを改めて求め、演説を終えたいと思います。